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学級長のお願い

 カルマのお見舞いに行った翌日の登校日。

 馬車から降りて校舎に入ろうと歩いていると、正門の所で学級長と鉢合わせした。

 その顔はむすっとしていて、見るからに機嫌が悪そうだ。

「えっとエリスさん、おはよう……」

「おはようございますフォルト君」

「どうしたの、そんなにご機嫌斜めで」

「その理由をわざわざあなたに言う必要がありますか? そんなに気になるのでしたら自分の胸に手を当てて考えてみてください」

「は、はい」

 俺の怖々とした返事を聞くと、ハアと大きめの溜め息をついて早足歩きで先に行ってしまった。

 朝っぱらから辛辣の極みである。冷たい視線にたじろいてしまったが、俺は同時に安心出来た。

 勇者襲来後に体調不良に陥った学級長が登校するのは何だかんだで一週間振りだ。

 それまでに何度も会っていたとはいえ、やはり元気に学校に来てほしいものである。元気の印が冷徹な視線というのもおかしな話なんだけども。

 それにしても自分の胸に手ぇ当てて考えろって、エリス学級長の機嫌が悪いのは俺のせいなのだろうか。

 歩き続けながら試してみるがこれっぽっちも思い付かない。というか「気に障る様なことやってたか?」というレベルで分からない。

 ああアレか、昨日カルマの家に行く前の時にエマさんの笑顔に見惚れていたからか。あの時も万力の様な力で手を握られていたし。

 だとしたら学級長、かなり嫉妬深くないか? 他の女子見て赤面するのが駄目って相当なものだぞ?

 その内嫉妬がエスカレートして「他の女性を見るのも禁止です」とか言われるんじゃないだろうか。それでもどんなに頑張ったって視界の隅に女の姿が入る時があるだろうから、それを妬まれて刃物でザクッと……

「おいおい、洒落にならねーよ……あっ」

 つい一人言を口に出してしまい、慌てて周囲を見回す。

 普段と違う口調で喋ったフォルトを見ている奴はいない。どうやら誰にも聞かれてなかったようだ。

 ともかく、このままでは以前ニクスが言っていた様に鮮血の結末を迎えることになってしまう。それだけは嫌だ。

 親父は十五股をしていた報復でお袋に他の彼女を殺されてしまった。今の所は側室無しの愛妻家で頑張ろうと考えている俺がそんな事になったら、「妻一人満足させることも出来ない魔王」とある意味親父よりも情けないじゃないか。

 優秀だった先々代の魔王以降は徐々に酷くなっているなんて後の世で語られたくない。己と魔王一族の尊厳の為にも、学級長には火サス的展開に走らないようにそれとなく注意しておかないといけない。

 そうと決まればと俺は急いで教室に向かい、既に席に着いていた学級長の前に立ちこう告げた。

「あのさエリスさん、何か面倒な事があったからって簡単に殺人に走るのは駄目だと思わない?」

「……教室に入って早々何を言っているのですか」

 突然同意を求められて呆気に取られる学級長。それなりに賑やかだった教室がシンと静まり返る。

 誰も口を再び開けない空気の中、先程は誰一人とて向かなかった視線が俺へと一斉集中する。目の前の学級長からは超合金をも貫けそうな程鋭く研ぎ澄まされた視線が突き刺さっていた。

「フォルト君、何故そのような思考が出来たのかは、一限後の休憩時間にじっくり聞かせてもらいますからね」

 呆れたというか完全に侮蔑している目で睨まれ、俺は地雷を踏んだんだなと確信した。


「――そういう訳で私がフォルト君に言いたいのは、あなたは淫魔の遺伝子の持ち主である事を忘れているという事ですよ。無意識の内にフェロモンを撒き散らしているのはその為です」

「はあ」

「私はサキュバスではないため詳しくは知りませんが、淫魔は意識さえしていればフェロモンの出す出さないを思いのままにすることが出来るらしいのです。特に理由も無く他人を興奮させないようにして下さい」

 一限目の数学が終わり、俺は学級長に空中経由で屋上に連れて来られた。十メートル程のこの高さから地面に叩き付けられたらどうなるのかを想像して正直ちびりそうになった。

 ガクブルと足を震えさせながら屋上に立つと、恐怖で高鳴った心臓を収まらせる気が無いのか学級長が何故朝不機嫌だったのかについてすぐに説明し始めた。

 何でも昨日エマさんが淫魔のフェロモンで口が回らなくなる程興奮してしまった様で、そのフェロモンを発していたのが俺らしいのだ。

 発情し始めたのは学級長がエマさんを送り届けようと飛翔していた時であり、エマさんがカルマの家に戻りたいとおねだりするのを学級長は説得していた。

 しかし今日の登校中にジョーと会い、解散した数時間後にエマさんが“死霊の谷”へと転移する姿が見えたという垂れ込み情報が伝えられ、学級長は何故エマさんを説得し切れなかったのかと悩みながら登校したのだと言う。

 そもそも俺がフェロモンの調整も出来ていなかったからというのも起因の一つであったとも考えていた様で、そんな所に俺が現れたもんだから学級長はあの様な態度をとってしまったらしい。

