五日目:剣術部門予選
武闘祭五日目。昨日までの秋晴れが嘘だったかの様に早朝から雨が降っている。
競技場には雨天時に閉じる半球形の屋根が備え付けられていて、今日はそれが存分に活用されている。故に競技場の中からは灰色の空よりも更に重苦しい、鉛色の板と吊るされた無数のライトしか見えない。
そしていよいよ始まった剣術部門の予選だが、これにも特殊なルールが敷かれている。出場者が二百人以上と他の部門に比べて格段的に多いので、予選からトーナメントを作るわけにはいかないのだ。
そのため剣術の予選では、まず全選手を3つのグループに分けており、そのグループ毎に21人が残るまで戦い続けるというルールになっている。グループ内で戦う組分けはされておらず、一対一だけじゃなくて個人対大人数の変則バトルも許されているため、試合の様相は開始早々よりごちゃごちゃしているの一言に尽きる。
幸い第1グループ内にジョー達はいないので、起きてすぐから大都会のスクランブル交差点並みの乱雑な景色を注視する必要は無い。そんなことから予選をマクロで見ていると気になったのは、時折フィールド上から発する青白い光の柱だ。
他の部門であんなの無かっただろとここで試合を良く観ると、光は斬られた(もちろん模造刀なので血は出ていない)選手が倒れた時にその選手を包み込む様に発生していることが分かる。光が消え去ると同時に、中にいたはずの選手はその場から消え去っていて、数秒と経たずにフィールドの外で転がっていた。
パンフレットを読んでみると、どうやらあれは敗北した選手を強制的にフィールドから出すための“転移魔法”の効果らしい。大混戦となることが確定している中で倒れた選手を試合の妨げにならないように運び出すための模範解答だ。
敗北の基準は頭部か胸部へ重い一撃が入った時や、それ以外の部位に致命傷レベルの攻撃を受けた場合とされている。これは他の部門も同じで、入院沙汰にならない様に選手が胸部と関節に着けているプロテクターにはバリアを張る“障壁魔法”がかけられている。
更にプロテクターにはそれに付属して、受けた衝撃の大きさを測る“計測魔法”がかけられている。これと“転移魔法”が連携して発動することで、安全性を保ちながらも選手達は本領を発揮した戦いが出来るようになるのだ。
物凄いアイデアだなと思いながらパンフレットを眺めていると、左隣の席に誰かが座ってくる。顔を上げて確認すると、こちらの顔を見て会釈するデイジーさんの姿があった。
「あれ、インタビューはどうしたの?」
「私の話し方がインタビュアーには不向きなのでインタビュー担当はメリルさんとほかの人で……そういった理由があってこの時間帯は休憩となったので、私はこの試合を観に来たのです……あなたに伝えたいことが2つありますし……」
「伝えたいこと……?」
俺は手元のパンフレットをしまい彼女を向いた。
「まず一つ目は、開会式での演出について……私の母がプロデュースした、クロノレイン王の衣装を着てくださってありがとうございました」
「えっ、あれ作者さんが用意してたの?」
「劇団レギオンの方が私の家にやって来て、衣装を作る際のアドバイスを母に聞いていたのです……私は兵士達の衣装だけと把握していたのですが、まさかフォルト様がお召しになられるクロノレイン王の衣装も頼まれていたとは考えていませんでした……」
「そ、そうなんだ」
「しかし何も知らなかったお陰で、フォルト様の演技を純粋に楽しむことが出来たのも事実です……」
困惑はしているものの、デイジーさんは演出自体には満足してくれたらしい。一つ目の通達を聞いて俺はまずは安心した。
しかしその解れた空気は、その次のデイジーさんの言葉で再び固くなった。
「二つ目はニクスさんとマキナ先輩について……どうやらマキナ先輩は、ニクスさんに敵意を向けている様なのです……」
「ええっ!? 一体どうして!?」
「マキナ先輩は以前ニクスさんが自分に向かってわざと矢を放ったことを覚えていて、そのことを深く根に持っている様なのです。ニクスさんが彼女を意識しているのはその為なのではないでしょうか……」
