キャンプの醍醐味
夜になるとキャンプの一大イベント、バーベキューが始まった。小田切さんは手際良く炭をおこしていく。会長が食材を切り、須藤さん、相沢さんがどんどん運んでくる。
榊は下村さんと一緒にそれを眺めていた。不本意ながら下村さんのオカルト持論を聞かされているのは、別に榊が望んだわけではない。何もしないのは申し訳なく、榊は手伝いを申し出たが、みんなに手は足りていると断られてしまったのだ。
ワイワイ盛り上がりながらバーベキューは進む。その中で上ってくる話題もやっぱりオカルト関係。
初めて金縛りにあった時の話とか、
……オ肉美味シイナー
子供の時に好きだった怪奇番組とか、
……野菜モ良イヨネー、ビタミン豊富ダシ
そんな中、榊が思う事は一つ。
……バーベキューッテ美味シイナァ
バーベキューも終わり、今度ばかりはと小田切さんの片付けを申し出た。
準備の間だけではなく、食べてる間も仲間外れ感を感じていた榊は、それはもう必死に申し出た。
「今日はどうだった?楽しめたかい?」
「はっ、はい。……凄ク楽シカッタデス」
「良かった。変な噂がある所だからね。オカ研にとっては良い場所かもしれないけどさ。楽しめなかったら申し訳ないからね」
小田切さんは笑った。榊も笑顔を見せる。
「でもやっぱりコテージの中はちょっと寒気を感じてるんですよね。外はこんなに暑いのに」
「そうなんだ。榊君はやっぱりそう言うのに敏感なのかもね。体調が悪くなったら無理せずに言うんだよ」
「ありがとうございます」
榊達がコテージの中へ戻ると会長達は円を描くように座っていた。
「お疲れ様。これからトランプしようと思うんだけど何が良いかしら?」
会長がトランプを切りながら言う。
「私、大富豪が良いです」
「王道にババ抜きなんかどうだろう」
榊達は夜遅くまでトランプで盛り上がった。会長と小田切さんが楽しそうに話していると榊は二人の関係が気になった。
付き合っている様子は無いが二人は美男美女でお似合いのようにも見える。小田切さんが良い人なのは榊にも分かっているがそれでも嫉妬してしまう。
「また負けちゃった~」
相沢さんがひっくり返るのを見てみんなが笑った。
「残念だったわね。さぁ、今日はこれでお終い。寝る支度を始めましょう」
会長はトランプを片付け始める。
「会長、まだ恒例の怪談話してないじゃないですか」
下村さんが聞いた。
「今回はこんな所に泊まるんだもの。あまり霊を刺激しない方が良いと思うの」
「しかしオカ研のキャンプで怪談話をしないのもどうなんでしょう。肉の無いバーベキューの様な物ですよ」
「あら、私が持ってきたお肉、口に合わなかった?」
「いえっ! とってもおいしかったです。あくまで例えですから」
「でも今回の目的は相沢さんの怪奇現象についてじゃない。寝る時はまた録画したいから準備お願いね」
会長はニッコリ微笑んだ。下村さんは納得したが、今度は相沢さんが頬を膨らませる。
「残念です……折角とっておきの怖い話用意しておいたのに」
「ゴメンなさい。でもそれは今度ぜひ聞かせてね」
部屋で寝る準備をしながら榊はふと気になったので小田切さんに切り出してみた。
「僕もてっきり最後は怪談話になると思ってました」
「それはごめんね。本当は怪談話をする予定だったんだけど会長と相談してやっぱり止めようって事になったんだ」
「何かあったんですか?」
「まずは須藤さんの占い。彼女自身、占いは『外れて普通』位にしか思っていないけど本当に良く当たるんだ。後は榊君。君が寒気がすると言ったからさ」
小田切は悪戯っぽく笑う。
「僕のせいですか?」
「それも一つってだけさ。僕自身もこう言う所で行う怪談話は良しと思ってる訳じゃないしね」
「でも、なんかすいません」
「本当に気にしないで。会長の言うとおり合宿の目的は別にあるんだから」
その時下村さんが部屋に帰って来た。
「カメラの設置は問題なしかい?」
「はい、今回は部屋を真っ暗にしない様に言っておきました」
「それじゃあ後は寝て待つだけだね。さあ二人とも、寝る準備は良いかな」
二人がうなずくと小田切さんは電気を消した。部屋が真っ暗になると榊はキャンプでの出来事を思い返す。
後は帰ってみんなでビデオを見るだけ。多分何も映っていないだろう。会長はがっかりするのかな? それで今回の合宿はお終い。榊はそう思いながら眠りに落ちて行った。
だが夜はこれからだった。