お泊り会
「それじゃあ、そろそろみんな寝ましょう」
そう言って会長は立ち上がった。ほんのり赤くなった顔が色っぽい。小田切さんは全然変わらないが須藤さんは元々色白のため顔が赤いのが一目で分かる。……しかし須藤さんは何故、ずっと会長と手を繋いでいるのだろうか。
榊と相沢さんは未成年のためジュースを飲んでいた。下村さんも同じ理由でお酒は飲んでいないのだろうか。
「それじゃあ男性陣はそっちの客間、女性陣はこっちの寝室ね」
あっ、別なんですね……。解っていたけど、ちょっとガッカリ。
「それじゃあ榊君、布団敷くの手伝ってくれるかい?」
小田切さんが立ち上がりながら言った。
「はい、分かりました」
榊は小田切さんについていく。
「それじゃあ私は相沢さんに手伝って貰おうかな」
「はい、了解です」
おいでおいでする会長に相沢さんは敬礼で答え、寝室へと向かう。勿論須藤さんも手を繋いだまま一緒に行く。榊は出来れば自分もそっちを手伝いたいと思い、つい二人を目で追ってしまう。
「榊君はこっちだよ」
小田切さんは相変わらず笑っている。
リビングへ入った時もその広さに驚いたが客間も広かった。実家住まいの榊の部屋より広い。小田切さんは慣れた手付きで押し入れを開けて布団を出す。
「榊君は寝室の方が気になるのかな」
榊はドキッとした。
「いえ、そんな事は…」あります。
「冗談だよ。さあこの隣に布団敷いてくれないか」
「はい、分かりました」
榊も押し入れから布団を引っ張り出す。布団からは良い匂いがしてきた。
とても女性らしく、優しい香りで榊の心は踊った。なんて良い匂いなんだ。これが大人の女性の香りなのか。この香りをなんと表現したら良いのか……。そう悩んでいた榊の目に、その答えが飛び込んできた。
白桃の香り(押入れ用)
そう。この香りを表現したければ白桃の香り(押入れ用)の香りだと言えば良いのだ。
そう言えば母さんがこの前、トイレ用に桃の芳香剤を買ってたな。そんな事を考えていると榊のテンションはドンドン下がっていった。
榊と小田切さんがリビングへ戻ると、下村さんが何処からかビデオカメラと三脚を取り出して準備していた。寝室からは女性達のはしゃいでいる声が聞こえてくる。
「三脚も有るとは準備が良いね。いつも持ち歩いているのかい?」
小田切さんは腰を下ろしながら尋ねる。
「勿論です。いつ何が起こるか分からないからね」
三脚が必要な事態なんてあるか。そうツッコミたいのを榊はグッと我慢した。なんといっても正に今日がその事態なのだから。
女性陣が寝室から出て来るのを見て榊はドキリとした。三人ともパジャマに着替えていたのだ。
会長は勿論だが相沢さんも可愛らしく、ぜひ大きなぬいぐるみを抱いて欲しい。絶対に似合う筈だ。
しかしそれ以上に驚いたのは須藤さんだ。
三人とも恐らく会長のパジャマなのだろう。須藤さんは他の二人よりも一回り小柄で、腕を捲ってもなお大きいようだ。その姿が榊の男心をくすぐる。意外なダークホース発見。
「あっ、三脚も有るんだ。それじゃあ着替えも終わったし、ビデオを設置しましょ」
会長の笑顔がより一層輝いて見える。みんなで会長の寝室へ移動を始めたので榊もついていった。
下村さんは三脚を設置するとビデオの使い方を会長に説明し始めた。みんな入り口付近に集まっていたので榊は寝室の中までは入れなかったが、十分部屋の中を見渡すことが出来た。
これが会長の寝室か。物は多くも無く少なくも無い。綺麗に整頓されている。戸棚の上には大きな熊のぬいぐるみもある。後で妄想に使わせて貰おう。
会長のベッドの隣に一つ布団が敷いてあった。ベッドに二人、布団に一人寝るのだろうか。榊は会長と相沢さんがぬいぐるみを間に挟んで抱き合って眠るところを想像する。いや、会長と須藤さんも凄く仲が良さそうだしそっちか。榊はどんどん妄想を膨らませていった。