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九日目:弓術部門本戦 〜後編〜

本年初の投稿です。

 昼食を今日も出店の物で済ませ、俺はニクスを励ますために彼の控室へ入ることにした。基本は立入禁止だが選手から許可が下りれば入れるらしく、警備員に名乗ったらすぐに通してくれた。

 控室は十二畳程の広さがあり、奥にはシャワールームが併設されている。先程使用していたのか、壁際の椅子に座り弓の弦を弄るニクスからは湯気が立ち上っていた。

「準決勝開始まで四十分を切ったけどさ、メリルさんに魔法はかけてもらったの?」

「二十分くらい前にな。効果は二時間で切れるらしいから解除しに来なくて良いってさ」

 そう本人が言うので、試しにと俺は持って来た写真を見せる。受け取ったニクスは震えることも無く、手始めに首を傾げた。

「何だこれ?」

「ルシアさんに撮ってもらったマキナ先輩の写真だよ。誰の顔になって見える?」

「マリア先生だな。ゴチャゴチャした身体に先生の顔が付いてる」

「……何故マリア先生を選択したかは置いておくとして、本当にそれって効果あるの? 思いの外雑な表示っぽいことに驚いたんだけど」

「顔さえ隠れていれば何とかなるからこれで良いんだよ。メリルに連れられてマキナ先輩を実際に見ても何ともなかったし」

「なら良いんだけどさ……」

「心配しなくても大丈夫だよフォルト。この魔法で見える顔が変わっても、俺が先輩達に勝てる要素なんて全く無いだろ?」

 胸を張って言えることではないと思うが、そう言える程ニクスの緊張がほぐれているということなのだろう。本人の言う通り、無駄に心配をする必要は無いのかもしれない。

「……分かったよニクス、君の意気込みは十分分かった。じゃあ僕らは応援に専念するから、ニクスも思う存分実力を発揮してね。それじゃ」

「おう、まあリラックスして見ててくれよ」

 ニクスの様子も見るという目的を果たし、控室を出た俺は一直線に観客席へと駆け上がった。座席に戻ると早速カルマから確認の声がかかる。

「ニクス君の調子はどうだった?」

「いつも通りだったよ。マキナ先輩との戦いに向けて気合十分って感じかな」

「そっか、一時はまともに戦えるのかも不安だったけど、何とかやっていけそうで良かったね」

「相手が相手だからまともになるかは分からないけどね……セレネさんはどこ行ったの?」

「セレネさんなら、フィールドにマキナ先輩が出て来る前ほどにあちらの方の席に移りました」

 学級長に言われ下側の席を眺めると、最前列から三段程上の席にセレネさんが座っているのが見えた。横にずれて見てみると、水晶スクリーンに映るマキナ先輩の姿を睨みながら高速で筆ペンを走らせているのが分かる。ニクスの為を思い、打倒マキナ先輩に役立つ情報がないか探している様だ。

 その姿に姉弟の仲の良さを垣間見ている内に、ニクスの戦いは始まった。


 開始の笛が鳴り、選手二人は森へ走る。制限時間十分、仕切り直し無し一本勝負の火蓋が切って落とされた。

 開幕直後、ニクスは素早く目前の木の下へ潜り込む。しかし準々決勝同様に上へは登らず、その場で幹にもたれた。

 動き回っていた午前中の試合とは正反対の行動に森がどよめきに包まれる。その反響を肌で感じているニクスの脳裏では、三日前にジークから言われた情報がリフレインしていた。

(マキナ先輩の目は並の魔物より冴えていて、しかも物の温度を計ることも出来る……ジーク先輩の話が本当なら、俺のいる場所なんてすぐにバレてしまうな)

 準々決勝のマキナの試合を見て、ニクスはこの数時間、彼女とどう戦うかを模索していた。広範囲の索敵能力を持っている以上、前試合同様に最初から接近するのは危険だと把握したからだ。

(だからマキナ戦では体温にも注意しろ……って言われても、先輩みたいに冷却魔法を使えるわけでもないんだよなぁ)

 脳内でぼやきながら、ニクスは給水用の水筒を開けるとその中身を頭から被る。全身に水滴が纏わり付いたことを確認すると、静かにその木から離れその辺を歩いた。

 三十秒が経過しても矢が飛んで来ず、ニクスは作戦成功を確信した。一度立ち止まり付加魔法を唱えると、今度は森を右回りに歩き始める。

 選手二人が邂逅せずに試合が終了した場合は両者失格となってしまう。なので出来るだけ物音を立てない様にしつつ、しかし急いでマキナを探す。

 いよいよ試合開始から三分が経とうとして、遂にニクスは前方をガシャンガシャンと音を立てながら散策するマキナの姿を発見した。

(いた! しかも向こうを見ていて俺に気付いていない!)

