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武闘祭に向けての指導者達の行動

冷静な話し方をする女性キャラが多いなと思いつつ、ほとんど書き分けが出来ていないことに気付きました。

「オヤフォルトサン、思ッテタヨリモ早イオ帰リデスガ、用事ハ済ンダノデスカ?」

「うわっ、どーも管理人さん……まあそんなところですよ」

「マタ何カアッタ際ハ遊ビニ来テクダサイネ」

「そ、そうですね。では……」

 背後からぬっと出た管理人さんに見送られ、俺は“マンション・セメタリー”の階段を上がる。

 出入り口の墓石前ではカウンセラーさんの馬車が待機していた。俺がデイジーさんの家で用事を済ませるまでこの辺りを巡回して待っていたのだろうか。

「お疲れ様でしたフォルト様。これから書店に向かいますのでお乗りください」

「ああ、やっぱり聞いてたんですね……」

 淡々と次の目的を伝えるカウンセラーさんに、インタビューの内容も聞かれてたんだろうなと肩を落としつつ馬車に乗る。

 揺れる荷台に身を預けていると、ふと思い出したことがあった。

「そういえば……」

「どうかなさいましたか?」

「ルシアさんに買ってもらったお菓子なんですけど、もっと小さいサイズのでも良かったんじゃないですか?」

「……お気に召しませんでしたか?」

 しばしの沈黙の後、カウンセラーさんはそう返した。

「いや別に品選びは悪くなかったんですが、合計で四十万は流石に高過ぎるかなと。ああいった詰め合わせタイプのなら、二回りは小さいのもありますし」

「デイジー様のお宅を訪問したのは謝罪をするためであり、あの菓子箱はその際の菓子折である。そう最初におっしゃったのはフォルト様では?」

「そ、それはそうですけど……」

「菓子折は心が籠っているのであれば良いのです。経費は魔王軍から下りるのですから、金額など心配しないでください」

 いや心配しない値段じゃなかったぞ。メリルさんですら「流石にこれは多いんじゃね?」って言いたそうにしてたし。

 ていうか魔王軍の金って要は国の金じゃん。カウンセラーさんのことだから無許可で使ってはいないとして、一体どの部分から取っているんだ四十万ゴールドを。

「ご安心ください。出費は全てフォルト様のお小遣いから下ろしていますので」

「え、小遣いなんて一度も見たこと無いんですけど」

「現金として直接渡されてはいませんが、一月当たり三百万ゴールドが貯金されています」

 確かに百万単位で直接渡さない方が無駄遣いしないし良いと思うけど、何だか小遣い貰ってるという実感が全く湧かない。忘れた頃に勝手に使われてしまいそうで、親に預けたお年玉みたいでほとんど意味が無い気がする。

 お金を通じた社会勉強をするためにも、色々遣り繰りするためにも一月一万で良いから俺に現金を分けてくれれば良いのだが、そうねだっても親父達はスルーするんだろうな。

 魔王に即位したらまずはその辺を弄くろうかと我ながらみみっちい計画を立てながら、俺は本屋までの道を揺れるのであった。


 目当ての本屋に到着して、カウンセラーさんが一人中に入っては紙袋を持って戻って来た。

 袋には頼んだ“バンデージ・ウィップ”十冊の他に、最新の料理の雑誌や事務用の日記帳などが入っていた。どうやら別件で買わないといけなかった本があって、俺の漫画はそのついでだったようだ。

 これの経費は漫画代含めてちゃんとした予算から下ろされるらしいのだが、それだったら四十万のお菓子もそっちで払ってくれても良かったのではないだろうか。

 自分の見えない所で自分の金が使われていることに恐怖を覚えながら帰宅して、俺はすぐに部屋に入る。

 早く続きを読みたいのだが、その前に呪文詠唱の修練が待っている。漫画をベッドに置いて急いで修練場に向かう。

 担当のマリッサ・ネネルール魔王軍特別顧問は時間にうるさく、もし遅刻しようものなら優しいお婆ちゃん先生から姑系クソババア先公に変貌してネチネチと叱り始める。それが原因で学生時代に何度も説教されてきた親父は、今でもマリッサ先生に苦手意識を持っているらしい。

