本格シドウするそうです
突然強襲を受け、世界の舵(?)となる魔王が重症を負った翌日の早朝。
本当ならば今日の午後までいるはずであったエリス学級長は、緊急事態中の護身のため城を後にすることになった。
それで俺達は今、どういうわけか修練場にいるわけで……。
「あの~ルシアさん?」
『なんで俺らは朝っぱらから修練場にいるんですか?』
休日だとしても修練場に入るのは基本午後のはず。これから一体、何をするんだ?
「フォルト様、秋人様、今日はこれまでに教えた呪文の復習をしたいと思います」
「どうしてですか?」
「フォルト様達の実力を確かめるためです」
カウンセラーさんが続ける。
「ヴィンセント様が負傷なされたことが、いつまでも魔界全体、延いては人界に漏れないとは限りません。更に、人界に漏洩した場合、勇者達が魔界に突入する可能性も上がります」
『まあ、魔王を倒す絶好のチャンスですからねえ……』
「そこでお二方にはより強い力を得るため、パワーアップした修練内容をこなして頂く必要があります。そのためには、まず現在の実力を把握しなくてはならないのです」
あー、つまり要は、血の滲む様な修行をして、勇者と張り合える程まで強くなれってことか。
『カウンセラーさん、俺達はどれくらい強くならなくちゃいけないんですか?』
「少なくとも、魔王軍の幹部全員を凌ぐ様にならないといけません」
『許嫁の吸血鬼に剣術で負けているのは?』
「もっての他です」
はい、分かりました。でもそれを言ったら、キャバクラでお袋に関節技を極められていた親父もどうかと思うのですが……。
「普段は駄目なヴィンセント様も、一応幹部よりは強いですよ秋人様?」
『は、はあ』
当たり前の様にカウンセラーさんは俺の思考を読んでくれる。ていうかなんだかんだ言って駄目だとは思ってたんかいっ。
今度はフォルトが口を開いた。
「それでルシアさん、具体的にはどんなことをして強くなるんですか?」
「やってもらう事は山ほどございますが、特に剣術と呪文詠唱、この二つを集中的に強化してもらいます」
カウンセラーさんが人差し指を立てる。
「まず剣術は魔王軍幹部の一人、サラマンドラ親衛隊長に指導を受けてもらいます」
『サラマンドラ……って、もしかしてジョーの父親か? 親衛隊長なんて役職に就いているのか?』
「うん、レオン・サラマンドラ親衛隊長。ジョーの剣術は父親から教わったものなんだよ」
それは期待できそうだ。ジョーの剣術の成績は男子及び学年トップだからな。ちなみに女子のトップ及び学年の次席はエリス学級長だ。
「続いて呪文詠唱ですが、こちらは魔界随一の魔力を誇るマリッサ様に指導してもらいます」
『マリッサ?』
「マリッサ・ネネルール。お祖父様が魔王として活躍していた時よりも前から生きている魔法使いのお婆さんだよ。白髪で眼鏡を掛けた」
名前を聞いた段階で、俺の頭の中でアリサマリサクラリッサとか言う有名なのかどうなのかは分からない呪文が浮かんでいたのだが、フォルトがそう言ったため、「テーレッテレー」とかいう効果音が突然脳内で流れた。
『え? ちなみに服装はなんだ?』
「とんがり帽子に、黒いマント姿だけど」
完全に一致しちまったよ。つーかよく考えなくても名字のネネルールがアナグラムじゃねーか。
「ではそろそろ始めましょう。ではまずは“ファイア”からお願い致します」
説明は十分だと思ったのか、カウンセラーさんは開始を声明した。
「――はい、そこまでです。お疲れ様でした」
開始して三十分、連続して呪文を詠唱し続けただけで息が絶え絶えとなった俺達にカウンセラーさんが告げる。
羊皮紙に何やら書き込んでいるが、この復習の成績表みたいなものなのだろう。
「ハア……ハア……それでルシアさん、結果は……?」
「Sランクを最大とする五段階評価で表すとすれば、フォルト様はBランクで秋人様はCランク、指導の基準となる平均値はBランクマイナスといったところでしょう」
『こんだけやってもCですか!?』
「転生してから数日にしては出来が良い方だとは思われます」
それならば、生まれつき魔界にいるのにBランクなフォルトの方が魔王軍的に色々と問題なんじゃないか?