 今ならいけると逸る気持ちと肩を組み、ニクスは即座に弓を引いた。放たれた矢はマキナの後頭部に当たり、バリアからの衝撃に彼女は前へよろけた。

 マキナは後輩の奇襲に振り向くが、彼女の視界にニクスの姿は無い。弓を射た直後から木々を手足にとって移動していたニクスは、再びマキナが隙を見せるまで逃げ回ることだけを考えていた。

 しかしそんなニクスの後も追わず、マキナはその場で佇んでいる。そろそろ本気で探しますかと呟くと、横を飛ぶカメラを捕まえてレンズの下にあるマイクに向かって口を開いた。

『────!』

「ぐわああああああ!?」

 マキナから発せられた不快な機械音はマイクを通して拡大される。何重にも反響して生まれた不協和音は競技場全域で戦慄いた。

 突然の爆音に観客達は耳を抑えてしゃがみ込む。ニクスも驚いた拍子に枝から足を踏み外し、背中から落下しその場で蹲った。

(いたたたた……何だよ今の音!? マキナ先輩が出したのか!?)

 頭を押さえながら起き上がりニクスは辺りを見渡した。今の怪音波が何だったのかは考えず再び逃げることにしたが、先程まで足場にしていた枝は落下時に折ってしまい、新たに折れにくそうな枝を持つ木を探す必要があったからだ。

 偶然にも最後に使った木の周囲に生えているのは小鳥も乗れない様なか細い木ばかりで、ニクスはその前の木まで戻る必要があった。仕方無くそこまで戻り幹に手を掛けたその時、ニクスの近くからガシャンガシャンという音がした。

(結構離れたと思ったけど、マキナ先輩もう近くにいるのか。早く逃げないとヤバいな)

 ニクスは木から離れ、足音を出さない様にしつつマキナと反対の方向へ走る。足元が不安定になっているので二本の棒でバランスを補っているマキナは足を取られてすぐには来られないと考えたからだ。

 根を踏み幹を避けマキナから逃げ、ニクスは再び別の木の陰へ入った。

(試合終了まで5分と少しか……もう一度先輩が近付いた時に逃げれば何とかなりそうだな)

 しかしその思考とは裏腹に、ニクスは自分の現状があまり良くはないと理解していた。無音で逃げたことによる心身への疲労や、体温上昇と先程かけた水の蒸発によってマキナの目に捉えられてしまう可能性が上がったことが、ニクスの不安を駆り立てた。

 ──ガシャン。

(も、もう近くにいるのかよ! 早すぎるだろオイ!?)

 近付く足音に勘付いて、ニクスは急いで前方百八十度を確認するがマキナの姿は見当たらない。ならば後ろだと把握するが、確認の為に顔を出すのは見つかるリスクが高い。

 隠れている大木のどちら側からマキナが出て来るのか、それを足音で予想して反対に逃げるしかない。ニクスは他の音が聞こえなくなる程にマキナの足音に集中するが、その音はニクスの背もたれとなる木の前で止まった。

(クソッ、マキナ先輩は俺の後ろにいる……突然この真後ろで止まるって、俺の場所はとっくにバレてるのかよ……!?)

 縦横無尽に複雑な逃げ方をしたのだから、いくら体温を見られてもすぐには追い付けないはずだ。背後の気配を伺いながらそう考えていたニクスは、左右へ交互に顔を向けた。

(右か左……ポイントで負けてる分マキナ先輩は動かないといけないんだから、必ずどっちかから出てくるはずなんだ……)

 後輩が思考を巡らせる中、マキナは軽くしゃがみそこから垂直に飛び上がる。五メートル程上の枝の分かれ目へ軽々と着地し、矢をつがえながら再び跳躍する。

(上から……しまった!?)

