2話 ステータス
「……で、もう一度訊くけど、魔王様(笑)は一体どんなサポートしてくれるんだ?」
「今、我の呼び方を馬鹿にされたような?」
「気のせいデスヨ?」
「……はあ、とりあえず、最初はこの世界の事から教えるよ。ちゃんと聴いててよ?」
──魔王の話によるとこの世界には、魔物が存在していて他の動物を襲っている。その生態や詳しい事は魔王の知る限りは不明だそうだ。魔物=世界の脅威らしい。
その対策で人は、剣や魔法を使って魔物を撃退するが、人は自分達の生活圏を確保するのが精一杯だった。が──
突然現れた勇者の活躍で人の生活圏は一気に増える。この事があって、勇者は魔物から人々を守る象徴になった。魔物の脅威から勇者は人を守る為に、後継者を12人選び、それぞれに自分の力を分け与えた。それが勇者の誕生。そして──
今から千年ほど前に、この地に住んでいた魔王を、急に現れた12人の勇者達が襲撃してきた!それぞれの勇者の能力を使い襲いかかって来た。
この地で一緒に住んでいた人々を逃がす為、守る為に魔王は戦った。
だが──魔王は勇者に追い詰められて最後には、この棺に封印された。
そして現在、時の経過と共に封印が弱まったので、ある程度の身動きが出来るようになった魔王は、まず自分を体と魂の2つに分けた。
その後、封印で動けない体を棺の中に置いて、魂だけの状態で封印を抜け出した。自由にさまよっていると、異世界にて自分に似た形の魂を発見。確保。
「それが俺?」
「うん」
そして魔王は異世界から持ってきた、その魂(俺)と体(魔王)を封印(勇者の力)ごと混ぜて創りだした。
その結果出来たのが、俺か。
……本当に『色々』混ざってるな。
最後に魔王の魂は、異世界で見たスマホを造りそれを入れ物にした。ちなみに今、梟の姿なのは趣味らしい。
ざっくりと魔王の話を略すと、大体こんな感じだろう。所々抜けてる所があるけど……
まあ人の長話なんて細かく聞いてられないし。途中で詳しいこの世界の歴史なども言っていた。歴史?何ソレ?おいしいの?って感じだ。
「……平気かい?何か目が死んでいるけど?」
「大丈夫だ、問題ない」
「──ちょっと心配だけど、一応この世界の説明は終わりかな。次に行くよ!」
「ああ、進めてくれ」
「じゃあ、次はこの土地の成り立ちを──」
「えっ!?」
それって歴史だろ!歴史はもう終了じゃないの?土地の成り立ち?これ以上頭に入るかー無理無理。
「嘘だよ。次はステータスについて話すよ」
ふう危ない。旅にでる前に頭がパンクして死ぬかと思った。
けど、ステータスって何かゲームみたいだな。
「スマホのアプリにステータスを作ったよ。ステータスはサエの各能力を上げるのに使うんだけど、実際見た方が早いかな?じゃあ、ステータスのアイコンをタップしてみて」
言われるがまま、持っていた魔王を手に取り、ステータスをタップする。
サエ
レベル 1
HP100/MP100
体☆☆☆☆☆
力☆☆☆☆☆
守☆☆☆☆☆
速☆☆☆☆☆
魔☆☆☆☆☆
スマホ☆☆☆☆☆
残り
★★★★★★★★★★
スキル 通話機能 不老
こんな画面が出た。
魔王の解説によると、HPとMPは%が単位だから100より増える事は無い。
HPが0になっても体は平気だけど、魂が死ぬ(消滅する)。
MPは0になると死なないけれど、魔力での繋がりが切れるので、スマホが見えなる。魔王からも俺が見えなくなるそうだ。能力はそのまま使えるようだけど。
体、力、守、速、魔は自分の能力で★を最大5つまで割り振れる。
★無しは一般的、一つはちょっとすごい、2つは上級、3つは達人級、4つは英雄級、5つは伝説級らしい。極振りは大変危険!下手にやると行動不能や体が壊れてしまうとのこと。
各項目に★を増やすと様々な派生のスキルが発生し、スキルに★を割り振れば、スキルを獲得できる。
経験によっても派生が発生することがある。──シャレじゃないよ。
スマホとは封印の解除で、封印が解けるほどにサポート機能というかスマホの機能が増える。
レベルが1上がる度に★が3つもらえる。初期値では★は10個で、レベルは修行などや敵を倒すと上がる。魂がレベルアップ?だそうだ。
★を各項目にドラッグすれば割り振れて、一度割り振ると二度と変更は利かない。
──以上がステータスの使い方だそうだ。後は、追々必要に応じて説明していくらしい。
ステータスの振り分けは俺の好みでいいとのことだけど。
とりあえず、実際にやってみるか!
