48話 狐
火の玉が飛んで来た林に、俺達が向かって見るとそこには、青い半透明な人の形をしたナニカが、5体居て獣を追いかけ回していた。
「なにあれ?」
「あれはスピリット、霊体の魔物だよ」
俺の質問に魔王が答える。
とりあえず俺は『風刃』を放つ。
と、
「あれに属性魔法と物理攻撃は効かないよって言うの遅かったかな?」
魔王の言葉通り、『風刃』はスピリットの体を通り抜ける。
手応えが全くなく透けてしまう。
「あれは、どうやって倒すの?」
「基本的には神聖魔法で消滅するけど……」
神聖魔法か……俺は使えないんだよな。新しく取るしかないかな?
その時、逃げていた獣がスピリットに向けて火の玉を放つ。
なるほど、さっき俺に向けて飛んで来た火の玉は、どうやらこの獣が放ったようだ。
「あれは魔法じゃなくて、『狐火』だね。精神体にもあれならダメージを与えられるけど……」
魔王が言ったとおりにスピリットに命中して怯んだ。
だが、
「威力が弱いね」
すぐにまた獣を追いかけ始める。
ダメージは微量か。
「どうすれば、俺でも倒せる?」
「任せて!」
俺が魔王に倒し方を訊こうとすると、先にラズがスピリットの前に飛び出す。
スピリットは狙いをラズに変更したようだ。
不気味な呻き声を上げて一斉に襲いかかる。
対してラズは剣を抜く、物理攻撃は効かないんじゃ……
キィィィーー!
ラズに斬られて、奇声を上げて消えて行くスピリット達。
あの一瞬で5体を斬っていた。
やはりラズの剣技は凄い。
でも────
「スピリットに物理攻撃は効かないんじゃ?」
俺が疑問に思ってラズに訊くと、ラズは自分の剣を俺に見せる。
剣が薄く光ってる?
ラズの持つ剣は淡く白い光を纏っていた。
「神聖魔法の初歩の技で『憑依』よ。物に神聖魔法の力を宿す、付加みたいな技ね」
それがあれば俺にも────
「サエのナイフやセアの作る剣には無理よ。武器には属性があるもの」
「属性?」
「私の剣は神聖の属性、サエのナイフは犬の方は風、モグラの方は土ね。それ以外の属性は多分受け付けないわ」
俺の武器で戦えたら良かったのだが、そんなに甘くはないようだ。
「クーン、クーン」
突然、獣が俺のズボンを噛んで引っ張りながら、何かを必死に訴えている。
この獣は狐だな。残念ながら人の言葉は喋れないようだ。
「この先にある村に、子供が遊びに行ったまま帰ってこないだって」
俺が困っていると、ヤムが狐の言葉を翻訳してくれた。
狐がヤムの言葉に頷き、林を歩いていくこちらをチラチラ見ながら歩いているのでこれはおそらく……
「付いて来いって言ってる」
うん、ヤムが訳すまでもなく俺もそう思ったよ。
「あの狐、サエ達に付いて来いなんて失礼ですね」
「いや、別に俺は気にしてないから」
だから、セアも剣をしまって!
俺達が殺したらラズが助けた意味がないから!
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その村は今、夕焼けに染まり、木に囲まれ、湖があり、とても綺麗でとても静かだった。
そこそこの規模の村で、かつて生活感溢れていたのだろう光景は、普段ならばさぞかし楽しげに見えただろう。
だが、一人も人が見当たらずに静まり返った様子では、かえって不気味だった。
ふと、誰かの地面を駆ける音が聞こえた。
近いな、すぐそこの家を曲がったところだ!
ドン!
ドサッ!
ちょうど曲がり角で、俺と少年がぶつかって少年が転倒する。
「平気?」
俺の質問に答えず、俺の背後を見てガクガク震える。
「危ないわよ」
そう言ってラズが俺の背後にいたスピリットを切り裂く。
少年は俺達を見て、助けが来たと遅れながらも理解したらしい。
手を差し出した俺に少年が抱えていた、子狐を渡す。
「この子狐を頼みます!」
俺は子狐を受け取りながら、少年を見る。
「サエ……」
魔王が何か言いたそうだったが、構わずに狐を抱えていない方の手を少年に差し出す。
少年は一瞬驚いたが、嬉しそうに俺の手を取る。
──────そして、砂のように崩れて消えた。