 風を切る音を感じ取ったニクスが見上げると、自分へ向かって無表情のマリアがボウガンを向けながら落下してくるのが見えた。

「終わりです」

「うわあああああああ!!」

 マキナの矢は重力を乗せて加速し、ニクスの眉間へ寸分狂わず命中する。ニクスは先輩の気迫に絶叫しながらそのまま場外へとワープさせられた。

 こうしてニクスの初めての武闘祭はここで幕を閉じた。呆然としながらニクスが眺めたスクリーンには、無人の森の映像が映り続けていた。



「あっ、お疲れニクス。飲み物とか買ってあるよ」

「……おう」

 第一試合を終えて戻って来たニクスに気付き声を掛ける。やはりというか、ニクスの顔はあまり浮かばれない。

 セレネさんは既に帰ってしまい、ニクスには顔を見せていない。姉が見に来ていたよと伝えるが、ニクスはああそうと言うだけで特に気にも止めなかった。

「……ま、まあマキナ先輩に負けたのはしょうがないよ! 現在のトップ選手なんだし!」

「いやそれは分かってんだよフォルト。あんなに逃げ回ったのにすぐに見つかったのがどうも納得いかなくてな……」

 ニクスは学級長から紙コップを受け取りつつそうぼやく。有利な環境で太刀打ち出来なかったことが余程ショックらしい。

「観客席から見てて何か分かったか?」

「うーん……やっぱりアレじゃないかな……?」

 カルマが映像が半分固まったスクリーンを指差すと、学級長が続きを答える。

「あの音が発生してから、ニクス君の周囲を飛んでいた機械がニクス君を少し離れた位置から撮る様になりました。ニクス君はそれに気付きましたか?」

「先輩に集中してたから全くだよ。でもそれって機械がそう動く様に設定されていたからなんじゃないのか?」

「あの機械には試合の邪魔をしない様に物体を透過する魔法をかけられていて、選手の周囲一メートル以内を離れないよう設定されているんです。なので機械のあの動きは絶対にありえないんです」

「だからマキナ先輩が発した音波が、機械を制御する魔法を変えて自分の思う様に動かせる様にしたとしか考えられないんだ。魔法を音波として飛ばすのは、彼女の種族の特徴らしいね」

「何だよそれ……」

 マキナ先輩の何でもありな能力に、呆れて重く息を吐くニクス。しかしマキナ先輩の驚異の技術はこれだけではなかった。

 カウンセラーさんに答えを問うたところ、なんとマキナ先輩はあの音波でカメラをクラッキングした時にレンズを自身の眼(こちらもレンズだが)と同期させてニクスを探したらしい。これをニクスに伝えると余計に落ち込みそうなのでやめとこう。

「そういやニクス、メリルさんの魔法の効果はあった?」

「前から顔を見ることはほとんど無かったけど、マキナ先輩にビビらずに近付けたから役に立ってたな。今度は無表情のマリア先生が苦手になりそうになったけど」

「うーん、もうそれはニクス君が自力で治すしかないんじゃないかな……?」

 最早ニクスはああいったタイプの女性の無表情が対象の恐怖症なのではないだろうか。セレネさんの無表情でも怖がりそうで、ニクスのこれからの生活が不安になる。

 そんなこんなで雑談を続けていると、第二試合が始まる五分前に放送が入る。

『えー、ここで最新の情報です。ブライアン・ツインレグス選手が体調不良により棄権となりました。よってジーク・オベルジーネ選手、決勝戦進出です。決勝戦の開始時刻は変更しません』

「唐突な棄権ですね。何かあったのでしょうか?」

「そういやさっき廊下でブライアン先輩とすれ違ったけど、何度も前脚を触ってたな。準々決勝で怪我したんじゃないのか?」

「でも前の試合でブライアン先輩は特に傷を負うことなく勝利していましたよ」

「うーん……体調不良で棄権という点を考慮すると、下半身の繁殖期が訪れた可能性があるね」

全員が首をかしげる中、こういった分野に詳しいカルマが一説を唱える。

「えっ、ケンタウロスって上半身と下半身で別の繁殖期があるの?」

「リーゴン先生から以前聞いたんだ。正確には下半身だけなんだけど、だいたい三ヶ月に一回くらいの周期で起きるんだよ。この時下半身は文字通り暴れ馬の様に動き回るようになり、そうなると上半身はその制御に集中しなきゃいけなくなるんだ」

 もちろん昂る下半身の動きを抑えながらでも戦うことは可能ではあるのだが、ブライアン先輩のは他のケンタウロスよりも症状が重いらしく、並以上の実力を持つ彼でも暴れ回る四脚を操りながら戦うのは至難の業だとか。

 体調管理で周期を遅らせるのは不可能で、しかも予測も容易ではない現象なので、大会中に周期が重なってしまったのは不運としか言い様が無い。不戦敗となってしまったブライアン先輩に、俺はご愁傷様でしたと手を合わせた。


 それから一時間半が経過して迎えた決勝戦。進出した選手が共に異常なレベルなためなのか、この試合だけは見逃せないと観客が席を溢れ返らせている。

 椅子の間の階段や最高段のフェンス前も埋め尽くす人々の中心で、決勝へ進んだ二人の三年生選手はやはり平静を保っている。マキナ先輩はしゃがみ込みボウガンを調整し、ジーク先輩はフードを被りスタート地点に立っていた。

