55話 焼き印
首都の外壁の門は、北と南で2箇所に別れていて、片方がダメになったらもう片方から脱出する。そんな造りになっていた。
そして、俺達は南の門から入る。
もう、辺りもすっかり暗くなり始めた頃にようやく俺達は南門に着き、入る順番を待っていた。南門では兵士がそれぞれ5人一組で対応しており、俺達より下だろう年齢の兵士が沢山いたのが、印象的だった。
結構な数の人が並んでいたが、どんどん首都に入っていく。
そんな中で一台の馬車が首都入りを拒否されたようだ。
商人風な男が一際小さい兵士と揉めていた。
小人?
「ここは首都で奴隷を多く使っているはずだろ?なぜ奴隷商人の私が入れないんだ!」
「奴隷の国だったのは以前までの話、新しい女王様になられてからは奴隷は禁止され、奴隷商人も首都には入れない」
「嘘だ!まだ奴隷を使っていると最近聞いたぞ!」
「それは一部の犯罪者のみだ、奴隷商人が首都に入りたいなら、奴隷を解放するんだな」
「小人が!」
商人風の男が言い合っていた、小さい兵士に掴みかかるが、小さい兵士はあっさりと躱す。
「お前達、この男を捕らえろ!奴隷達は丁重に扱え」
小さい兵士は、他にもいた兵士達に素早く指示を出すと、もうその男に興味を失ったようで、他の兵士と同じように門番の仕事に戻る。
「ああいう人はよく来るんですか?」
俺の前にちょうど小さい兵士が来たので、訊いてみた。
本当に小さいな、でも相当強そうな気が……
「ああ、今の女王様になる前の話だけどね────」
その兵士が言うには、以前までの首都では、奴隷の売買が盛んだったらしい。
連れてこられる奴隷は子供が多くて、子供の奴隷はこの首都では何故か必ず高く売れた。
だが、今の女王様になってから奴隷だった者は、条件付きで解放されていて、外からくる奴隷商人は首都への立ち入りを禁止した。
これが、この首都の現状で、その事を知らない奴隷商人が、まだ結構多く来るらしい。
「話してくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ聞いていただきありがとうございます」
そう言うと、兵士は俺の前から去っていった。
その後は特に何事もなく、順調に首都に入れた。
門を通って、すぐに道切のメンバー達と別れ、女性陣にはまた後で宿でと言われた。
言われた通りに宿、弌期亭に向かうか。
というか、宿の場所訊いてない!
俺がどうしようか困っていると、セアが宿の場所を教えてくれた。
セアは事前に聞いていたようだ。さすがセア。
宿で部屋を取ると、後は待つだけだ。
ラズは小さくなったヤムを抱えて、買い物と食事に行くそうだ。
俺も何も無かったら、一緒に食べ歩きしたのに……
セアは俺と一緒に居るそうだ。
「一人だと何するか分からない」って何もしないよ!多分。
仕方ないので、宿の別館にある食堂で待つ。
宿の人に道切のメンバーが来たらここに呼んでくれるようにお願いした。
─────────それからしばらくして。
「待ってて貰ってありがとうございます」
「遅くなりました」
そう言って2人──ウトとナルンがやって来た。
「お疲れ様」
「待っていました」
俺とセアも声を掛ける。
「ここではなんですので、私達の部屋へどうぞ」
2人に案内されて部屋に行く。
部屋に来たときに、一瞬甘い匂いがしたが、すぐに消えた。
促されるままに室内に入る。
室内はベッドが2つあり、4人は少し窮屈で仕方なしにベッドに座るが、俺が座った途端、隣にナルンが座り、セアは残念そうに俺の向かいに座った。セアの隣にはウトが座る。
それからしばらく話し込む。
魔法や魔法具の事、弓や戦い方の事など道中の話の続きだ。
「そう言えば、サエさん達は明日ヒマですか?」
「明日、ウ〜ン?」
ナルンが俺達の明日の予定を聞く。明日は守護獣に会おうとしたのだが……
「明日は奴隷の────」
ピクン!
事とかを訊きに守護獣に会いに行く。
と言おうとしたのだが、俺の台詞の 奴隷の所でナルンが過剰に反応した。
何か雰囲気が変わった?
「サエさんも奴隷が気になりますか?」
「そんなことは──」
ドサッ
ない。と続けようとしたが、途中でナルンが俺の方へ倒れて来たので、抱き止める。
「ちょっ!何て羨ま……何でサエ様に抱きついてるんで────あれ?」
セアの体の動きが鈍い?
いや、全然動いてない!
「セア!」
パシッ
俺がセアに手を伸ばすとその手をナルンに掴まれる。
「何して──ん!」
ナルンの方へ顔を動かした瞬間にキスされる。
舌?
俺の口にナルンが舌で何か入れる。
ゴクン
入ってきた物を飲まされる。
え?体が動かない!
「さすがにそのマヒ毒はサエさんにも効きましたね。それ、大型の魔物用何ですけど……やっぱりサエさんは特別ですね」
「サエ様!サエ様!」
セアが必死に俺を呼ぶが……
「セアさんはこの香水で動かないでしょ?」
そう言ってウトがベッドの枕元に置いてある瓶を見せる。
「この香水でも強いから私達は事前に解毒薬を飲んだけど、サエさんには効かなかったわね」
状態異常耐性のスキルのおかげだな。
さすがに体内は無理か?
「セアさんって肌が白くて綺麗ですよね」
「え?何?どこ触って……キャッ!」
セアとウトが百合百合しい事態に……
「じゃあ、私達も始めましょう」
そう言ってナルンが俺をベッドに倒す。
「一ついいか?何でこんな事をする」
「お人形になってもらうのよ。だって私達は醜い」
そう言ってナルンは胸元を見せる。
そこには、よく分からない記号が刻まれていた。
「この焼き印は番号、私達は元奴隷で番号で呼ばれてた。道切のパーティーは皆元奴隷、私達はこの焼き印、醜い体のままで誰も受け入れはしない。だから──」
ナルンの目に涙が溜まっていた。
「人形なら受け入れるか?ふざけるな!」
『風壁』でナルンをベッドから飛ばす。
『解毒』で俺のマヒ毒を消す。
体が動かなくても、魔力は動かせた。
やっぱり魔法は使えた。
こちらを唖然と見ているウトを『風壁』で飛ばしてセアからどかして、『解毒』でセアのマヒ毒を消す。
「サエ様〜!」
興奮して抱きついてくるセア。
それはいいけど、その格好は……
着崩れて色々と……
セアが俺の視線で自分の格好に気付く。
「サエ様なら……」
良くない!駄目だから!
「やっぱり私達は醜いから────」
ナルンが何か言い始めたので、ナルンを無理矢理起こす。
「あなたも──」
「五月蝿い」
その瞳は絶望に染まっていた。
なので────驚かす為にキスをする。
目論見通り、目を白黒させるナルン。
「何を……」
「普通にナルンは綺麗だと思うが?」
「なっ!」
ナルンの顔が真っ赤になる。
俺はナルンの胸元の焼き印に触れる。
『診察』で状態を調べる。
何か外野がうるさいが気にしない。
そのまま魔法を使う。
回復魔法で正しく再生させるので『正生』かな?
ナルンの焼き印は綺麗に無くなった。
「うそっ!」
皆が驚きに包まれる。
あれ?やっちゃった?




