53話 道切
今回はパーティーメンバー以外の視点があります。
神父の仕事を手伝った次の日、神父と子供達に別れを告げて、朝から村を出る。
ちなみに狐の親子は教会に預けて来た。
神父が言うにはここから1日で首都にたどり着けるらしい。
神父はぜひ首都に寄って、守護獣に会うように勧められた。
また、首都は現在大変な事が起こっているのだが、内容は行けば分かるらしい。何だそりゃ。
まあ、とりあえず北の首都に行って見て、堪能したら西へ向かおう。
北に進むにつれ、だんだんと道の様子が変わって行った。今までは草花や木々が多くて、見通しの悪い場所も多かったが、平原のような見通しのいい場所になってきた。
ここまでも道中で魔物が出ていたが、猪や猿等森に住む動物が多かったのが、平原になって行くに従い、ゴブリンやオークなどの二足歩行の魔物が増えていた。
魔物も出現地域があるのか?
そういえば、スピリットには会っていないが、バジリスクのように珍しいのかな?
などと考え事をしながら歩いていると、別の道からも人の集団が歩いてきた。
装備等から俺達みたいに冒険者だと思うが、一応盗賊ということもあるかもしれないので、警戒する。
「よう、君達も冒険者か?」
先頭に立っていた無精髭のおじさんが話しかけてくる。
「そうですけど?」
「君達の目的地も首都かい?」
「はい」
「良かった、なら俺達と行かないか?途中で魔物除けが切れちまって困ってたんだ」
無精髭の男はこれで助かったと小さく呟く。
「俺達も持っていないですよ。魔物除け」
無精髭の男がショックを受けた顔をしている。
「嘘だろ……じゃあどうやってここまで?」
「見敵必殺?」
「嘘だ!こんな守護獣の力もない場所でどれだけ魔物が出ると思ってやがる!」
「4桁には届いてないかな?」
まだ、今日は千匹は倒していないはずだ。
「まあいい、こうなっちまった以上協力し合おう。お前達もいいか?」
「(別にどっちでも)いいぞ」
こうしてDランクパーティー【道切】が加わった。
メンバーは4人で無精髭の男がカイ。
俺と同じ歳?の15歳の生意気そうな少年ハルシ。
緑の髪でハルシの幼なじみの少女ウト。
赤髪で暗い感じの少女17歳のナレ。
ざっと説明するとこんなメンバーだった。
カイ曰く、最近Dランクに最速でなったパーティーで結構実力があると言われるパーティーらしい。
俺達もざっと自己紹介してギルドカードを見せると、
「そ……その年齢でCだと!」
と、驚愕していた。
とりあえず今日中には首都に着きたいので、早く出発する。
だが……彼等道切は遅かった。
魔物が来たら分かると言ったのだが、必要以上にビクついて全然先に進まない。彼等に何か言おうとすると、マップに赤点……魔物が前後で20体現れる。
「魔物20体が前後から来る。前5体、後ろ15体だ。後ろは俺達がやるから、前を頼む」
返事を聞かずに、俺達は後ろに行く。
「サエ、あの程度なら私とヤムで十分よ。彼等をセアと見に行ってあげて、きっと苦戦してるわ」
魔物の数と種類を確認して、ラズがそう判断する。
いくらDランクパーティーだからってたかが5体に……と思いつつも、ラズの指示に足が動く。
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◆カイ視点
オレ達のパーティーはちょっとした配達の依頼で首都から離れて、遠い村まで行っていた。
もちろん報酬がいいというのもあるが、首都近くの魔物は多くても3匹程度で、しかもゴブリンやラビット系などでとてもオレ達の相手ではなかった。
だから、少し強い相手を求めた。
一応魔物除けの魔道具を持ってきたが、使わないだろうと高を括っていた。
最初の戦闘で20体が現れて、オレ達は即撤退した。しかも、ゴブリンの他にオークやトレントも混ざっていた。
逃げ切れたのは奴らの足が遅いというのを事前に知っていたからだった。
もし、ウルフ系だったなら今ごろここにはいないだろう。
オレ達は撤退してすぐに魔物除けを使って急いで村に向かい、依頼の品を届けてすぐに首都に切り返した。
村に魔物除けは売っていないし、魔物除けがいつ切れるか分からないので、急いで首都に戻る。
首都までもう半日の所で魔物除けが切れる。
と、同時に黒い冒険者らしき人物と綺麗な少女2人と獣を連れたパーティーが歩いてきた。
ラッキー!見たところメイドを連れているので裕福なのだろう。
魔物除けを分けて貰えるかもしれない。
それが無理でも、首都まで同行すれば魔物除けの効果で魔物は出て来ないだろう。
オレは黒い冒険者に声を掛ける。
改めて見ると若いな、少年だ。
少年はサエと名乗った。なんとCランクの冒険者らしい。親のコネか?