 近い位置にいるジーク先輩の姿は細部までよく見えて、準備運動の一つか、彼の口がとても素早く動いているのが分かる。魔法を利用した戦術を得意とするジーク先輩だが、マキナ先輩とのタイマンではどの様な魔法を使っていくのだろうか。

 ニクスに何か情報は無いかと聞いている内に試合が始まる。その戦況は予想通りで、それでいて予想外だった。

『──“冷やせ(ドゥロック)”、──“溶け込め(レートム)”。──“加速せよ(ディスプタスファー)”。──“付け加えよ(ネクサン)分裂効果クラスチックアロー”』

 ジーク先輩は森に入ると木に飛び乗り、リリパット特有の方法で移動しながら続けざまに補助魔法を唱え自身に纏わり付かせる。その詠唱速度は異常なもので、ニクスが一つ唱えるのにかかった時間の七割程で四つの魔法を唱えた。

 マキナ先輩は森の入り口付近でボウガンを構えながら、ニクスが言うところの“熱を見る眼”でジーク先輩を探している。しかしこれまで相手とは違い魔法を使った彼を捉えるのは難しい様で、こめかみに手を添えながら辺りをキョロキョロと見回している。

 ジーク先輩はその隙にマキナ先輩に近付くのかと思いきや、森中を縦横無尽に飛び回り、足場とする木々に矢を一本ずつ置いていく。先程の補助魔法の一つの効果か、ジーク先輩が幾ら矢を消費しても彼の背中の矢筒は満杯に保たれている。

 その映像にニクスは目を見開き、立ち上がって口を開いた。

「えっ、まさかジーク先輩、本気であれをやるつもりなのか……!?」

「ジーク先輩が一体何をするつもりか、ニクス君は知ってるの?」

「ああ……まあ見てもらえば分かるよ。あの先輩の異常な能力が何なのかがな……」

 勝手に盛り上がっている自分のことは良いからとニクスが観戦を促す。

 攻撃の準備は完了したのか、ジーク先輩は五つ目の魔法を唱えながらマキナ先輩へ向かっていく。

『──“狙い定めよ(ミエカート)”』

 ジーク先輩がそう唱え纏めると、マキナ先輩の身体に無数の赤い照準が浮かぶ。

『これは……』

『終わりだマキナ。貯めに貯めた恨み、ここで晴らさせてもらう……!』

 マキナ先輩がボウガンを連射するが、高速で動くジーク先輩にはその内の一本として当たらない。そのままジーク先輩は再び森の中を飛び回り、一際大きな樹の頂上に上がるまでの時間で六つ目の魔法を唱える。

『──“追え(ハーセック)”ッ!』

 ジーク先輩が珍しく叫んだ瞬間、森中に散らばっていた恐らくは全ての矢が彼と同じ高さまで浮かび上がり、合図も無しに一方向、マキナ先輩の元へ飛んで行く。

『くっ……』

 無数の矢の強襲をマキナ先輩はかわすが、数の暴力の前には焼け石に水の様で、二十本に一本程の割合でマキナ先輩の体力が削られていく。それでもその場から逃げたところで矢が追尾してくることは明白なので、マキナ先輩は黙って躱し続けるしかない。

 まるで今までの戦いとは正反対に攻撃の隙を全く与えられないマキナ先輩。無限とも言える量の矢を浴びること三分、彼女は何とも言えない表情を矢の飛んで来る方向へ向けながら、静かに森から転移した。

 同時に笛が鳴り、ジーク先輩の優勝が決まる。両者ほとんど弓を使っていない戦いに歓声よりもどよめきが大きく響く。

「まさか弓術部門なのに弓を使わずに優勝してしまうなんて……」

「弓術部門のルールでは直接魔法で攻撃するのは禁止にしてるけど、魔法で矢を放つのは禁止じゃないからな。武闘祭マニアのレオン親衛隊長でもジーク先輩みたいな優勝者はなかなか見てないと思うぞ」

「しかしニクス君の言う通り、彼の詠唱力と魔力量は異常ですね。あれは何か理由があるのですか?」

「オベルジーネ家って、舌とか口周りとかの筋肉が他の一族と比べて発達していて、詠唱を速く出来るから魔法の扱いが得意なんだよ。更に魔力量も多いんで短時間で複数の魔法を使えるから、ジーク先輩は“絶殺ぜっさつ機械女六連術”が出来たんだ」

