37話 別れ
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◆ラズ視点
2人が出て行った後、この場に残された皆がインを見る。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
少女が心配そうにインに話し掛ける。
「大丈夫だよ、それより巻き込んでごめんね」
インが少女に謝る。
「お前らは恩人だが、お前らの事情に娘を巻き込んでほしくないんだが?」
実際、娘が殺されそうになったからだろう、キジーさんは私達を警戒している。
私はセアの行動に驚いていた。
勇者が嫌いなのは知っていたが、殺す程に憎んでいるとは思わなかった。
セアは、庇った人ごと殺そうとしていた。
それが、戦う力のない少女であっても。
あんなに殺意に満ちたセアは初めてだ。そのせいで、反応が何も出来なかった。ヤムもきっとそうだろう。あの圧力の中でも動けたのはサエくらいだろう。
「キジーさんも、巻き込んでしまってすいませんでした。もう、僕が出て行くので、平気だと思います」
そう言って、インが外へ出て行く。
私は、その後を追いかけて、インに問いかける。
「アナタなら、セアの剣も避けれたんじゃないの?」
「避けれたとしても、避けはしないさ。セアは勇者を憎んでいた、きっと前の勇者から非道い目に遭わされたんだろう」
「それは……多分ね」
「前の勇者のせいとはいえ、それは勇者の罪で、僕の罪だ。だから、僕が罰を受けるべきだ」
「私も同じで勇者よ」
「君はセアやサエに嫌われてもいいのか?それに、まだサエには言えないんだろう?」
「それは……でも、アナタはあの子を助けようとして勇者の力を使ったわ、前の勇者とは違うわ」
「セアにとっては、今も前も同じ勇者なんだよ」
「だけど、勇者は死んでも……」
「誰かに力が移るだけで、勇者が消えるわけじゃない、多分セアはそれを知らないんだろう」
「じゃあ、それをセアに──」
「あの時に言っても聞く耳を持っていなかったよ」
「だけど……」
「僕はこのまま、この場所を去るよ。それと、【仮面】には気をつけて、奴は守護獣を殺して、何か企んでいるみたいだから」
「待って、サエと……!」
インは本を出し、何か呟くとインの背中にページが集まって、それが翼の形になりインが空へ飛ぶ。
「それじゃあ、ラズまたね」
そう言って、インが空に消えていく。
サエから頼まれていたけど、これは、しょうがないよね。
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俺がセアを連れて、キジーさんの家に行くと、家の中にインの姿はなかった。
「あれ?インは?」
「空を飛んで逃げて行ったわ」
空?どうやって?俺はラズの言葉に疑問を持った。
それより、インには勇者の事で聞きたい事が沢山あったのだが、残念だ。
そんなにセアが恐かったのかな?
「ごめんなさい、サエから頼まれていたのに」
「それは、別に良いよ」
まさか、空を飛ぶなんて誰にも予想出来ないだろう。
「恐い思いをさせて、すいませんでした」
声のした方を見ると、セアが女の子に頭を下げて謝っていた。
俺の言ったとおりに、セアは一番先に女の子に謝ってくれたな。
「私が勝手に動いちゃっただけだよ、お姉ちゃんは悪くないよ。それに、怪我も無いし」
なんか、この子、大人だ!
俺が止めなかったらセアは止めていただろうか?いや、止めなかったな。
でも、俺が止められるほどに遅かったので、セアも本気で女の子を斬りたかったわけじゃないだろう。
「ありがとうございます、でも、私が斬ろうとしたのは、事実です。謝って済む問題では無いですけど、すいませんでした」
女の子が困った様子で、キジーさんを見る。
「あんた達は恩人だが、娘の命を奪おうとしたのは、正直許せねえ。だから、このまま出て行ってくれ」
「お父さん!」
女の子はそういう意味で、キジーさんを見たわけじゃないだろうが、キジーさんの言ってる事は正しいと思う。
俺も他人から仲間の命が奪われそうだったら、許せないだろう。
「分かりました。では、さようなら」
そう言って、キジーさん達に一礼してからセアが外に出る。
俺達も行こう。
続いてラズが外へ出て行く。
次にヤム──あれ?ヤム?
ヤムは小さくなって寝ていた。
ずっと会話が無いと思ったら寝ていたのか……
まあ、ヤムは元々あまり人前では話さないのだけど。
ヤムを抱えて、俺も外に出る。
「これからどうしますか?サエ様」
「とりあえず、村の入り口まで行ってから館へ帰ろう」
皆も反対はないようで、特に何も言わずについて来る。
今日は色々あったな、インが勇者か……あのイケメンは勇者補正があるから?
そんなくだらない事を考えながら、村の入り口に向かった。
あっ夕飯にお米は食べられるかな?
▲▲▲ 蛇足
サエとセアが家に入る時。
サエ「あれ?セア、今、剣を投げた?」
セア「はい、ちょっとゆ……魔物が飛んでました」
サエ「そう?」
セア「はい、サエ様は心配しなくても、もう平気です」
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イン「今、ギリギリで避られけたけど、何か剣のような物が通過したような……」




