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ある少女の追想 ~前編~

「ハア……ハア……」

「どうしたんですか、エマさん?」

 カルマ君の家のある死霊の谷から帰還して、エマさんを彼女の家に送るその道中。

 私の手に掴まるエマさんの呼吸が突然激しくなり、私は飛行を止めて彼女に聞いた。

「何だかさっききゃら、身体が火照ったよおに熱きゅて……」

「呂律が回ってませんよ? 大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫でしゅう……」

 とても大丈夫そうには見えないので、私は一度地面に降りる事にした。

 エマさんがこうなった理由について私は理解している。恐らくフォルト君の持つ淫魔のフェロモンが原因なのだろう。

 淫魔が放つフェロモンへの反応は、魔物によってそれぞれ違ってくる。

 全くフェロモンの効果が無い魔物もいれば、かなりの広範囲で感知して発情する魔物もいる。エマさん達スキュラの場合、フェロモンを受けてから約一時間経過すると発情すると聞いたことがあった。

 生憎私は時計を身に付けていないため正確な時間は読めないが、カルマ君の家に行って帰って来るまでで少なくとも五十分は経過していた。ならば今フェロモンの効果が発動してもおかしくはないだろう。

 さて、事態の把握は完了したが、私はこれからどうすれば良いのだろうか。

「エリシュしゃん……わたひぃ……どうしちゃったんですかあ……?」

「少し疲れただけですよ」

「でもぉ、何だか切ないんですぅ……これってぇ、本当に疲れなんですかぁ……?」

「家までもう少しの辛抱ですよ」

 エマさんは地べたに腰を下ろし、ワンピースの裾を両手で引っ張って何かを堪える様に顔を歪ませている。

 それにしても彼女は発情しすぎではないだろうか。私だってフェロモンに当たれば発情するが、彼女の様にまともに喋るのさえままならない程興奮することはまずない。

 そもそもスキュラはフェロモンへの耐性がとても強い魔物の一種であり、時限制で発情するとしても軽く息が荒くなる程度のはずだ。

 個体によっても耐性の強さは変わってくるのかもしれない。家で研究に没頭しているお父様にでも今度聞いてみよう。

 とにかく、ここで立ち往生していても何も生まれない。エマさんには我慢してもらい、早急に彼女を家に帰すことに専念するべきだ。

「さあ立って下さい。出来るだけ早く着く様に飛びますので」

「うう……カルマくぅん……カルマ君に今すぎゅ会いたいですぅ……エリシュさん、今きゃらまたカルマ君()に行きましぇんか……?」

「残念ですけどその頼みは受けられません。そんな状態で魔界の辺境へ飛んで、もしもの事があったらどうするんですか?」

 欲望に忠実になった今の彼女に死霊の谷は危険だ。女の尊厳だけでなく、命までも魔界の辺境に散らしてしまう可能性もある。

「で、でもぉ……」

「また明日になれば学校で会えます。今日は疲れを取ることに集中しましょう」

 興奮している魔物を元に戻す方法の一つは、一定時間睡眠を取ることである。これはフェロモンに侵されて刺激された性欲を睡眠欲へと昇華し、それを発散することで興奮状態を治めるというものだ。

