相沢みちるのオカルト
「やあ、隣良いかい?」
小田切さんは缶ビール片手に榊の隣へ腰を下ろした。
「はい! どうぞ!」
榊は正座をしてかしこまった。そんな榊を見て小田切さんは笑った。
「ゴメンゴメン。ただ榊君の事をもっと知りたくてね。君は霊を感じた事があるのかい?」
「いえいえ、そんな立派なものじゃないんです! ただそう言う場所に肝試しに行くと何か寒気がするなぁ~って位なんで、もう全然普通だと思います!」
榊は自分でも何を必死に否定しているのかと思う。絶対変な奴だと思われた。
「そうなんだ。それでもオカルトには興味あるんだろう?」
「興味と言うか面白そうだなぁって言うか、良くわからないです。……なんかスイマセン」
「そんな謝らなくて良いよ。真剣に考えないで。面白そうだって思ってくれているんなら嬉しいよ。中には会長目当てで入ってくる人も居るからね。だから新人歓迎会もこの時期なのさ」
榊はひきつった笑いを浮かべるのが精一杯だった。やっぱり会長目当ての人も居ますよね。
「でも分からないって事はオカルトにおいては重要なファクターだからね。だから榊君には十分オカルトの素質が有ると思うよ」
「僕にオカルトの素質ですか」
ふと榊は頭の中で雪男になった自分を思い浮かべた。いや、そう言う意味じゃないよな。
「何々? 榊君はオカルトなの?」
相沢さんが隣から入ってきた。
「オカルトなのって何? 人の頭の中見ないでよ。……何かオカルトって言うか、良く分からないなって話で」
「分からないってだけですぐオカルトだ、と言うのはどうだろうかと思うね」
今度は下村さんが入ってきた。どんどん話がわからない方向へ進むんですけど?
「そんな風に何でもかんでもオカルトと言うからオカルトの品位が……」
「私もオカルトな所あるんだよ」
話を無視されてムッとする下村さんをよそに、相沢さんは話を続ける。
「私がこの大学に入ったばかりの話なんだけどね」
相沢さんは急に真面目な顔で話始めた。その話し方についつい榊達は引き込まれ額を寄せあう。
「お母さんが入学式の後、家に暫く泊まっていたの。そしていよいよ実家に帰るって時にお母さんが『あんたに言おうか迷っていた事がある』って言うの。
どうせまた私のお菓子食べちゃったとか言うんだろうなって思ったけど、何かいつもと違って真剣な顔してるの。
私が『改まって何?』って聞くと『母さんが夜中にふと目を覚ましたら、あんた立ってたのよ。むしろちょっと浮いてるんじゃないかって感じだったわ。
しかも今まで聞いた事も無い声で何か言ってたの。それであんた、言い終えたらそのまま寝ちゃったのよ。お母さんの方が寝ぼけてたのかと思って、黙ってたのよね』って言うの」
相沢さんは榊達を見回すと急に笑いだした。
「その後、お母さんったら『あんた、彼氏を家に泊める時は自分の体を縛っときなさいよ』って言うのよ。私おかしくって」
会長達もその話を聞いて笑っていた。榊も笑っていたが相沢さんの縛られた姿を想像するとドキドキする。
「でもそれって本当に面白いわ。ねぇ、みんなで今日は家に泊まりなさいよ。ね?」
会長は名案だとばかりに手を叩いた。榊と相沢さんはお互いに顔を見合わせる。榊としては勿論嬉しいが、さすがに初めてお邪魔したばかりなので気が引ける。相沢さんの表情からも榊と同じ考えのようだ。だが他の人達は全く動じてなかった。
「大丈夫。着替えは私のがあるから安心して」
「会長の悪い癖がまた出たかな。折角だしみんなで泊まろうよ」
小田切さんも笑いながら言う。
「私もそうなるんだろうと思ってましたから、問題無いです」
「丁度ビデオを持ってきてますから録画してみましょう」
須藤さんも下村さんも乗り気だ。
「えぇ~ビテオに撮るんですか?ちょっと恥ずかしいな」
意外に相沢さんも乗り気になったみたいだ。順応するの早くない?
「榊君はどうする?」
会長は榊を期待のこもった目で見詰める。
勿論榊は泊まりたかった。それは小躍りしたい位嬉しい。だが女性の家へ泊まった事の無かった榊は言葉が出てこなかった。落ち着け俺、みんなで泊るだけなんだからな。
「特に用事が無ければ良いじゃないか。明日は大学も休みなんだから」
小田切さんはニヤニヤしながら榊の肩を叩く。
「あっはい。大丈夫です」
やっとそれだけ言えた。それからもみんなワイワイと話していたが全く榊は話に入れなかった。会長の家へ泊まる。会長と一つ屋根の下で眠る。頭の中はそればかりだった。