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魔王の訪問 後編

 父と魔王様の対話が始まって早くも一時間が経過した我が家。応接間へと入った私は魔王様に席へ招かれて、機械越しに伝えられた通りに質問を投げ掛けられた。

 こちらの発言を一言一句たりとも聞き逃さぬよう真剣な眼差しで見つめる魔王様に始めは気圧されたが、全て知っていることを伝えようと強い意思を持つことで、緊張をほぐして話すことが出来た。

「──以上が私から言えることです」

 最初に父の部屋であの板を見かけたこと、後日学校にカルマ君達が同じ板を持って来ていたこと、フォルト君づてに魔王軍に調べて貰おうとして手元にあった板を彼に渡したことなど、用意していた全てを話し終えて私はそう締め括った。話が終わったことを認識した魔王様は小さく頷き、紅茶を一度口にしてから言葉を返した。

「なるほど……つまりフォルトから情報は全く入っていないということか」

「そういうことになります。これ以上は全く分からず、フォルト君から伝えられてもいません」

「板を持っていたのはアルベルト、ネックレス家のカルマ……セレネとマリアの4人で正しいな?」

「はい。“外交官”が使用していた板の枚数からもっと多くの人があの板を所持していたことが分かりますが、私達がフォルト君に預けたのはお父様達の近くで発見された4枚のみです」

「ううむ……」

「……お力添えになれなくて申し訳ございません。私が彼から事情を聞いていれば、今頃こんなことには……」

 持っている情報の限界を断言すると、魔王様は再び紅茶を口に運んで唸り声を洩らした。その姿が苛立っている様に見えて、私は思わず頭を下げて謝罪してしまっていた。

 すぐさま、魔王様の励ましが返ってくる。

「いや、気にすることは無いぞエリス君。君の証言がアルベルトの言った内容を裏付けてくれたのだからな。それに君が言ってくれた内容のお陰で“外交官”が魔界に長期間滞在していたことが分かり、“外交官”を探す際に密偵隊に与えられる情報が増えたのだ。君は立派に協力したのだよ」

「そうですか……?」

「そうだよ。しかもエリスが教えてくれたことには、“外交官”はあの魔法具を増やせないというこれ以上無い情報が含まれていた。これが分かっただけでも、エリスは力になってくれたと言えるさ」

 いまいち実感が沸かずに聞き返すと、魔王様は黙って頷き、後ろのソファに座っていた父がその根拠について答えた。腫れた頬にはガーゼ付きの絆創膏が貼られており、父は痛そうにそこを触りながら続ける。

 父が言うには、“外交官”が魔界を訪れた目的はフォルト君を“人界”へ拉致することと、魔界中に出現した魔法具の薄板を手に入れることの2つであり、これらを果たすためにルシアさんに憑依したのだと考えられるとのことだ。

 しかしそうすると何故“外交官”は薄板を魔界で集めたのか、“人界”に薄板は出現していないのかという疑問が生じる。敵地である魔界に忍び込んでまで薄板の魔法具を手に入れる必要があったという事実から、あの薄板は“人界”では製造されていない、あるいは“人界”に存在していない代物であると結論付けられるらしい。

「動画を見ると、薄板は“境界クロス”を出現させると同時に跡形も無く消滅していた。更にそれぞれの板に大量の魔力が込められているのにも関わらず、ああやって何枚も並べて使用していたことから、あの薄板は結構な数の板を同時に展開しないと使えない、使い捨ての魔法具だということが分かるんだ。じゃあここでエリスに問題。今の魔王軍に備えられている魔法具の内、使い捨ての魔法具の割合はどれくらいあると思う?」