まずは体が資本だよな。俺は体に★をドラッグさせる。
体★☆☆☆☆
派生 視力強化☆ 聴力強化☆ 味覚強化☆ 痛覚軽減☆ 状態異常耐性☆
おぅ!結構派生が出たな、とりあえず痛いのは嫌だから痛覚軽減に振るか。
痛覚軽減★
派生 痛覚無視☆ 痛覚一定☆ 痛覚操作☆
えっ!?さらに派生が……派生多くないか?
「派生のスキルについては、我も完璧には分からないよ。我とサエの可能性が、派生されるスキルだからね」
魔王と俺の可能性ね……。
さて、残りの★はどう割り振るか?
サエ (未取得の派生は非表示)
レベル 1
HP100/MP100
体★★☆☆☆
力★★☆☆☆
守★☆☆☆☆
速★☆☆☆☆
魔★☆☆☆☆
スマホ★★☆☆☆
残り
スキル 通話機能 カメラ機能 ストレージ機能 不老 痛覚軽減
うーん。あまり強そうには見えないな。
実際、あまり強くは無いだろう。レベル1だしな。
魔を上げたら派生先に色々な魔法があった。
取りたかったけど、威力や使い方が不明なのでためらった。だって初級って……名前が不安だし。
魔王が「スマホに振るとサポートがしやすくなるよ」というのでスマホに振ったら、(俺って結構流されやすいかも……)カメラとストレージが追加された。
カメラは、そのまま写真を撮る機能。
ストレージは倉庫かな。
組み合わせも可能で撮ると生物以外はストレージに移動、保存が出来た。
ストレージは、魔王の魔力で時間凍結で保存してくれる。
出し入れは自由でほぼ無限に収納が可能とか……便利だな魔王様。
「次はサエの武器、防具を揃えようか」
そういって魔王は俺の手から離れ、パチンと音を鳴らすと(何でスマホから鳴る音が指パッチン?)壁から一斉に武器や防具が飾られた状態で出現し、部屋が武器防具の店みたいになった。
「我の趣味で各地から集めた魔法の武具だよ。好きなのを選んで」
そういわれたので、少しワクワクしながら見ていく。
「あれ?この剣、なんで刀身がないんだ?」
風の音がする不思議な刀身のない剣を指す。
「ああ、それ風を纏って見えないだけだよ。確か、風王「もういい」
カリ◯ーンか!どこから持ってきたんだよ!
「刀もあるのか、あれ刃が逆なような?」
「それは、頬に傷があった……」
「剣◯か!ということは逆◯刀かよ!本当にどっから持ってきたんだ!」
「まあ、その辺はレプリカだよ。冗談で造っただけだって」
本当に、この魔王は何者だよ。日本に詳し過ぎるだろ。
その後も色々あったが、結局、武器には大きめなナイフを、防具には黒いシャツとズボンにフードの着いたローブを選ぶ。
あと、どっから見ても運動靴な履き物と。
──装着してみたが、全部黒だったから全身が真っ黒だ。
剣?重いし、長いから持つのに邪魔なんだよね、俺は剣なんて使えないし。
同じ理由で槍、鎚、弓なんかも却下。
杖なんかは魔法も使えないのに持って行ってどうすんの?
武器は使いやすさで、防具は機能で選んだ。ナイフは『もぐら』という名前で魔王オススメの品だ。防具は着用者を一定の温度で保護する、自己洗浄機能など便利機能付きらしい。
これ以上の持ち出しはダメだった。重量オーバー?らしい。軽い物しか選んでないんだけどな?まあ、いいか。
よし、旅の準備はこれでいいかな。いざ、異世界へ!
