表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/75

転生しました

「フ……ト君、この……を……さい」

「ううん……」

「フォルト・ハイグローヴ君! この問いに答えなさい!」

「は、はいい!」

 ガバッ、と席から立ち上がる。すると周囲から好奇の視線を浴びた。

 ここは……学校か……? 目の前には長方形型の深緑色の黒板(なんか矛盾しているような……)が壁に取り付けられており、そこに白いチョークで読解不能な文字が乱立している。

 その前ではダイナマイトボディーで金髪美人な女性が、こちらをじっと見てくる。気分は蛇に睨まれた蛙だ。

「……ぷっ、また居眠りかよフォルト~」

「あーあ、どうすんの。マリア先生怒ってるよ?」

 周囲を見てみるが……誰だこいつら? 見たところ人間だが、見たことのない面々だ。

 肌の色は白で、ここは欧米諸国か?と思わせるが、それにしては何か違和感がある。自惚れになりそうだが、一人一人が、例え今のようにからかっていたとしても、その深淵の精神レベルで、俺を怖れているように見える。

 ていうか、フォルト・ハイグローヴって誰だ? 俺は……誰だっけ?

 そんな痛々しいあだ名みたいなのが本名なのか――

「あでっ!」

 辺りを見ながら考えていると、何やら前から飛んできて、俺の額に当たる。

 床に落ちて、ポキッと鳴りながら真っ二つに折れたそれは、誰がどう見てもチョークであった。

「フォルト君……どうやら話を聞いてなかったようですね……今すぐ洗面所で顔を洗ってきなさい」

「あの……あなたは……」

「いいから! 早く行きなさい!」

「は、はい!」

 人呼んでマリア先生の怒号を浴び、俺は一目散にドアに向けて走り出した。


「まったく……どうなってんだ……?」

 俺は誰もいない廊下を歩きながら、首をかしげる。

 教室らしき空間から出た時、「1―B」と書かれていた。ちらっと見えた教科書の内容からして、俺は中学一年生ということになる。

 ……なんで俺はこんな今更な考察をしているんだ? 自分の年齢くらい一瞬で分かるだろ。間違いなく俺は()歳だ。

 というかそもそも、記憶がおぼろ気になってるんだ? この年齢でアルツハイマー症候群でも発症したなんてことはないよな。……アルツハイマー症候群って何?

「まだ寝惚けてんだな、とっとと顔洗って戻ろう」

 とは言っても、ここのどこに洗面所があるんだろうか。ここの浩三が全く分からないので、さっきから適当に歩いていた。

「んん?」

 ふと窓の外を見て、俺は驚いた。

 まず、空が緑色だ。なんてこともないいつもと同じ空なのに、どういう訳か違和感を感じた。

 外の空気に晒された土地は風に優しく撫でられ、木々のざわめきが聞こえる。

 しかしどうも木が多い気がする。視界にくっきりと見えるものだけで、優に100本は越えている。

 この学校に連日来ているのなら普通のはずの光景が、今の俺には新鮮に見える。

 てか、この近辺は少し文明が遅れているのか? この学校もだが、木造建築物しかない。

 もっと固い物質、例えばコンクリートで建てられたビルとかが1つも無いのだ。

「コンクリート……? ビル……?」

 駄目だ駄目だ、訳の分からんことを口に出してしまっている。

 考えるのは後にして、まず今は洗面所を目指そう……。


 それから一分経つ前に、洗面所についた。

 あれから直進して、すぐに見つかった。

 蛇口から迸る水を手ですくい、顔にぶつける。これで目は覚めただろう。多分。

「ん?」

 不意に、目の前の鏡に目がいく。

 黒い髪に、やや黄色みがかった肌。見つめる目は大きいにも関わらず、目を細めているからか少し小さく感じる。

 鼻と口は特にこれといったこともない。問題は、顔の真横でその存在を見せつける耳であった。

 なんと言うか、少し耳朶の上が外側に向かって尖っている。

 エルフ耳、にまで及ぶかどうかは分からないが、今まで見たことのない形に驚く。

 それにしてもこの顔どこかで見たような……あっ!

「お、思い出したぞ! 転生に成功したんだ!」

 今思い出した、俺の名前は高林秋人。耳以外の顔のパーツはこの頃からのものだ。

 さっき言われた「フォルト・ハイグローヴ」っていうのは多分転生後の、この世界での名前なのだろう。

 多分由来は高→ハイ、林→グローブ、秋→フォール、人→トということだろう。なんかそのまんまな気がする。

 ていうか「フォルト」って、英語で欠点や短所を意味するはずだろ。どうしてそんな名前つけるんだよ。

「ということは……ここはファンタジー小説の世界なのか?」

 転生先は正しいんだろうが、ファンタジーっぽさは今のところ全く皆無。

 転生の自覚をするまでに、目が覚めてからまだ5分も経っていないから、そう思っているのだろうか。

「ひとまず教室に戻るか……あれ?」

 鏡を覗いて髪を弄くり倒していると、指に当たる肌の感触に少し違和感が生じた。

 柔らかめの黒髪の中に、固い何かが入っている。先端は尖っていて、三角錘型になっているらしい。

 力強くつねると、頭に電気が走ったように痛む。コブだろうか。

 頭頂部の右側にあるだけならそれで済ませることができた。が、ちょうど頭の逆側にも同じようなコブがあることに気付き、ややあっと俺は驚く。

 急いで鏡に顔を近付け、髪をずらして頭皮を見る。

 その瞬間、俺は度肝を抜いた。

「なんだこれ……角……?」

 生えた二本の角に驚いているところで、空間をチャイムが響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