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三・四日目:弓術部門予選 ~後編~

 弓術部門の予選についてルールの説明をしたい。予選は二種類の競技で決勝トーナメント進出を争い、今日行われる前半競技は分類でいうと得点制の射撃競技である。

 縦70メートル、横65メートルのフィールド内にランダムに設置された10種類30個の的を同じ30発以内に射抜き、獲得した得点で優劣を争う。実際の戦いの事を意識している様で、チャンスは一人一度きりしか無い。

 点数の高い的は基本的に遠い位置にあったり、別の的で隠されていたりする。それにも当てられる様に選手はフィールドの横幅内なら左右に移動する事が出来るが、その場で全て撃ち抜くことも不可能ではないらしい。時間を競うのは得点が同点かつミスした回数も同じだった時だけなので、わざわざリスクの高い技を競技でやる人は少ないのだが。

 選手の競技中、フィールドの周囲には魔法でバリアが張られていて、的に当たらず場外に出そうになった矢は全て半透明の障壁で外に出ないようになっているので、観客席や待機中の選手に被害が及ぶことはまず無い。競技中の選手の周囲にも透明にした同じバリアが張られているが、これは何らかのミスで跳ね返った矢が刺さらない様にするためだ。

 使用する弓は規定に反しない物であるなら長弓、短弓、ボウガンから選択でき、その一張だけを用いて競技を行う。途中で故障したらその場で失格となってしまうので、各選手の挑戦前にメンテナンスの時間が設けられている。弓術の予選が一日かかるのはこのためだ。

 最後に魔法についてだが、弓術部門だけ弓と矢に効果を付加するもの(ただし中級魔法までに限られるものを最大五種類まで)は良くて、視力向上、肩力強化など身体能力を向上させる魔法はドーピングで反則になるという特殊な線引きがされている。あくまで弓の技術で争う競技のため、付加魔法も技術の内ということだ。


 抽選で競技を行う27人の順番が決められ、トップバッターの一年生の選手が競技に移る。選手の集中を気遣い、先程までの歓声は打って変わって静かになっていた。

 選手が長弓で一本目の矢を放った途端、二台の水晶スクリーンに無数の数字が一列に表示された。的に矢が刺さる度に上昇する数字が得点、絶えず上昇していくのが時間、それらに対し30から減少するのが矢の残り本数を表している。

 見守る視線をものともせず、選手は的を次々と射抜いていく。彼の作戦は5点の緑色の的から小さい的を先に狙っていくという、大抵の選手が行う安定を狙ったものだった。

 しかし後半になってからは経験の少なさが災いしたか、遠方の的を狙う度に3発4発と狙いが外れる回数が積み重なってしまう。数十メートルの距離を飛ぶうちに、矢が無駄に横にずれて落ちてしまうのだ。

 結局彼のミスは九本まで到達し、本日初の記録は89点となった。最初の選手の得点としては低めの結果だ。

 思ったよりも点が伸びず選手は項垂れながら横に移動した。それまで音を出せなかった分競技が終わった直後に大量に降り注ぐ励ましの拍手も、トボトボと東門に消えて行く彼には嫌みの様に聞こえただろう。

「例年の最初の一年生はもう20点くらい取っているからな……落ち込むのも無理は無いさ」

「風が強いとは余り感じないけど、弓矢ってそんなに影響されるものなの?」

「これくらいの風じゃそこまで影響しないと思うよ。緊張のあまり手がぶれてしまっているんだろうね」

 一年生特有の初出場による緊張は他の選手にも襲い掛かる。全体では11番目、一年生では5人目の選手であるエマさんもそうだった。

 身体に不釣り合いな長弓を二本の蛸足で力強く引くという離れ業をやってのけた彼女だったが、やはり長距離の的を狙うとなると緊張によるブレに翻弄され、それまでの十一人の中では最低点となる87点で終了してしまった。

「うーん……エマちゃんもプレッシャーに勝てなかったか……」

 他にも付加魔法を組み合わせるなど通常ならば十分な実力を持つ一年生はいたが、今年の一年生はプレッシャーに弱い様で誰もが緊張に打ち負かされていく。そんな中、経験豊富な二、三年生は落ち着いた弓引きを行っていた。高得点の的にも迷いの無い矢が刺さり、何人もの選手が軽々と一年生の現在の最高記録を超えていった。