「ちょっと待って、まだサエにやってもらいたい事があるんだ」
「だが断る!」
完全に出発のノリだったろ魔王。
空気読もう。
「いきなり拒否!まだ内容も聞いてないのに、まあ、了承しないならそれでもいいけど──」
「いいんだ!」
「でも、ここからどうやって出るのかな?我は一切手を貸さないよ?もし、出たとしても外は魔物がいっぱいいるから、襲われて死ぬよ?」
「くっ、俺を殺してここに連れてきたくせに。卑怯な!」
「まあまあ、殺したのは悪かったよ。でもまずは、我の話を聞いてよ」
「まあ、選択肢が無いし聞くけど」
「実は、ここには我の娘が居るんだけど、サエの旅に同行させてほしいんだ」
何ーー!娘、魔王は既婚者だっただと!?
てっきり──
「まあ血はつながってないんだけどね。でも、ここに一人残したままにするのは、親としては、ね」
魔王がマトモな親のようなことを言っている。まあ親だが。
「それに強いし、きっとサエの旅の役に立つはずだよ」
娘が戦闘に参加するのかよ。
でも、強いって筋骨隆々なゴリラのような感じかな〜?何ソレ?恐い!
「うーん、とりあえず会ってみないことには、何も言えないな。それに、その娘が同行拒否するかもよ?」
「それはないと思うけど……そうだね、じゃあとりあえず呼ぼうか」
そう言うと魔王はまたパチンと鳴らす。
すると、床から頑丈そうな棺がゆっくりと現れる。俺の入っていたのと似てるな。
ガタン!
突然、棺の蓋が吹き飛ぶ!
「あっ!強過ぎた……」
魔王のせいかよ!
ビックリした。
恐る恐る棺に近づいて中を見る。
どうか、ゴリラじゃありませんように。
中には仰向けに眠るメイド服の美少女がいた。
身長はこの体と同じで160くらいかな?綺麗な白い肌で可愛い系の美少女で15、6才かな。水色の長い髪だ。
死んだように眠っている。
……ていうか、全く動かないけど?これ、本当に死んでないか?
恐る恐る頬に触れる。冷たい。死んでる!?
「サエの変態、動かないのをいいことに撫でるなんて」
「違っ……!ただ息していないから、死んでいるのか心配して、確かめただけだ!」
「そんなに慌てなくても、ただ我の魔法で時間凍結してるだけだよ。とりあえずサエ、手を出して」
「ええと?」
「……」
ゆっくりと少女に手を差し出していく。
頭でいいのかな?
「サエ、我に手を出してって事だよ、分かってるよね?」
「えっ!あっ!当然分かっているよ。うんうん」
俺はスマホの画面を手のひらに当てて、尋ねる。
「そういえば、この子の名前は?」
「セアだよ、仲良くしてやってね。サエ」
「一応了解。でも、まだ話してないからどうなるか保証はできないぞ。で、いつまで手を当ててればいいんだ?」
「うん、もういいよ」
「じゃあ、その手をセアの頭に置いて」
言われたとおりに、セアの頭へスマホに当てていた手を置く。
ビリっと静電気みたいな感じが一瞬した。
そして──
閉じられていた目がゆっくり開く、青い綺麗な瞳だ。
と、いきなり弾かれたように体を起こし、泣きながら俺に抱きついてくる。
「平気ですか!魔王様!」
あったかいやら、柔らかいやらで一瞬俺の思考が止まる。
反射的に頭に置いていた手でナデナデ、この体勢に困ってスマホを見ると、愕然とした表情で固まった魔王。
「……我が親で、魔王なのに……」
魔王はショックでボソボソつぶやいている。
とりあえず問題なさそうなので、頭ナデナデを続行。俺は悪くない、そうこれは事故だ。
▲▲▲ 蛇足
サエ「もし、重量オーバーしたらどうなるんだ?」
魔王「ここを出るときに色々無くなるよ」
サエ「色々?」
魔王「そう、色々。まあ、魂とかかな」
サエ「それ無くなったらダメじゃん!」
魔王「あとは、目玉、手足──」
サエ「もういいよ!」