 しかし俺は時間ギリギリになることもあるが遅れたことは一度も無い。今回も開始三分前には修練場に入ることが出来たのだった。

「――中級呪文も大方出来るようになってきましたのう、フォルト様」

 修練の前半を終えて休憩を取る俺は、マリッサ先生からお褒めの言葉を頂いた。

 最初は魔界の言語を理解するのにも苦しんだ俺だったが、やはりそこは腐っても魔王の血筋、持ち前の高い成長性のお陰ですぐに上達することが出来た。

 初級呪文を全て習得するのには普通五年かかるというのだから、急激な上達に驚いても無理は無い。

「それにしても不思議な話ですな、同じ魔法を習い直すことになるとは」

「そうですか?」

「既に覚えていた魔法のほとんどを忘れてしまったと聞いた時はこのマリッサ・ネネルール、心臓が止まるかと思いましたよ」

 鍛練を怠ってはいませんでしたか、とマリッサ先生は目を細めて俺を疑った。

 そう、別に極端に成長性が高いから覚えるのが早いのではなく、一度覚えている魔法で身体が覚えているから覚えやすいのである。嘘ついてすまない。

 俺が覚醒する二年前までマリッサ先生は前の人格に魔法を教えていたのだが、魔界の辺境に長居する必要のある用事(その用事が何なのかは詳しく言おうとしなかったため、恐らく魔王軍にとってかなり重要なことなのだろう)が出来たので、初級呪文だけしか教えることが出来なかった。

 俺の人格が一つにまとまる前、カウンセラーさんがそれぞれの実力を見定めた際に俺は“C”、前の人格(フォルト)は“B”と判定したが、あの差は初級呪文をマスターしているかしていないかを表していたのだ。

「さてフォルト様、この後の修練からは武闘祭の準備をしていきたいと思います」

「準備って、武闘祭で魔法は使っちゃいけないんじゃないですか?」

「いえいえそんなことございません、武闘祭で行われる全ての競技で魔法の使用は許されています」

「剣術の場に魔法は必要無いんじゃないですか?」

「確かに純粋な力比べに魔法は不必要ですが、武術だけではどうにもならない力の差を補うのもまた魔法です。これまでの武闘祭で優秀な成績を収めた中には、魔法を利用することで稚拙な武術ながら“超越生”を退けた者も大勢いるのですよ」

 剣術だけではジョー達には歯が立たない俺にも、魔法の組み合わせによっては勝機があるってことか。

「で、準備って何をするんですか? 初級呪文を覚え直したばかりの僕に拙い剣術を補える程の魔法が使えるとは思えないんですが」

「確かに現在のフォルト様の魔力ではまだ大半の魔法を扱うことも出来ないでしょう。かといって魔力をアイテムで増強するのは武闘祭のルールに反します」

「それじゃあどうするんですか?」

「単純な方法ですが、それまでの一ヶ月間で必要最低限の魔法だけでも覚えてもらいます。フォルト様の学習能力から見て、少なくとも二十個は出来ると思うのですが、それでよろしいですかな?」

 いや無理でしょ。一度覚えている魔法だったからあの速度で身に付けられた訳で、完全な初見、しかも難易度アップしているのに同じ様には覚えられませんって。

 そう拒否したいのだがマリッサ先生は俺の才能を過信している様で、完全に俺がやる前提で話しており、反論したところで良い方向に転がりそうにない。

「大丈夫です。武闘祭に向けて頑張りますから」

 その内覚える重要な魔法を先に覚えられるんだぞと励ましながらそう答える。怒らせてはいけない相手に楯突くことなど端から諦めていた。

 マリッサ先生も最初から俺が同意するとしか思ってなかった様で、俺が答えてすぐに指導に入った。

「ふふ、それでは早速一つ目の魔法に入りましょうかのう。まず最初に覚えて頂くのは詠唱保存呪文“データセーブ”。これは本来遠距離からの攻撃をする役目を持つ魔術師が、近距離での攻撃も出来る様に最近開発された魔法であり、これを用いることで魔法攻撃の最大の弱点とも言える呪文詠唱中の隙を完全に無くすことが可能となります。強敵と対峙するとなれば悠長に詠唱している暇など皆無であり、今後の活躍の為にも覚える必要が十二分にございますでしょう。この魔法を発動するには、まず保存する魔法の呪文を最後のフレーズを残して唱え、続けて“詠唱保存呪文”を唱えます。これで呪文詠唱が保存され、残されたフレーズを唱えるだけでその魔法が発動する状態になります。この魔法で保存できる魔法は禁断魔法を除くほぼ全てで――」

 賛成するや否や魔法の説明に入るマリッサ先生。興奮気味なのかいつもよりも説明が速い。

 言葉を雪崩の如く畳み掛けられる俺はこれがしばらく続くのだと悟り、こんなことになるなら少しは反抗すれば良かったと後悔するのだった。


 マリッサ先生のより力の入った指導に辟易した翌日、昼に行われた剣術の修練で指導するレオン親衛隊長も声が若干上擦っていた。

 彼も武闘祭を楽しみにしている様で、こちらの修練内容も出血大サービスと言わんばかりに増量していた。昨日の今日なので俺にしたら抑えてもらいたかったのだけど。

 そしてその修練が終了してある程度落ち着いてきた頃だった。元のテンションに戻った隊長が突然声を掛けてきたのは。

「そういえばフォルト様は、我々サラマンダーの弱点がこの尻尾にあることをご存知ですか?」

「いや初耳ですけど。そうなんですか?」

「全体的に弱点ではないのですが、尻尾の付け根から拳二個分離れた部分は神経が多く刺激に弱いのです。他ドラゴン種にもこの部分は存在するので、ピンチになったらここを狙うのも一つの作戦ですぞ」