「えっ、クイズですか?」

「おおよそで良いんだよおおよそで。合ってたらお小遣いアップしてあげるよ。ヴィンセントが」

「おい」

 完全に説明を聞くことに意識を置いていたため、突然の出題に動揺する。父がニコニコと微笑みながら解答を待ち始めたので、私は半ば強制的に問題を解くことになった。

 私ではなくて魔王様に直接聞けば良いのではないかと思いながら、記憶の中の魔王軍の装備を探る。魔王城の避難所でフォルト君と見た勇者との戦いの映像の中で、数多くの道具が使用されては瞬時に消滅しているところを目撃していた。

「そうですね……様々な魔法を使うための“魔出符”や戦闘で受けた傷や麻痺などを素早く治すための“ポーション”など小物が多いので、種類は少ないものの数は多くあると考えて、およそ3割でしょうか」

 2分ほどの熟考の末にそう答え、父へ正解を求めた。しかし父はうんうんと頷くと何も言わずに魔王様に顔を向け、魔王様はそんな父を睨み返した。

 この屋敷に閉じ込められている父が現在の魔王軍の軍備について知るはずがなく、最初から魔王様に答えてもらうつもりだったのだ。尚更私を経由することへの疑問が深まるが、父による魔王様への嫌がらせ以外にこれといった理由は無いのだろう。

「……確かにエリス君の言った物はどれも消耗品だ。だが魔王軍に備わる魔出符やポーションには、内包する魔力が一定量以下になると魔王軍の倉庫に転移する魔法が付与されている。再び魔力を込めれば新品同様に使用することが可能だ」

「えっ、そんなケチ臭いことやるようにしたの? いくら財政難だからって、そこまでやるんだったら一から予算を見直した方が良いんじゃ……」

「これは魔王軍でも使われている精度の高い魔法具を市場に安価で流通させ、国民の暮らしを良くする為の作戦であり、そもそも財政難でないわ阿呆。──そういう訳でエリス君、使い捨ての魔法具は魔王軍にはほとんど無いのだ」

「僕がいた頃はもう少し消耗品があったんだけど、十数年も経てば変わるものだねえ。こりゃ引っ掛け問題だったな」

 魔王様による解説を聞いて、父が感慨深そうにコメントを返した。呑気な父を窘める様に、魔王様が再び旧友を睨む。

「……それでアルベルト、お前は何を言いたいんだ?」

「この様に軍において消耗品の割合は少なく、軍の上層部はその量を減らそうと考えるのが普通なんだ。これは人間共にも言えることで、消耗品は出来る限り出さない様にするはずなんだけど、“外交官”が“帝国”に持ち去った薄板の特徴はその方針と真逆の性質を持っている。余程の馬鹿が幹部にいない限り、そんな不便な代物を使おうとは思わないよ」

「確かに消耗品の上、使う際に数が必要な魔法具は使いたくないですね。通常の魔出符よりも保管するための場所が必要になると思いますし……」

「そう考えると“外交官”が薄板を集めたのはあくまでフォルト君を人界へ攫うための手段というだけで、何か別の目的を果たすためのものではないと言えるね。残り枚数もそんなに無いだろうし」

 幾つの薄板をルシアさんが回収して、“外交官”がそれを手に入れたのかは不明である。しかし薄板の存在が昨日今日になってようやく魔王様達に知られる様になったという事実は薄板の目撃報告などがこれまでに無かったということを表しており、目撃されるよりも先にルシアさんが全て回収し終えていたとなると薄板の数はそこまで多くはないのだろう。

 黙って話を聞いていた私の顔を、父は顔をにやつかせながら覗き込んで来た。私の顔に何か付いているのかと触ってみると、自分の口角が上がっていたことに気付いた。

 拡大解釈とはいえ私が捧げた情報が役に立ったことが嬉しかったのか。“外交官”が薄板を使ってフォルト君を拷問する可能性が低くなったことに安堵したのか。無意識のうちに浮かべていた笑顔を隠そうと、私は魔王様達に話を振った。

