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六日目:中間休憩

遅れました。

 全ての部門の予選が終了し、武闘祭もひとまず落ち着いた雰囲気となる。選手達にとって何の予定も入っていない本日六日目は、ゆっくりと休息をとるのに大事なものとなるのであった。

 しかし選手達の休みはあっても武闘祭全てが一日お開きになる訳ではない。本戦出場が決まった選手への壮行と、武闘祭を後半にかけて更に盛り上がらせるため、歌劇団や演劇団、サーカス団など様々なジャンルで魔界中から集められた一流のパフォーマンス集団によるスペシャルショーが行われるのだ。

 どこの集団にも普段の公演とは別の演目を準備していただいたらしく、レギオンに至っては開会式の振り付けも含め三種類練習していた様だ。クリスさん達にはありがたいを通り越して申し訳ないとさえ感じてしまう。

 恩返しと言うのは大袈裟だが、彼らの迫真の演技を客として観ることで、その演技に参加させて頂いたことを感謝することは出来るだろう。

 そういった社交面を置いといても、魔界中のパフォーマンス集団の合作と聞けば一体どういうものなのかと気になるのは当然だ。休める体も元から無いし、明日は思う存分ショーを楽しむことにした。


「──で、僕は何で楽屋で軟禁されているんですかね……?」

 あそこまで綿密に予定していても、その通りに事が進むとは限らない。競技場に来て早々これまでとは別の楽屋に入れられた俺は、これは一体どういうことなのかとカウンセラーさんに嫌みったらしく聞いた。

「今度はマジックショーのアシスタントでもするんですか? ことあるごとに宣伝を捻じ込んだら嫌われそうな気がするんですが」

「いえそうではございません。昨日の騒動の一端が競技場の方の耳に入ってしまった様で、フォルト様に危害が及ばぬようお守りしながら犯人を捕まえろという命令が出されたのです」

「それで閉じ込められているんですか!? でもそれだったらここに連れてくる必要も無いんじゃ……」

「ヴィンセント様からのご命令で昼食をこちらで摂らなければならないことを述べたところ、そちらも同時にこなすためにフォルト様を連れて来る様に頼まれたのです」

「そんな無茶苦茶な……」

 運営側はとにかく魔王に良い所を見せることに躍起になっている様だ。身勝手な要望でこっちの行動を制限されては迷惑なことこの上ない。

 一応早く捕まえればすぐに解禁されるらしいのだが、カウンセラーさんは苦戦しているのか、一日経過して何の手掛かりも掴めていないと言う。このままでは今日のショーどころか決勝トーナメントの観戦も危ういのではないだろうか。

「我々もフォルト様がショーをご観覧になられる様最善を尽くしますので、今暫くご辛抱申し上げます。ご昼食にと運営様より二万五千ゴールド頂いておりますので、どうぞ気ままにご要望ください」

「分かりましたよ……じゃあショーのパンフレット買って来てください。それで時間を潰すんで……」

「承知致しました。他の従者へテレパシーを送ります」

「はあ……カルマ達と約束してたのになあ……」

 その場で目を瞑り電波を発信するカウンセラーさんを眺め、俺は憂鬱な一日になりそうだと感じるのだった。


 二時間ほど経過して、突然楽屋の前が騒がしくなった。どうやらショーの第一部が終了した様だ。

 そろそろお昼にしようかとカウンセラーさんに声を掛けようとすると、ドアが三回ノックされる。カウンセラーさんが用心してゆっくりと開けると、両手にビニール袋を携えた学級長が立っていた。

「お久し振りですね」

「え、エリスさん!? どうしてここに!?」

「先程カルマ君とエマさんにお会いして、あなたを見ていないと言われて探していたのですよ。これは事情を聞いた彼からの差し入れです」

 手渡されたビニール袋には、七種の料理のオードブルが入っていた。わざわざ別の紙皿に移してくれているところに二人の温情を感じる。

「カルマ君達はあなた達三人も誘ってショーを観るつもりだったそうですね。結局三人とも待ち合わせ場所には来なかった様ですが」

「僕だけじゃなくて他の二人も?」

「ジョー君は私も見ていませんが、ニクス君は別のリリパット──恐らくジーク先輩に連れて行かれている姿を遠目に見かけました。カルマ君に連絡が行ってないところからして、ニクス君にも急用が入ってしまったのでしょう」

「な、なるほど。今度三人でカルマに謝らないといけないなあ……」

 それにしてもジョーはどうしたのだろうか。ショーを観るのを止めたとしてもアイツなら必ずカルマのところまで行って連絡を入れるはずなのに、それを怠るというのは不可解なものがある。決勝トーナメントの為の調整に躍起になってないと良いんだが。

「それにしても、本当に久し振りだよねエリスさん。ここ4日間は“基準生”としての仕事があったの?」

「……まあそんなところです。大会に参加しない分、私達に別の役割が課せられるのは当然ですから。実はこの後ショーの終了時にも、演者の皆さんへ花束を贈る役割を任されているんです」