 122、129、133……上学年の選手が新たに記録を打ち立てる度に選手間の歓声は大きくなる。ここまで盛り上がりの差が開くと、ブライアン先輩の様な例外がいない限り武闘祭における一年生はただの予選の数合わせでしかないと感じさせられてしまう。

 幸いなことに、金の的を三枚全て射抜いている選手は今のところ出ていない。金の的は自由に飛び回るため当てるのが難しいのだが、直線的な距離では四点の的の上空程まで近付く性質を持つので長距離の的よりも狙いやすいのだ。時間を掛けてでもそれら五つの的に当てられれば、長距離が苦手である一年生でも上級生を追い抜き予選を突破出来る可能性が大幅に上がるだろう。

 そしてそのチャンスは競技開始から6時間弱経過して(途中俺達は昼食を取るために外に出ていた)遂に登場した24番目、一年生最後の選手であるニクスに託された。選手登場で緊張は全て済ませた様で、苦い顔をしながらも震えずに選手の初期位置へ移動する。

 ニクスがまず狙うのは初期位置の真正面、60メートル先にある7点の紫色の的である。そこに向かい矢を番え、短弓を引きながら詠唱を始める。

「──“付け加えよ(ネクサン)速度上昇効果ファストアロー”ッ!」

 そうニクスが叫んだ途端弓の下側から蛍光色のオーラが競り上がり、弓を全て包んだところで矢が発射された。矢は間の60メートルを通過する姿を俺達に見せずに、道中の過程をすっ飛ばした様に一瞬で紫の円の内側に追突した。

 武器の速度を上げる付加魔法は先程から幾度となく登場しているが、今回の一年生でこれを用いた長距離の射撃を成功した者はいなかった。手始めに“超越生”の貫禄を見せたニクスへ禁じられている筈の拍手がぱらぱら贈られていた。

 若干の騒音に眉をひそめながらもニクスは近い位置の5点から9点までの的を全て射抜き、横に移動してはまた高得点の的だけ狙うのを繰り返す。ミスは一度も無く、前半15本の矢で105点を獲得した。

 後半となり、三分ほど上空を眺めていたニクスは空へ弓を傾けて引き絞り、金の的を狙い始める。それは残りの矢の大半を30点獲得に費やす賭けに出たということである。

 金の的攻略の手口には、的を追尾する矢や遠隔操作出来る矢を放つか、ある一点だけを狙いそこに的が来たときに的がかわせない速度の矢を放つかの二つがある。前者の方が効率良いのが一目瞭然だが、そのどちらも高度な魔法を使わなければならないのでニクスは後者の手段を使うのだろう。

「──“解けよ(セレール)”ッ!」

 叫ぶニクスの手から16本目の矢が放たれる。しかしその矢は“解除魔法”がかかりオーラの消えた弓から射たれたために、先程までのものよりもかなり遅く──正確には元々の速さに──なっている。矢は金の的へ到達するが、門前払いするかの様に金の的は後方に飛んでかわした。

 それを地上から観察しつつ、ニクスは第二の矢を撃ち込む。それも同じ的を狙ったものだったが、速さが不足して今度は上にかわされてしまう。

 これ見よがしに金の的が左右に小さく揺れニクスを挑発する。しかしニクスはそれには目もくれず少し左に移動して、狙っていた的の丁度後ろにいる別の金の的に新たな矢を向けていた。もし口が付いていたなら金の的は自分を諦めたニクスに罵声を浴びせていただろう、と妄想させられる程ニクスは関心を失っている。

 そんなニクスが矢を放った直後、一瞬の内に発生した出来事に観客席からどよめきがおこった。先程までニクスが狙っていた的が、翼から吹き込まれた命を失ったかの様に突然墜落したのだ。

 的の面の上部にはニクスが放った矢が斜めに刺さっていた。角度からして、放物運動を終え下降してきた矢が二発目の矢をかわし上昇した的を丁度射抜いたらしい。

 そして流れる様なテンポでニクスは残りの二つの的も同じ様に射抜く。一年生ながらにして僅か6発の矢で全ての金の的に当てるという快挙を成し遂げたニクスは作業の様に残った低得点の的にも当て、現在の最高得点となる162点を叩き出した。

