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薄板は神力と驚愕を運ぶ

 俺が恥も捨てて板の出現条件は何か探している中、カウンセラーさんはその日の夜中に帰還した。

 長くても一日で帰って来られると言っていたカウンセラーさんだが、実は緊急招集の理由の関係で少なくともそれ以上は長引くと思っていた様で、普通の招集と同じくらいの長さで魔界に戻ってこられた事に少し驚いたらしい。

 しかしあまりにも早過ぎた帰りだったのと「親が急に倒れた」というでっち上げた帰省の理由とで事の深刻さに矛盾が生まれ、本当に親は大丈夫なのかと世話焼きなメイド長に詰め寄られたと言う。

 質問攻めに遭って辟易しているカウンセラーさんの姿は見てみたかったが、行われた場所が給仕の準備室であったため迂闊に入れなかったのと、そもそもそれは丑三つ時頃の話で就寝中の俺には全く無関係のため叶わなかった。二度と無さそうな事なのに勿体無い。

 そんなこんながあったため、俺がカウンセラーさんに板の事を説明したのは翌日の朝、遅めの朝食を済ませて部屋に戻って来た時のことであった。


「――それでフォルト様は、先程仰っていた不思議な板は持っておられるのですか?」

「ええまあ。これです」

 麻袋の奥深くまで沈んでいた例の三枚の板をカウンセラーさんに渡す。

 俺や魔界の住人はその姿や光の一つ一つに驚いていたが、カウンセラーさんはそれを動じずに静かに見ていた。

 渡されて十秒も経たない内に、カウンセラーさんの声が脳内に直接響く。

(これはパペットボードという天界のアイテムですね)

(パペットボード……って天界ってなんですか?)

(天界とは全ての平行世界を司る神々の住む世界のことであり、転生ハローワークの本部もそこに存在しております)

(えっ、ルシアさんは昨日神々の世界まで行っていたんですか!?)

(機械的に番号が振られていますが、私達カウンセラーも天使の端くれです。天使が天界に昇るのは、至極当然の事だとは思いませんか?)

 考えてみりゃそうなるよな。変に納得出来る。

 問題なのは、なんでそんな天上の世界のアイテムが魔界で見つかるのかって事だ。

(で、このパペットボードはどうやって使うんですか? パペットって付くんだしこれを貼り付けた対象を操れるとか?)

(パペットボードに洗脳の効果はありません。これは“設定キャラ”の“書き替え(バグ)”が行われた時、その対象人物の背中から吐き出される物ですので)

(じゃあこれがあるってことは、カルマや学級長のお父さんもバグっていたってことですか!?)

(そうなりますね。ちなみに秋人様には“書き替え(バグ)”が発動してはおられませんのでご安心ください)

 なるほど、道理で俺からはパペットボードが出なかった訳だ。踊ったのが余計に恥ずかしくなってきたぞ。

(でもそれしか意味が無いって言うなら、何枚落ちてようが何も問題無いですよね)

(そうは言い切れません。パペットボードにはもう一つの活用法があるのですから)

(えええ……まだ何かあるんですか……)

 束の間の安心を粉砕され落胆している俺に、カウンセラーさんはパペットボードの裏面を見せた。

(実はこれらの光る記号は天界の文字を表しています。まずこれを秋人様にも読めるように変換致しましょう)

 そう言うとカウンセラーさんは板の上に手をかざしすぐに戻す。

 今まで解読不明だった青い点滅をする記号は、その性質を留めたままそれぞれ「D」、「O」、「R」の三文字に変貌していた。

(って、これアルファベットじゃないですか!)

(天界ではアルファベット同様26の文字を組み合わせることで会話をしたり記録を残しているのです。発音は全く違いますけど)

(それが何か問題あるんですか?)

(生物の生命力から生成されるパペットボードは文字の数だけ、つまり26種類あり、その内部にはこの世界における魔力の様なエネルギーが込められております。それはまさに、神の力が再現出来る程強大なエネルギーが)

(神の力?)

(ある時は有象無象を一瞬にして塵に変え……またある時は何も無い空間に新たなる世界を創り出す……混じり合うことのない世界と世界を結び合わせ……万物の因果律をその掌の上で転がす……そういった感じの力です)

(うわあ……強すぎだろ……)

 世界改変くらい余裕で出来るとか、それって生物から採れる板切れに込められていて良い力なのだろうか。

 もっとこう、三種の神器みたいな神々しさを持つ物にこそ宿るべき力だろ。パペットボードも神の叡知の結晶ではあるけどいまいち派手じゃないし。

(ルシアさん、それは捨ててしまった方が世の為人の為になるのでは……?)

(残念ですがパペットボードは内包されているエネルギーが無くなるまで消滅しません)

(なんでそんなに無駄に面倒な代物なんですか……)

(しかしこの世界で神の力が発揮される事はまず無いでしょう)

(どうしてですか?)

