72話 暗黒魔法
館で入浴してから、軽く眠った後に再びテント内に戻ってきた。
ヤムはまだ眠っていたからだが、そのまま誰にも声を掛けずに館を出てきた。
夜に女性の部屋へ行くのは躊躇われたし、まだ寝ていたら起こしてしまうのは悪いと思って、2人にも声を掛けなかった。
テントの外に出ると、空はまだ暗く星が輝いていた。
綺麗な紫の月が……月?そういえばこっちの世界の天体って聞いたことないけど、あれは月で合ってるのかな?
「サエ様!」
考え事をしていたら、俺の名前を呼ばれたので、そちらを向く。
そこには、ナルンがテントの近くで焚き火をしていた。
俺はナルンに近付いて、話す為に隣りへ座った。
どうやら、見張りをしていたようだが、
「ナルン一人?」
「はい、今交代した所で、私一人です」
ナルン一人では、危ないのでは?と疑問に思ったが、そういえば魔王がいるから平気かな?
「この辺なら、何かあればすぐに近くのテントから冒険者が集まりますよ」
俺の考えていた事を言われて、少し驚く。
ん?近くのテントから?道切のテントからじゃなくて?
疑問に思ったので、訊いてみると、
「サエ様のおかげですよ」
と言われた。
ナルンが言うには、この付近全てのテントが、俺に休んでてもらう為に集まり、それぞれ見張りをして、異常があればその周囲のテントから冒険者のパーティーが出てきて、すぐに対応するそうだ。
言われて、俺は周囲を見る。
結構な数のテントと焚き火が見えた。
これ全部か?
「俺はそんなに沢山治療したかな?」
つい、ポツリと呟いてしまった。
「何を言ってるんですか、この辺のテントが皆、サエ様が治療に関わった冒険者ですよ」
「いや、だって……」
「皆が自分達からサエ様の為に集まったんですよ。皆がサエ様に感謝してるんです」
何か恥ずかしいなこれ。
「サエ様、これ、お返しします。ありがとうございました」
ナルンがスマホを渡してくる。
その際に気になったメッセージが画面を流れていた。
【レベルアップをして、20になりました】
あれ?そういえば全然スマホの画面を確認していなかったような……
なら、残りの★を9個全部使って神聖魔法を……
「サエ様?どうしたんですか?」
ナルンが声を掛けてきたので、ハッと顔を上げる。
あっ!
顔を上げる時に、勢い余ってついスマホの画面をタップしてしまった。
画面には、暗黒魔法を取得しました。と、表示されている。
魔王!
「いや、サエ、一度決めたら我にも訂正出来ないよ」
万策尽きたー!
しかも、神聖魔法と同じでマスターするのに、★を9個使ったし!
暗黒魔法って、何だよ!
「いかにも、魔王っぽい魔法だね」
しょうがない、切り替えよう。
「サエ様、魔物が!」
丁度いい、実験してみよう。
「分かった、俺がやるからなるべく離れてて」
そう言って、俺は魔物に一人で向かっていく。
魔物はデカい芋虫が3匹いた。
早速試してみよう。
暗黒魔法『黒丸』。
黒い小さな球体が、俺と魔物の間に現れる。
その球体に赤い裂け目が横に一筋入る。
そして、
バクン!
実際に音は出ていないが、あるとしたらこういう音だろう。
球体は、開いたと思ったら、急に巨大化して、魔物の倍ほどの大きさになると、魔物一匹を丸々飲み込んだ。
そのまま次の魔物へと、繰り返して襲いかかり、魔物が居なくなると消えた。
完全に黒いパッ○マンだった。
暗黒パッ○マン。
「サエ様、あれは何ですか?」
「俺の魔法?」
いや、俺も訊きたいぐらいだ。
その後はナルンとずっと話していたが、特に魔物の襲撃などもなく、空がいつの間にか明るくなっていた。
「サエ様〜」
セアが呼んでいるな、行くか。
俺が立ち上がってセアの元へ行こうとしたら、ナルンに服を掴まれた。
「あっ……サエ様、私、強くなります」
「ナルンならいずれ、強くなるよ。頑張って」
「ハイ!」
なんかナルンが燃えている、本当に強くなって欲しいが、無理はしないでほしい。
おっと、速くセアの所へ行こう。
サエ レベル20
スキル 魔系 暗黒魔法 マスター ★×9使用




