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拷問の始まり

また遅れてしまいました。執筆ペースが日を経つにつれて遅くなっていくのはどうにかしたいです。

『“外交官”が到着したわ。それじゃ、拷問頑張ってね』

 レムルからそんな放送が飛んできたのは、昼食を摂ってから体内時計にして3時間ほどのことだった。

 放送が終わると同時に手足の金具が外れ、案内担当と見られるロボットが部屋に入ってくる。俺は読んでいた本を横に置いて立ち上がり、ゆっくりと深呼吸して覚悟を決めてからロボットに近付いた。

 「ツイテキテ下サイ」とだけ発し動き始めたロボットの後を歩き、遂にこの部屋の外の廊下へ出る。部屋と同じコンクリート造りの細長い通路が左右に延び、その両方が50メートルほど先で部屋と反対側に曲がっているのが分かるが、目視出来る範囲にドアが無い──部屋が無いのが気になった。

 部屋から出て左に進み、突き当たりで曲がると更に奥に左への曲がり角がある。それをさらに曲がるとまた奥には右曲がり角が、さらに進めばまた左曲がり角が現れるので、歩きながら俺は早くも不審に思った。

(何だこの建物……構造がおかしくないか……?)

 部屋も窓も無く、同じ距離くらいの通路がひたすらジグザグ続く異質な造りに困惑し、無駄に周りを見回してしまう。仮にこの通路が巨大な建物の中にあるにしても、ここまで無駄に曲がり角だけを複数配置する意味は全く無い。

(まさかこの移動も拷問だなんてことはないよな……責め苦としては間接的だし、そもそもまだ何も尋問されてないし)

 弱音感覚で魔界の情報を漏らさせようなんて“外交官”も考えてないよな。そう自分の予想を否定し、脳内で通路のマッピングを行いながら先に進む。更に13回ずつ左右に曲がったところで、目の前にようやく階段が現れた。

「モード、チェンジ」

 階段手前で止まったロボットのホイールが変型し、トイレのラバーカップみたいな形状の部品が円状に取り付けられた脚が展開される。軽快に階段を降りていくロボットの後を追って、4階層相当の階段を下っていく。一番下に到達するまで、他の通路は当然の様に無かった。

「モード、チェンジ」

(変形するのにそれを言う必要があるのか?)

 階段の最下層から続く通路はこれまでよりも暗く、奥に進むに連れて下がっているように見えた。遠くの方に小さく見える光の所まで歩く必要があると分かり、前に進もうとする足が止まる。

「ドウシマシタカ? 目的地マデモウスグデスヨ」

「……いや、随分と歩かせるんだなと思ってな。少し休憩させてくれ」

「アト50メートルデ到着スルンデスガネ。マア、別ニ休憩シテモ構イマセンガ」

(あそこまでたった50メートルだと? このロボットの計測装置壊れてるんじゃないか……?)

 いくら高性能なロボットでも、気休めの言葉の掛け方まではプログラムされていないらしい。どう見ても少なくともその10倍は離れているだろうに一体何を言っているんだ。

 呆れたら何だか疲れが少し取れたので、意を決して最後の廊下に足を踏み入れる。全身が廊下に入った途端、ガシャンという音と同時に背後が暗くなった。

 振り返ると、鋼鉄の扉が階段との繋がりを遮断していた。ただでさえ明度の低い通路は更に暗くなり、足元さえも靴がぼんやり闇に浮かぶ程度にしか見えない。転ばないように腰を少し落とし壁に手を付いてゆっくりと歩く様になり、余計に進む速度が遅くなっていく。

(何だか変な気分だ……)

 目的地が斜め下にあるはずなのだが、足元の通路は手前側に少し傾いているようで、その先入観と現実のズレが気持ち悪い。更に暗く狭苦しい空間にいるという状況、なかなか奥まで進めないことでストレスに苛まれる。

 身体の中心に向かって圧縮される様な感覚を覚えながら、長い長い通路を進んでいく。感覚的に1キロは歩いた(やっぱり間違ってるじゃねえか)ところで、前方を進んでいたロボットがこちらを向いて動きを止めた。

