14話 狼
カンガルーは速かった。
走っても速いが、ジャンプが半端じゃない!50m位をひとっ飛びだ。しかも、衝撃が少ない!確かに納得の値段だ!
目的地もこちらが言う事を理解して動いてくれる。
だが、運搬には向かないようで何かを繋いだりは出来ない。
繋いで跳ぶと、着地した時に壊れる。それに、あまり重いと動けなくなるらしい。
人数も1人が限界で、それ以上は跳べなくなる。また、高価で繁殖力が低いので多数は揃えられない。店も国も。
……以上がラズから訊いたカンガルーの事。
そして今、俺達は館にいた。
目的地の洞窟に最も近い街道へは夜に着いた。ここまでにかかった時間だが、6時間位だった。
といえば、カンガルーがいかに速いか解るだろうか?
ハッキリ言って欲しい!だが、個人ではよほどの事が無い限り所有は無理だそうだ。
おっと、カンガルーの話じゃなかった!話を戻そう。
俺達は夜に洞窟に向かうのは危険と言うことで、スマホを『隠蔽』で岩陰に隠した。
カンガルーは館2の設定を草原に変えてそこに置いてきた。どうせ、洞窟まで魔物を倒しながら行くので連れていけないし。
草原の草は「100%魔王産で体に無害。低カロリーでヘルシーだよ」と魔王が言っていたので平気だろう。多分。
ボソッと「病みつきになるかも」と魔王が付け足したが……
俺達は夕飯を食べて、風呂に入ったがやたらとラズが感動していた。あっ大浴場はちゃんと男女別に作ったよ。
混浴はリラックスできない。色々と。
寝室でまたラズが俺の部屋に入ろうとして、セアとラズの争いが勃発したが、俺の隣りの部屋を使う事で決着したようだ。
しかし、2人は今、寝間着でいるが、セアは年相応という感じだが、ラズはすごいな、普段は鎧姿だからわからないが。
そういえばラズの歳って聞いてないな。確実に年下だろうけどな。まあ女性に聴けないよな。
あっそうだった!
俺は寝る前にラズに鍵を3つ渡す。
「えっ?何で?」
「俺達は仲間だろ、婚約者様」
軽い感じで言う。
自分から言ったんだろう!
ポロリ……
え?何で?何で泣くの?
ラズの目から涙がとめどなく溢れていた。
「ザ……ザエェェェェ!」
ラズが涙声で俺の名前を呼び、泣いたまま俺に抱きついて来た。
よしよし、こうしていると完全に子供だな。
普段は凛として、大人びてるのに。
結局、泣き止むまで頭を撫でてあげた。セアも見ていたが、何も言わなかった。
「……サエ……あの……」
「うん」
何か言いたげだが、俺はラズの頭を撫でて、返事をする。
別に無理に聞きたい事じゃない。
「無理しないでいいよ」
「私、サエに言ってない……言わない事あるよ?でも仲間?」
「うん、仲間だよ」
付き合いはまだ短いが、ラズの事は嫌いではない。トラブルばかり起こすが……
だいたい仲間じゃないのに、鍵は渡さない。
「婚約者?」
「それは……」
「フフっ」
答えに詰まっていると、ラズが可愛いく笑った。
危ない、ちょっとドキッとした。
「今はいいわ、ありがとう。サエ、セア」
「どういたしまして」
「でも、婚約者は認めませんよ」
俺とセアがラズに応える。
セア……でも、仲間としては認めてると……
「……サエ、まだ……でもきっと……きっといつか話すから」
ラズの目は決意に満ちていた。最後に渡された鍵を愛しそうに撫でてからしまった。
「おやすみサエ」
「ああおやすみ」
そのまま部屋に帰って行った。
「では、私もサエ様おやすみなさい」
「おやすみセア」
2人共、部屋に行く。
俺も部屋に戻り1人呟く。
「どう思う?」
「どうとは?」
当然のように魔王から念話が来る。
「ラズの様子」
「会ったばかりでは何ともね。【魔王】に何かありそうだけどね」
「そうか、やっぱり判らないな」
俺は旅したいだけだが、何か巻き込まれている感じがする。
「面倒なフラグが立ってる気がする」
「良かったじゃないか、【最高】だろう?」
まあ、面白そうだな……答えないけど。
「おやすみ婚約者様」
……魔王
いいや、もう寝よう、明日は戦いだろうし。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲
翌日、昨日の事など何もなかったように明るいラズがいた。
俺も気にしない、ただ昨日よりもラズは明るい気がする。
気にしてんじゃん!
まあいいや、朝食は暖かいスープとサラダだった。
朝食をみんなで食べてその後、スマホの外へ。
戦闘はラズとセアが剣で戦い、俺が中〜遠距離担当。
ラズは剣が得意で神聖魔法と回復魔法が少し使えるらしい。剣の腕前はセアと同じかそれ以上、片手剣同士ならラズが勝つな!
セアは氷と炎の剣を両手持ちが基本で、投擲したり、剣の形を変えて攻撃したりで自由に戦う。
俺?俺は風刃を5〜6個常時展開でコツコツ仕留める。風塵やもぐらは周りを巻き込むから、今回はダメってセアが……
クスン……見せ場が無い。
そうして、昼前に洞窟に辿り着く。
「さすがに、魔物の量がおかしいわね」
ラズが周りを伺いながら言う。そうか?森と同じくらいじゃないかな?