 高度な呪文や特別な治療も必要無く、眠る場所さえあればすぐに出来るという手頃さ故に一般の魔物にも広く教えられる民間療法である。

 二つの高度な治療はまだ出来ない私達学生には命を守る為の術として、最低限覚えておかなければならないことだ。

「…………はぁい、分かりましたぁ……」

 エマさんは不貞腐れた口調で承り、スカートに付いた砂を払いながら立ち上がってくれた。

 私はありがとうございますと口には出さず頷いて感謝して、今度は彼女を背中に担ぎ空を舞った。


 エマさんを家まで送り届ける使命を成し遂げ、私は飛行の進路を我が家へとすぐに切り換えた。

 エマさんの家は学校から近い方であり、私の家と方角がほとんど変わらなかったため、少し曲がるだけで自分が普段登下校に使っているルートに入る事が出来た。

 目の前には既に私の家が見えている。

 このままの速度と高度を保っていると屋敷の屋根にぶつかると分かっているため、私はいつもやっている様に正門の前に降り立った。

「おかえりーエリス!」

 正門から玄関までの道を真ん中まで歩いていると、帰りを喜ぶ声が横から飛んできた。

 その方へ目をやると、庭の樹の枝を柄の長い鋏で整える男性の姿があった。

 私はその男性が誰だか知っていた。月に三度の訪問で剪定をしに来る庭師の人は来ないはずだから、まず違う。

 というかそもそも、着替えずに白衣のまま剪定しようなどと考える人は、私の中では彼しか思い付かない。

 私は彼に、軽い溜め息の後に声をかけた。

「何をしているのですか、()()()

「いやー、薬の材料に三日月樹クレセントの葉が必要でね。エリスに買ってきてもらおうと思っていたんだけど、まだ外出中だったから無理だったんだよ。どうしようかなーと考えていたら、ふと庭の樹が目に留まってね」

「それで屋敷にある三日月樹クレセントから葉をとろうと考えて、鋏を取り出して外に出たという訳ですか」

「まあね!」

 満面の笑みで親指を立てて見せる父。その顔を見て私は先程よりも重い溜め息をついた。

 またいつもの奇行かと把握した途端、何とも言えない気だるさに続いて頭痛がする。

 カルマ君のお見舞いでの疲労が気付かない内に溜まっており、父の突拍子の無い発言で限界に達したのかもしれない。

三日月樹クレセントは値が張るからこうすればお金の節約にもなるし、今度からこの葉だけでも自給自足していこうかなと僕は思っているんだ」

「そうですか。じゃあ私は中で寝ていますね。ちょっと頭が痛いので」

「大丈夫かい? 病み上がりだと言うのに朝から家を飛び出しちゃって、それで体調崩したんじゃないの? 何か薬を処方しようか?」

「ただ少し疲れが出ただけです。何時間か寝れば回復しますから」

「そう? なら良いんだけど……ご飯はどうする?」

「起きたら勝手に食べますので、適当に作り置いていて下さい」

「分かったよ。お大事にね」

 私にそう言って、父は再び枝を切り始める。新薬の研究に使うと言っていたので、しばらく屋敷に入っては来ないのだろう。

 そう考えながら、私は玄関の扉を開けた。


 私は水の入ったガラス製のコップと瓶が乗せられたお盆を片手に部屋に入る。

 自宅での勉強に用いる机にそれを置いて、早速私は瓶の蓋を開けて中から黒い丸薬を三錠取り出した。

 絶対に市販されることのない、体内の淫魔のフェロモンを除去する父特製の薬。

 それを口に投げ入れ、すぐさま水で胃へと流し込む。

「ケホッ、ケホッ…………ふぅ……」

 むせ返りながらも何とか水を飲み干して、体の中に存在していたモヤモヤした何かが消えるのを感じ取る。

 初の使用であり効果を疑っていたが、そんな不安も同時に消し去る程効いたようだ。

 耐性が落ちる吸血時以外は発情しないのが吸血鬼のフェロモンへの耐性だが、フェロモンが体内に入ったままだと体調に支障を来すため、結局私もフェロモンを打ち消す作業をしなければならなかった。

