いざ、温泉へ
キャンプが終わった数日後、オカ研の部室にみんな集まった。
「それでは第一回、相沢さんミステリー合宿の反省会を行います」
あの合宿、そんな名前だったんだ。
「会長、先ず良いかな?」
小田切さんが控えめに手を挙げた。もちろんと会長は応じる。
「実は僕なりに調べてみたところ湯川山が昔、百夜山と呼ばれていたみたいなんだ。
そこには昔、二人の神様がいて山と川をそれぞれ治めていた。だけど山の神様が悪い鬼にそそのかされて、山から追い出されてしまった。
それから鬼のせいで川には生き物は居なくなり、川の神様はショックで山の神を探し求める。
だけど神様の仕事をおろそかにしてしまった川の神様は神の称号を奪われ、河童になってしまったと言う伝承があったんだ」
「待って、その湯川山ってまさか」
「そう。有名な湯川温泉さ」
「それじゃあ……キャンプ場は関係なかったのね!」
会長は驚きを隠せないようだった。ちなみに相沢さんも驚きのあまり口に手を当ててフリーズしてる。
僕は薄々気付いてましたよ。……だって老人の霊が出るキャンプ場だからね! 榊はため息をついた。あの騒動は一体なんだったのか。
「ゴメンなさい。少し調査不足だったみたいね。でもどうかしら? まだ休みは残ってるし、今度はそこに泊まりに行ってみない?」
榊は迷った。金銭的な理由もあるが、今までオカ研の活動に参加していたのは会長目当てもあり、オカルトを信じていなかったから。別に何も起こるわけないと思っていたからこそ。
実際にキャンプ場で怖い思いをしてみると、本当に参加して良いのだろうかと思ってしまう。また何か恐ろしいことが起きるのではないか。
「私は行ってみたいです」
「僕も折角調べたんだし、興味あるな」
「空振りに終わるのは初めてでは無いですからね。何事も追い続ける事が必要だと思います」
「私も特に予定は無いので、大丈夫です」
みんな乗り気みたいだ。会長はチラリと榊を見る。
「榊君はどう? もちろん体調とかもあるから無理にとは言わないけど。出来ればみんなで行きたいと思うの」
会長は身を乗り出し、榊に微笑む。
「僕は……その……全然気にしないで下さい! もちろん行きますよ」
やはり断れるわけがない。もう、どうにでもなれ。
湯川温泉に着くと直ぐに温泉の臭いが鼻についた。
温泉街の真ん中を流れる川に硫黄が含まれているせいらしい。小田切さんは硫黄のせいで川に魚が居ないのかもと言っていた。この硫黄の匂い、少し気分が悪くなる位に……臭い!
昔話の通りと言えばそうだけど、榊にとっては神様だ何だと言うのはやはり信じられない。あの体験の後でもそれは変わらない。
「体調はどう? キャンプ場みたいに何か感じるものはあるかい?」
小田切さんが荷物を降ろしながら尋ねた。
「やめて下さい。そんな霊感があるわけじゃないんですって」
「そうかい? でもキャンプ場では実際に何かあったんだろう?」
「いや~、気のせいだったんじゃないかなって思います。大騒ぎしてすいません」
「確かにビデオには何も映って無かったけど、だからって何も起こらなかったとは言えないよ。それに相沢さんの様子もおかしかっただろ?」
「確かにそうですね。後で相沢さんに聞いたんですが、昔から健康には自信が有るって、あんな事は今まで無かったって言ってました」
「UFOが来なくても下村さんを責めたりしないし、占いが外れたって須藤さんを責めるような事はしない。榊君に霊感が無くたって勿論責めないさ。
だけど感じる事、感じた事はみんなで共有しよう。勘違いだって何でも良い。それが僕達オカルト研究会だよ」
「分かりました。何かあれば言います」
「だからもし今回、何もなくても僕を責めないでね」
「勿論です」
二人は笑いながら荷物を運んだ。榊達は荷物を置くと女性陣の部屋へ集まった。
「今回も基本的に自由行動になります。ご飯はレンストランになるから一度集合してから行きたいんだけど……」
そこで会長は言葉を切り、みんなを見回す。
「まずは温泉行きたい人!」
会長が手を挙げると相沢さんと須藤さんも手を挙げた。こう言う時の女性の団結力は凄い。
「僕はその辺歩いて来て、温泉は夜にするよ」
小田切さんは笑った。
「それじゃあ自分も一緒に行っても良いですか?」
小田切さんは快く榊の申し出を承諾した。