「ガガ……」

「どうした?」

「機体所有者ノ権限ニヨリ、手動操作モードニ変更シマス」

「は……?」

「モーターリミッター解除。内部冷却ファン出力40パーセント上昇」

「お、おい何を言っているんだ?」

「脚部ローラー、ライナーモードニ変更。ブーストダッシュ開始」

 ロボットはそう言うと俺の腕を引っ掴み、内部のモーターをフル稼働して走り出す。それまでとは桁違いの速度で動くロボットに俺の身体は風にはためく旗の様に浮く──なんてことはなく、猛スピードで両足を引き摺られる。

「熱っ!! ちょっ……おい! なんっで(きゅっ)にっ(走り出してんだ)!?」

 爪先が擦り切れ無い様に全力で両足を動かして、ロボットのドラム缶みたいな胴体にしがみつく。先程までの緩慢なスライド移動が嘘だったかのように通路を走るロボットに、俺は事態の整理を行って青ざめる。

(まさかこの速度のまま、あの部屋まで走り切るつもりか!?  冗談じゃねえ!)

 顔を撫でる大気の強さからして、今ロボットは時速50キロメートルくらいで走行している。今の俺の状況は、走行中の自動車の後ろにくっついているのと大差無い。もしこの速度で動く物体から身が投げ出されたらと思うと、自然とロボットに掴まる力が強まる。

(ああもう、早く着けっ! いやでもこれ以上速く動かれるのもそれはそれでキツい……!)

 ロボットの真裏に身体を潜め、必死に速度と揺れに抗い続ける。少しだけ顔を出すと、目の前の四角い光は歩いている時よりも二回り大きく見えた。

 わずか十数秒でここまで近付くことが出来たのだからブーストの効果は大きい。この調子なら数分で到着するのは確実だろう。

 そうこうしている間にもロボットは更に加速を続け、拷問室は更に近付く。そろそろ部屋の中身も見えてくるだろうと前を見て、あることに気付く。

(な、何も見えない……?)

 四角形の光の中に見えるものは何も無く、ただ真っ白な空間が奥まで続いているだけだった。拷問室と言うには異質な光景を凝視していると、ロボットが急にアナウンスを始める。

「目的地ヘノ到着、及ビターゲットノ投擲マデ10秒前」

「へっ? 投擲……!?」

「射出用体勢ニ移行……8、7」

 あまりにも不穏なアナウンスと共に、ロボットの内側からけたたましい音が鳴り響く。バチバチと配線が焼き切れたみたいな音に恐る恐る下を覗くと、全てのホイールが床との摩擦で火花を出していた。

 前傾姿勢で走るロボットの背中がカシュッという音と共に少し盛り上がり、上下にスライドするようになる。先程まで無かった動きが身を襲い、これから一体何が起きるかをじわじわと想起させる。

 気が付けば、拷問室の入口は目の前まで近づいていた。

「──2、1、パージ」

 入口の手前でロボットが停止し、慣性で全てのエネルギーを受けた背中が飛び出す。交通事故以来の衝撃で身体が宙に舞い、縦回転しながら拷問室へと射出される。

(床にぶつからない……っ!?)

 俺の身体は放物線を描いて床で弾まず、何も無い真っ白な空間に投げ出される。突然斜方投射の実験台にされた俺はなんとかしようと身体を動かすが、どうすれば良いのか分からず空中でもがくだけになってしまう。

 通路へと続く扉は数秒で遥か上空に位置し、俺を投げ出したロボットの姿を見ることは最早叶わない。どこまで続いているかも見当が付かない上下左右前後の白に、何か魔界の秘密を吐かない限り落ち続けるんじゃないかとさえ疑ってしまう。

 そんな中、何もすることも出来ず落下する俺を嘲笑うかの様に、俺の脳へ直接語り掛けてくる声があった。


『──漸く来たか。憐れな魔界の王子よ』

「がっ…………!(“外交官”……!)」

『助手に言われた通り、ここが拷問室だ。貴様には本日より、定期的にここで拷問を受けてもらう』

 声色は未だにカウンセラーさんのままなことも相まって、“外交官”の上から目線な歓迎に俺は腹が立った。文句の一つでも放ってやりたかったが、身体の制御もまともに出来ないこの状況では口から言葉は出てこない。

『随分とこの空間に翻弄されている様だな。今の貴様ならば、この状況くらいならさほど脅威でないだろうに』

(パラシュート無しでスカイダイビングしたことないだろお前! こっちも今回が初めてだけど!)

