6話 責任は
「サエ様!!」
セアが火炎放射機から放たれたような炎から俺を庇おうとする。危ないって!
片手でセアを抱き寄せる。
俺は襲いかかって来た炎を空いた手で、もぐらで一振りして斬り散らした。
『えっ?』
皆がそう言って、固まった。
何?何かしたか?あの有名なアニメの黒い剣士もやったぞ、あれは二次元だけど。
「ハハッ、サエは面白いことするね」
「何が面白いんだ?」
全く意味が分からなかったので、素直に聞いてみる。
「あれ、魔法使いが何十人で唱えて放つ儀式魔法だよ。フェアリー1匹で、威力が落ちてるとはいえ、十分上級の魔法に匹敵する威力だよ。普通はナイフなんてすぐ壊れるし、かき消すなんて無理だね」
「いや、出来るじゃん!」
今、やったぞ、そんな大事か?
「だから皆驚いているんだよ、普通は避けたり、魔法のシールドや軌道をずらしたりかな。あんなの、失敗すれば即死で良くて腕が焼け落ちるかな?」
「でも、こっちの方が速いし、楽だろ?」
実際、楽だし。なんとなく出来ると思ったんだよな、直感的に。
「あの〜サエ様?そろそろ」
そうだ、セアを抱き寄せたままだった!
「ごめん!平気だった?」
慌ててセアを解放する。顔が真っ赤だ、しまった、熱かったか?セアの事考えなしだったな。
「大変、気持ち良……いえ、平気ですよ」
ん?何か言い掛けた?まあ、平気ならいいか。
とりあえずフェアリーが先だな。また魔法を撃つかもしれないし。
「ええと、とりあえず俺に君を害する気はないんだけど」
「嘘だっ!人間は嘘つきだ!」
刑事さんとも会ってないし、話してないよ!違うか。ここ、雛◯沢じゃないし。
男達の仲間だと思われてるのかな?異文化交流は難しいな。
「本当だって!ほらほら俺は何もしてないだろ?」
俺は両手を上げてヒラヒラさせ、優しく交渉。なかなか警戒を解いてくれないな。
「嘘つき!私の木を風の魔法で森の外に切り飛ばしたくせに!」
「すいませんでした」
土下座した。
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フェアリーは外が騒がしいので、様子を見に、木の外に出たそうだ。
その瞬間に黒い人間、つまり俺が魔法で周囲の木を切り飛ばして、フェアリーは住んでいた木と共に、森の外へ飛ばされて。
森に帰ろうと飛んでいたら、カゴ男に捕まった。それを見た近くのフェアリー達が救出しようとし、そこに俺達が来た、と。
男達は森にいる貴重な虫を朝から探していた。見つからずに明日また来ようと森を出ると、人前に出ない希少で高値に売れるフェアリーが。
近づき、不意を突いて捕獲。帰ろうとすると仲間のフェアリーも来たので、欲が出て全部捕獲しようとしたらしい。
「とんでもない奴らだな、生き物を何だと思ってるんだ!」
「サエ……責任転嫁はよくないよ?」
「うん、ごめん!」
始まりは俺だった。本当に悪いと思ってる。なので、責任を取ってフェアリーが森で住める木を一緒に探してあげる事にした。
セアが色々男達に訊いた後、男達に回復魔法を掛け解放する。セアは回復魔法なんてもったいないと言ったが。何か罪悪感が……俺も原因の一端だし。
「ありがとうございます、サエ様」
「気にしないでいいよ、俺がやったんだし、それとなんで様付け?」
カゴ男が代表して、感謝をする。
男に様付けで呼ばれるのは、正直キモイ。
「姉御が……」
姉御?セアか!そういえばセアもおかしいんだよな。昼過ぎからかな?尊敬と言うか崇拝?みたいな。
「とにかく、この近くの街の宿に泊まっていますんで、何かあったら其処へ。輪御亭って名前の宿で『森狩り』と言えば分かりやす」
親切な奴、まあ、逆に狩られてるけど。
「サエ様は優し過ぎます。こんな奴等に──────」
「では、あっしらはこれで!」
逃げたな。まあ、良いけど。
「ほら、もう暗くなって来てるから、早くフェアリーの住む木を探すよ」
時間はPM04:53だ。セアの頭を撫でながら言う。セアの髪、本当に気持ちいいな。ナデナデ。
「分かりました。行きましょう。もう、私は子供じゃないんですから!」
セアが手を離れる。ちょっぴり名残惜しいな。
「そんな顔しないでください。後でいくらでも……」
セアが赤い顔でそんなことを……。
何か、フラグ立った?
「そこのラブコメ2人、行くよ!」
魔王、妬くなよ……
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仲間のフェアリーと別れて森を少し歩く。辺りも暗くなって来た。
と、いきなりフェル(フェアリーに個体の名前がないので、俺が勝手にそう呼ぶ)が一本の大きな木に飛びつく。
えっ?その木、マップで黄点なんだが?
動物以外に点の表示は出ないはずだが?
「何か用か?妖精達よ?」
何これ?頭に直接声が聞こえる。老人の様な嗄れた声。よく視たらこの木全体が顔みたいだ。◯クの木サマ?
「これは、トレントだね。魔物もいるけど、これは長い年月を過ごし、魂を手に入れた珍しい例だね」
おおう、魔王の解説コーナーが始まった。流石に魔王は物知りだな。
「私、あなたに住みたい!」
即決だな。でも、トレントは乗り気じゃないようだ。
「それは嬉しいが、ワシはもう長くない。もう何年もこの木には花が咲いてない、花を付ける力がもう無い証拠だ」
トレントの体は枝先から枯れているみたいだ。
「嫌だ、嫌だ、この木がいい、この木に住むの!」
フェルがだだをこねる。子供か!
「この木は私も見た事が在りますが、白い花が咲いて綺麗でした」
千年前からか、長い木だな、なんて。
「セアはまた花を見たい?」
「はい、でも……」
鑑定を使う。
ふむ。ひょっとしたら出来るかな?
「少し、触ってもいいですか?」
「えっ?」
うん、セアにじゃないからそんなに驚かない!顔、赤くしない!
「えっ?」
フェルでもない。もちろん、魔王でもないからな!そこのスマホ、スタンバイするな!
「かまわんよ、まだ、触っただけでは壊れる事もないじゃろ」
お許しが出たので、触ってみる。
回復魔法で『診察』、ふむ、いける。か?
「花が咲く位にあなたに力が戻れば、フェルを住まわせてくれますか?」
「それはいいが、そもそも─────」
最後まで聞かない、イメージは循環、体に流れる血のように。末端まで。使うのは───────回復魔法。
欠損を修復する『リカバー』
魔力を補充する『マジックギフト』
力というか魔力?が減っていた。自分では回復しても漏れていくみたいだ。なので、補充と同時に修復。魔力が漏れている所を直す。
「上級魔法の同時使用!それに凄い魔力がトレントに……」
セアが何か言ったが、俺は魔法に集中して聞き取れない。
よし、いける!!暖かい光がトレントを包む。成功!
「これはっ!?」
其処には、白い吹雪が舞っていた。
いや、雪のように白い花びらが輝いて一本の木の周囲に舞っていた。
周囲は夜で空には満月?が出ている。雪、花、月?は分からないけど。
───────これが本当の雪月花。
▲▲▲ 蛇足
サエ「何であの木がいいの?」
フェル「喋るから!」
サエ「それだけ?」
フェル「それしか無いけど?」
トレント「……」