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事実発覚

「――そ、そうだったな、ジョー」

 後世の記憶の確認を終えて、俺は目の前のサラマンダーマンに答える。

「まったく、しっかりしろよ……じゃあこれから部活あるから」

「ああ、じゃあな」

 思うんだが、ここは本当にファンタジーの世界なのか?

 魔界に学校があって、しかもそん中でサラマンダー(擬人化済み)が部活をするのが、俺の中のファンタジーなのか?

 そんなことを考えながら、どうやら帰宅部らしい俺は魔王城、つまるところ我が家への帰路に着くために机横に置いてあった鞄をかついだ。



 それから俺は、この木造の校舎を出た。

 記憶が重なったおかげか、今度はスムーズに移動することが出来た。

「にしても……、俺はこれからどう生きていくのだろう……」

 少なくともあと半年は学生として勉学に励むのだろう。しかしそれは、言わば俺が新たな魔王に就任するまでのカウントダウンとなんら変わらない。

 すなわちそれは俺がこの世界を統治するということ。

 サインコサインタンジェントとかよりも帝王学とかを学んだ方が良いだとかは置いといて、今度は俺に勇者達の矛先が向けられるということが重要になってくる。

 第一、そうなった場合に俺は勇者と戦えるのだろうか。ワンパンで倒されて一族断絶は、無償に悲しい。悲しすぎる。

 そんなことを考えていると、目の前の校門の横に馬車を発見した。

 魔界らしく黒い毛の馬が一頭、上に馬引きであろう女性を乗せて佇んでいる。

 あれが魔王城(俺ん家)の馬車なんだと、フォルト・ハイグローヴの記憶がそう確信させる。

 その時には既にその馬車に歩を進めていた。


「お帰りなさいませ、フォルト様」

 馬引きが俺にそう言った声は、どうも最近聞いていた声であった。

 そういえば、この人をどこかで見たことがあるような気がする。

 編み込まれた金色の髪。どこかで見たような――

「あっ」

「どうなされましたか、フォルト様?」

「あの、転生ハローワークのカウンセラーさんですよね?」

 そう、服装こそはスーツと黒い鎧とで違うが、彼女はどう見てもあのカウンセラーさんだった。

「あら、どうやら記憶のシンクロが完了したようですね。そうです。私は転生ハローワーク人間界支部のカウンセラー13689号です」

 名前(どちらかと言うとコードネーム)を名乗る彼女は、俺に向かって爽やかに微笑んでみせた。

「カウンセラーさんが、なんで俺の転生先にいるんですか? 転生ハローワークはどうしたんですか?」

「知ってますか? あの施設にはカウンセリング室が75億もあるんです。私がこうしてフォルト様の転生先に赴いていても、代わりはごまんといますから」

「はあ……で、何か用でもあるんですか?」

「はい、フォルト様のご遺言を無事届けた事をご報告しに来ました」

 それにしても、遺言ってどうやって送ったんだろう。企業機密だとは思うがどうも気になる。

「ああ、ご遺言の送信法でしたら説明出来ますよ。送りたい人の知り合いに取り憑いて、『○○さんがあなたにこう伝えてと言ってましたよ』と伝えるだけですから」

 心を読まれた!? いやそれよりも、なんか今凄いことが聞こえたんだが。

 いわゆる天使のような役職の人が、オカルト現象起こして遺言を伝えてたのか!?

「へ、へえ……親はどんな感じでしたか?」

「目に涙を溜めて聞いていましたよ。お葬式の後だったからかとても暗い表情かおで。今から一ヶ月前のことです」

「い、一ヶ月!?」

 あの大きな扉をくぐってから、いつの間にかそんなに経ってたのか?

「その間に、大変なことが分かったのです」

「大変なこと?」

「ええ。まずこの世界は、フォルト様ご自身が設定なされた世界ではありません」

「……は?」

 自分の世界が自分の世界じゃない? 言ってることが良く分からん。

「えっ、でもカウンセラーさん、確か勇者を選ぶ転生希望者が多くて、魔王が不足しているって言ってたじゃないですか。俺の希望した世界が無いって、俺は他人の希望した世界に入れられただけじゃないんですか?」

「それは既に創られた世界に転生した場合の話であり、フォルト様の場合とは訳が違います」

 そこからカウンセラーさんは詳しい説明を始めた。

 幾つもの平行世界が存在するファンタジー小説の世界に転生する際、新しく世界を創りそこに転生するか、既存の世界のキャラクターとして転生するかを選択する必要がある。

 俺は別に既存の世界の魔族でも構わないと口頭で示していたが、俺が転生ハローワークで書いた書類にはそれの選択について記しておらず、強制的に新しい世界に転生することに決まっていたはずなのである。

 しかしそう決定したのに、結局俺は既存の世界に転生してしまった。あの書類に書かれていた希望が転生後の世界の全てを構築するはずであるため、この事態は異例なのだと言う。

「この世界は昔の俺、高林秋人の希望とは全く違うのですか?」

「いえ、全く同じというわけではありません。フォルト様の希望した世界の、パラレルワールドといったところでしょう」

 なるほど、世界観は剣と魔法の世界っぽいのに、学校があったりするのはそういうことなのか。

「したがってこの世界を創設したのはフォルト様ではありません。フォルト様は別の人の転生先の、次期魔王として登録されています」

「だ、誰の転生先にいるんですか?」

「現在私の同僚達が総出で調べております。何しろ転生ハローワーク始まって以来のことですから……」

 マジかよ……この世界は俺の思い描いていたものと違うのか……。

「え? じゃあカウンセラーさんは手伝わないのですか?」

「私の現在の役職は、転生者、つまりフォルト様に新たな良き人生を提供できているかを調査するためで、そのため現在の役職を重視するよう言われたので」

「あの……、先程から言われてましたが、フォルト様じゃなくて、もっとこう、秋人さんとかで良いですよ? なんか気恥ずかしくて……」

 確かカウンセリング中は、そう言われてたしな。

「いえ、この世界では、フォルト・ハイグローヴ様の従者として登録してあるので」

 俺の小さな希望は拒否された。

「とにかく、続きは魔王城に着いてからにしましょう。ここでは結構目立ちますので。どうぞ馬車にお乗りください」

「はあ……」

 まあ、確かにここは校門だ。そんなところで転生がどうだの話していたら変人扱いされてしまう。

 俺は馬車の中に入ると、馬引きであるカウンセラーさんが「はいやっ」と言いながら手綱を引いた。

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