「へえ……でも良いんですか? ジョーの弱点も言っている様なものですけど」

 隊長からすれば俺もジョーも同じ教え子だ。武闘祭では両方応援するだろうに、実の息子の弱点を教えてしまって良いのだろうか。

 そんな俺の心配を掻き消すように、隊長は豪快に笑った。

「はっはっは、心配ご無用です。ただ単に尻尾を狙ったところでアイツはすぐ防いでしまうでしょうから」

「ええっ!? じゃあ弱点として教えた意味無いじゃないですか!」

「ジョーとフォルト様ではまだ実力に大きな差がありますからな。それを少しでも縮めるためのアドバイスであります」

「だったらジョーに僕と戦う時に手加減するよう指示すれば良いんじゃ……?」

「それでは意味がありません。あの妙な所で頑固なジョーが快く引き受けてくれるとは思えませんし、それにジョーのにも期待出来ないでしょう」

「ん? 覚醒……?」

 最近は自らの人格がこの世界で目覚めたという意味合いでしか使っていなかったその言葉に引き寄せられる。えっ、ただでさえ強いジョーがまだまだ強くなるの?

「覚醒って隊長さん、ジョーはまだパワーアップする可能性を秘めているんですか?」

「ああ、別にそういう意味で言った訳ではございません。ジョーには常に戦士の近くにあるものを知る必要があり、それを終えて新たな心持ちになることを覚醒すると言っただけです」

「戦士の近くにあるもの……それって何なのですか?」

「これは修練の裏メニューみたいなものでして、出来ればフォルト様にも自分で見つけてもらいたかったのですが……まあ良いでしょう」

 それでは教えましょう、と隊長は咳払いを一つ落とした。

「常に戦士の近くにあるもの……それはすなわち、です」

「………………はい?」

 予想外な答えに俺は目を瞬かせる。まさかそれが答えなの?

 そりゃ勝負事なんだから敗北もあるだろうけど、俺よりも格段強いジョーが今更敗北を知るなんて有り得ない様な……

「隊長さん、他にも大事なものはあるような気が……そもそも一回負けて心持ちが変わるなら僕はとっくの昔に変わってます」

「いえいえ、普通の敗北では変わることなど出来ません。もっと心に刻まれる様な、屈辱的な敗北をしないと」

「……段違いに強い相手と勝負して、ボロクソに負けるとか?」

「そうです! 負け知らずの戦士は自らの全力の剣技すら通用しない程の力量の差を知ることで、その相手を打ち負かすという新たな目標立てと、自惚れの阻止の両立が出来るのですぞ!」

 なるほど、確かにそれなら納得が行くな。自分だけで見つけるのも、誰かに流されて見つけるのよりは効果的だということか。

 ちなみに俺は“得物”が正解だと思ってた。常日頃から扱っている剣に視点を向け、自分がどれ程剣を大事にしているか――どれ程戦士としての自覚を持っているかを知る的な感じで。

「でもそれじゃ、ジョーと僕の力の差を縮める意味は無いような……?」

「言い忘れていましたが、屈辱的な敗北にはもう一つ、格下の戦士に負ける場合もあり、その場合にも覚醒は見込めます」

「ああ、『俺はなんでこんな雑魚に負けてしまったんだ……』的な……って酷くないですか!?」

「酷いと言われましても、フォルト様がまだ未熟なのは事実でしょう?」

「いやそれは自覚はありますけど、まさかそんなことをジョーが言うわけが……」

「フォルト様の例えの様な言い方はしないとしても、それなりに驚くとは思いますよ」

 どっちにしろジョーは弱いと思っているらしい。変に気を使ってくれなくてありがたいと言えばありがたいのだが。

 軽いショックを受けて項垂れている中、隊長は修練場の扉へと向かう。

「そろそろ昼食の時間ですし、今日の修練はここまでにしましょう」

「あのー隊長さん、最後に一つ質問が」

「なんでしょう?」

「もし武闘祭でジョーが優勝した場合、また誰かに負けても覚醒出来なかった場合はどうするんですか?」

「良い質問ですね。でも答えは簡単ですよ。そうなった時は私が本気でアイツを打ち負かすだけですから」

「えっ…………」

 だ、だったら最初からそれで良いじゃねーか!? 武闘祭というワンクッションがいらねえ!

 そんなツッコミは野暮だとギリギリ堪えつつ、丁度鳴り始めた腹の虫を擦りながら俺は修練場の外に出た。

恐らく今回が今年最後の投稿になると思います。また来年もよろしくお願いいたします。

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