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レベルを上げて魔力で殴れ

 避難所に入って四日が経った。

 俺とエリス学級長はこれまで、魔王軍の映像を見ながら時間を潰している。

 魔導科学の力で食事や風呂や衣服が出てきては消えるので、液晶画面しか無い空間での生活は充実していた。つくづくご都合主義な世界である。

 またマリッサ婆さんやお袋、俺と同年代の魔物の殆どは、似たような空間の中に避難しているんだとか。

 しかしこの空間に入ってから、一度としてフォルトは目覚めない。

 カウンセラーさんにも聞いてみたが、その原因は良く分からないそうだ。一体何があったのだろうか……。


 避難所に入った日の翌日、どことなくドラクエⅢを彷彿させるような一行が城の前に現れ、それによって相手の勢力は四人であることが把握出来た。

 ……魔物側で見ると、たったそれだけのパーティで魔王は倒されるのかとひしひし感じる。もっと頑張ろうよ魔王軍。

 結局その時の勇者一行は結界に阻まれ、その結界を破るために幹部を倒しに行ったのだが、ここで少し、魔王側に問題があった。

『まっ魔王様、ご報告致します!』

『どうした?』

『先程調べたところ、魔王城の結界が弱まっていることが判明致しました!』

 魔王城の結界は、魔王とその幹部達の持つ魔力の合計である闇の魔力(D・MP)が、勇者のパーティの魔力の合計である光の魔力(L・MP)に負けることで打ち破られる。

 ちなみに親父にそのむねを伝えた骸骨剣士曰く、現在の魔力はこうなっているらしい。


 闇の魔力(D・MP)(魔王軍)……計14600

 悪魔皇帝エビルエンペラーヴィンセント……現在3700

 妖術師シャーリー……2600

 火焔児フレイムボーイラクサス……2000

 氷結嬢アイスガールジュリエット……2000

 轟鬼ゴンゾウ……1700

 紅龍レオン……1600


 光の魔力(L・MP)(勇者一行)……計5400

 勇者……1200

 戦士……1100

 僧侶……1500

 魔術師……1600


 問題なのは親父、魔王ヴィンセントのところの「現在3700」という表記だ。

 親父の元々の魔力は4000あるらしいのだが、老化による弱体化と、先日の修羅場の疲れのせいで下がってしまっている。

 数値としてはたった300しか減ってないように見えるが、呪文の威力は魔力の最大値に比例するため、実はこれがかなり大きい。

 今の親父が“バーニング”を放っても威力的には“フレイム”程にしかならないのだ。

 まあ「これはメラではない……メラゾーマだ(涙目)」みたいな、こちらの涙まで誘うような状態になっていないだけましなのだろう。

 ともかく現在の魔王城の結界は、親父と、部下と共に城に駐屯しているレオン親衛隊長を倒さなくても破れるほど脆弱な物になってしまっているのだ。



『行くぞっ、魔王ーーーー!』

 その三日後――今日の昼頃。

 ついに城の結界は光の魔力(L・MP)によって砕かれ、声を揚げて勇者達が城に入った。

 魔界中に散らばっていた幹部達を三日で倒すとは、中々実力のあるパーティらしい。

 エントランスに配置されていた無数の親衛隊を薙ぎ倒しながら、四人は散り散りになって魔王を探し始める。

(あれ、勇者って単独行動するもんなんだ。てっきり全員一列で来るのかと思ってた)

『当たり前じゃないですか』

 俺の一人言に遠くからツッコミを入れるカウンセラーさん。って、そんな暇あるんですか?

『恐らくあと数分で給仕部隊は勇者と接触致しますでしょう』

 スクリーンに映る勇者は再び編隊を組み、エントランスから左の通路に抜け、幾つも並ぶドアを端からチェックする。確かこんな感じの怪談あったよな。最後に上から見られているオチの。

 そして十三番目、カウンセラーさん達メイドが控えている部屋のドアの前に着くと、一行の中の根暗そうな魔術師は眉をひそめ、ドアをじっと見つめた。

『この先に……強大な魔力を感じる』

 魔術師がそう呟き、他の三人は顔を見合わせた。

『もしかして、ここが魔王の部屋なのか!?』

『その様らしいわ……』

『つ、ついに目の前まで来たんですね!』

『ああ。でも気を抜くな、少しでも油断すれば敗けだ。られる前にる、そのためには、力を一つにしないと……』

 その先にいるのが魔王だと勘違いして、屍転がる廊下で盛り上がる勇者一行。随分と余裕そうだな。

 しかし1600という、幹部クラスの魔物並みの魔力を誇る魔術師が「強大な」とは、カウンセラーさんの実力はいかがなものなのであろうか?