 勿論私が庭先で宣言した様に父が屋敷に戻り夕食を作るまでの時間を睡眠に費やし、時間を掛けて淫魔のフェロモンを消す事も出来た。

 しかし今の私にはその睡眠療法が、自分のしたい事が出来る好機を無駄にするだけとしか思えず、その考えが私にまだ信頼性の薄い特効薬に手を出させたのだ。

 お盆を机の端にどかし、引き出しから一枚の羊皮紙を取り出しつつ椅子に座る。

 既に箇条書きで記された幾つもの項の下に、私は万年筆を走らせて新たな項を書き綴る。

「キメラバードの羽根に対する動揺、紅茶は砂糖多め、ニクス君の小話で笑わない……今日分かったのはこれだけですね……」

 どれも今日フォルト君が起こした行動の数々である。そしてその全てが私に不信感を与えた。

 キメラバードの羽根は魔界中で流通しているワープアイテムである。それを次期魔王であるフォルト君が知らないはずがない。

 また、フォルト君は紅茶の味付けはミルクであり、笑いの沸点が極端に低いため以前はニクス君の小話で箍が外れた様に爆笑していた。

 が、彼の今日の行いはそれらと一切噛み合わない。まるでだ。

 紅茶の味付けといった好みは気分によって変わるかもしれない。「今日はミルクじゃなくて砂糖で飲もうかな」という些細な冒険心による変化なのかもしれない。

 しかしそれと同様に他の二つは変更出来ない。ワープアイテムへの反応は彼の持つ知識量からのものであり、ジョークへの反応は彼の感性からのものであるからだ。

 「本当は知っているけど今日は無知を装おうかな」、「面白いけど無関心を演じようかな」などというふざけた思考をするほどフォルト君がひねくれた人柄の持ち主なのだろうか。そんなことはないと私は断言する。

「やはり今回も“彼”が関わっているのでしょうか……」

 何故フォルト君があの様な行動に出たのかを憶測し、私は羊皮紙に浮かぶ文字を指でなぞった。



 私が“彼”の存在に気付いたのは今から三週間程前、金曜日リーフヤードの学校でのことだった。

 居眠りをしていたフォルト君は魔王様との関係でヒステリックになっていたマリア先生に八つ当たり半ばの注意を受け、顔を洗う為に教室の引き戸の鍵を開ける許可を得て教室を出ていた。

 私の席はフォルト君の席よりも前にあるためその時の彼の顔を見ることは出来ず、そもそもフォルト君が筆記術の授業で居眠りをすることはよくある事であったため、私は彼の顔など特に気にも止めず板書を手元の羊皮紙に写していた。

 フォルト君が御手洗いに行っている間に授業が終わり、マリア先生が教師用の教科書やチョークセットを畳み始める。

 整理が終わってマリア先生が教室から出ると、丁度戻って来たフォルト君が擦れ違いで入ってきた。

 その表情に、どうも違和感があった。眼が普段よりも鋭くなっており、そしてどことなく怯えを抱いていた。

 恐らく怯えているのは鉢合わせしたマリア先生に睨まれたからであろう。メデューサの眼光に貫かれて心臓を掴まれる様な寒気を感じない者はいないのだから無理も無い。

 ではあの鋭い目付きは何なのか。普段の彼はもっと穏やかな眼をしていたはずだ。

 もしかするとマリア先生の睨みに対抗する為の物なのだろうか。それはないだろう。彼は蛮勇を振るうような性格ではないからだ。ただ単に臆病なだけと断言されるとそこまでの話なのだが。

 私が自問自答を繰り返していると、自分の机に戻ったフォルト君にジョー君が話し掛けてきた。

「やあやあ我らが大魔王フォルト様。永きにわたるご休息はいかがなされましたか?」

 そうからかった口調で励ますジョー君。その姿をフォルト君が動揺したかの様な顔をして眺めている。

 しばらくしてフォルト君は、ジョー君に向けてこう言った。

「なあ、大魔王って何のことだよ?」

「はあ? お前んちが歴代の魔王だからに決まってるだろ? お前が転入した時にマリア先生の紹介で言ってたじゃないか。父親が現大魔王の悪魔だって」

「え? じゃあ何? 俺魔王の息子なの?」

 フォルト君の頓珍漢な発言に、ジョー君は頭を痛めた様な何とも言えない顔をしている。私も今鏡を覗けば同じ様な顔をしているのだろう。

 その後もフォルト君は目の前にいるジョー君に誰だと言い放ったり、半年の間この学校にいる理由は何なのかと聞いたりと、頭がおかしくなったのではないのかと疑いたくなるような発言をした。

