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ネックレス家訪問ツアー ~疑惑編~

今年最後、滑り込みセーフな投稿です。

 結局カルマのもてなしを受けるためにネックレス家の屋敷に入ることとなった俺達。

 屋敷の中をエマさんに誘導され、ようやく応接間と思わしき部屋に辿り着いた。

 何故思わしきと曖昧なのか。それは玄関先からの屋敷全体が明かりもなく、どんな部屋なのか、屋敷のどの辺にあるのかが全く分からないからである。

「お待たせ。まあ適当に座ってよ」

 部屋の前についてすぐに、準備を終えて戻ってきたのかカルマの声がした。

 余りの暗さに早くも耐え兼ねたのか、エマさんに席へ導かれながらジョーが尋ねた。

「なあカルマ、電器のスイッチってどこにあるんだ?」

「スイッチ? この家電気が通ってないから、そんな物は無いよ」

「じゃあ蝋燭とか無いのか?」

「蝋燭はあるけど、マッチとかの火種は無いね」

「ええっ、じゃあどうやってお茶を淹れてるの!?」

「そこはやっぱり魔法でしょ。こんな風に――“灯せ(リフト)”」

 短めの詠唱の後、ボッという音と共に指先ほどの火が浮かぶ。

 カルマはそれをどこからか取り出した燭台に灯し、ティーセットと共にテーブルに置いた。

「父さんも母さんも、光が苦手でもない癖に暗闇を好む変人でね。ここみたいに中にあって日が入らない部屋は昼間でも真っ暗なんだ。砂糖とレモンとミルク、どれが良い?」

「じゃあカルマ、俺はレモンで」

「私のには何もいりません。それにしても、こうも暗い中で生活していて不自由は無いんですか?」

「結構あるよ。長年生活している内に目が悪くなったし、そこらへんに落ちてる瓦礫に足をぶつけて怪我するんだよね」

「そういえばデカめの石がゴロゴロ転がってるのが見えるな。俺のはミルクティーにしてくれ」

「私もここに来た最初の何度かは足の小指をぶつけていたんですよね……」

 それぞれが自分の好みを注文しながら雑談を交わしている。嫌々ムードだったジョーとニクスも結構楽しげに見える。

 そういえばお前種族的に夜目が利くんだなニクス。でもそれだったら蝋燭無しにも座れたんじゃないのか?

「じゃあ最後にフォルト君、何にするの?」

 四人にカップを配り、五つ目のカップに茶を注ごうとティーポットを軽く傾けてカルマが聞いてきた。

「えっ……あー、えーっと……じゃあ砂糖多めで」

「分かったよ」

 カルマは大量の砂糖をぶちこんで、俺の前に紅茶を置いた。

 カップの中を覗くと、飽和状態になって溶けきれなかった砂糖が沈殿している。これを飲んだら甘ったるい味が口中にこびりつきそうだ。

 だが元々俺にこれを飲む気は更々無い。俺は今、カルマの行動を軽く不審に思っているからだ。

 カルマが俺達に屋敷に入るよう誘った言い回しに、俺は先日の学級長のお父さんの言い方に既視感を感じていた。

 あの時は目的が学級長のお見舞いだけだったのに、彼の誘いにホイホイつられた結果、貧血の学級長に貧血になるほど血を吸われた。

 周りの奴らは何ともない点も酷似しているが、正直言ってこの二つの誘い文句を関連付けるのは難しい。しかし数日前の出来事が俺を疑心暗鬼にし、飲もうか飲むまいかの二者択一で葛藤させる。

