須藤茜の占い
「では再生します」
下村さんはビデオの再生ボタンを押して席に着く。みんなが息を飲んで画面を見る。暫くは誰も喋らなかった。そして会長が呟いた。
「真っ暗ね」
「寝る時、電気は全部消す派なんですね」
下村さんも呟く。それは誰か予想しておこうよ。
真っ暗な画面からは寝息と時々衣擦れの音が聞こえてくる。これはこれで、ちょっとドキドキするかも。榊は会長の寝姿を想像する。
「待って。何か聞こえない?」
会長の言葉でみんなテレビへと耳を傾ける。
誰かが喋っているようだ。くぐもった声でハッキリ聞き取れないが、女性らしからぬ声だ。
「ちょっと待って」
会長はテレビのボリュームを上げる。それでも何を言っているかまでは分からなかった。
「このビデオ、少し借りても良いかしら。私は実際に聞いたの。これ相沢さんの声だわ。何度か聞けば何を言っていたか分かると思うの」
会長は下村さんに向き直る。みんなも下村さんを見た。当の本人はあくびをしていた。
「別に良いですよ。僕もオカ研の人間ですから。協力します」
「ありがとう。私、絶対に解明して見せるから待ってて」
「会長、期待してます」
「楽しみにしているよ」
小田切さんを始め、みんな会長に期待の眼差しを向けた。だが榊はまだ信じきれなかった。ただの寝言じゃないのか。しかしビデオから聞こえたのはいつもの相沢さんの声とはかけ離れ過ぎている。本当に何があったのか。榊は不安を隠せなかった。
暫くしてオカルト研究会の集まりが有ると聞いて榊は部室に向かった。まだ時間が早かったせいか須藤さんしか来ていなかった。
「お疲れさまです」
「お疲れ」
榊は席に着く。沈黙。更に沈黙。
榊はチラリと盗み見る。須藤さんは黙々とタロットカードをシャッフルしている。須藤さんはあまり感情を表に出さないし、榊とまともに話した事はまだ一度も無かった。
ここは後輩から話しかけるべきだろうか。榊は口を開きかけて閉じる。また開こうとするが言葉は出てこない。くそーっ、みんなどうやって女性に話しかけているんだ。榊は一度深呼吸をする。
「あの、占い得意なんですよね」
須藤さんは手を止め榊を真っ直ぐ見詰める。榊は全身から汗が噴き出すのを感じた。
「えっと、食堂で行列が出来てるの見ました。自分も今度占って貰えますか?」
「何を?」
「へ?」
「だから何について占って欲しいの?」
榊はただ話題作りのために言ってみただけだったので、そこまで考えてなかった。悩む榊を横目に須藤さんはため息をつく。
「それじゃあ、会長との事でも占う?」
「えっ? な、何でですか?」
「あなたも会長目当てでしょ? オカ研に入る人はほとんどそうだもの」
「そ、そうなんですか」
確かに会長目当てで入りました。
「知ってる? うちには二十人以上の会員が居るのよ。もちろん活動には参加してないけど会長と近付きたくて籍を置いている人が一杯いるわ」
榊は何も言えなかった。自分もそんな人達と変わらない。それに須藤さんはそんな人達を軽蔑しているようだ。須藤さんはタロットカードを無言で並べ始めた。榊は須藤さんへ話しかけた事を後悔した。須藤さん達はみんな真剣にオカルトと向き合っている。榊は自分が恥ずかしくなった。
「駄目ね」
須藤さんは呟いた。榊はドキリとして須藤さんを見た。
「あなたを占うべきか占ったけど今じゃないわ。あなたが本当に占って欲しいと思う時に、また言ってちょうだい」
「えっ、良いんですか?」
「良いわよ。あなたも一応オカ研の一員なんだから。遠慮する事無いわ」
その時扉が開いた。
「良かった。これで全員ね」
会長を先頭に、オカ研メンバーが入ってきた。