「それにしても“外交官”には謎が多いですね。奴が何故こんな魔法具の在り処や使い方を知っていたのかも、彼がいつから魔界にいたのかも不明ですし……」

「ルシアと“外交官”の関係については密偵からの返事が来るまでは保留だね。すると考える余地があるのは後者の方か」

「最後に“境界クロス”が開いたのは2ヶ月程前、例の勇者一行が来た時だ。あの時“外交官”も侵入していたのか、あるいはその前の勇者が来た時から潜んでいたのか……」

「その前の勇者が来たのってもう何年も前のことだろ? 薄板が初めて発見された──出現したのはつい1月前で、それまで全く存在が把握されてなかったものを見つけるなんて無謀な作戦のために“帝国”が何年も自国の文官を敵地に送るとは思えないな」

「しかしそうすると、この前の襲来も同じく時期が合わないですよ。“帝国”が薄板の情報を得た時期を考慮すると、“外交官”は“境界クロス”を使用しない方法で魔界に侵入したとしか……」

 大賢者達が“境界クロス”を建てた太古の時代、魔界へ入る集団には勇者達の他に、研究の為に魔界にしか存在しない植物や鉱物を収集する研究者のパーティも多く存在していたと言う。

 今では文明が発達して素材の代用品が開発されたのか、その目的で魔界に入った人間はここ数百年の間で一人も存在していない。しかし“境界クロス”が魔王討伐パーティ専用のゲートとなってから定期的に、辺境の地から定期的に魔物達には見覚えの無い採掘の跡が発見されるようになった。

 近年では死霊の谷の奥地にある広大な花畑が一本残らず摘まれる、40トンもの岩石が突然消失したことで廃鉱山が崩落するといった奇妙な事件が起きている。“境界クロス”を使わない侵入方法があるのなら、魔界の住人には気付かれずに採取をすることも出来るはずだ。

「そんな技術があるならなんで勇者の転送に使わないんだとツッコめるけど、まあその可能性は考えても良いと思うよ。“境界クロス”が人間の手によって作られたものである以上、人界に都合の良いことが出来るようにしてないとは考えられないからね。約束の日に奴がどこから出てくるかを把握しておいた方が、万が一の事態を防ぐのにも役立つし」

 約束の2週間後、“外交官”が思わぬ場所から現れて不意打ちを仕掛けてくる可能性もゼロではない。想定可能な不運は出来るだけ回避するべきであることを、この場にいる全員が理解していた。私の主張の弱点を指摘しつつも、父は候補の一つとして見てくれたようだ。

「空間を通り抜けた痕跡が無いか魔界中を調べる必要があるな……“外交官”が来るまでに全域を探すことは出来そうにないが、取り敢えずやってみよう。魔導師部隊には次から次へと重荷を背負わせることになってしまうがな……」

「その分ボーナスはしっかりあげなよ? こき使った分の謝礼が無いと軍の士気も下がるからね」

 無論そのつもりだ、と魔王様が返すのと同時に、通路側の壁に置かれたホールクロックが3回鐘を鳴らした。長身な父よりも若干背が高い木製の時計から発する大きな時刻の報せは、魔王様の首を容易く時計へと向かせた。

「うむ……もうこんな時間か」

「おやつでも食べるかい? この前エリスが買ってきたクッキーがあるんだ、それを開けよう」

「貴様には俺がおやつの時間を気にする大人に見えているのか阿呆。この後開かれる会議のことを思って時計を見ただけだ」

「もう帰るの? てっきり今日は夜までいるのだと思っていたよ。まだ“外交官”のことについてしか話してないし」

「本当はもっと時間を取って話したかったのだが、今日これ以上の空き時間は無いと議会の長老達に言われてしまってな。貴様が何か吹き込まないか不安で仕方無いのだろう」

「先代世代の爺さん達か……幹部として前線に出られないんだし、いい加減隠居してくれた方が君としても良いんじゃないかい?」

「十数世代前の生まれであるお前がそれを言えた立場か? 亀の甲より年の功と言うだろ、彼らの言葉も魔王軍には必要なんだよ。老いては子に従えとも言うがな……」

 魔王様は父を窘めつつも、父の言い分に共感するかのように苦笑いを浮かべながら紅茶を飲み干した。

 先代魔王の時代の魔王軍に従事していた人々は、勇者との凄惨な戦いの中でほとんどの方が亡くなっており、生き残っている人はその時代の戦いの知識を伝える貴重な存在となっている。しかしそんな中にはかつての魔王達が敷いてきた恐怖政治を酷く憎む、あるいは崇拝する者も存在するらしく、助言を通じて魔王様を自身の思惑通りにコントロールしようとしているという。