「サエ、森に守護獣はいないよ。守護獣がいて森と同じはおかしいよ」
魔王が説明してくれる。
「サエ様洞窟の中が変です。何か黒い……?サエ様!!魔法を使わないで!」
セアが叫び自身の剣を消した。
俺も風刃を消す。
洞窟の中から白いものが俺に飛びかかってくる。咄嗟に腕を振るい、白いものを払う。
「人間!お前は微かにあいつの匂いする。そこのおまえはもっと匂いする。仲間の仇!」
狼?じゃあ守護獣か!それにしては小さい気が……狙いはラズか!俺は狼に横から飛びかかる。よし、うまく狼を巻き込んだ。
ぐるぐると俺と狼が転がった。今だ、俺はバイブ機能で狼の脳を揺らした。
「な……に……うご………けな」
異世界でも脳震盪はあるらしい。
狼が倒れ、セアが手足を縄で縛る。
今、どっから縄が?
しばらくすると狼が暴れだした。
「殺す殺す仇殺す」
うん、無理だな会話不能だ。
先に洞窟を見てみるか。何か狼の言葉からするとあまり見たくないな。
洞窟というか洞穴だな。
「これは……」
「ひどいね」
セアとラズが呟く。予想通りに酷い光景だ。
中はあまり広くはなく、少し暗いが、入ると外から光が届いた。
そこには、全身が黒い狼達が10匹ほどいた。全ての狼がグッタリと倒れて息をしていない、明らかに生きてない。
俺は外に出て狼に近寄って言う。
「何があった?」
「殺す仇殺す」
「五月蝿い!お前の気持ちは訊いてない!殺すぞ!さっさと答えろ!」
俺が殺気を込めて狼に命令する。
「サエ?」
「サエ様?」
セアもラズも俺の態度に戸惑っているようだが、今はどうでもいい。
狼が渋りながら話す。
「……10日前にボクが狩りから帰ると、洞窟から白い光が見えて、急いで帰ると人間が洞窟から出て来て、ボクが洞窟に入ると、皆黒い模様を着けて起きないんだ!」
その人間が洞窟に何かしたな!
「それで、いままで皆を魔物から守って、でも黒いのが止まらなくって!今日になって息が……」
「そうか、辛かったな」
仲間がだんだん黒くなっていき、一匹では仲間を魔物から守るだけでも辛いだろう。
それを、仲間が弱るのを、見ているしか出来ない、どれだけ辛かっただろう!
俺は狼を撫でながら訊く。
「仇を取りたいか?」
「当然だ!」
「無理だな!お前は弱いし」
「無理じゃない!ボクは戦士だ!」
「じゃあお前は仲間で1番強いか?」
「それは……」
「お前の仲間は、皆やられたぞ!恐らくは1番強いのもな」
「う……うう……」
「だから、見届けろ!仲間の為に!自分の為に!俺が仇を討ってやる!」
「お前が……」
「ああ!俺は【魔王】だからな!」
「魔王?」
「そうだ!だからついてこい!強くしてやる!魔王を信じろ!」
「……分かった!ボク行くよ!」
その後、狼の許可を取り、洞窟にセアが近くの枝を拾い、それに火をつけたのを何本か投げ入れ燃やした。
魔法は感染するかもしれないので、セアの提案で洞窟を燃やし弔う。
「セア、ラズごめん、怒りで変なこと言った」
頭が真っ白になって考えられなかった。
「いいえ、ちょっと恐かったけど、かっこよかったですよ」
「かっこよかったよ【魔王】様」
グアアアーーー
恥ずかしい。怒りで変なテンションになったんだよ!
とりあえず街道に行くか。
狼はヤムと言う名前らしい。人間でいう14歳で、15歳になると人化が可能になる。
人化できる狼が街まで行っていたようだ。
戦闘は魔物が一匹なら勝てるが二匹以上は無理な感じだ。速さを生かして常に1対1になれるようにアドバイスする。
武器は牙や爪で魔法は守護魔法を成長すると覚えるらしい。
俺はヤムを一匹にしたくなかった。
どうやってもあの場に残す、という選択はしなかっただろう。
街道に出たのが夕方だったので、今日は休む。館に入り、夕飯を皆で食べる。
ヤムが居たからか、肉料理ばかりだった。
その後、お風呂に入り、ヤムの体に傷が多いことに気づき、回復魔法を使う。その後毛皮を洗う。洗われるのを嫌がっていたが、無理やり洗っていたら諦めて大人しくなった。
風呂から上がってヤムと部屋に向かうと皆が部屋の前にいた。と、ヤムは俺の向かいの部屋だ。ヤム用の出入り口も作った。
皆におやすみと言って、部屋の中へ。
レベルが2上がったので、スキルに割り振った。
ヤムの仲間を殺した奴は許さない!
サエ レベル 16
newスキル
力系 投擲武器 マスター ★★★使用
投擲武器の威力や精度が上がる。
体系 忍び足 ★使用
足音がしない、歩行速度が微上昇。
体系 瞬間跳躍 ★使用
一瞬だけ跳躍力が上がる。
スマホ系 スクロール機能 ★使用
一瞬で移動出来る。ただし、自分の直線上で視界内、地面が続いているのが条件。
▲▲▲ 蛇足
サエ「この朝食のサラダに見覚えが……」
セア「はい?魔王草ですが?」
サエ「これ、カンガルーの……」
魔王「ヘルシーだよ」