 ニクスの言った必殺技みたいなのは、先程の試合でジーク先輩が披露した六つの魔法──冷却上級魔法“クール”、隠伏中級魔法“アシミレーション”、加速中級魔法“スピードアップ”、付加魔法“アード”、照準魔法“ロックオン”、追尾上級魔法“ホーミング”を組み合わせた一連の魔法攻撃のことらしい。

 名前はジーク先輩自身が名付けたもので、彼が学年トップから落とされたことをかなり恨んでいることが良く分かる。もしもルールが無ければ、ジーク先輩はマキナ先輩が粉々になるまで矢を放ち続けていたのだろう。

 そうニクスが解説したところで表彰式を開始するという旨の放送が入り、ニクスは慌てて観客席を駆けて行く。もう少し時間を開けて選手達の体力が回復してからでも良いんじゃないか?

 そして放送通りすぐに表彰式が始まり、ジーク先輩、マキナ先輩、ニクスが式台に上がった。表彰慣れしていたりそもそもそういった感情を持たなかったりする先輩陣に対し、ニクスは若干引きつりながら銅メダルを首に掛けてもらっている。

 プレッシャーは克服したはずなのにああなっているとは、やはり表彰式となると緊張の度合いは段違いなんだろうか。

「あっ、もしかしてニクス君、マキナ先輩を先生に見せる魔法が解けたんじゃ……」

「……ああ、なるほど」

 ニクスのマキナ先輩への根本的な恐怖は消えたわけではないのだから、彼女を近くで見たら確かにああもなるだろう。もしニクスが決勝に進出してたら大惨事となっていたかもしれない。

 最後までは引き締まらないのはニクスらしいのかもな、と感じながら俺はその姿を眺めていた。



 日程が早く終わった分、俺達は日も沈む前に解散となった。ニクスのための打ち上げをしないかと誘ってみたが、「二人は明日試合があるのですから、今日はしっかりと休むべきですよ」と学級長に言われたため仕方なく帰宅している。

 学級長の言う通り、俺とカルマ、そしてジョーは明日からが本番だ。種族固有の症状とかが突然出ない限り、体調不良で棄権なんて事態は避ける必要がある。

「フォルト様、魔王城に到着致しました。ご夕食は普段通りの時刻からですので、しばらくはご自由にどうぞ」

「分かりました」

 俺は明日の準備をするために直接自室に向かい、仕掛けを作動させて勉強机を出現させる。机に置かれた模造刀を手に取り、その刃を鞘から半分ほど抜き出す。

「それにしても、何度見ても良く出来た模造刀だよな……」

 シャンデリアからの光を吸収して煌めく刀身を眺めそう漏らす。

 武闘祭で使われる武器には、刃の部分に特殊な鋼が使われている。この金属には光を吸収する特性があり、これまた特殊な砥石で磨くと鏡の様に輝く刃が生まれる。

 その加工は難しく、魔王城に認定された名工の数人にしか出来ない。出店の中には彼らが造った模造刀の縮小版を売っている所もあるが、そのどれも値段が軽く十万ゴールドを超え、修学旅行のお土産感覚で手が出せない代物なのが加工の難易度を物語っている。

「そんな武器を選手一人一人に貸し出すなんて、金の使い方に躊躇いが無いよなぁ……ん?」

 刃に反射した部屋の光景の隅に、それまでは無かった人影がある。その人影は重厚な鎧を纏っているのに無音で俺に近付き、抜き身の剣をこちらに向けている。

「えっ……!?」

 なんだこれと驚き振り向くが、そこに騎士の姿は無い。まさか背後にいるのかと壁に寄りかかり、カウンセラーさんを呼び出す。

(ルシアさん、僕の部屋を調べてください! 甲冑姿の何かがいます!)

(──調べましたが、特に怪しい存在は見つかりませんでした)

 三十秒ほどして返ってきた報告に俺は耳を疑った。

(そんな! 僕はしっかりと見たんですよ!?)

(申し訳ございませんが、私の調査は。試合本番を明日に迎え、疲労と極度の緊張から幻覚を見てしまったのではと私は考えております)

(幻覚……)

(早めの就寝をお勧めします。お夕食の準備が整いましたので、これからお迎えに向かいます)

(は、はあ)

 幻覚という仮説にいまいち納得出来ないが、しばらく経っているのに俺自身には何も起こらないのでその線は濃厚なのだろう。もう一度模造刀の刃を見てもあの甲冑が現れることも無いから、無理に気にする必要は無いし。

 俺はカウンセラーさんの言う通り今日は早く寝ようと予定し、丁度迎えに来た彼女の元へ歩み寄った。

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