13話 駆け飛び
──────昼食は味がよく分からなかった。
多分、ハンバーグでとても美味しく出来ているのだろう。
決してセアが誰かを挽き肉にして、ハンバーグにしたという訳ではない!
セアは普通の材料を使い、料理しただけだ。
食事中、セアの冷たい視線にラズのニコニコと意味ありげな視線、静かだが争っているように感じる。
で、俺が中心にいる。正直、どうしろと?
昼食と片付けが終わり、話に戻る。今度はセアも同席する。
「この後、俺達は街を出て北の洞窟に行くんだけど……」
「そう、なら私も行きます」
え?付いて来る気?ちょっと予想外だ、てっきり街に誰かがいて、そこに行くかと思った。あの神官の所とか。
「私達が受けた依頼です!貴女には関係ないです!」
セアが拒否が拒否する。
まあそうだな、危険かもしれないし。
「私は魔王様の婚約者ですし。それに、貴女よりは強くて役に立ちますよ」
イヤーーーー!爆弾を落とさないで、2人の目がバチバチしてる!!
─────────色々あった。それはもう、食堂がめちゃくちゃになる程、色々あった。まあ、すぐに直せるけど。
「サエは参加しないの?」
ふざけるな魔王!お昼に食べた料理の材料になっちゃうだろ!
ようやく落ち着いたのか、2人共疲労して肩で息をしている。
「はあ……はあ……けっこう……やりますね」
「ふう……ふう……お互いね」
とりあえず2人を回復する。
「分かりました、付いて来るのは許可します。でも、婚約者は認めません!」
「まあ、今はそれでいいわ」
アレ?俺に決定権は……無いですね。分かります。
ラズが仲間に加わった。
「今更だけどコレが魔王様」
俺は梟をラズに見せる。
「どうも、我が魔王だよ。普段は魔法具の中にいるよ!」
「え?魔王って?私はサエしか……」
混乱してるようだ。まあ、話を進めよう。
「とりあえず北門は閉まってたから、東か西から街を出て、北に向かおう」
「なら、西がいいわよ。東は1区画に協力的だし、西には面白いものもあるしね」
面白いもの?
ラズがそう提案する。
「では、西門から出ましょう」
セアがそう言って、部屋を出ようとする。
即決ですね、セアさん。
「ちょっと待って、1区画からは出られるの?街に門は無いけど、区画の境目には騎士とか居るわよ?」
「多分、魔法でどうにかなる。ならなかったらその時に考える」
幻惑魔法で出来ると思う。勘だけど。
「まあ、サエがそう言うならやってみましょうか」
俺達は館を出た。
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計画では、まず1区画を出て、6区画へ行く。
5、6区画の間にある西門を通り、北へ行く予定だ。
幻惑魔法の『偽装』を使い、3人の姿を変える。3人には変わって見えないが、変わっている。はずだ!
1区画から6区画へ行く境で見張っていた、冒険者に呼び止められる。
「オイ!お前ら見ない顔だな。どっから来た?ガキ」
バレたかと思い焦ったけど、何て返そう?
周囲に人がいるから、気絶させられないんだよな。面倒だな。
「おっ!お前ら懐かしいな!コイツ等は俺の知り合いで会いに来たんだ。ところで、何かあったのか?」
カゴ男!今、俺達は姿が変わってるけど?
「おう、森狩りのか!いや、今、黒いガキとピンクの髪の女を捜しててな」
うん、間違いなく俺達だな!
「それで?」
「その女が雇い主の婚約者で、男が攫ったらしい」
「なっそれモガモガ……」
ラズの口を手で塞ぐ。
キザ男の婚約者って……
「それは大変だな。金払えば手伝ってもやってもいいぜ」
!?
カゴ男!?
「ははっ俺の分が減っちまう」
「そうか、じゃあ俺はコイツ等連れてくぜ?」
さっきのは冗談だよな。きっと。
「ああ、またな」
そのまま6区画をしばらく歩き、建物の陰に隠れて、魔法を解除する。
「よく、俺達って分かったな?」
疑問に思い、尋ねると顎でセアを指す。ああ、なるほど。
セアから黒いオーラが少し漏れていた。ガキでかな?