「どうしたの? 飲まないの?」

 渡されたカップに口を付けられずにいる俺にカルマが首を傾ける。まずい、このままだと次は飲むように凄んでくるのでは……

「実は僕、最近猫舌になったらしくて、ある程度冷まさないと飲めないんだ」

「猫舌って後天的にも出るものなんですか?」

「ぼっ、僕に聞かれても分からないよ」

「うーん……本当は淹れたてを飲んでほしいんだけど、そこまで言うなら冷めてからでも良いよ」

 よしっ、疑い深い学級長が余計な邪魔をしたけど、なんとかカルマに紅茶を飲むのを延期させることに成功したぜ。

 後は適当に話を反らして帰るまで粘れば良いんだが、長期戦となりそうだなあ……


 あれから四十分経過したのにもかかわらず、茶会は随分とチビになった蝋燭の火を囲んで続いていた。

 少し前までは世間話に華を咲かせていたジョー達だが、話すネタも無くなったのか、ちょっとしたジョークを話すようになっていた。

「で、俺はその時親父に言ってやったんだよ。アンタの弓に狙われたんじゃ獲物も報われないってさ」

 いまいちオチの不明な話に大爆笑する一同。引きつった作り笑いを少し見せてすぐに紅茶で喉を潤す俺。

 正直俺にはコイツらの笑いのツボが分からない。純日本人である秋人(オレ)がそのまま転生したのがフォルトであるからそれは当たり前なのだろう。

 魔界の笑い話はまんまアメリカンジョークであり、言い回しやオチの付け方がそのままで、テレビで流していれば「HAHAHAHA」とフルハウス的歓声が沸き上がって来そうだ。

 かと思えば話の始め方は「本当なのか嘘なのかは知らないけど」とか「これはうちの親父の友人から聞いたんだけどよ……」と学校の七不思議めいていて、俺はあまりのシュールさに逆に笑いそうになってしまった。掴みとしてはある意味強力なんだな。

 ああそういえば紅茶についてだが、劇物混入は結局俺の杞憂に終わり、学級長に思いっきり睨まれて渋々飲んでみたところ、淹れてから十五分程経っていたというのに美味しく頂くことが出来た。

 まあ俺は極度の猫舌だから、熱いお茶が余り飲めないのは本当なんだけどな。

「これで俺が話せるネタは最後だ」

「ええー他に無いんですか?」

「流石にもうな。あったとしても喉を痛めるだけだろうし」

 どうやらいつの間にかジョーの話が始まって終わっていたようだ。これで今度こそ帰ることが出来る。

「じゃあまた俺の番だな。次はもっと面白い話してやるよ」

 俺が肩を撫で下ろすのよりも早くニクスが延長を宣言した。おおーっと期待の拍手が部屋中にこだまする。どうやら帰ろうと思っていたのは俺だけのようだ。

 畜生、なんでお見舞いついでの茶会の中でスベらない話を出しあっては笑っているんだコイツらは。

 事の発端である暴走を起こしたカルマはまだ親が帰って来ないことを良いことにはしゃいでるし、俺達のブレーキである学級長も叱責することもなく魔界ジョークに声を殺し肩を震わせて笑っていやがる。

 話を理解出来ていない俺だけこの輪の外だ。先程から俺がつまらないと思っているのはジョークだけじゃなくて、この空気に気圧されているからでもあるんではないだろうか。

(あー帰りてえ……すっげえ帰りてえ……)

「――そういえばさ」

 俺の帰りたいオーラを感知したのか、先程までニクスの渾身の(くだらない)ジョークに笑っていたカルマが我に帰ったかの様に話を切り出した。

「なんだよカルマ」

「あー話を始めるのを遮ってゴメンねニクス君。ちょっとみんなに聞きたい事があってさ」

「どうかしたのか?」

「今更ながら気になったんだけど、どうしてジョー君達はそれぞれ武器を装備してるの?」

 カルマの率直な質問に、一同の顔から笑みが消える。今まで魔界ジョークで暖かくなっていたはずの部屋内が急激に冷え込んだ気がした。

「……えーっとだなカルマ、それには深い理由があってだな……」

「理由? ここ一帯を徘徊するモンスター達から身を護る為とか?」

「そっ、そうそう! やっぱ準備って大事だからな!」

「それ、別に君達が考えた訳じゃないね」

「うっ!?」

「はあ……やっぱりね」

 カルマが呆れた様に溜め息を吐いて続けた。

「エマちゃんはキメラバードの羽根でここにワープする時、着地地点をうちのすぐ目の前に設定してたでしょ? モンスターがいてもすぐに逃げ込めば良いんだし、モンスターと戦う事なんて無いよね?」

「おおなるほど、言われてみれば確かにそうだな!」

「君達の、特にニクス君の反応で確信したよ」

「ニクス……」

 憐れんだ表情でニクスを見るジョー。さっき声に出して驚いていたのもアイツだったし、まあそんな視線になるわな。

「で、だとしたら剣も弓も必要ないよね。でも君達は今も体の近辺に自分の武器を置いている……あっ」

 ポンッと手を叩いて、カルマは結論付けた。

「もしかして君達がその手から身を護ろうとしている相手ってモンスターじゃなくて、僕だったりするのかな?」

 推理小説の主人公みたいにそうキメたカルマに一同が再び凍り付く。

 カルマの家に訪問した本来の目的はカルマ本人には話さないという暗黙の了解が俺達の間で出来ており、それに関連してもしもの時はカルマを昏倒させるということも黙っているようにしていた。