「えええ……まさか、ニクスがそんなことするわけが無いよ」
リリパット族の名を大切にしているニクスが、先祖代々伝わる武器をわざと人に向けるはずがない。きっとそれはガセネタのはずだ。
そうであって欲しくないという望みを込めて俺は否定する。するとデイジーさんは何故かホッと溜め息を吐いた。
「そうですよね……あなたならそう言うと思っていました」
「ど、どういうこと?」
「実はこの話はここに来る途中、自らを魔王城で働く者だと名乗る女性が教えてくださったのです……本人はこの話は本当だとおっしゃっていたのですが余りにも信じがたい話であることと、何故そんな情報を知っているのか怪しかったことからあなたに教えたのです……」
確かにニクスとマキナ先輩のことを魔王城の使用人が知っているのはおかしな話だ。またカウンセラーさんに捜査依頼を出しておこう。
(ルシアさん、デイジーさんに接触したらしい魔王城の使用人を探してください。その人もパペットボードで操られていた可能性があります)
(承知いたしました。結果が分かり次第テレパシーを送ります)
何度も同じ様なことがあるので、カウンセラーさんも俺もこの類の騒動への対応が早くなってしまっている。迅速な対応が出来ることは悪いことではないのだが、それだけ騒動が頻発しているということが何かの兆候の様で不安なのだ。
「デイジーさん心配しないで、ルシアさんにその人を探すよう頼んだよ」
「い、今頼んでいたのですか? 数秒黙っていた様にしか見えませんでしたが……」
「まあちょっとした方法でね。後でその人に直接聞いてみるから」
「まさかわざわざそこまでしてくださるなんて……」
「僕が真相を知りたいだけだから気にしないで。それよりも、これをニクスにも追及しないと」
故意かどうかは定かでないが、ニクスがマキナ先輩を恐れる理由はこれに違いない。アイツにマキナ先輩への苦手意識を克服させるためには、やはりこのことをぶつけ本人から真相を聞く必要があるだろう。
そう再決心したと同時に、第1グループの予選の終了を知らせる笛が鳴り響いた。
「──はあっ!? 俺がマキナ先輩にわざと矢を放ったって!?」
第2グループの選手が入場する十分前。インタビューを終えて観客席にやって来たニクスは俺とデイジーさんに問い詰められそう叫んだ。
「何だよそのガセネタ!? あの先輩にんな真似出来るわけねーだろ!」
「まあそうだろうね、僕もそう思ってたよ。昨日の残りだけど食べる?」
後ろの席に座るニクスに少しふやけたフライドポテトを勧めつつ俺は共感する。
「ではマキナ先輩がニクスさんに敵意を向けているということも無いのですね……?」
「うーん……それはあるかも知れないんだよなあ……」
「矢を向けた訳でもないのに?」
「……正直に言うよ。実は矢をマキナ先輩の近くに飛ばしたことはあるんだ。合同戦術授業の時にな」
ポテトを10本程鷲掴みながらニクスが話し始める。メーティス学園では五月の中旬頃から二週間、全学年合同でそれぞれ戦術の授業が行われる。同じ競技を新入生と在校生が交じってやることで三学年間の交流を促すのが目的らしい。
「“超越生”の肩書きって専攻してすぐの一週間にやる実技テストで決まるだろ? その頃既に俺は“超越生”に選ばれてて、授業初日に行われる学年別のパフォーマンスをすることになったんだ」
そして授業初日、弓道場に30人弱の弓術専攻者が集まる。その中でニクスが行うのは、一昨日彼が行っていた様な曲射であった。
「当日になって、俺は先輩達の前で良いところ見せなきゃどうすんだと自分にプレッシャーを掛けてしまった。弓の弦よりも張り詰めた緊張感の中、体重移動に失敗して倒れ込む俺の手から矢が離れ変な方向に飛んで行った。起き上がった俺の目に最初に飛び込んで来たのは、顔の横に飛んで来た矢を2本の指で受け止めたマキナ先輩が、どんな感情なのか分からない顔で『これくらいのことでプレッシャーに負けるなんて、“超越生”としての意識の持ち方がおかしいのではないですか?』って言ってきた姿だった」