「大変だね……その様子だと次にまともに話せるのは武闘祭が終わった後になるね」

「何を言ってるんですか、今日は花嫁修行の日だということを忘れてませんか?」

「あっ、そうだっけ?」

「一週間も経っていないことを忘れたのですか? はあ……」

 そういえば前回学級長が来たのは開会式の2日前だった。あまりに熱狂し過ぎて忘れてしまっていた俺に、溜め息を添えて呆れる学級長。

「まあそういう訳なので、私はもう出ます。ではまた夜に会いましょう」

「あーうん、じゃあねエリスさん」

 学級長が部屋から出て行き、部屋にいる人物は俺とカウンセラーさんだけに戻った。

 お昼の準備は私が行いますとカウンセラーさんが言うので、俺は彼女が紙皿を並べているのを眺めながら学級長の今日のスケジュールを反芻した。

「そういえば、もし今日中に不審者が見つからなかったら僕はここに泊まるんですか?」

「競技場側の対応によりますが、十九時前後にはご帰宅出来ると考えております」

「そうなんですか?」

「ヴィンセント様の名前を用いての約束をしている以上、遅くまでの拘束は出来ないはずですので。まあ、明日も同じ様にこの部屋に入るのは確定しておりますが」

 いちいち面倒なことをさせるよ運営はと思いつつも、帰るのが遅れて学級長に何か言われる事態にならないことがほぼ確定して俺は安堵した。


 掴みどころの無い不審者の逃走劇は長期戦にもつれ込むと考えていたが、その結末は呆気なく迎えられる。昼食を取って軽く微睡んでいた俺の元へ、親衛隊員の一人が颯爽とやってきた。

 彼の報告によれば競技場の一番奥にある倉庫の更に奥で倒れているメイドの姿を発見したとのことで、すぐに彼女の保護を行ったらしい。

「彼女のいた倉庫はほとんど使われていない場所であり、外側から施錠がなされていました。内部には“通信妨害呪文”がかけられていたことと外部の監視カメラに倉庫へ入る人物が映っていなかったことから、彼女は直接倉庫へ転移したと考えられます」

 報告を聞くやいなやメイドからパペットボードを即座に回収したカウンセラーさんがそう補足する。随分と分かりやすいところに隠れたなと思ったが、四半日放置されてた辺り絶妙な加減でスルーされてしまっていたのだろう。

 何はともあれ俺はようやく楽屋から解放され、第二部からショーを観ることが可能となった。自由席は無いだろうから最上段から立って観ようと考え、ベストエリアを探しに競技場を回る。

 半周程したところで人の入りが少ない場所を発見し、そこに陣を取りフェンスに体重を掛けた。

「あれ? なんでこんなところにフェルトがいんの?」

 しばらくして発生した、明らかに俺を指した声(にしてもフェルトは無いと思うが)に振り向くと、驚いた顔をしたメリルさんが立っていた。

「なんでって、ショーを観るために来たんですよ。それ以外に目的は無いです」

「座席取ってなかったの?」

「少しトラブルがあって午前中は来れなかったんですよ。カルマ達と待ち合わせはしてたんですけど、カップル二人きりになっているところに水を差すのは野暮ですし」

「ふーん……」

 興味無さそうに相槌を打つメリルさん。その頭にはドラゴンを模したリアルなお面を二つ斜めに被っていて、手には何故かリンゴ飴だけを五本持っている。その珍妙な姿だけで彼女が今日の祭りを満喫していることが見て取れた。

「実行委員の仕事は休みなんですか?」

「有力選手のインタビューが大方終わったのよ。まだ残ってはいるんだけど、人数が余っているから一年生の委員は今日の午後は丸々自由行動ってわけ」

「じゃあ来年からは大変ですね」

「来年も実行委員やってたらの話だけどね。内申点は稼いでおきたいから、どんなに面倒でもやるつもりなんだけど」

 そう言うとメリルさんはリンゴ飴を一本もう片方の手に持ち替え、上側の平らな飴の部分を歯で砕き舌で転がし始める。

「そういえば話変わるけどさ、ニクスに見せる幻覚の顔って誰が良いの?」

「えっ、ニクスやデイジーさんから聞いていないんですか?」

「ジーク先輩とかブライアン先輩みたいな他の選手が良いってニクスが言ってたのよ。でもそれだと同じ顔の選手が二人いて紛らわしくならない?」

「別の顔にすれば良いじゃないですか」

「無断で変えたら予定と違う顔にニクスが驚いて試合に影響が出ちゃうかもしれないじゃない。その辺はちゃんと折り合い付けたかったんだけどさ、肝心のニクスがジーク先輩達に拉致られて話し合いが出来ないのがキツいのよ」

「メリルさんもニクス達を見かけたんですね」

「弓術の決勝まで三日あるとはいえ、一番暇な今日決められないのはかなり大変だわ。ジーク先輩が何考えてるのか分かったもんじゃないし……」

「フェアな勝負をするために、先輩として決勝のルールを教えているだけなんじゃないですか?」

「そうだと良いんだけどねえ……」

 溜め息を吐いて珍しく不安を訴えるメリルさん。余程ジーク先輩の行動目的が気になる様だ。

 俺もメリルさんと同じだが、本人達がいない今何を気にしても何かが変化するわけではないのは分かっている。下手に詮索するのも無粋だし、今はショーを楽しむことに専念しよう。

 そう俺が行動を決定したところで、ショーの第二部を開幕するドラムロールが鳴り始めるのであった。

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