「では私はこれから対策会議に出なければいけないので失礼します」
「じゃあ僕達はこれから親衛隊長達から指導を受けるんですか?」
「いえ、彼らもこれから会議に参加いたします。本日の指導はございません」
「ならどうするんですか」
「フォルト様はこの修練場で待機なさっていて下さい。電撃のトラップは仕掛けておきますので。では」
「あっ、ちょっとルシアさ……はあ」
呼び止めるも出ていってしまったカウンセラーさんに、フォルトは肩を落とす。
『……で、これからどうするんだ?』
「どうするって言われても、静かに待っているのが無難じゃないかな」
『待つって……どれくらい待つんだ?』
「少なくとも会議が終わるまでは出られないと思うよ」
ふと、沈黙が走る。白いだけの空間に音も無いと何かと不気味なものだ。
『……なあフォルト』
「何? 秋人君」
『今思ったんだが、俺達がここにいる必要無いよな? マリア先生の標的は親父だけなんだし』
「あー……、それは僕も思ったよ。対策会議ぐらい僕らに聞かせても良いよね」
『なんでこんな、監禁まがいの扱いを受けているんだろうな。学級長の父親よろしく、謀反でも企ててんのかね?』
「謀反ねー……ん? 謀反……むほ――」
その語句を咀嚼して、フォルトは一目散に出口に走る。
ドアノブに手をかけるが、当然そこには電気トラップが仕掛けられているわけで――
「ぎいゃあああああああ!」
『あばばばばばばばばば!』
凄まじい既視感を覚えながら、二人して電撃を喰らってしまう。なんかこの前よりも電力上がってないか?
『な、何してんだフォルト!』
「ご、ごめんっ、まさかと思ってつい!」
『だからってこの前の俺みたいなことしてんじゃねーよ!?』
筋の通った常識力があるのが俺からしたフォルト・ハイグローヴの長所の一つだ。ただでさえ頭がよろしくないのにアホの如く突発的な行動をするようになったら、次期魔王は絶望的と魔界中が落胆するだろう。
『てか、自分で言っておいて難だけどよ、今謀反は起きないと思うぞ』
「どうして?」
『親父が石化という状態異常を喰らって、魔界中が、少なくともこの城内は混乱に陥ってるからな』
「その最中に父上にとどめを刺すことは出来るよ?」
『確かにそれは可能だけど、その前には強大な壁が立ちはだかっている。カウンセラーさんというな』
カウンセラーさんは絶対俺達を裏切らない。これは俺が自信を持って言えることだ。
彼女が俺と共にこの世界に来たのは俺が新しい人生を快く送っているか調査するため。それが転生ハローワークの“顧客”へのアフターサービスの様なものであるのなら、カウンセラーさんが敵になることは考えにくい。
逆に、もし他に反逆者がいたときには頼りになる――なりすぎる存在となってくれるはずだ。
「確かにそれは納得かも。やっぱり待っていようかな」
そう決めてフォルトは扉に向かいながら腰を下ろし、カウンセラーさんが戻るのを黙って待ち始めた。
――この時、俺達は知らなかった。フォルトの履くズボンの後ろポケット。その中には極小の生物が潜んでいたことを。その生物に、俺とフォルトの一連の会話が聞かれていたことを……。
「通信が切れた……気付かれたのか……?」
感想、指摘、アドバイスなど、よろしくお願いします。
また、本日付の活動報告にて、“桃源郷からの行進”についての発表がございます。そちらの方も読んでいる方は、よろしければどうぞ。