 ジョー君は寝惚けているのではないのかと度々呆れていたが、私にはそれは少し違うのではないのかと思っていた。

 しかし彼の異常な状態に何か恐ろしいものを感じて、その時の私はフォルト君にどうかしたのかと聞けず、ルシアさんの操る馬車で帰って行く姿を後ろから見ていることしか出来なかった。


 翌週の月曜日ノームヤード、フォルト君の異変がまだ続いているのではないのかと不安になりながら教室に入ると、ジョー君と話しているフォルト君の姿があった。

 目付きは元の穏やかなものに戻っており、会話も元の調子で進んでいる。またも変貌したフォルト君にジョー君は少し戸惑いを見せていた。

 私はその時彼の姿に安心していた。が、それも長くは続かなかった。

 ホームルームを挟んでの一限目の数学で、フォルト君は問題に答え、そして正解したのだ。

 フォルト君はお世辞にも頭が良いとは言えない。数学の問題なんて基礎中の基礎を間違えるぐらいのはずだ。

 それなのに今回は最後で最も難しい問題を、まるで誰かに言わされているかの様な覚束無い口調ではあったが見事答えたのだ。

 フォルト君の解答にオクト先生が感心し、それに次いで拍手の雨が降り注いで一限目は終了した。

 賞賛を贈ろうと彼の周りをクラスメイト達が取り囲み、困惑したフォルト君は教室から逃げ出す。

「ちょっと皆さん、落ち着いて下さい!」

 私は混乱を防ごうと尽力し、二分程して教室内の騒ぎはようやく収まる。それから暫くして私も教室を出た。

 フォルト君の突然の成長には私も驚いたが、先週の事もあってか彼に何かあったのではないのかという疑念が加速して、彼自身に話を聞こうという好奇心に直結したのだ。

 読書好きだったフォルト君は恐らく図書館に避難しているのだろうと思い、廊下の突き当たりに設置された図書館に繋がる転移装置に足を運ぶ。

「……あら?」

 床に刻まれた円の内側に足を踏み入れたのにも関わらず、身体に浮遊感が現れない。

 一度円の外に出てからもう一度入るが、やはり何も起こらなかった。

「おかしいですね……故障でしょうか……?」

 確か装置のメンテナンスは一週間前に行っていたはずだ。こんな短期間で故障するなんて、メンテナンスに不備があるのではないだろうか。

 そんな不満を堪えながら職員室にその事を報告し、遠回りをして図書館まで行く。

 しかしそこにフォルト君の姿はあらず、書士の先生に聞いても彼は来ていないと返される。

 その後も中庭や多目的教室といった生徒達の憩いの場を回るが、その全てでフォルト君を見つける事は出来ず、休憩時間終了まで残り十分まで差し掛かっていた。

 利用しようとする転移装置が全て作動しないのもあって、私はフォルト君を見付けられないことに苛立ちを覚えていた。

 そして最後に探すと決めていた、転移装置を使わないと遠回りを強いられるためほとんど人気の無い屋上。

 どうせその装置も壊れているのだろうと踏んでいた私は自身の翼をはためかせ直接屋上に向かうと、やはりと言うべきか、そこにはフォルト君がいた。

 早速声を掛けようと近付く。するとフォルト君の口が動いていることに気付いた。

 今この屋上にはフォルト君とその背後にいる私の二人以外に誰もいない。勿論彼と私は対面している訳ではないため、その声は私に向けられたものではないはずだ。

「ほら、さっきの授業で五問目に答えた人だよ」

 フォルト君は目の前の空間を見つめながら独り言をしていた。内容は私の事である。しかし正直言って、彼のその姿はとても奇妙だった。

 今にも舟を漕ぎ出しそうな眠そうな目線を虚空に伸ばし、目の前にいる人物に説明する口調で一人ごちている様は、心ここに在らずという言葉がふさわしい程にどこか朧気で、下手に近付けば霞となって消えて行くのではないかと疑ってしまう程儚い。