 しかしカルマがそれを見事的中させてしまい、なんて返せば良いのかと焦っているのだ。

 誰か何か言えよ、そっちこそ何か言えば良いだろと、互いに目配せしては責任を押し付け合う。

 誰がバラすかも決定しないで二分程経過すると、再び口を開いたカルマが思いにもよらない事を言い出した。

「なんてね、そんなはずないでしょ?」

「へっ!?」

「初めて訪れる土地で何があるか分からない、持っていかないよりはましだろう。君達はそう考えて武器を持ってきたんだと僕は思うんだ」

「……お、おう」

「結局最初に思い付いた理由と一緒になったけど、これで僕の疑問は消えたよ。ありがとう」

「はあ、こちらこそ……」

 カルマの不可抗力の的外れな発言に真実を伝える事が出来なくなり、重く寒い異質な空気が立ち込める。今ニクスが渾身のジョークを言ったところで誰も笑わないのは明らかだ。

 当然その空気の中で無理矢理継続していたお茶会を更に続けることなど到底出来る訳も無く、幸か不幸か、ネックレス家の家庭訪問はそこでお開きとなったのだった。



 帰りのワープの最中、移動している空間の中で俺達はカルマの家に行っての自分の感想を言い合っていた。

「いやー最後のあの瞬間は辛かったけど、今日の家庭訪問は楽しかったな!」

「そうだな。最初は薄気味悪いなと思ったが、死霊の谷もそこまで悪くないじゃないか。お茶も美味かったし」

「皆さん、本来の目的はカルマ君の様子を見ることだということを忘れていませんよね?」

「大丈夫だよエリスさん。それに見たところ、カルマに異常はないようだし。ねっ、エマさん?」

「…………」

 話を振ろうと学級長と逆の方を向く。

 俺がエマさんに期待してた反応は満面の笑みでの肯定だったのだが、エマさんは何か思い詰めた様な表情で黙り込んでいた。

「…………」

「……エマさん?」

「ひゃっ……な、何ですか?」

「エマさんはカルマの様子を見ててどう思いました?」

「あっ……ああ、そうですね。体調も悪くないみたいで、本当に一昨日早退したのかと疑ってしまうほど、今日のカルマ君は元気でした。ただ……」

「ただ?」

「何か少しだけ、少しだけですが変だなと思うところがあったんです」

 空気の違うエマさんに、会話を続けていたジョーとニクスも目が釘付けになっている。

「カルマ君に紅茶に入れるものを聞かれた時、皆さんの下には注文通りの紅茶が配られましたよね?」

「そうですね」

「あれ? でもアンタ、トッピングの指示をしていたか?」

「カルマ君は私が好きな味を知っているので、わざわざ聞かなくてもその通りに作ってくれるんですよ」

「じゃあエマさんの紅茶にはそのトッピングがなされていたんですね?」

「それが……違う味だったんです」

「違う味って、ちょっとした誤差ぐらいじゃないのか?」

 落胆した声で言うエマさんに、ジョーが意見を発した。

 エマさんは首を横に振って反論する。

「溶けきっていない砂糖がティーカップの底に沢山残っていて、かつミルクとレモンを一緒に入れた紅茶を、カルマ君が客人に出すとは思えません」

 言われてみて、俺は確かにそうだなと共感出来た。

 カルマが紅茶にうるさいかどうかは全く知らないが、そんな紅茶出されたら俺ならぶちギレるだろう。

 その点では、その時は何も言わずに紅茶を飲み干したエマさんは凄いんじゃないだろうか。

「カルマ君は私がカルマ君の家に最初に来た時に頼んだ紅茶の味も覚えているはずです。今日の皆さんの好みも覚えていて、次に来たときに同じ味の紅茶を出すはずです」

「確かに……アイツ記憶力凄いからなあ……」

「ということはエマさん、あなたはカルマ君の状態は正常ではなかった、と言いたいのですか?」

「そこまで極端なものではないんですけど、そういうことです……」

 エマさんの告発が終わるとそれに重なる様にワープが終了し、空中を高速で飛んでいた俺達五人は学校の前の地面を踏みしめていた。

「おっ、学校前に戻って来たようだな」

「それで、これからどうするんだ?」

「どうするって……何をするんですかジョー君?」

「エマはカルマに不審感を募らせているんだろ? だったらその思いをなくすためにも次の行動プランを考えた方が良いんじゃないか? もう一度ネックレス家を訪問するとか」

「その必要は無いでしょう。カルマ君に多少の異変が生じていたとしても、それをわざわざ確かめる訳にはいきませんし、明日にもなれば彼も元気に登校しているはずでしょう。エマさんはそれでよろしいですか?」