「凄いじゃないかニクス、いきなりトップに躍り出たよ!」

「俺達が願っていたことを本当にやってくれるとはな。これなら後半でヘマしても決勝に行けるだろ」

「まさか金の的を曲射で狙い撃ちするなんてね。あの芸当は“超越生”じゃないと出来ないよ」

 良い意味で似合わない技術を披露したニクスに、これまでで最大の拍手と声援が贈られる。フィールドからピンとした姿勢で出て行くニクスの小さくて地面と垂直な後ろ姿は、彼が恐怖心を抱えているとは到底思えないくらいの自信で満ち溢れていた。


 翌日行われた後半戦は強いて言うなら流鏑馬やぶさめに近い競技で、一定速度でトラック上を三周するチャリオットから内周に円状に置かれた前半戦と同じ三十個の的(ただし金の的は飛んでいない)を狙う。チャリオットの目の前に来た時に抜いた的しか得点にはならず、更にスルーした的を再び狙うチャンスはないので、移動しながらの正確な射撃能力と共に素早いリロードの技術が求められる競技だ。

 これと前半戦との結果の合計で上位八名が勝ち上がり、一年生ではこの競技でも期待以上の活躍を見せ、見事予選を四位通過したニクスだけが決勝トーナメントに進出することになった。ニクスより上の三名は全員凄まじい活躍をしたのだが、それは全て説明するのは不可能なほど滅茶苦茶だったため、各々の前後半戦の大まかな攻略法だけを紹介していきたい。

 まずニクスより一つ上位で通過したのはブライアン先輩で、爽やかな見かけに隠された強靭な肩と脚を武器としている。前半戦では一歩も動かずに全ての的を射抜き、後半戦ではチャリオットよりも速く走りながら長弓を扱い、こちらもパーフェクトを達成した。

 マキナ先輩の戦法は右手のボウガンから三十発の矢を連続で撃ち出すというもので、パーフェクトを達成しながらブライアン先輩をフィニッシュした時間の差で打ち負かし二位となった。そう、入場で最も印象を与えたマキナ先輩が二位なのである。

 では一位通過をした選手──ジーク先輩はどの様な立ち回りをしたのか。その特出した点は、彼が前半戦のアンカーとして登場した時に現れた。

「──“付け加えよ(ネクサン)色覚効果カラーアロー”。──“付け加えよ(ネクサン)刺突効果スキュアーアロー”」

 静かに付加魔法を2つ唱えて、ジーク先輩は矢束から5本掴むと弓を動かしながら連続でその全てを撃ち出す。そう脳内で書き起こしていると、間髪入れずジーク先輩は更に5本の矢を高速で打ち出した。

 最後に真上を狙って撃った矢が当たり前の様に金の的の中心に穴を開ける。矢はある程度浮上してから落ちてくるのだろう──と考えた矢先、その矢は別の金の的へ向かいそれも貫いた。

 どうやらジーク先輩は弓術の“超越生”であると同時に魔法でも卓越した才能を持っていて、放った矢に貫通能力の向上と最初に刺さった物体の色だけを認識して動く力を与えたらしい。わずか4秒で放たれた10本の矢が、フィールド上の的達を蹂躙していく。

 3つの的の直線距離が一番長かった6点の的が貫通されてパーフェクトとなり、モニターのタイマーが停止する。ジーク先輩の記録は7.72秒と記された。

 時間だけで言えばマキナ先輩の2.12秒に大きく離されている(1秒単位の争いを展開している2人がおかしいのだが)ものの、勝敗の決め手となる使用本数ではジーク先輩が独走している。そして後半戦でも普通にパーフェクトを達成したので、彼は見事に大差をつけて予選一位となったのだ。


