41話 赤い
王都を出る為に門へ急ぐ。
「待ってサエ、門の近くに貸し馬屋があったから、駆け飛びを借りた方が速いよ」
門へ向かう途中で、魔王が俺に提案してくる。
確かに、そっちの方が速く着きそうだ。
俺は魔王の提案通りに、貸し馬屋に寄る。
「駆け飛びを貸してください!」
店に入るなり、俺は大きな声でそう言う。
店員が近寄って来て、説明を始める。
「ただいま駆け飛びは一匹しかいなくて、その一匹には少し問題が……」
「構わないから早く」
俺がそう言うと、渋々店員は駆け飛び連れてくる。
その駆け飛びは、体格などは以前に乗った駆け飛びと変わらないのだが、体の色が真っ赤で体中が鎖で束縛されていた。
「まず、1日目の金貨15枚は先払いでお願いします」
高いな、前は1日で金貨5枚だったはずだ、場所によって値段が違うのか?それともコイツは特別なのか?まあどちらにしろ今は急いでいるので、どうでもいいか。
俺は店員に金貨を払うと、店員は駆け跳びの鎖を解く。
バキッ!
その瞬間、店員が消える。
いや、殴られて店員が吹っ飛ぶ。
赤い駆け飛びは俺に視線を向ける。
次はお前だ、と言わんばかりに俺に拳を向ける。
次の瞬間、駆け飛びが地を蹴り俺に拳を突き出す。
当たると思いニヤリとした所に、俺が横から顔面を殴る。
スライド機能を使えば楽勝だ。
ズドン!
ドンッ!
俺が殴ると、駆け飛びが壁まで吹っ飛ぶ。
「こっちは急いでるんだ、余計な時間使わせんな!」
倒れている駆け飛びを見下ろしながらそう告げる。
駆け飛びが俺を怯えた目で見て、コクコク頷く。
少し可哀想だが、急ぎだからしょうがない。
「じゃあ、この駆け飛び借りてくぞ」
俺は店員に話し掛けるが、多分聞いていないだろう。
店員は完全に伸びているし、反応がない。
もう、お金は払ったから大丈夫だろう。多分。
俺は駆け飛びに乗り、門へ向かう。
「セアとラズはどうするの?」
魔王が訊いてくる。
今は、2人に合流は出来ないな。
魔王がなんとか連絡出来ないか?
「いいけど、我は知らないからね。サエが責任取るんだよ」
?
何の?まあ、魔王に任せるか、話しているうちに、門に着いたので、ギルドカードを見せて通行する。
デブの話しでは、西だったな。
俺は西に駆け飛びを、全力で跳ばさせる。
速い、赤いから?三倍までは行かないが、前に乗った駆け飛びよりは倍以上速く感じた。
その分、反動も凄いが、今は速度優先なので、コレで助かる。
魔物もまったく寄せ付けない速さだ。
やがて、3〜4時間で目的の馬車が見えた。
あのデブが身に着けている物に刻まれた紋章が馬車にも見えた。
馬車は2台で、合計4匹の馬の守護獣に魔物から護られて進んでいた。
俺は躊躇わず両方の馬車の車輪に『風刃』を打ち込む。
バキッ!
車輪が壊れ重くなり、守護獣はだんだん馬車が牽けなくなった。
馬車の速度が落ちていき、遂には止まった。
1つ目の馬車からは5人の男が出て来た。
俺が駆け飛びから降りて馬車に向かうと、1人の男を守るように、周りに4人の男が並ぶ。
「やれやれ、馬車が止まってしまった。やったのは君かね?」
白い短髪で殺し屋と間違われてもおかしくない細く鋭い黄色の目。
格好は商人だが、服の下は鍛えられているのが分かる。
「ギルドの受付嬢の妹はどこだ?」
俺は白髪の商人に目的の少女の居所を訊く。
「ここには“商品”しか在りませんよ?」
「ふざけるなよ、人を攫って売買するのがお前の商売か?」
俺がそう言うと白髪の商人は「攫う……人を……」と呟いている。
やがて、
「俺の商品を奪おうとする奴は敵だ」
と言って、護衛と共に襲いかかってくる。
俺は地面にもぐらを刺して、土龍を作り出して男達を捕縛する。
何かこの商人は少しおかしい、まるで幻惑魔法に掛かっているような……
「我もそう思う、でも幻惑魔法じゃなくて────」
やがて、もう1つの馬車からも人が出て来る。
アレは────。