「別に構いません。では今日はもうお開きということになるんですか?」

「そういうことになります」

 堂々と学級長が宣言して、エマさんが深々と頭を下げた。

「では皆さん、今日はありがとうございました。また何かあったら、その時はよろしくお願いしますね」

「うん、じゃあね」

「気ぃ付けて帰れよー」

「カルマによろしく頼むと言っといてくれ」

「では私はエマさんを送りますので」

 エマさんにそれぞれ挨拶したタイミングを計らって、学級長がエマさんの手を掴み、吸血鬼特有の蝙蝠の翼をはためかせる。

 少しずつ学級長が浮かび上がり、続いてエマさんの身体も地面から離れ始めた。

「それでは皆さんさようなら。また明日会いましょう」

 そう別れを告げて、学級長は恐らくエマさんの家がある方向へと滑空した。

 その動きは凄まじく速く、あっと言う間に学級長の姿は景色へと溶け込んで行ってしまった。そんな速度で飛んで行って大丈夫なのかエマさんは。

「じゃあ俺達も帰るとするか」

「そうだな。うちの馬鹿姉貴がまた何かやってないか心配だし」

「じゃあ二人とも、うちの馬車に乗ってく?」

 ジョーとニクスに提案しながらある一方を指差す。

 騎士の姿のカウンセラーさんが操る馬車がそこにあり、俺が向かうのを待ち構えている。

「いつの間に呼んでたんだフォルト?」

「僕は呼んでないよ。ここに戻って来てすぐに馬車は止まってたんだ」

「俺達が戻って来る時間を予測したのか? 何て優秀な従者なんだ……」

 優秀っていうか異常なんだけどね、カウンセラーさんは。

「じゃあ頼むよフォルト」

「分かった。ジョーは乗るの?」

「俺はいいよ。どうせ家に帰っても暇だからその辺をブラついてるわ」

「そう? じゃあまた明日ね」

「おう」

 ジョーと別れて馬車へと向かう。既にニクスは馬車に乗っており、俺が来るのを手を振って催促していた。

 馬車に乗り込み、カウンセラーさんに用件を伝える。

「そういう訳だからルシアさん、ニクスを送るので森に寄って下さい」

「承知しました」

 カウンセラーさんが呼応して、間もなく馬車は動き出した。



「ふわぁ~ああ……」

 学校を中心とする街の外れ、ひっそりと植えられた寂しい一本の木。

 その姿を形成する枝の上でジョーは寝そべっていた。

「やっぱここは落ち着くな……」

 そこはジョーの憩いの場であった。修行に疲れた時ややることも無く時間を潰したい時、彼はここを訪れては木に体を任せていた。

 今日は見上げると、風に揺れる緑葉の間で空の青が映える。

 この場所の景色は二度として同じものが無い。万華鏡の如く移り変わる映像に、ジョーは美しさを感じていた。

「……ん?」

 その青の中で、ジョーは直線的に動く水色の光を見つける。空中を高速で動く光線に、彼は見覚えがあった。

 それはワープの視覚的効果。“転移呪文”やキメラバードの羽で高速移動した様を周囲に見せるもの。

 その光線の中にいる人物を、ジョーは首を傾けて発見した。

「あれは……エマ?」

 飛んで行く水色の光の中で、光の進む先を見つめているスキュラの少女。

 確か彼女はエリス学級長に連れられて帰宅したはずである。それからまだ一時間と経っていないというのに、彼女はどこへ行くのだろうか。

 そう思いジョーはエマの飛び去った方向の先にあるものを考える。

 そしてある事に気付くと枝から跳ね起き、ジョーは木から飛び下りた。

「オイオイ、あっちは死霊の谷の方角じゃねえか……まさかカルマの所に……?」

 眉をひそめたジョーが見上げる空に、水色の光はそれが引く尾すら既に消えていた。

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