 もっともこの話は父から聞いたものであり、言った本人も冗談で話したとその後すぐに付け加えている。しかし魔王様の反応を見ると、若くして即位してからの数十年の中でそういった出来事が何度かあったのかもしれない。

「安心しろ。次に話す機会は既に設けてある。2日後の19時から時間を空けておいてくれ」

「おや、今日と比べると随分遅い時間じゃないか。ちょうど晩ご飯の時間だよ」

「なかなか時間が取れなくてな……明後日は早めに済ませておいてくれ」

「分かったよ。魔王様の命令とあらば従うしかないね」

「すまないな。さて、そろそろお暇するか」

 父が承諾するのを聞くと魔王様は立ち上がり、応接間の扉の前に近づいて行く。

 取っ手を捻ってドアを開けると、魔王様は出ずにこちらへ振り向いた。

「アルベルト、それにエリス君。言っておくが俺は殺されるつもりはないし、フォルトを見殺しにするつもりもない。例え国民に非難される様な方法を使ってでも、フォルトを“帝国”から救い出してみせる。“外交官”が来るまでの間何度も協力を求めることになるが、力を貸してくれるか?」

「勿論だよ。僕だってそのための協力は惜しまないつもりさ。エリスもそうだろう?」

「わ、私もこれ以上出来ることがあるかは分かりませんが、魔王様の力になれるよう精一杯努力します」

 決意の後に協力を募る魔王様に、真剣な眼差しと共に合意を返す父。流れる様に合意を求められ、私は堅苦しくその旨を返す。二人の返事を聞くと魔王様は深々と頭を下げた。

「ありがとう。本当に申し訳無いな……」

「よせよ。こんな時に王様がテロリストに頭を下げてるなんて国民に知られたら、跡継ぎを攫われたショックで気が触れたと勘違いされるよ?」

「ちょっとお父様、魔王様に頭を下げて頂いているのにその言い方は酷いのでは……」

「僕はヴィンセントに魔王としてのあり方を指摘しているだけだよ。緊急事態だからこそ、トップは毅然とした態度を維持して部下に命令を与えなきゃ」

「しかし……」

「エリス君、アルベルトの主張も間違ってはいない。このような頼み方をしていては魔王の名が廃るのは確かだ」

 歯に衣着せぬ言い方を続ける父に反抗しようとすると魔王様に止められる。既に頭は上げられており、私達親子の言い争いが始まろうとしていたのをご覧になっていたようだ。

「アルベルトよ、俺はお前と会うのが久しぶりだったがために、お前と付き合うことに緊張していたらしい。そのことを指摘してくれたことに感謝する」

「どういたしまして。どうもヴィンセントの口調がまだ固く感じたからね」

「そこでお礼としてなんだが、指示を欲しがっているお前に命令を与えたいと思う。これから言う3つの命令を全て守ってくれ」

 これほどまでにニヤリという表現が適切な表情は存在しないとさえ言える笑みを魔王様が浮かべた。

「まず1つ目だが、今後俺がこの屋敷を訪れる際、お前は応接間で待機していろ」

「随分簡単な命令だね。君を出迎える時はどうするんだい?」

「今日と同じ様にエリス君に案内してもらおう。その後エリス君には用が済むまで自室で待機してもらう。盗聴も禁止だ。これが2つ目の命令だ」

 そこまで言うと魔王様は早歩きで映像再生装置に近付き、四角い装置の側面を掴んで持ち上げた。

 よく見ると魔王様の持った装置の上には、これまでテーブルの上に置かれていたはずだった映像再生装置の操作盤が乗っかっていた。2つの機械が魔王様の手に渡ったことを理解した父の顔から余裕の表情が消える。