「大会新記録だってよやべえなジーク! 成績落ちたって言ってたけど全然余裕そうじゃねえか!」

「いつにも増して美しい弓引きでしたわブライ様。決勝では先輩方を超えた活躍をご期待しています」

 二日に及ぶ予選が終了し、近寄る足よりも遠退く足の方が多くなった武闘祭四日目の夕方。屋台達の前に置かれた無数のガーデンテーブルからはそういった声が聞こえ始める。

 武闘祭の合間で競技場の南口前に設けられているビアガーデンは、一日の全競技が終わると決まって選手とその関係者とで溢れ返る。無事決勝進出を決めた者へのお祝いと、残念ながら脱落した者への励ましがここで行われるからだ。

 大量のフライドポテトとチキンが乗ったプレートを運びながら俺は椅子の間を通って行く。他のテーブルに誰が座っているのかとキョロキョロ見回しているのだが、誰も俺がフォルトだとは気付かなかった。

 一体俺は何をやっているのだろうかと考えながら、ジョーとカルマの待つテーブルの空いたスペースに大皿を置く。テーブルを囲むのはジョー達だけでなく、二人がそれぞれ招いたニクスとエマさんの姿があった。

「はいお待たせ。レモンは自分の皿に取った分だけにかけてね」

「なんかお前がそれ言うの違和感覚えるなフォ……ホント」

「それにしてもエマさんは本当に良かったの? カルマに二人きりで慰めてもらうって手段もあったのに」

「いえいえ、私のことは気にしないでください。同学年のニクス君が決勝に進んだことを私もお祝いしたいのですから」

「実は僕が聞くよりも先にエマちゃんが参加したいって申し出たんだ。自分への励ましは折角の場を湿らせた空気にするだけからいいって言ってね」

「なるほどね」

「そう言うお前はどうなんだ? てっきり学級長を呼んでくると思っていたんだが」

「呼ぼうとは思ってたんだけどエリスさんと中々会えなくてね……“基準生”も忙しいらしいんだ」

 開会式の日以降一度も会っていないからな。実は呼ぼうと思っているというのも嘘なんだが、実際に“基準生”は忙しいのだろう。

 そんな雑談を皮切りに、誰かが宣言することなく祝いの席が開かれた。五人の中央に鎮座する大皿に、馴染みある味を求めたプラスチックフォークが飛び掛かる。

「──それにしても、まさかニクスがあんな芸当をやってしまうとはな」

 宴会も始まって15分が経過した頃、ジョーがそう感嘆を漏らした。

「何が?」

「全ての金の的に当てたことだよ。一年生で唯一ってだけでも凄いのに、曲射を用いて間接的に狙うとか良く思い付いたな」

「姉貴が金の的は上側からの射撃に弱く、それを利用して曲射で射抜いた選手がいたって教えてくれたんだよ」

「ニクス君のお姉さんも“超越生”だったの?」

「そうだし、三年連続で入賞してる。──ていうかジョー、お前の親父なら前に誰かがやったのを知ってるんじゃないのか?」

「他の部門の話はあまり聞かないんだよ。だからお前の技に驚いたんだ」

「まあ、探しても俺と全く同じやり方の選手はいないと思うがな。姉貴に言われた曲射で直接狙う方法は俺の肩じゃそこまで強く出来ないから」

「へえ、だから的を誘導する作戦に出たんだね」

「ニクス君は代替案に凄いテクニックを活用しますね。私には想像もつきません」

「全て一から考えてるわけじゃねーよ。姉貴のアドバイスがあってこその攻略法だ」

「その話……詳しくお聞きしてよろしいでしょうか……?」

「うおわあっ! な、なんだいきなり!?」

 頭上からの要求にニクスが振り向くと、見知った二人の女子生徒──デイジーさんとメリルさんが立っていた。それぞれの右腕には武闘祭の実行委員であることを示す赤い腕章が付いている。