『進言しておこう。この拷問室には牢の様な魔法阻害の結界は張られていない。また、この空間の大気は全体が均一となっていて、更に落下中の衝撃から身体を守る成分が含まれている』

(何を言ってるんだ、コイツは……!?)

『2、3回深呼吸すれば、落下にも適応出来る様になるだろう。吸い込め』

 他に何もすることが出来ない俺は、“外交官”に言われるがままに口を開く。身体が回転しているせいで上手く呼吸は出来ないが、口腔内に空気が入ると同時に身体に異変が起こり始める。

 それまで三半規管を襲っていた吐き気が徐々に薄れ、上下左右と乱れていた目線も、一点を見つめる様に固定が出来るようになる。自然に空気が入ってくるのを待っていた呼吸器系も、次第に地上で活動している時同様に呼吸が出来るようになっていく。

 身体の回転は続いているのにも関わらず、その衝撃に流されている反応が減っていく。落下に身体が順応していく感覚に、俺は驚きを隠せなかった。

「なっ、何だこれ……? 身体の様子が……」

『貴様の体はガーゴイルなど飛行モンスターと同様の内臓器官を得た。終端速度で落下しても気絶することは無い』

「(普通に話せるようにもなってる……)体内を変化させる魔法を掛けたのか……ってこれは父上にバレたらまずいんじゃないか?」

『その変化は一時的なもので、この部屋の大気の吸引を連続して行わなければ60分で元に戻る。貴様が期待している様な事態にはならない』

「写真撮影までに元に戻せば良いって言いたいのか? これから身に受けるお前の責め苦が楽しみだな」

『拷問に乗り気なのはこちらとしてもありがたいところだ。出来れば自分で落下を止めてくれれば更に助かるのだが』

 用意した部屋に人質側から適応しろって、随分といい加減な対応だな。こんなことやってても魔王達にはバレないっていう奴の自信が腹立たしい。

 “外交官”に悪態をつき、俺は目を細め集中して呪文を1から唱える。素では飛行能力を持たない俺に対し奴が落下を止めるように命令してきたということは、この空間で魔法を使用することが出来るはずだ。

「──“飛び上がれ(リーフニーゴ)”」

 静かにそう発すると、俺の身体の内側から水色のオーラが広がり、身体の回転がゆっくりになる。頭の向きが地面(この部屋には無いかもしれないが)と垂直になったあたりで両手両足に軽く力を入れると、回転は完全に停止する。

『“浮遊魔法”か。“武闘祭”の開会式でも使用していたな』

「(いつからカウンセラーさんに憑依していたんだ……?)言われた通り落下を止めたぞ。次は何をすれば良い?」

『そう焦るな。積極的になっても責め苦の程度は変わらんぞ』

「……まさかだけど、こうやっていつ拷問が始まるか分からない状態にして、僕に気を張らせ続けることが拷問だとか言わないだろうな?」

『否定する。貴様への拷問のためにその様な非効率的極まりない手段を取ることは無い』

「じゃあこの不毛な時間はなんなんだよ。まるで拷問の準備が済むまでの時間稼ぎをしている様なものじゃないか」

『そう思ってくれて構わない。遅かれ早かれ、貴様の所望通り拷問は始まることに変わりはないのだからな』

(始()()……始()()じゃなくて? “外交官”自身が直接責め苦を与えてくる訳じゃないのか?)