メイドの美少女はセアと名乗った。サエと同じCランク冒険者。同じの部分を強調してもう一人の美少女を見ていたが?
ピンクの髪に銀に輝く鎧の美少女はラズと名乗った。背が小さいが凄く大人びている気がする。ラズは最近、紹介で冒険者になったばかりでオレ達と同じDランクだ。
魔物除けを持っていないかを訊いてみるが、コイツ等は魔物を見つけ次第殺しているので使わないらしい。4桁とか変な事を言っていたが、見栄を張りたいのだろう。
オレ達のように魔物が出たら使うだろう。
結局、コイツ等と一緒に進む事にした。いざという時は盾にして逃げる。自分の仲間にこっそりそう告げる。
ウトとナレは嫌がったが、オレ達のパーティーが生きる為と説得した。
いざ、出発とコイツ等はずんずん進む。魔物が恐くないのか?
魔物が居れば分かるとコイツ、サエは言うがそんな便利な物を低ランクのパーティーが所持してるか!
やがてサエが何か言おうと口を開いた瞬間!
サエの動きが突然止まる。
何?何なんだ?
サエは魔物が前後から来るという、本当か?と訊こうとしたが、サエの真剣な様子から本当だと確信する。
全部で20匹、魔物は討伐する場合は倍の数で対抗するのが一般的だ。余裕があれば3倍が望ましい。
それが、今は7人+1匹だ。
サエは魔物の襲撃を告げると、後ろの15匹に向かっていった。
3倍だぞ勝てるか!
こちらにも5匹向かってくる。
しかも、最悪な事に全部ウルフ系だ。
逃げるのも無理。
……最後に足掻いて死ぬか。
オレは決意を固める。
仲間も覚悟したようだ。
「オレとハルシで魔物の注意をひく!ウトは弓で援護、ナレは魔法で倒せ!」
素早く仲間に指示を出す。
オレが3匹をナイフで相手する。
攻撃は見えるが、速くて躱すので精一杯だ。反撃の暇がない。
ハルシは2匹の攻撃を盾で凌ぐ。
ウトは弓でオレとハルシに攻撃を仕掛ける奴を牽制する。
よし、ナレの詠唱が終わった。
オレの合図で皆が魔物から一旦離れる。
今だ!
ドン!
魔物達の中心にナレの魔法が炸裂すると爆発して煙が立ち込める。
うちのパーティーの最強の攻撃だ。
やがて煙が晴れていく。
そこには────
「嘘だろ……」
無傷の魔物がいた。
いくら何でも無傷は無いだろう。
1発で全滅はしないと思ったが、無傷は有り得ない。
オレが絶望していると1匹が口を開けて向かってきた。
あっ死んだ。
そう思って目を閉じる。
………
……
…
あれ?衝撃が?
恐る恐る目を開ける。
目の前に首の無い、魔物の死体が会った。
「はあ?」
「うん、間に合ったな」
声の方を振り返った。
そこには黒い人が、サエがいた。
これをやったのはサエ?
「サエ様終わりました」
メイド……セアがサエに報告する。
何を?何が終わった?
見ると、ハルシの相手していた2匹が氷の剣で串刺しになっている。
グルルル……
そうだ、まだオレが相手していた2匹がいる。
奴らは仲間を殺したサエに警戒しているようだ。
「怪我してない?」
魔物の存在を無視してオレに話しかけてくるサエ。
危ない殺される!
魔物が同時に飛びかかる!
「ねえ、訊いてんだけど……」
飛びかかった魔物は真っ二つになっていた。
武器を使った気配はない。
魔法も詠唱がなかった。
いったいどうやって?
「もしもーし」
これが、地獄の始まりだった。