 これについては返す文句もありませんよ。事実なんだから。

 ちなみに今日、事の中心人物であるカルマとエマさんは共に欠席している。

 カップル共々学校サボって携帯小説でも気取っているのかと嫉んでいたが、二人とも病欠だとカルマの親から学校に連絡があったと聞いて何だか惨めな気持ちになった。

「全く……どんな考え方をしたらあんな結論になるんですか」

「それはその……」

「まさか、私が犯罪でも起こすと思ったんですか?」

 腕を組んで学級長が横目に俺を見る。その質問をされても返答に困るのですが。

 はいそうですと正直に言えばまた機嫌を悪くするだろうし、ここは嘘を吐いて否定するか。

「そんなことないよ!? ただの思い違いだって!」

「なら良いのですが……」

 「じゃあ何でそう考えたんですか」とか聞かれるかと思ったけど、どうやら考え過ぎだった様で簡単に説得出来たな。

 それにしても人が来ない屋上に来たから他人に聞かれたらまずい話なのかと思っていたけど、小声でなら教室でも話せるレベルじゃないか。

 今日は曇っているため肌寒く、出来れば外出したくない様な天候だ。今にも雨が降ってきそうなのに、何で屋上に行かせるのだろうか。

 不満を顔に出さないよう注意しながら悪態をついていると、学級長が再び話を切り出した。

「そういえばフォルト君、あなた最近変わりましたよね」

「そっそうかな?」

「自覚が無いんですか? 剣術は上達していますし、学業も差された問題を全て答えられるようにもなって、何か変わったと皆さん評価してますよ」

 第三者からの俺の評価を話す学級長。しかし俺にはやはり自覚は無い。

 勉強は元高校生としてまず覚えてないと話にならない内容が大半だから答えられているだけだ。ステータスが上がらないまま、マイナスにならないよう堪えているだけである。

 剣術もようやく剣を振るのに慣れてきたところなのにそれだけで上手くなったと褒められてもな。チートでも使って一気にレベルを上げた様に味気無い感じだ。

 俺の人格が覚醒するまでのフォルトの評価はどれ程低かったのか見てみたいところである。限りなくゼロに近かったのだろうけど。

「それと何だか……雰囲気も変わった気がしますね」

「雰囲気? そんなの自分じゃ良く分からないよ」

「目付きが前よりも鋭くなりましたし、一言で表すとすれば()()()()といったところでしょうか……」

「べっ……別人だなんて、まさか短い間で人がそこまで成長することがある訳ないと思うんだけど……」

「あくまで例えばの話です。今のフォルト君の成長の速さは、非現実的な力が働いているのではないかと余りにも急速なものですから」

 大体合っているとはいえ最後に馬鹿にした様なオチ付けるのやめてくれないかな学級長。魔物あんたらの存在だって元人間からしたら非現実的だっての。

 まさかだとは思うがその最後の一言を言う為だけに、寒いプラス心が痛いのダブルパンチをお見舞いする為だけにこの屋上に連れてきたんじゃないだろうな。

 ……やりかねないなこの学級長なら。もし正解だったら俺も「天性のサディスト」と称賛してやろうっと。

「それではそろそろ教室に戻りましょうか。それとフォルト君、今日は久し振りに魔王城に行けますよ」

「……あー、そういえば今日は修行の日だったね」

 考えてみると最後に来た日から色々あって一度も花嫁修行に来れなかったんだっけ。

 ということは今夜の学級長の花嫁修行は二回目にして、俺達の人格が融合して初めてのものとなるのか。経験無いに等しいから正直言って不安でしょうがないんだけど。

「それでフォルト君にお願いがあるんですが」

「不可能なことじゃなければ何でもするけど何?」

「今夜は寝る前に、血を吸わせて貰えませんか?」

「…………え?」

 何か今すっげえ嫌な事を頼まれた気がするんだけど。血を吸わせろだって?

「昨日お父様から吸血の検査の結果発表がありまして、フォルト君のお陰でドラキニウムを摂取出来ていることが知らされました」

「どっ、どういたしまして。でもしばらく貧血に悩まされないで済むと思ったのに、まだ吸血する必要があったの?」

「この間の吸血でまだ不十分な量で止めたせいか、どうやら今の私にはドラキニウムが少し不足しているらしいのですよ。体調は悪くないのでごく僅かな差なんですが」

「ああそういえば……何かごめん……」

「気にしないで下さい。元々吸血の追加は確定していたことらしいので」

「どういうこと?」

「私が幼少期の惨事のせいで血が飲めなくなったことはお父様から聞いていますよね?」

「う、うん」

「先週のお見舞いで初めて吸血した時、どうやらお父様はその一部始終を何らかの方法で見ていたらしく、あの出来事がトラウマとなった私は吸血が下手になっていると発見したのです」

「初めてだったんだから下手も何も無いんじゃない?」

「普通の吸血鬼の場合例え初めて吸血を行ったとしても、相手を極力痛がらせることなくスムーズに血液を吸い出すことが出来るはずなのです。前回の私は余り力の加減が出来なかった様ですし」

 いやアンタ、それは完全に故意で強くしてただろ。

 そう言ってしまいたかったが相手の機嫌を取る為に喉元で何とか抑える。

「そこでお父様が提案したのが私に吸血を馴れさせる為に短い定期で血液を摂取するという方法であり、まずは週に一度からということで今週から魔王城に向かう日は血を頂こうと思うのですが、よろしいでしょうか」

「今週から……って、今日だけじゃなくて毎週やるの!?」

「何を今更聞き直しているんですか。当たり前でしょう?」

「この前血を吸われた後、軽い貧血に見舞われたんだけど……」

「安心してください。先日と同じ量は摂りませんので」

 学級長の言いたい事はそれで全てらしく、俺の腕を掴むと一直線に教室に戻った。

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