71話 野営
ふう、とりあえずこれで全部倒したかな?
目視で見た限りでは、魔物はいないみたいだが……
俺はセアにテントを作ってもらって、中にヤムを抱えて入り、一旦、館に帰ってからヤムを部屋で寝かせる。
ご苦労様、ヤム。
しかし、酷いな……
テントを出て、辺りを見回して見ると、そこら中から呻き声が聞こえ、沢山の怪我人がいた。
治療出来ればいいのだが、回復魔法を使って、MPが足りなくなった時に、魔物の襲撃が遭ったらと思うと、うかつに治療が出来ない。
「良いですよ、サエ様。後は私達が戦います」
セア?何で考えが……
「そんなに怪我人を見て、それだけ救いたいと顔に書いてあれば、さすがに分かりますよ」
うっ、そんな顔してたかな?
「平気だから、いってらっしゃい。それとも、私達に任せられない?」
「うん、セアもラズもありがとう。行ってくる」
2人が頼もしく、嬉しかったので笑顔で返した。
「サエ様……」
「笑顔は反則よ」
なんかセアがうっとり?して、ラズが真っ赤になったような?
まあいいか、2人を信じて俺は治療に廻ろう。
これで、一通り廻ったかな?
命の危険>重傷>軽傷と看たが、やはりMPが足りなくて、軽傷の人でも全員は治療出来なかった。
痛いと言って、小さな傷を見せる馬鹿は無視した。子供か!
僕の親は────と言っていた、軽傷の馬鹿は取り巻きが襲って来たので、お帰りいただいた。口で分からなかったようなので、肉体言語で!
一息ついていると、剣の少年が近付いて来て言った。
「あなたが、最初から魔法を使えば、死傷者も怪我人も、もっと減っていた!」
「あっそう」
「あなたが殺したんだ!」
「だから、討伐も護衛も依頼されてない」
「じゃあ、なぜ怪我人を助けた?」
「……」
「オレは認めない!」
「勝手にすればいい」
言うだけ言って、剣の少年はさっさと去っていく。
なんなんだ?アイツは?
とりあえず、皆の所へ帰ろう。
テントに戻った時には、もう辺りも暗くなっていて、周りにも野営のテントが多くなっていた。
しかし、
「何で、俺達のテントの周りにこんなに他のパーティーのテントがあるの?」
そう、俺達のテントを囲むように大量のテントがあった。
説明を求めようと、セアとラズを捜すが、どこにもいない。
おかしいと思っていると、ナルンが話しかけて来た。
「セアさんとラズさんなら、少し前にテントへ戻りましたよ」
「ありがとう」
さっきテントの中を見たが、誰もいなかった。
ということは、館か!
一体、どうして?
とりあえず、館に帰ろうとした時、テントの中から丁度2人が出てくる。
なるほど、そういうことか!
「サエ様!お帰りなさい」
「おかえり、サエ」
「うん、ただいま」
2人共、俺の帰還に気付くと声を掛けてきたので、返す。
2人はそれぞれ大きな鍋を抱えていた。
館で作って来たのだろう。
そういえば、そろそろ夕飯時だな。
そして、セアが準備できたら、皆が一列に並び始めた。
セアが小さなお椀を取り出し、それに鍋から移して一人一人に渡していく。
鍋の中は具沢山のスープで、セアが一番最初に俺によそって、分けてくれたやつを食べたがとても美味しかった。
さすがはセアだ。
みるみるうちに、鍋の中身が減っていった。
皆、満足そうに食べていた。
休憩も終わり、さて、これから魔物の警戒でもしようとその場を離れようとしたら、ナルン達に止められる。
「後は、私達が魔物を警戒してますから、サエ様達はもう休んでてください」
そう言われても、また魔物が攻めて来ないか心配だ。
今のところは魔物も一匹や二匹で俺達じゃなくても、倒せるけど、群れは……
「一晩くらい平気です。周りの皆さんも手伝ってくれるそうですし」
俺が不安そうにしていたからか、ナルンが言葉を続けた。
そういえば、周りのパーティーは俺が治療した人達が多いな。
皆が俺の役に立ちたがっていた。
じゃあ──
「これを、明日まで預かっておいて」
そう言って、ナルンにスマホを渡す。
これで、何かあれば魔王が知らせてくれるだろう。
魔王、よろしく。
「?、分かりました。それじゃあ、お疲れ様です、サエ様」
俺達はナルン達に見送られて、テントの中に入る。
ラズの鍵で館に帰った。
今日は本当に色々と疲れたな。