(パペットボードを用いた神の力を発動するためには、ある決められた順番にパペットボードを並べ、天界の言語で正しい呪文を詠む必要があります)

(な、なるほど……)

 下手に力を付けられると色々と困るのか、天界において下界の住人に天界文字の読みが知れ渡るのは最大級のタブーとされている。

 もし天使が告げ口するなどして漏れてしまった場合、その天使と知った者全員は神の裁きによって殺される。

 そこまでして機密情報を護っているんだったらなんでパペットボードは結構簡単に見つかるのか(あくまで比較的だが)と言いたくなるが、どうやら神達は、突然現れた謎の板の存在やそれを巡っての争いに慌てふためく下界の民の姿を神酒ネクターの肴にしているらしい。

 人間界の神々にも言えた事だが、アイツらって下界を人体実験の施設か何かだと勘違いしているんじゃないか?

(しかし万が一という場合もあります。最悪の事態を防ぐ為にも、秋人様にはやってもらいたい事がございます)

(なんです?)

(魔界中のパペットボードを回収するため、まずは明日の学校でエリス様からアルベルト様の持つパペットボードを必ず譲ってもらってください)

(か、必ずですか?)

(アルベルト様は秋人様――フォルト・ハイグローヴという一個体の“前世”の存在を僅かながらも知っている人物であり、故に天界や神の力の情報を掴んでいる可能性が誰よりも高いのです。彼から生じたパペットボードを手にすることは、この世界での神の力の発動を阻止する事において最も優先すべき事なのです)

(は、はあ)

 何だか大それた心配をカウンセラーさんはしているようだが、学級長が頼めば簡単に手に入るらしいのでそこまで難しいとは感じない。

 部屋に戻る前に軽い説明をしたのだが、学級長に対してお父さんが甘いとは一言も言ってなかったのでそう誤解されてしまったのだろう。

(ルシアさんは何をするんですか?)

(私は従者仲間の力も借りて、他のパペットボードを集めていきたいと思います)

(パペットボードって後何枚あるんですか?)

(どこにあるのか見当が付いているのだけで、現在40枚が確認されております)

(結構多いですね……あれ? でもその数だと俺が知らない所でも“書き替え(バグ)”があったって事になるんじゃ……)

 親父の不倫相手は多かったが精々20人弱であり、カルマと学級長のお父さんを含めても40枚には程遠い。

(今回の“書き替え(バグ)”はフォルト様とは全く面識の無い方でも僅かながらに起きております)

“書き替え(バグ)”って転生ハローワークとかの情報が漏れたときに起こるんですよね? 確か親父の時に漏れたのが学級長のお父さん一人だったとして、そんな広範囲に影響するもんなんですか?)

(この範囲での発生となると、少なくとももう一人の漏洩が必要となるはずです。その調査も推し進めていきましょう)

「それでは失礼致します」

 そう言ってカウンセラーさんは部屋から出ていこうとする。

 それを俺は見つめていたが、ふとあることを思い出して呼び止める。

(あ、ちょっと待ってください)

(なんでしょう?)

(ルシアさんは天界の本部で、今回は何を伝えられたんですか?)

(その事ですか……)

 質問を聞いて、余程話しにくい内容なのだろうか、カウンセラーさんは話すのを渋る様な素振りを見せる。

 言うべきかどうかを無表情のまま部屋の隅を見つめて考え、俺が聞いてから1分の間を開けて答えた。

(今回私達に伝えられたのはにわかには信じ難い話でした。人間界支部のカウンセラーの何人かが突然転生希望者のいない“転生の扉”に入り、様々な世界の住人や転生者、その担当カウンセラー達を殺害するという事件が起きたというのです)

(ルシアさんとは別のカウンセラーが殺人を……まさか、そのカウンセラー達は今も他の世界へと逃げ続けているとか!?)

(殺人を犯したカウンセラーは全員がそれぞれの場で捕らえられ、新しい天使やカウンセラーの材料の一部に変えるために天界に飛ばされました)

 材料ってそんな、転生ハローワークのカウンセラーって素材なのか?

 何それ狩猟ゲームかよと俺はドン引きしているが、カウンセラーさんは続ける。

(カウンセラー達の運搬の最中、そのカウンセラー全員の身体からパペットボードが生み出されているのが見つかりました)

(そのカウンセラー達にも“書き替え(バグ)”があったんですか?)

(その“書き替え(バグ)”を発生させた犯人を探すため、本部は“書き替え(バグ)”が行われていたであろう時期に人間界支部にいたカウンセラー達を呼び寄せたのです)

(ルシアさんもその時は転生ハローワークにいたため呼ばれたんですね)

(私はその時はこの世界にいました)

(えっ、じゃあなんで呼ばれて……)

(私は他のカウンセラー達よりも後に、本部に向かう様言われました。本来来るはずだったカウンセラーの一人が何日経とうとしても来る気配が無く、不審な彼女と同じ世界を担当するカウンセラーである私が代わりに来るよう緊急招集令が掛かったのです)

(不審……って、え? この世界にいるもう一人のカウンセラーってまさか……)

 全てを言わずとも察してしまった俺に、カウンセラーさんは静かに答えた。

(そう、多くのカウンセラーを操作して大量殺戮を行った一連の事件の黒幕であり、魔界中からパペットボードを生み出した張本人は――あなたの幼馴染み、平森千香を担当するカウンセラーです)

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