44話 罰
非常にマズイ、この世界ではあまりピンチを感じた事のない俺だが、今、凄いピンチを感じている。
俺のベッドの下では、ヤムが丸まって気持ち良さそうに眠っている。
いつもはベッドで一緒に寝ているのだが……
ではなぜ、いつもはベッドで一緒に寝ているヤムが床で寝ているのか?
それは、今俺のベッドに3人いて、もうスペースが無いからだった。
俺の右側にセア、俺の左側にラズ、それぞれに腕を固められている。
天国?俺がどちらかの腕を離せば、その瞬間に天国へ逝けるだろう。俺が攻撃されて。
寝返りも打てない、横に顔もずらせない。
痛いぐらいに2人の視線を感じる。もう一度言うけど【痛いぐらいに】。
あの、セアさんの方から冷たい氷のような温度を感じるんですけど、ラズさん枕元に剣を置くのは、この世界の常識ですか?
……どうしてこうなった?
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西に行こうと決めた夕飯の後、風呂に入り、さて寝ようという所で、ノックがあったので出ると、セアとラズだった。
ちなみにヤムはもう俺の部屋にいた。
2人共、寝間着姿も可愛く、セアは各所にフリルの付いた青い寝間着で、ラズはピンクの浴衣に近い寝間着だ、薄着だとやっぱり目立つなむ──────いや、何でもない。だから、セア睨まないで!
セアとラズの2人は俺の寝室に入って来て、話し出した。
「サエ様、私言いましたよね。怪しい人には付いて行かないって」
セア……えーとその台詞は病んでる?怒ってる?
「……うん、言った」
「でも、サエは怪しい男の人に付いて行ったわね?」
「うん、でもアレは「サエ様」
「はい、付いて行きました」
「私達がいない時に“1人”で、何か在ったらどうするの?」
え?俺、子供扱い?
2人は保護者?ていうか、いつの間に仲良しに……
「我も「魔王様は黙っててください」
「はい」
魔王弱!セアに言われて、魔王の声が無くなる。
「それと、私達には相談無く、王都を出たわよね?」
「それは、魔王に「出たわよね?」
「はい、出ました。ごめんなさい」
「私達はサエ様が心配なんです」
セアが真剣な表情で俺に訴える。
「うん、分かったよ。セア、ラズ」
俺の返事を聞き、セアとラズが笑顔になる。
「それと、これをサエ様に」
そう言ってセアが、黒い腕輪を渡してくる。
「ありがとう?」
腕輪?急に渡されたプレゼントに戸惑う。
「私達とお揃いで買ったのよ」
ラズが自分の右腕の腕輪を見せる。
セアも自分の右腕の腕輪を見せる。
ラズが赤でセアは青だ。
シンプルだが、結構複雑な魔力を……魔力?
「サエ様、いつも填めていてくださいね」
そう言ってセアが俺の腕に填める。
え?この腕輪って────
「サエ様、それで罰なのですが」
は?罰?
いきなりで予想していなかった言葉に俺は驚く。
「何?罰って?」
「サエが知らない人に付いて行って、その後に勝手に王都を出て、私達を心配させた罰よ」
いや、悪いとは思うけどあれは仕方なく────
「罰として、今日はサエ様に私達の抱き枕になって貰います」
セアが顔を真っ赤にして言う。
いや、無理しなくても。
「じゃあ、寝るわよサエ」
ラズが俺の腕を取り、ベッドに連れて行こうとする。
当たってるから!色々と!
「行きましょう、サエ様」
何で、セアは覚悟を決めたみたいな顔してるの?
もう片方の腕もセアにガッチリ掴まれる。
どうやら、逃げ場はないらしい。
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そんなわけで、今までは2人が牽制しあっていたが、急に2人共大人しくなった。
顔を極力動かさずに目だけ動かし、状況を確認する。
セアを見れば、耳まで真っ赤でよほど恥ずかしいのだろう。しかし、腕を離すつもりは無いようだ。
ラズを見れば、何が面白いのか、ニヤニヤしている。
俺の視線に気が付いたようだ。ラズが腕をさらに引っ張る。
ちょっ!腕が埋まる!?
セアが気付いた!剣を────じゃなく、セアから寄ってくる……だと。
ただでさえ近いのに、寄ってくると……ほらっ!俺の耳にセアの吐息が!
ええ?ラズが対抗して───────。
結局、俺は一晩眠れず、セアは俺と視線が合うと真っ赤になり、ラズは何故か元気で肌がツヤツヤしている。
2人共ほとんど寝てないですよね?
「サエ様、平気?」
ヤムが俺を心配そうに尋ねてくる。
今は、ヤムだけが癒やしだな。
「我は?」
聞こえてたぞ、一晩中忍び笑いが!
昨日は何もなかった。そういうことにしよう……何事も切替が大切だ。