 どこか他人事な言い方を不審に思うが、それを聞いたところでまた煙に巻かれるだけだと感じ黙る。“外交官”から伝えることは特に無いのか、俺が聞き返さなかったため交信は途絶える。

 拷問の詳細が全く伝えられず、対策なんかはどうしようもない。特に出来ることも無かった俺は、手持ち無沙汰に高さを維持したまま前後左右に移動したり、少し上昇しては8の字に飛んでみたりする。浮遊したまま移動する練習で、武闘祭で披露するためにと一ヶ月間毎日行っていたものだ。

 身に付けたばかりの技術である以上、戦闘で使用してもあまり恩恵は得られないだろうと思い、開会式で披露してからは他の鍛練を優先していた。2週間近く練習が空いてしまったが、自分の浮遊感覚が変わっていないことを確認出来て安心する。

 次はもう少し速く飛んでみるか。そう考えた途端──後ろから強い風が吹き、倒されはしなかったものの大きく前に押される。どうやら拷問器具を携えた“外交官”がこの部屋に転移して、それに大気が押されて風が発生したらしい。

(大体3分くらいか? どうせ遅れるならもう少し遅れてくれても良かったんだけ…………ど……)

 一体どんな拷問器具を持ってきたんだと俺は振り向き、そして絶句した。

 俺の目の前3メートルから先の視界が、出現した()()──巨大な黒い塊によって埋め尽くされていた。

(な、なんだこれ!? これが“外交官”の用意した拷問器具だって言うのか!?)

 物体は黒い金属で出来ているらしく、所々に光を湛え黒曜石の様に艶めいていた。構造物が重なって形成されているのか、横一文字の継ぎ目が何条も刻まれている。

 少し後ろに下がりながら全体(と言っても上の方はほとんど見えていないのだが)を見渡すと、物体は縦長で、下側で二股になっていることが分かる。形状としては漢字の“人”を模した様になっているのだろうか。

(金属製で“人”……おいおい、まさか拷問に巨大ロボットを使うなんてこと無いよな……?)

 ここの給仕ロボットやマキナ先輩など、人界のロボット技術は魔界はおろか現代日本以上に進歩している。巨大ロボットが開発されているという可能性は否定出来ない。

 黒い物体の脚と思われる下側の部分が一部折れ曲がり、俺の直下へと動き始める。それに連動し、物体全てが俺へと接近してくる。

(動き始めた!?)

 更にもう片方の“脚”が動き、壁はますます近付いてくる。空中を歩く物体によって視界が黒く染まり、俺は急いで後ろへと飛行する。

 逃げても拷問が終わるまでの時間が延びるだけとは分かっているのだが、あまりにも理解の範疇を超えた巨大な物体に、本能が逃走を選ばせた。

 全速力で500メートル程飛行し、黒い物体に絶対捕まらないであろう所まで離れてから振り向く。人型の物体はゆっくりと近付きながら、腕をこちらへ伸ばし俺を捕まえようとしていた。

(西洋甲冑……?)

 離れたことで物体の全容が明らかとなり、それが中世ヨーロッパの歴史物とかで出てくるようなプレートアーマーの様な見た目であることが分かる。至近距離で見上げた時のサイズ感からして、その全長は有に100メートルを超えている。

(こんなにデカいロボット(?)があるってのに、魔界侵攻には使わないって、そんなことあるか……?)

 後方に飛び、腕を避けつつそんなことを思い浮かべる。こんな巨大な甲冑ロボットがあるんだったら、戦時体制中の国家なら拷問器具として扱わず即敵地に送り込んで大暴れさせると考えるのが普通なんじゃないだろうか。

 直近の勇者侵攻ですら使われてないことを考えると、このサイズじゃ“境界クロス”を通すことは不可能なんだろうか? ゆっくりとだが執拗に追いかけてくる甲冑ロボットを見据えながら、魔界はひとまず大丈夫であると少し安心する。

 そんな俺に業を煮やしたのか、“外交官”から唐突にテレパシーが入ってきた。

『──何をしている? 拷問官(トーメンター)からの逃亡は貴様に何も与えん』

「“外交官”! こんなにデカい甲冑人形をどう使って拷問する気だ?」

拷問官トーメンターは汎用……あらゆる方法で貴様に苦痛を与えることが可能だ、とだけ答えさせてもらう』

「とは言うが、今のところ歩いて僕を追い掛けてるだけの木偶の棒だな。捕まえる為だけにこんな巨大な甲冑人形を使うくらいなら、別の拷問器具を準備してた方が良かったんじゃないか?」