「フォルト君、ルシアさん達は大丈夫なんですか?」

「え?」

 突然エリス学級長から質問を投げ掛けられ狼狽する。

 カウンセラーさんの運命など俺に予知できるはずが無いから、そんなことを聞かれてもどうしょうもない。

「う~ん……そうだね……」

 俺は顎に手を起き、推理物のドラマの主人公の様に考察タイムに入る。

 世界の更なる崩壊を防ぐため、カウンセラーさんが天界由来のトンデモ能力を使うことは無いだろう。

 周りは普通の魔物メイドなのに、一人だけ妙に強いだけでも不自然に感じられてしまうしな。

 ということは、カウンセラーさんが理不尽な攻撃を出来なくなり、同時は他のメイド達と同じナイフ戦法をするようになる。

 彼女の技術は未知数だから確証は取れないが、恐らく魔王に華を持たせるため、敢えて負けた()()をするのだろう。

 よって、多少こじつけもあるが、俺の答えはただ一つ。

「ルシアさんも十分強いけど相手は勇者だから、もしかしたら負けちゃうかもね……」

「そうですか」

 結構真剣に考えた答えを五文字で一蹴する学級長。顔に馬鹿にした笑みが浮かんでいるように見えるのは、俺の心が濁っているからなのだろうか。

 そう隣の吸血鬼に行く先の無い怒りを勝手に込み上げていると、先程からずっと話している勇者一行が行動に移った。

 ドアにトラップがかかっていないと確認して、勇者がドアノブを握る。

『魔王っ、覚悟ーーーー!』

 そう言って勇者はドアを乱暴に開け、思いきり高く飛び上がりながら、明かりの灯っていない空間目掛けて抜き身の剣を振りかぶる。

 そこで、そんな一番良いシーンで、スクリーンが真っ黒になった。



 暗転した液晶画面が再び光を得ると、そこには衝撃的な映像が映っていた。

「うわああああ!?」

「キャアアアアアアアア!」

 まず最初に映された廊下には、倒れた戦士、僧侶、魔術師の姿があった。

 三人とも腹部を深く斬られ、赤黒い血溜まりに沈んでいる。

 エントランスと廊下を護衛していた親衛隊は全員が骸骨剣士だったために、生身の人間の死体は正直見るのが辛かった。

 そしてまた画面が切り替わり、今度は部屋の中を映す。

 壁一杯に広がる本棚以外に何も無い簡素な造りの部屋の真ん中で、カウンセラーさんは呆然としながら立っていた。

 その視線の先、深紅の絨毯の上には一つ辺り拳骨一個と同じ程の大きさの肉片が無数に転がっている。

 傍らには豪華に宝玉が幾つも埋め込まれた剣がその刃を真っ二つにして置かれており、それが先程まで勇者が振り回していたものであることを把握するのに時間はいらなかった。

「る、ルシアさん!?」

『どうなさいましたか、フォルト様』

「勇者がバラバラになってますよ!? まさかルシアさんが!?」

『私は何もしておりませんよ』

「えっ?」

 モニターのカウンセラーさんが淡々と言って、俺達はポカンとした顔になった。

「でも、その部屋にはルシアさんしか……ていうか、他のメイドさん達はどうしたんですか?」

『給仕部隊は、この部屋の右隣の部屋にて待機しておりますが』

 画面の右下に小さくワイプができ、数十人のメイドの集団が映される。

『そもそもこの部屋の入り口には防衛として、“デスゾーン”という極めて強大な呪文がかけられております』

「なんですかそれ?」

『“空間斬絶呪文”といって、一定の領域内に入った生物を真空の刃で切り刻む効果があります。領域はあまり広くは出来ませんが』

 なんだかエラく物騒な呪文だな。むしろその領域を際限無く広げたら逆に使いづらいだろ。

「エリスさんは知ってた?」

 自分の無知をバラしているのに隣から侮蔑の視線が刺さらないので聞いてみると、エリス学級長は首を横に振った。

「私も初耳でした」

『無理もないでしょう。この呪文はその余りの危険性から、非常事態以外に使う事を禁じられていますから』

「え、でもそれじゃ、ルシアさんはどうやってその部屋の中に入ったんですか? てかなんで入ったんですか?」

『順番に答えましょう。この部屋には“瞬間移動呪文”を使って入りました。そしてその目的は、この部屋に存在する、あるアイテムの有無を確認するためです』

「アイテム……ですか?」

 学級長が興味津々に聞くと、カウンセラーさんは本棚に近付き、一冊の本の厚手の背表紙を細い指でなぞる。

『詳しく言うことは出来ませんが、この部屋のどこかには、魔王様を討つ上で重要となるアイテムが必ず存在します』

「そんなに凄い物があるんですか?」

『はい。その力を使えば、悪しき者の侵攻を止めるのも赤子の腕を捻るに同じことになるとか……』

「なんでそんなものが魔王城にあるんですか」

 そりゃダンジョン内にボスキャラの弱点となるアイテムが隠されてるなんて昔からの様式美おきまりだけどさ、何も本棚しか無い場所に隠す必要は無いよな?

 その護衛の為の“デスゾーン”なんだとは分かるけど、呪文打ち消されたらもうそれで終わりだろ。

『ともかく、私はそれの位置の確認をするためにこの部屋に入ったのです』

「はあ……ていうかルシアさん、さっきからそこにいますけど、大丈夫なんですか?」

『大丈夫とは、どういう意味ででしょうか?』

「いやなんというかその、ずっとそこにいるのは、色々とまずいような気がして」

『ご安心下さいませ。私の姿はおふた方以外の者には見えないようになっているので』

 いまいち信じがたいなと思っていると、魔王親衛隊である竜兵士の一人が、敵の進行が止まりどうしたのかとドアの前で部屋の中を覗いていた。

『こっ、これは……おおーい! 遂に勇者達の息の根が止まったぞー!』

 その言葉を聞き、親衛隊の残党や給仕部隊の使用人達が部屋の前に集まって来た。

 押すな押すなと騒ぎ立て、親衛隊の同志と勇者パーティの三人の亡骸を踏み付け、狭い通路内はすし詰め状態となっている。

 しかし誰一人、その勇者の切り身の後ろに突っ立っているカウンセラーさんの存在に気付いていない。

 これも何かの呪文の効果なのだろう。大変良く分かりました。

『しかし、あそこまで暴れに暴れていた勇者も、こんな無惨な姿になるとはな……』

『とにかく、今は魔王様に報告だ』

『なら私が報告して参ります』

 いつの間にか人混みに紛れ込んでいたカウンセラーさんがその言葉を待っていたと言わんばかりに報告役に立候補し、誰も承諾も拒否もしない内に颯爽と走っていった。

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