転生してまだ数日なんですが 前編
短いのに前後編に分けております。
自室に麻袋を置いて、それからある程度時間を置いて食堂に行くと、熱々年配バカップルや直立不動な部下の他に、エリス学級長が待っていた。
まあ魔王夫妻は息子に目もくれず互いの皿の料理の交換をし続けていたから正確には(全体-2)人だったが、自分ながらどうでも良い。
「こちらですよ、フォルト君」
そう言って学級長が自分の右側の席を引く。それって普通男がやることだと思うんですが。
俺がもしかしたら学級長は、「あなたはまだ男と言うにしては未熟ですから」とかサディスティックな笑み(邪悪度三割増し)を浮かべて挑発しているのではないかと思っていると、フォルトは迷わずその席に座り、学級長に笑いかけた。
「今日の夕食も、少し私も手伝いました」
「えっ、別に良いのに」
「後々魔王の妃となる者、これぐらいは出来るようにしとかないといけませんから」
そう言って学級長は、目の前の皿に盛られたステーキの一辺を切り、フォルトの口元へ近付ける。
「あ、あーん……」
「あーん。うん、美味しいよ。エリスさんが焼いたの?」
「そうです。フォルト君の口に合う調理が出来て良かったです」
いやいやいやいや。ちょ、進展早くないすか?
フォルトも迷わず口を開けてるし……学校でのいざこざはなんだったのか。
『やけに手慣れてるな、フォルト』
(そんな訳無いじゃないか。僕も内心びっくりしてるんだよ)
『その様には全く見えんぞ? ていうかびっくりしてたのか?』
(エリスさんが城で料理の手伝いをするのは珍しいことじゃないんだけど、あーんをされるのは初めてだよ)
昼間の態度とは違って、また随分と積極的だな学級長。
(ねえ秋人君、エリスさんは何か企んでいるの?)
『はあ?』
(例えばほら、母上が言ったように僕を誘惑して、その隙に命を奪うとか)
『あの委員長が実行するとは思えねーよ。あんな冗談混じりの籠絡作戦』
フォルトはなんだかんだ言って殺されると考えていた。
ちなみに突然押し黙って学級長に不審に思われないように、フォルトはこっちで話しながら学級長に受け答えている。転生するとそんなことも出来るのか。
『ていうかさ、少なくともお前が殺されることは無いと思うぞ?』
(なんで?)
『お前、ここには敵の息子どころか、敵そのものがいるじゃねーか』
(あ……そうだね)
もし学級長が敵討ちをするのなら、フォルトよりもまず先に親父を狙うはずだ。しかしそこまでの道のりは決して容易いものではないだろう。
カウンセラーさんは名前をルシアからメアリーとあだ名を付けても良いくらいのチートだから霞むが、俺達の食卓の横で棒立ちしている使用人達もそれなりに実力はあるらしい。
聞くところに寄れば、男の使用人は全員親衛隊所属らしいし、メイドも全員がナイフによる格闘術を体得しているとか。
それに対してエリス学級長は一人だ。どんなに学級長の能力が高くたって、流石に一人でその部下を相手にするのは難しいだろう。
『それにさ、変に考え過ぎて学級長に何か勘付かれたらまずいだろ。生のこととか』
(確かにそうだよね)
『ここは下手に考えない方が良いんじゃないか?』
(うーん…………分かったよ)
少し悩んで、フォルトが承諾した。
『じゃあ俺はお前の中で静かにしてるよ。フォルトは学級長とのイチャつきを楽しんでくれ』
(分かったけど、イチャつきって言わないでよっ!?)
そう言いつつもフォルトは俺との会話からログアウトして、食事に専念し始めた。
『あー、もう今日は疲れた……』
(そうだね……いつもよりも一日の内容が濃かったような気がするよ)
食後の呪文詠唱練習(学級長がいる日は食後にしているらしい)とその他諸々を終えて部屋に戻ったフォルトはベッドに飛び込んだ。
『明日は学校が無いからゆっくりできそうだな』
(夕方ぐらいまでエリスさんがいるからそれは無理だね)
『ゲッ、あと半日以上いるのかよ……』
(悪くはないと思うけどなあ)
頼むから誰か「ゆっくりしてね」と言ってくれないかと考えていると、突然ドアが叩かれた。
『噂をすればなんとやら、学級長のおでましか』
「開いてますよー」
フォルトに応じて入ってきたのは意外にも、エリス学級長ではなくカウンセラーさんだった。
「秋人様、フォルト様、今日はご苦労様でした」
「ああ、ルシアさん」
「今朝は私用を頼まれて下さり、ありがとうございます」
マリア先生に渡した、あの手紙の事か。そういやあれの内容って何だったのだろうか。
『カウンセラーさん、あの手紙って、何の意味があったんですか?』
「と申しますと、マリアに渡された手紙ですか?」
『そうですよ。俺らに見ないように忠告していたじゃないですか』
「そういえばそうだね」
果たしてこの質問は聞いてはいけなかったのか、カウンセラーさんは軽く俯いて考え始める。
二分程考えたところで、カウンセラーさんは口を開いた。
「あれには、ちょっとした調査の結果を記していました」
「調査?」
「ええ。ヴィンセント様の生活スケジュール、対人関係などを」
うおい、もろ個人情報漏洩してんじゃねーか。元々魔王という職業だから(色んな意味で)有名なのに、担任にプライベートを見せてどうするんだ。PTAへのイメージアップか?
「父上の情報を、どうしてマリア先生が必要としていたんですか?」
「そこまでは私にも分かりません」
「うーん……」
フォルトが腕を組んで唸る。それと同時に学級長も部屋に入ってきた。
「どうしたんですかフォルト君。ルシアさんも一緒で」
「おやエリス様。入浴は済んだのですか?」
「ええまあ」
学級長は白と薄ピンクのチェック柄のパジャマを着ており、両手で枕を抱えて立っていた。何この吸血鬼、ホントに昼間と同一人物なのか分からんくなる程ギャップがあるんですが。
「今日の朝、ホームルーム前にマリア先生にある手紙を渡したんだけど――」
フォルトはこうしてメイドと話している経緯を説明した。
「つまりは、先生がその調査を依頼した理由を考えているのですね?」
「そういうことだね」
「えーっと……」
学級長は申し訳無さそうに言い渋った。
「どうなさいました、エリス様?」
「それなら私、一つだけ心当たりが……」
「え?」
「恐らく、マリア先生は――」
学級長の言葉を遮り、城中にガラスの割れる様な音が響く。
『な、なんだ今の!?』
「ヴィンセント様の部屋からです。私が様子を見てきます」
「なら私も行きます」
「僕も行くよ」
最初から全員の行動は決まっていたのか、三人は廊下に出た。




