新人歓迎会
そして今日はオカルト研究会の新人歓迎会。そんな日に限って髪型が決まらない。もう三十分は鏡の前で戦っている。高校時代には寝癖もそのままな榊にとって、これは最高記録だ。
駄目だ。榊の知識ではこれ以上どうしたら良いか分からない。でも何か気に入らない。大事な時に髪型一つ決められないとは、今まで僕は何をしていたんだ。えぇ、何もしてませんでしたとも!
何てったって女っ気、全くありませんでしたから。腕時計は一時限目が遅刻確定だと報せている。
榊は自分の髪をクシャクシャにする。もう諦めよう。大事なのは中身で髪型じゃないんだ。榊は洗面所を出ようとする。……でも、もうちょっとだけ。
一日の授業が終わると榊はトイレに駆け込む。別にもよおしていたわけじゃない。これが最後のチャンスだと榊は一生懸命髪をとかしてみる。ダメだ、鏡に映る男は泣きそうな顔をしている。我ながら情けない。
歓迎会は会長の家で開かれる。榊達は一度部室に集まってから向かう事になっていた。授業には遅刻出来ても、集合時間に遅れるのはマズい。榊はトボトボと部室へ向かった。
会長の家は学校から一駅、歩いても十五分位。七階建てマンションの最上階。独り暮らしにしては広いが特に誰かと住んで居る様子は無い。榊達が到着した時には既に会長の手料理がテーブルに所狭しと並んでいた。
榊達は乾杯を済ませると、会長の手料理に舌鼓を打った。お世辞抜きに美味しい。そして順調に新人歓迎会は進んでいく。
「それじゃあ今更なんだけど、自己紹介をしましょう」
会長は缶ビールを片手に立ち上がった。
「私は四年生でオカルト研究会会長の園田美緒です。実家がお寺で小さい頃からお化けやUFO、ネッシーとかが好きでした。これからもヨロシクね」
会長は榊達に笑顔を向ける。榊はそれだけで来て良かったと思えた。
「改まって言うとやっぱり恥ずかしい。では次、副会長お願い」
会長は隣に座っていた副会長の肩にタッチする。副会長は咳払いしながら立ち上がる。
「僕もちょっと恥ずかしいな。三年の小田切達也です。妖怪や言い伝え、怪談話など歴史のあるオカルトが好きです。二人共よろしくね」
小田切さんも最後に笑顔を見せた。その笑顔は本当に光ったよう見え、榊は目を細めた。何だこの二人の笑顔は……これが大人って事なのか。
「それじゃあ須藤さんどうぞ」
会長を挟んだ反対側、小田切さんの向かいに座る女性へと手を向ける。
「三年の須藤茜です。魔術や占いが専門です」
須藤さんはペコリと頭を下げた。須藤さんの自己紹介はそれだけだった。笑顔もなし。
「それじゃあ次は僕だね。二年の下村琢磨です。 僕はUFOや宇宙人、UMAやオーパーツ等、現代の科学でも解明出来ていない物を主に研究しています。単なるオカルト好きとは違って科学的な見地から解明しようと思うので他のみんなと比べて異色に感じるかもしれないけれど未知に対する好奇心は一緒だと思うので二人ともヨロシク!」
下村さんは榊と相沢さんの反応を伺っている。確かに異色感がたっぷり、ちょっと難しくて何言ってるかも良く分からない。総じて……良く分からない。榊は下村に対してどう反応すべきか悩み、苦笑いを浮かべた。相沢さんも同じ表情だ。
下村さんは榊達の反応を見て満足したらしく座り直した。苦笑いで正解、で良いのかな?
「それじゃあ次は私が。一年生の相沢みちるです。私は凄い怖がりなのに、怖い話が大好きなんです! あまり詳しくないんですが、ジャンル的に言うと都市伝説とかになるんだと思います。ヨロシクお願いします」
相沢さんはちょっと照れているようで顔が赤くなった。素直に可愛いと榊は思った。とうとう榊の番になり、手がじっとりと汗ばんで来る。榊は意を決して立ち上がった。
「同じく一年生の榊直幸です。特にこれと言ったものは無いんですが、時々寒気を感じたり視線を感じたりする事があるのでそういう心霊的なものってあるのかなって思っています。……僕も全然詳しくないですけどヨロシクお願いしたいと思います」
榊は頭を下げてからチラリと会長の顔を見た。
「二人ともヨロシクね」
会長に優しく微笑まれて、榊は天にも昇りそうな気分だった。