「武闘祭実行委員会よ。一昨日から予選を突破した選手達にインタビューして回っていてね、今度はアンタの番ってわけ」

「い、インタビューって、今からいきなり答えられねーぞ? それに早めに帰るよう姉貴に言われてるし……」

「大丈夫よインタビューは明日の昼行うんだから。半日もあれば馬鹿なアンタでもちゃんと答えられるでしょ?」

「言い過ぎですよメリルさん……ニクスさんにはこちらの紙をお渡ししておきます……インタビューの会場やお聞きする内容などは全てそちらに記してありますので……」

 裏表にびっしり文が書かれた羊皮紙を渡され、げんなりしながらニクスはそれを読む。すぐに日程を把握したようで、ニクスはメリルさんに向き直った。

「どう? その時間が空いてないなら別の案も幾つかあるけど」

「まあ大丈夫だけど……ちょっと確認して良いか? この日程の場合、俺へのインタビューの前後って誰がいるんだ?」

「ニクスさんは一年生の“超越生”ですので6番目になります……ニクスさんの前にジーク選手、後にはブライアン選手とマキナ選手が──」

「じゃあ変更するわ。一番最初って空いてるか?」

 デイジーさんの説明を遮る様にそう所望するニクス。迷いの無い突然な発言に、テーブルを囲む全員の顔が口を半開きにした状態でニクスに留まった。

「……一応空いてるけど、他の時間もあるのにそれは聞かないで良いの?」

「そこ以外はどうでもいいよ。別に空いてないわけじゃないんだから大丈夫なんだろ?」

「分かりました……では明日の9時頃に競技場二階フロアの会議室へ来てください……」

 押し通す様な要求をいなすようにデイジーさんが承諾し、二人はニクスをチラチラ見ながら別の席へ向かって行った。

 ふう、と息を吐きリラックスするニクス。それまでの会話は困惑でぱったりと止まり、何を言えば良いのか分からない空気が生まれる。

 そもそもニクスがマキナ先輩を怖れているということ自体ジョー達は気付いてないのかもしれない。ここは俺が会話を切り出すべきか。

「ねえニクス……どういうこと?」

「ん? ああ、そういうことだからこれ食べたら俺は帰るぞ」

「いやそれが聞きたいわけじゃないよ。マキナ先輩の名前を聞いただけで時間変えるって何かあったの?」

「べっ、別に何もねーよ。あの先輩何か怖くて待合室で長く一緒にいたくないから変えたんだよ」

「僕は今じゃなくて過去を知りたいんだけど?」

「だから何も無いっての!」

 もう少し追及しようとしたところでニクスが叫び、皿に残っていたチキンとポテトを凄まじい速度で飲み込むと弓矢と鞄を持って立ち上がる。

「それじゃあな! ジョーとカルマは予選頑張れよ!」

「ちょっとニクス! まだ話は終わってな……行っちゃった」

 逃げる様に立ち去るニクスの姿は瞬く間に人混みに紛れ、目での追跡が不可能になり、落胆して俺は力無く座った。

「……一応、ニクスとマキナ先輩で何かあったのは確定したな」

「まあ、言えることだったらあんな反応しないだろうしね」

 同じ方向を見ながら、ジョーとカルマはそう話す。唯一事態を理解していないエマさんだけが俺達三人を見回していた。

「あの……カルマ君達は何をしてるんですか?」

「昨日弓術の予選が始まったとき、フォル……彼がニクス君からマキナ先輩が恐いと聞いたらしくてね。エマちゃんには黙っていたんだけど、この祝勝会はニクス君とマキナ先輩との間で何かあったのか聞き出すためのものでもあったんだ」

「な、なるほど……」

「マキナ先輩に聞く方が手っ取り早いんだが、流石に今日見たばかりの人にアポも無しに聞くのは無理だしな」

 ていうか予選が終わってからのこの一時間強、マキナ先輩を競技場外で見かけた覚えが無い。彼女を探すのも大変なのでニクスのみで情報を得ようとしてるだけと言っても過言ではないだろう。

「これはもう、ニクスが自分から言ってくれるのを待つしかないんじゃない?」

「そうだね……本人も嫌がってるんだし、これ以上の詮索はやめとこうか」

「じゃあ今日の所はこれでお開きにするか。残ったポテトとかはどうする?」

「あっ、じゃあチキンを少し分けてもらえますか? 家族が鶏肉好きなんです」

フォルト(おまえ)はいるか? しばらく変な食費制限させられてるんだろ?」

「あーそうだね。じゃあお願いするよ」

 こうしてニクス達に対する熱狂と猜疑心が、最終的に二食分のジャンクフードになったところで4日目は終了するのだった。

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