「意外と普通の説教だね」
「内容は普通だが、それを発したマキナ先輩の顔は異常に恐ろしく感じた。あの顔を俺はもう一度見たくはない」
「それがマキナ先輩を避ける理由だったのですか……」
「だけど弓術の決勝トーナメントは予選と違い一対一での戦いだ。顔も見えないんじゃまともな勝負は出来ない」
「棄権する気は最初から無いんだよね?」
「当たり前だろ? “超越生”の名がどうとか関係無く、この大会はこれまでに俺がしてきた努力の全てを見せる場所なんだから棄権だけは考えてないぞ」
「でもマキナ先輩が?」
「メチャクチャ怖い。ぶっちゃけ、棄権の代わりにマキナ先輩と当たらないで勝ち上がれないかずっと考えていたんだよな」
それはそれでどうかと思うぞニクス。もう少し集中して練習しとけよ。
「ていうかさ、結局のところニクスはマキナ先輩の顔が怖いだけなんでしょ?」
「そうなんだよなあ……あの顔が見えなければ何とかなるかもしれないんだけどな」
「目を瞑りながら聴覚と勘で戦うの?」
「そんな技術持ってねえよ」
「じゃあ、マキナ先輩に屋台で売ってるお面でも被ってもらうとか?」
「いやそんなの無理だろオイ。あの先輩がそれに応じてくれると思うか?」
「じゃあ一体どうしろって言うのさ?」
「あの……魔法でマキナ先輩の顔を変えるというのはどうでしょうか……」
難しいお題に口論になりかけたところで、申し訳無さそうにデイジーさんが割って入った。
「以前本人から聞いたのですが……メリルさんは昔から“幻覚魔法”を覚えていたが故にほとんど現実と変わらない幻覚を見せることが出来るそうです……」
「やけに凄い能力を持っているねメリルさん……ほとんど現実と変わらない現実って例えばどんなの?」
「彼女の持ち出した例を引用すれば、木に生っている物から市場に出ている物まで全てのリンゴが紫色になっている以外は変化が無い幻覚も作り出せるそうです……メリルさんの力なら、マキナ先輩の顔だけ違う人の顔になっている幻覚をニクスさんに見せることが出来ると私は考えたのですが……」
「よし、それで行こう!」
バッと立ち上がりデイジーさんに指を突き付けニクスが決断した。希望に満ちた声色から、今すぐにでもその幻覚に包まれたいという希望が見える。
「ちょっ、決断するの早くない!? 確かにデイジーさんが出してくれた案は良いと思うけど、別の案を挙げて比較してみるとかしないの!?」
「いや、これ以上のアイデアはねーだろ! マキナ先輩の顔が別人に変わるなら怖がらないで済むし、本気で勝負出来るはずだ! 頼むデイジー、至急メリルに頼んでくれるか!?」
「構いませんが、メリルさんはインタビュー中ですよ……?」
「はっ、そうだった!」
今の今まで彼女と対話してたのは自分だというのに、それを忘れるほど浮かれていて大丈夫なのだろうか。顔とか関係無しに隙を突かれ、初戦開始二分で撃沈してしまいそうだ。
「少なくとも午前中いっぱいは忙しいだろうし、メリルさんが休憩に入るまで観戦するしかないね。そもそも今日はこっちが本命なんだし」
「それもそうだな。じゃあちょっとジュース買ってくるわ」
席を離れ小走りで外へ向かうニクスを見送り、俺はデイジーさんに振り向いた。
「──デイジーさん、急に決定しちゃったけどメリルさんの今後のスケジュールって大丈夫なの? 本当は駄目なのに無理して言ってくれたんだったら、ニクスに言い聞かせて別の案を探すけど……?」
「私達広報部はスケジュールの急な変更が殆ど無いので大丈夫なんです……それに……」
「それに?」
「あなたには開会式のご恩があります。なので出来る限りのことを協力してその恩返しをしたいのです……」
「へ、へえそうなんだ……」
恩返しって……推しキャラのコスプレってそこまで感謝されることか? しかも恩返しで相手の友人のトラウマの克服まで協力することなのだろうか?
