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44話 罰

 非常にマズイ、この世界ではあまりピンチを感じた事のない俺だが、今、凄いピンチを感じている。

 俺のベッドの下では、ヤムが丸まって気持ち良さそうに眠っている。

 いつもはベッドで一緒に寝ているのだが……

 ではなぜ、いつもはベッドで一緒に寝ているヤムが床で寝ているのか?

 それは、今俺のベッドに3人いて、もうスペースが無いからだった。

 俺の右側にセア、俺の左側にラズ、それぞれに腕を固められている。


 天国?俺がどちらかの腕を離せば、その瞬間に天国へ逝けるだろう。俺が攻撃されて。

 寝返りも打てない、横に顔もずらせない。

 痛いぐらいに2人の視線を感じる。もう一度言うけど【痛いぐらいに】。

 あの、セアさんの方から冷たい氷のような温度を感じるんですけど、ラズさん枕元に剣を置くのは、この世界の常識ですか?

 ……どうしてこうなった?



 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲



 西に行こうと決めた夕飯の後、風呂に入り、さて寝ようという所で、ノックがあったので出ると、セアとラズだった。

 ちなみにヤムはもう俺の部屋にいた。


 2人共、寝間着姿も可愛く、セアは各所にフリルの付いた青い寝間着で、ラズはピンクの浴衣に近い寝間着だ、薄着だとやっぱり目立つなむ──────いや、何でもない。だから、セア睨まないで!


 セアとラズの2人は俺の寝室に入って来て、話し出した。


「サエ様、私言いましたよね。怪しい人には付いて行かないって」


 セア……えーとその台詞は病んでる?怒ってる?


「……うん、言った」


「でも、サエは怪しい男の人に付いて行ったわね?」


「うん、でもアレは「サエ様」


「はい、付いて行きました」


「私達がいない時に“1人”で、何か在ったらどうするの?」


 え?俺、子供扱い?

 2人は保護者?ていうか、いつの間に仲良しに……


「我も「魔王様は黙っててください」

「はい」


 魔王弱!セアに言われて、魔王の声が無くなる。


「それと、私達には相談無く、王都を出たわよね?」


「それは、魔王に「出たわよね?」

「はい、出ました。ごめんなさい」


「私達はサエ様が心配なんです」


 セアが真剣な表情で俺に訴える。


「うん、分かったよ。セア、ラズ」


 俺の返事を聞き、セアとラズが笑顔になる。


「それと、これをサエ様に」


 そう言ってセアが、黒い腕輪を渡してくる。


「ありがとう?」


 腕輪?急に渡されたプレゼントに戸惑う。


「私達とお揃いで買ったのよ」


 ラズが自分の右腕の腕輪を見せる。

 セアも自分の右腕の腕輪を見せる。

 ラズが赤でセアは青だ。

 シンプルだが、結構複雑な魔力を……魔力?


「サエ様、いつも填めていてくださいね」


 そう言ってセアが俺の腕に填める。


 え?この腕輪って────

「サエ様、それで罰なのですが」


 は?罰?

 いきなりで予想していなかった言葉に俺は驚く。


「何?罰って?」


「サエが知らない人に付いて行って、その後に勝手に王都を出て、私達を心配させた罰よ」


 いや、悪いとは思うけどあれは仕方なく────


「罰として、今日はサエ様に私達の抱き枕になって貰います」


 セアが顔を真っ赤にして言う。

 いや、無理しなくても。


「じゃあ、寝るわよサエ」


 ラズが俺の腕を取り、ベッドに連れて行こうとする。

 当たってるから!色々と!


「行きましょう、サエ様」


 何で、セアは覚悟を決めたみたいな顔してるの?

 もう片方の腕もセアにガッチリ掴まれる。

 どうやら、逃げ場はないらしい。



 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲



 そんなわけで、今までは2人が牽制しあっていたが、急に2人共大人しくなった。

 顔を極力動かさずに目だけ動かし、状況を確認する。

 セアを見れば、耳まで真っ赤でよほど恥ずかしいのだろう。しかし、腕を離すつもりは無いようだ。

 ラズを見れば、何が面白いのか、ニヤニヤしている。

 俺の視線に気が付いたようだ。ラズが腕をさらに引っ張る。

 ちょっ!腕が埋まる!?

 セアが気付いた!剣を────じゃなく、セアから寄ってくる……だと。

 ただでさえ近いのに、寄ってくると……ほらっ!俺の耳にセアの吐息が!

 ええ?ラズが対抗して───────。



 結局、俺は一晩眠れず、セアは俺と視線が合うと真っ赤になり、ラズは何故か元気で肌がツヤツヤしている。

 2人共ほとんど寝てないですよね?


「サエ様、平気?」


 ヤムが俺を心配そうに尋ねてくる。

 今は、ヤムだけが癒やしだな。


「我は?」


 聞こえてたぞ、一晩中忍び笑いが!

 昨日は何もなかった。そういうことにしよう……何事も切替が大切だ。


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