 私は彼の斜め後ろにいたため彼の表情の全てを視認することは出来ないが、私に不安感を焚き付けるにはこの角度からの様子で十分だった。

 そんな私がいるとは知らず、フォルト君は落ち込んだ様に呟く。

「少しくらい気にしてくれてもなあ……」

 フォルト君は何故そんなことを言うのだろうか。私はフォルト君を見つける為にこの広くて複雑な構造の学校中を奔走していたというのに。

 勿論彼にその様な事を知る由もないだろう。しかし転移装置の故障などで怒りが最高潮に達していた私には、その言い方が妙に癪に触ったのだ。

「……気にしてますよ?」

 私は彼の呟きに脊髄反射の様に反応し、気が付けば彼にも聞こえる音量で返事をしていた。

「うわあ!? エ、エ、エリスさん!?」

「全く……皆さんがどこにもいないと言うので直々に探してみたら、こんな所にいたんですか。あと五分で二限が始まります。ここから教室に戻れるんですか?」

「だ、大丈夫だよ! ワープについては自信があるから!」

「フン……どうだか……」

 つい疑ってしまったが、飛行能力を持たない彼が屋上にいるということは彼が転移装置を用いたということであり、同時に屋上の転移装置は正常に運転していることを裏付ける。

 ならば授業に遅れることなく教室に戻って来られるだろう。そう判断した私はフォルト君に先に戻ることを告げた。

「私はもう戻ります。くれぐれも遅れないようにしてくださいね」

「は、はいっ!」

 そう返事されたので私は教室に戻ろうとしたが、途中でブレーキを掛けてフォルト君の前に戻る。

 正面から観察して、フォルト君の顔は朝と同じだと分かった。しかしそれでも独り言をしているのは何かおかしい。

 話し方からして、目に見えない“何か”と会話していたのだろうか。それを調べるため、私は一つ鎌を掛けることにした。

「そういえばフォルト君、先程誰かと会話をしていたようですが……そこに誰かいるのですか?」

「えっ!? い、いないよ?」

「そうですか。ならフォルト君は、誰もいない屋上で独り言をボソボソと呟いていたんですね?」

「なんでそんな極端な解釈するの!?」

「気持ち悪いので、今度からは出来るだけ控えてくださいね」

 そう言い放ち、私は最短距離を通り教室に戻った。

 そして席に着くと、フォルト君の現状についてまとめ始める。

 先程のフォルト君の反応で、まず一つの結論は出た。あの動揺した姿からして、姿の無い“何か”は確実にいるはずだ。

 そういった特徴を持つ魔物は実体を消すことが出来るゴーストや、元々姿が見えないインビジブルマンなど幾らでもいる。

 恐らくフォルト君はそういった魔物――“まだ未熟な”が先に付く――を保護しており、その魔物と屋上で会話をしていたのだろう。

 最後に私が放った注意は、彼には不必要なものだったのかもしれない。何個も転移装置を乗り継がないと到達が困難な屋上にまで言って会話をしていたのだ。私がその光景を目にすることが出来たのはある意味奇跡だったと言っても良い。

 しかしそこまで予想した所で問題が浮上する。何故フォルト君の頭が突然良くなったのか。

 その問題の答えとして、その透明な魔物に解答を手伝って貰ったというのが妥当なのだろうが、誰かの監視が必要な程幼稚な魔物に解けるような問題ではなかったはずだ。

 それに姿が見えない魔物でも声や呼吸の音は普通に聞こえる。その魔物が授業中にはしゃぐ可能性も有るというのに、フォルト君が問題を解かせる為だけに教室に連れて来るとは考えられない。

 フォルト君の側にいる“何か”についてはまだ不確定要素が多い。フォルト君の動作一つ一つに着目した方が良さそうだ。

 都合良いことに次の授業は魔導科学である。フォルト君はこの教科も苦手としているため、彼の変化を捉えやすいのだ。

 私はそう考え、フォルト君が教室に戻って来るのを今日やるであろう内容を予習しながら期待して待っていた。


 しかしその二時間目にフォルト君が戻って来ることは無く、彼と再会するのはそれから二十分後の事であった。

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