デイジーさんの厚意を素直に受け取れないのは俺が捻くれているせいだが、それにしても彼女の行動する動機は重く感じる。これまで普通に接してきたデイジーさんに恐怖心を抱いたのは初めてだった。
彼女も実は武闘祭に内心高揚していて、その感情が爆発して行動的になっているのだろう。そう俺は決め付けたかったが、結局ニクスが戻って来るまでデイジーさんをまともに見れないほど動揺していた。
思わぬ緊張を俺が体感している間に、第2グループの選手は次々とフィールドに入り始める。このグループには知り合いの中ではカルマが振り分けられているらしいが、どこにいるのかは分からなかった。
選手達がある程度散らばったところで主審の笛が響く。選手達は声を張り上げながら相手に向かい得物を振り被る。
フィールドの至るところから飛び出す唸り声と鋼の打ち合う音がドーム内で反響し、光の柱があちこちに立っては消える。試合開始から五分と経つ前に、50人もの選手が脱落した。
開始からの10分に脱落した選手の大半は結果的に一年生の実力が有って無い様な下位選手ばかりで、この光景は“洗礼”という名で広まっているほど当たり前となっている。ここからは残った選手達の熾烈な争いが始まり、脱落する頻度も劇的に低下する。
一対一で戦う一組に注目しても、一方が連続で攻撃するともう片方がそれを防ぎ切り、一瞬の隙を突いて反撃に出ると今度はそれを防がれるといった具合に選手同士の実力が拮抗しているのが見て取れる。それに加えて他の選手から入れられた横槍にも対応するのを、大体の選手がこなしているのだからレベルの違いが良く分かるものだ。
しかしどんなに凄い試合でも、同じ展開を三十分程繰り返されては飽きてしまう。ニクスはちょくちょく欠伸しているし、デイジーさんも一応観戦しているとはいえ同時に何やらノートに書き込む作業(まあ十中八九実行委員会の仕事だろう)をしていて観戦に集中していない。周りには席を立つ人や野次を飛ばす人もちらほら見えた。そりゃ余りにも実力が同じぐらいだからって全員が諦めずに同じパターンで戦い続ける塩試合を見せられては、「どっちも頑張れ」と言うよりは「早く終わってくれ」と言いたくなってくるだろう。
この陰鬱した感じと光景、昔何かの映画で感情のある動物とその動物のクローンの軍団が涙を流しながら殴り合うシーンを見ていたたまれなくなったのを思い出す。こっちには感動も当事者の涙も皆無だから一緒にしたらあの映画のファンにぶっ殺されそうだけど。
この試合の千日手具合に当然ながら競技場の運営のお偉いさんも怒った様で、試合開始から40分経過したところで試合を中断する笛が鳴る。選手全員に指導が入った状態で試合は再開した。
指導とは言うがルール的にはイエローカードに近く、もう一度指導を受けると強制的に失格となるらしい。そのプレッシャーが功を奏したのか、しばらく見えなかった青い光が少しずつ昇り始める。
そしてそれから12分が経過したところで、生き残る選手の数が21人となり予選第2グループが終了する。驚いたことに、その中には全く見えなかったカルマもカウントされていた。
「実は僕、試合開始から姿を見えなくして潜んでいたんだ。卑怯だと自分でも思ったけど、まともに戦うだけじゃ勝てない相手にはこういった戦い方もしなきゃいけないからね」
観戦組に合流したカルマに俺が聞くとそう答える。あんな戦いの中でどうやって姿を消す呪文を詠唱したのかについても聞いたが、カルマにとってそれは戦術の根幹に関わることらしく教えてくれなかった。
そして午後になって第3グループ、ジョーの出番が遂に始まる。試合が始まった瞬間、ジョーは近くの選手を一人斬り伏せた。
