間話3 ヤム
ボクの家族は、戦士の家族で、父親、母親、兄の皆が強かった。
ボクは家族の中では、一番年下でまだ、人化の術も使えなかった。
兄であるナムは、もうボクの年齢には人化の術を使えたのにと、からかうようにボクに言った。
人化の術は大人になった証明で、ボク以外の狼は皆が使えた。
「そんなんじゃ、【カムイ】様みたいに強くなれないぞ」
ナムはずっとボクにそう言っていた。
カムイ様は1000年以上前に、魔王様と呼ばれる人と共に生きて、住んでいた場所を魔物以外にも、龍や悪魔などの襲撃からも護ったと言われている、伝説の守護獣だ。
今もまだ生きているという噂だが、実際に見という者はいない。
全ての守護獣の憧れであり、目標の守護獣だ!
「ボクは強い戦士なのに、ナムって少し早く生まれただけなのに生意気だ」
「コラ、ナムじゃなくて兄さんだろ、大体オレより弱くて戦士はないだろう」
「うるさいばかナム」
ボクとナムは、いつもそんな言い合いをしていた。
近々、ナムが人の住む場所へ行き、守護獣の任を任されるらしい。
狼の守護獣はある程度の距離が在っても、その地に自分で守護の力を使えば、自分が居なくても、ある程度の範囲を守護できる。
狼にとって守護できるという事は、とても誇らしい事で、ナムも皆も嬉しそうだった。
ボクはナムの為にこっそり魔物を狩って来て、食べさせてあげる事にした。
おいしい鳥の魔物がいる場所を見つけていたのだ、守護獣の力が効いている範囲から少し離れているので、少し遅くなるが、夜には帰れるだろう。
一匹で魔物を狩って来て、ナムを驚かしてやろう。そして、強い一人前の戦士って証明してやる。
夜、魔物を仕留めてから、急いで帰って来て、自分達の住んでいる洞窟に近づくと、洞窟の中から白い光が溢れた。
そして、すぐに人間が出てくる。血と何かが混じった変な匂いがその人間からした。
人間はそのままボクに、気付かずに逃走した。
人間を追うか迷ったが、ボクは家族が気になり洞窟の中に入った。
洞窟の中では、狼の皆が倒れていた。
おかしな黒い模様が体に浮かび、触ると体温が異常に高い。
まだ、守護の力が効いているので、皆が目を覚ましてから食事する為に、食料と水を確保する。
それから数日が経過した。
皆の体の黒い模様は日に日に大きくなっていった。
皆の熱も下がらずに意識が戻らない、もしこのまま皆死んだら……自分一匹だけだと考えが暗くなる。
きっと皆目を覚まして助かる。それまではボクがここを護る!
また、数日が経過した。
3匹体中が真っ黒でそのまま動かなくなった。
もう呼吸もしていない、明らかに死んでいた。
3匹の内の1匹はボクの母親だった。
ボクの目から涙が出た、必死に叫んでも母親の意識が戻る事は二度となかった。
あの男が来てから、8日以上が経過していた。
もう残っているのは、ボクの父親とナムだけだ、守護の力も弱まって来ていて、魔物が少しずつ洞窟を襲ってくるようになった。
まだ、来る数が少ないので護れているが、大量に攻めて来るのも時間の問題だ。
そうなると、もうボクだけでは……
その翌日に父親が死んだ。
もう、父親が使っていた守護の力も完全になくなり、ボクは頻繁に魔物と戦った。
戦っている間は悲しさを忘れられた。
そして、夜になってから急に魔物が落ち着いてきていた。さっきまであれだけ連続で襲ってきたのに?
その時ボクは狼の守護の力を感じた。
ナム!
守護の力を使える狼はもう、ナムだけだ。
ボクは急いでナムに駆け寄った。
微かにナムの意識が感じられた。
「お前に……魔物を倒さ……せて……悪……いな」
「全然だよ!ボクは戦士だから平気だよ!」
ナムは殆ど全身が真っ黒で喋るのも、途切れ途切れになっていた。
ナムはボクの体を見て、今まで何をしていたか分かったようだ。
「父さん……と……母さんは?」
「もう……」
「そう……か……他も?」
「うん、ボク以外は皆……」
ボクの言葉で狼の皆がどうなったか、ナムには分かったようだ。
「お前……だけで……も無事……で良……かった」
「良くないよ!ナムも一緒にいてよ」
「そんなん……じゃ……カムイ……様……みたい……に「なれなくていい、なれなくていいから一緒にいてよ!」
「オレの……代わり……にお前……がなっ……てくれ」
「無理だよ!ボクじゃナムにも勝てないんだよ!」
「お前……なら……なれる……さ……戦士……だろ」
「それは……」
「頑張……れよ……応援……し……て……る」
「ヤダ!やだよ兄さん!」
ナムの意識が完全になくなり、全身が黒くなる。
ワオーーーーーン
外に出て、遠吠えをあげる。
これは、仲間への弔いとボクの決意だ!
襲ってきた奴を、あの人間を殺し、カムイ様みたいに強くなる。
今日は皆と最後の夜を過ごし、明日この場所を出発する。
人化が出来なくて、少し不安だがきっと平気だろう。
カムイ様みたいに、ボクにも魔王様みたいな人がいれば良かったのに。
▲▲▲ 蛇足
ヤム「魔王ってどんな人だろう?」
ナム「きっとすごく強くて正直者で優しい人だろう」
サエと魔王と出会い
ヤム「ナム……魔王様は鳥だった。」
魔王「え?何ヤム?」
ヤム「魔王様って鳥?」
魔王「うん、ペンギンって────」
サエ「嘘つくな!」
ヤム「……」