「最後に3つ目だが、この装置を我々魔王軍が預かることを許可してくれ。この装置に保存された映像を“外交官”対策に使えないか解析したいのでな」

「ちょっと待った。解析だったらうちでも出来るのに、わざわざ魔王城に持っていく必要があるのかい?」

「ここは一人の少女が住む屋敷だ。エリス君のプライバシーがある以上、ここに大人数の研究者を入れるわけにはいかん」

「普通は応接間に少女のプライバシーを侵害する様な物なんて置かないと思うよ? 世間体を気にする場所がちょっとズレてるんじゃないかな……」

「それにだ。俺が研究者達を呼んでいる間に、お前が()()()()操作を誤って映像を消すことも考えられなくはないだろう? それを防ぐ為には魔王城へ持っていくのが一番だ」

 映像再生装置をコンコンと指で叩き、「うっかり」を強調して押収の理由が述べられる。どうやら魔王様は父がこの様な装置を作った以上、何かやましいことをしているのでは無いかと邪推しているらしい。

 父は落ち着いた様子で目を瞑り紅茶を口にしているが、その額には大粒の汗が浮かんでいる。ティーカップを起き、手足を組んで魔王様に顔を向けた。

「どうやら僕は疑われているようだね……良いよ。3つの命令全てに従う。その装置を魔王城に預けよう」

「おお、聞いてくれるか」

「身に覚えのないことで疑われているのは癪だからね。“外交官”の手掛かりを見つけ、ついでに僕の無実を証明してくれ」

「無論そのつもりだ。では約束通りこの装置は預からせてもらうぞ」

 父が突然魔王様の命令に応じた。父の要望を聞くと魔王様もそれを了承し、再び装置を叩いて主張する。

「そろそろお暇しよう。時間はまだあるとはいえ、長居していてはご隠居達が良い顔をしないからな」

「そうだね。じゃあエリス、ヴィンセントを玄関まで送ってあげなさい」

「いや、案内は結構。エリス君にはやるべき課題があるだろうしな。そちらを優先してほしい。では失礼する」

 魔王様はそう言ってすぐに応接間を出られた。本人がいいと仰ったとはいえ、送迎しないのは失礼にあたるのではないかと私も後を追って部屋を出たが、魔王様のお姿は廊下に無かった。

 私は魔王様が既に外に出られたのではと思い、玄関へ向かい外に出る。しかしそこにも魔王様はおらず、私は幻覚を見せられているかの様な気分になった。

 応接間に戻ると、父は壁際に寄って窓を眺めていた。目線の先を追うと、屋敷から遠ざかっていく一台の馬車が見えた。

「相変わらず帰るの早いなアイツ。そりゃパパラッチ達の質も上がらざるを得ないよなあ……」

「良かったのですかお父様? 映像再生装置を魔王様に渡してしまって……」

「ん? ああ、大丈夫だよ。やましい映像は一秒たりとも撮っていないから、見られても構わないさ」

「では深刻そうな顔をしていたのは……」

「あれは武闘祭の映像でまだ観ていない試合が沢山あったからだよ。変な解析はしないだろうけど、映像を消されたらたまったもんじゃないからね……まあその時はヴィンセントに復元を請求するさ」

 さて夕飯の支度でも始めようと、父はいそいそと二人分のティーセットを片付け始める。その背中は大量の汗で湿っており、白無地のカッターシャツが灰色に見えるほど濡れていた。

 そんな姿を背後から眺めながら、私はなかなか見えない父の真意を考え始める。同時に魔王様の邪推通り、父が装置を使った悪事を働いていないことを祈っていた。

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