 片眉を上げ、部屋の向こうへと挑発するように声を飛ばす。実際最初は甲冑ロボットの大きさにこそ気圧されたが、今のところ俺でも撒ける速度で愚直に追い掛けて来るだけで、当初の恐ろしさは薄れかけている。

『貴様は幾つか勘違いをしている。拷問官トーメンターはまだその機能の一分も発揮していない。じきに彼奴の能力が貴様を苛むだろう』

「あの甲冑は一体何がでっ……!?」

 どんな能力が備わっているのか“外交官”に追及しようとした途端、俺の身体を見えない何かが拘束する。まさかと思い視線だけ甲冑の方へ移すと、先程同様こちらへとピンと伸びた黒い腕を軸に、幾つもの赤い魔法陣が一列に展開されているのが見えた。

(ぐうっ、あの魔法陣……拷問官トーメンターが拘束したのか……!? これがコイツの能力……!?)

 その場から動けなくなった俺に甲冑はすぐに追い付き、開いていた手をゆっくりと閉じて俺を完全に捕獲する。拷問対象を完全に捕らえた右腕を曲げ胴体に近付けた頃には、魔法陣は消え非物理的な拘束は解けていた。

(くっ……もう少し調べてから捕まりたかったんだけどな……)

 首から下全てを強めに握り締められ、苦しみながら甲冑を見上げる。甲冑の胸部辺りまで持ち上げられているからか、先程至近距離にいた時には見えなかったヘルムが見える。

 上空を覆い尽くす甲冑の頭部は、その双眸に穿たれた覗き穴から、艶めく表皮よりも一際黒い深淵の闇を放ち、手の中の俺を見つめていた。

『加えて、拷問官トーメンターが巨大なのではない。貴様が矮小なのだ』

(ぐぐ…………今……何て言ったんだ……?)

 “外交官”からの説明が更に聞こえるが、その内容を反芻しようとしても、全身を締め付けられる痛みが思考を遮る。粉砕されそうな力に、今にも意識が吹き飛び掛けていた。

 拷問官トーメンターの腕は上昇を続け、見下ろしていた頭部を通り過ぎる。甲冑の腕が伸び切るほど高くなったところで拳がひっくり返り、見える世界が逆さまになる。

 眼下に広がる拷問官トーメンターが静かにこちらを見上げると、その口の辺りの金属片が左右に動いた。甲冑の内側からは透き通るような白い肌と、宝石の様な艶を持った黒い唇が顕になっていた。

拷問官トーメンターに口……?)

『これより拷問を開始する。貴様から千金に値する情報が得られることを期待しているぞ』

「ちょっと待……うわっ!!」

 “外交官”の宣言と共に握られていた手が軽く開き、締め付けが緩んで落下する。“浮遊魔法”がいつの間にか解除されていたらしく、俺はなんの抵抗も出来ないまま甲冑の口元へと吸い込まれていく。

 落下地点の唇が大きく開き、巨大な舌が俺の身体を受け止める。唾液で全身をずぶ濡れにされ、ぼやけていた思考が元に戻る。

(ご、拷問ってまさか……)

 この後何が行われるかを察し、俺は脱出するため舌を登ろうとした。しかしその動きを察知してか、拷問官トーメンターが口を閉じてしまう。

 大理石を思わせる様な白い歯が音を立てて噛み合い、口の中は完全な闇に包まれる。その衝撃で舌肉を掴んでいた手が離れ、再び身を投げ出される。ものの数秒で身体は怪物の喉を通過し、狭い食道を落下する。

 “浮遊魔法”を唱えようと試みるが、一直線に落下出来なかった俺の身体は何度も食道の壁面にぶつかり、その度に詠唱を中断させられる。余りにも衝突の頻度は高く、呪文の最初の一文を発することも敵わない。

「ぐむっ!?」

 数十回にも及ぶ壁面への激突の末、突然落下方向への強い衝撃を受ける。身体が大きく弾み、もう一度地面へ衝突する。これまでに受けたことの無い墜落のダメージは大きく、落下が終わったことに気付いたのと同時に俺は意識を手放した。

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