「助かった、ありがとう。それと、やって欲しい事がある」
「サエさんの為ですからなるべくやりますが、やって欲しい事は内容に寄りますよ」
「やらないんですか?」
セアさん、脅さないで!
とりあえず、カゴ男に内容を話す。
「金貨50枚渡すから、好きに人を集めてもいいよ。成功したらもう50枚渡すよ」
「サエさん、それは俺等を侮り過ぎですぜ。金貨25枚で集めますよ。成功したらもう25枚で十分でさあ」
え?減らすの?
「サエさん……俺等森狩りは仕事に誇りがあります。適正な値段で適正な仕事をしやす。貰い過ぎは後々あまり良くないので」
フェアリー捕まえようとしてなかった?まあいいか。
「じゃあそれで頼む!街を出るが2〜3日で輪御亭に帰ると思うから来てくれ」
「分かりやした、では、これで」
カゴ男は俺から金貨を受け取ると去った。
よし、西門に行くか。
西門に着く前に少し寄る所があるとラズが言ったので、ラズの案内でとある店に寄った。
ラズが「絶対こっちのが速いわよ」と言っていたので、期待したのだが店は貸し馬屋だった。
正直、馬より走った方が速い気がする。
「ここに駆け飛びは3匹居るかしら?」
駆け飛び?馬の名前?ラズは馬の世話してる人に尋ねる。
「ちょうど3匹居ますよ。1匹1日金貨5枚で貸しますが?」
高いな!普通の馬は金貨使わない値段で書いてあるのに!
「いいわ、3匹出して」
ラズは金貨15枚を出し、契約書を書いた。俺が払おうとすると、「私が言って寄って貰ったんだし、迷惑もかけたしね」と言って、ラズが止めた。
「今、駆け飛びを連れてくる」
そう言って店員は奥に消えた。
「駆け飛びって何?」
「とても大きくて速い獣で草が好きね。見たら驚くと思うわ」
象かな?想像出来ん。セアも知らないみたいだ。
「ただいま連れて来ました」
店員が戻って来た。この生き物は元の世界で見たことは無いけど、知っていた。
「あれは……」
「カンガルー!」
サイズは違うがカンガルーだ!3mはあるな!ラズと店員は俺の言葉が分からかったみたいで、首を傾げている。
魔王が念話で何か言いかけたな、なんだ?
「もういいよ」
魔王が拗ねた?
「コイツを街では跳ばさないようにしてくださいね。あと、餌は草です。頭が良いので自分で食うでしょうが」
店員が注意点を教えてくれる。
「戦闘はしませんので、魔物に気をつけてください。まあ、追いつく魔物はいないでしょうが」
嘘だ!そこら辺りの魔物より、強そうだ!
グローブ着けたら、◯拳のより強そう!
「分かりました。では、サエ行きましょう」
え?どうやって乗るの?と思ったら、カンガルーがお腹のポケットに運んでくれる。頭良いな。
「ちょっと、え?待って!」
セアがカンガルーに運ばれ焦っていた。スカートだから?
ポケットにはスッポリ入り、頭だけ外に出る。中では揺れをあまり感じない。
西門までカンガルーは歩きで行った。目線が高い。街の人は慣れてるのか、避けてくれる。
西門で騎士に通行証を見せ3人はすぐに通れた。
さあ、いざ北へ!
『偽装』=眩惑魔法。
他人の目からの認識をごまかし別人に 見える。
怪しまれる程に効果が落ちる。
▲▲▲ 蛇足
サエ「カンガルーに乗るとは思わなかったよ」
ラズ「喜んで貰えて良かったわ」
魔王「ところで、セアは乗る時に声を出してどうしたの?」
セア「ポケットに赤ちゃんが……今も……」
皆「「「え?」」」




