UFO歓迎会
「榊君、声が小さいよ」
「はい! すいません」
土曜日の真夜中。五人の男女が輪を作るように立っている。
何やら呪文のようなものを唱えながらUFOを呼び出そうとしている真っ最中だ。
本気でそんな事をしているのかと問われれば、一人は確実に違った。
榊直幸はオカルト研究会の一員だった。これはサークル活動の一つで仕方なく参加しているだけである。
こんな事で本当にUFOがやって来るなんて全く思っていないし、世に言うオカルトについても興味はなかった。
そんな榊が何故、オカルト研究会に入っているのか。
「榊君、頑張って。もう少しだよ」
「はい! 頑張ります」
その訳はオカルト研究会会長の園田美緒。榊の一目惚れだった。
榊が入った当初は一年生だけでも十人は居た。UMA探索合宿や黒魔術大会、都市伝説巡回ツアーを経てどんどん人数は減った。そして今回、UFO歓迎会に参加した一年生は榊を含めて二人だけだった。
榊も今回は断ろうと思ったが、会長にどうしてもノーと言えなかった。その為、折角の土曜日に意味不明な呪文を唱える事になってしまったのだ。
果たしてこの呪文にどんな意味があるかは分からない。だが、検討に検討を重ねたものである事は榊も聞かされていた。榊には呪文の検討なんて理解出来ないが、何かしら意味があるんだろう。いや、あって欲しい。
「さぁ、もっと大きな声で呼ばないとUFOに聞こえないわよ」
呪文パワーじゃなくて物理パワーなの? 絶対に聞こえないだろ!
どれだけ叫ぼうが宇宙までは届くわけがない。そんな事は小学生だって知っているぞ。だが、それでも榊は声のボリュームを上げる。だって会長が喜んでくれるから。
ああ、今夜も長い夜になりそうだ……。
「いや~、昨日カラオケで歌い過ぎてさ。喉ガラガラになっちゃったよ」
食堂でそんな会話をしているのが聞こえてきて、榊は溜め息をついた。榊が望んでいたキャンパスライフがすぐそこにある。
決して山の中でおかしな呪文を叫びたかったわけではない。しかも一晩中!
何故こうなってしまったのか。今度こそオカルトサークルなんて辞めて……。
「あっ、榊君一人?」
榊が顔を上げると、そこには相沢みちるが居た。
「良かった。私も一人だったの。ここ座って良い?」
「はい、どうぞどうぞ」
相沢さんは榊の向かいの席へ座った。相沢さんは榊と同じ一年生。とても可愛らしい女性で周りの男達の目を引いている。
あいつは相沢さんの何なんだ? そんな声が聞こえてきそうだ。教えてやろうか? 一緒にUFOを呼ぶ仲なんだぜ。
そう、相沢さんも昨日のUFO歓迎会に来ていた一人だった。
「今回は残念だったよね。わたし見たかったな。UFO」
相沢さんはとても残念そうだが、榊は何と答えて良いか分からない。仕方なく榊はぎこちない笑みを返した。
「わたしはもうちょっとで来てくれそうな気がしたんだけど……。ツイてないな~」
何を根拠に来てくれそうだったと? ツイてる、ツイてないのレベル? 榊の頭には疑問が浮かぶも、楽しそうに話す相沢さんに水を差すような事は出来ない。
それに相沢さんと楽しげに話していると、周りから羨望の眼差しを受けられる。ちょっと優越感。
「そうだ! 授業の後、この前の反省会があるらしいよ。榊君も行くでしょ?」
そうだった。記憶の奥底にしまって蓋をして、目を背けていたのに……。
「うーん、どうだろう……」
別に予定は無いけど、ただ行きたくない。そう言えれば、どんなに良いか。
「楽しみ。それじゃ後でね」
相沢さんが笑顔で食器を下げに行く。その後姿を榊は呆然と眺めた。
榊は今まで生きてきた中で、女子に『後でね』なんて言われた事など無かった。
この笑顔を前に、断れる男は居るだろうか。否! 今日も断れそうにない。