他のグループに比べこの第3グループには実力者が集まった様で、苦戦する相手が多くいる状況にジョーもカルマ同様に非情な戦法を採るしかないようだ。倒した選手の光柱を飛び越えながらジョーがさらに撃破数を上げていく。
既に“洗礼”によって同期がほとんど脱落していて、ジョーは彼らの敵討ちと言わんばかりに上級生の選手が集まるエリアに飛び込んだ。そこからはもう、息を吐く暇も与えない様な猛攻の始まりだった。
まずジョーは奇襲に戸惑う選手を斜めに斬るとその背後にいた選手の頭を剣の腹で思い切り叩く。二人の選手が青白い光と変わり始めるとジョーは消えゆく彼らの肩に飛び乗り、折り畳んでいた深紅の翼を展開して飛翔した。
低空飛行を維持したままジョーはフィールドの反対側まで移動すると身体を空中で逆立たせて降下する。地面スレスレでジョーは地面と平行に飛び、高速でその横を通り過ぎながら四人の選手を切り捨てた。後はこれの繰り返しである。
高学年の有力選手はまだ本気を出した様な素振りを見せていないためにジョーだけが集団の中で圧倒的な強さを誇っている様に見え、歓声が一年生の声で染まる中俺は呆然していた。あれだけの実力を持つ男とただただ戦うだけじゃなく、レオン親衛隊長が望む様に圧勝しなければならないという現実を突き付けられたからだった。
軽く眩暈に苛まれる俺とはよそに第3グループの予選が終了する。剣術の予選全体での最高撃墜数35を記録して、ジョーは決勝トーナメントに進出するのだった。
競技場の選手控室。今日の全ての試合が終了し、内部は選手達から立ち込める汗と熱気で充満していた。
第3グループの台風の目となり、上級生よりも多くの活躍を見せたジョーは他の一年生の選手に囃し立てられて照れ臭そうに顔を撫でながらこの部屋を後にする。廊下に出た途端にジョーに触れる風は屋内であることを忘れかける程に冷たかった。
気温の管理された競技場内で一日のほとんどを過ごしたために、外の空気が相対的に寒く感じるのだろうかと考察しながらジョーは出口に向かう。
他の通路との合流点に着いた時、ジョーは足を止めた。
「あれは……ルシアさんか?」
ジョーがふと眺めた通路の先にはフォルトの使用人、ルシアの姿があった。何かの作業中の様で、抱え持つクリップボードを見つめている。
普段ならばジョーは特に気にもせず歩を進めるのだが、他に誰もいない往来の真ん中で立っている彼女の姿が妙に気になって動けなかった。
当然その視線にルシアが気付かない訳が無く、硬直しているジョーに向かって来る。
「どうかなさいましたか、ジョー様」
「……あー、ルシアさんどうも。いや、ただルシアさんがいるなと見ていただけですよ」
「そうですか。──そういえば、ジョー様にフォルト様より伝言がございます」
「フォルトから?」
「昨日同様に予定されていたジョー様及びカルマ様の決勝進出の祝賀会は、不審者の出没により中止となりました」
「不審者? そんな騒ぎが起きてたんだな……」
「不審者の姿は我々と同じメイドの姿をしております。怪しいメイドが奇妙な問いかけをしてきたら至急近くの警備に通報してください」
それでは、とルシアはジョーの横を通り過ぎて行く。何があったのかは一切伝えてもらえず淡々と注意喚起されて、ジョーは困った様に首を傾げた。
「怪しいメイド、か……まあ、魔王城のメイド達に紛れられるとはいえすぐに捕まるんだろうな……ックション!!」
冷気にやられたのか、ジョーは号砲の様なくしゃみを響かせる。その轟音は反響して廊下の奥まで飛んで行った。
「風邪ひいたかな……早く帰らねえとまずいか」
体調不良で棄権してしまうのは“超越生”の名にかけても避けたい。そう考えたジョーは競技場を飛び出して飛翔するのだった。




