城が(俺的には)地獄になった件
「……ルト……ん……」
「ん……」
「お……なさい……ルト君……」
「んー……」
「フォルト君っ!」
「は、はいいい!」
うん、何か既視感が半端無い目覚めだ。
また俺はマリア先生に怒鳴られたのかと体を起こす。しかしそこは俺の転生生活の最初の様に教室ではなく保健室であった。
ちゃんと清潔な空間になってるので、やはり全然魔界っぽくない。
「全く……やっと起きましたか。もう放課後ですよ?」
「うおうっ、エリスさん!?」
ベッドの横に軽くトラウマを作った張本人がいて、思わずたじろぐ。
……って、放課後!? あれからずっと気を失ってたのか!?
「申し訳ございません。先程は感情的になっていました」
エリスさんは頭を深々と下げて謝る。
「い、いや、お……僕も悪いよ。ほら、喧嘩両成敗という言葉もあるし」
「なら良いのですが……私はこれから、生徒会の方に用がありますが……フォルト君はどうするんですか?」
「僕は荷物を教室から取ってくるよ。馬車がもう来てるだろうし」
「……そうですか。では」
なんか残念そうな顔をすると、エリスさんは保健室を出ていった。
(おー、怖っ。何言われるかヒヤヒヤしたぞ)
『秋人君、もしかしてエリスさんみたいな人は苦手なの?』
(まあな。ていうかああいう系の女子はあまり好きじゃないんだよ)
俗に言う、クール系ってヤツかね? どうも受け付けられないんだよな。
「取り合えず、もう保健室を出るか」
『そうだね』
「えーっと、保健室の先生はと……」
『あ、今日は先生は確かお休みだよ』
「……え?」
ちょい待ち、今日保険医休みなの?
「じゃあなんで保健室の鍵が開いてんだよ? 人間界の学校はそういう時は施錠されてたぞ?」
『エリスさんが解除した……わけないか。電気トラップの解除は結構難しい呪文じゃないと出来ないし』
それはお前基準の難しいなのか? 魔界の世間一帯で難しいとされるのか?
「まあとにかく、出るとするか」
それから十分程して、荷物を回収した俺は足早に校門を抜けた。
何故遅くなったのですかとしつこく聞くカウンセラーさんに言い訳を述べて無理矢理納得してもらい、今は幌馬車の中にいる。
『そういえば秋人君』
「ん?」
『さっきエリスさんみたいな女子は苦手って言ってたよね?』
「そうだな」
『秋人君って、どんな女子が好きなの?』
なーに修学旅行の夜みたいな話題持ち掛けて来やがりますか俺の別人格は。
「そうだな……」
ひとまず考えてみるが、特に思い付かない。女子とは平森以外とはほとんど交流が無かったしなあ……。
「大人しくて、かつ一緒にいてもうんざりしない奴かな……」
『大人しいのに?』
「極端にネガティブだと、なんかこっちの生気を吸い取られそうで」
『なるほどねー』
「そう言うお前はどうなんだ? フォルト」
『僕?』
「俺だって言ったんだ。対価としてお前の情報を得るのは普通だろ」
『うーん……統率力があって、秩序を護れて、りりしくて……』
「あの学級長まんまじゃねーか!?」
『……あ、そうだね』
エリス学級長については、コイツに全て任せれば良いような気がしてきた。
「秋人様、フォルト様と会話をなされるのであれば、テレパシーをご推奨いたします」
前で手綱を握るカウンセラーさんが窘める。
「誰もいないところでも駄目なんですか?」
「秋人様は自分の立場を把握してください。聞き耳を立てられている可能性もあるのですよ?」
「すいません……」
まあそうだろうな。エリス学級長の父親の様に謀反を企てる輩もいるだろうし。盗聴されてるのはありえるな。
魔王のボーイズトーク聞いて、その情報が使えるのかは知らんけど。
『だとしたらルシアさん、秋人君が転生者であることはどうしてバレてはいけないんですか?』
(転生ハローワークは、生と死を司る神の機関であり、別世界には出来るだけ存在を知られないようにするのが転生者の原則となっております)
(言いふらしまくるとどうなるんですか?)
(何度かは注意をしますが、最終的にはその転生者を抹殺させるよう本部から勧告が来ます)
『そ、そうしたら?』
(本部の命令は神の命令に他なりません。なので――)
(サヨナラっすか……?)
(ええ)
変に言いふらしたら、人生終了なのか……。
ただでさえ俺らは弱いのに、キラーマシンなカウンセラーさんと張り合ったら、転生し直す前に塵芥にされそうだな。
(秋人様、フォルト様。あと五分程で城に着きます)
城に帰って、俺は唖然した。
魔王城のエントランス、普段なら俺達の帰りを全使用人が列を成して出迎えてくれる。
最初に見たとき(一昨々日のことだが)、俺はここはホントに魔界なのかと良い意味で思った。魔王城というよりは漫画とかに出てくる豪邸みたいだし。
外観はどこぞの聖なる王族が住んでいた感じなのに、中身にはこの世界の魔物を支配する人類の敵の総大将が鎮座しているとか、まず似合わないと思う。魔王城を名乗りたいならせめて壁を黒く塗れ黒く。
話を戻そう。で、今日のお出迎えには、あるスパイスが極められており、それが俺を酷く驚かせた。
それが何かと言うと……。
「お帰りなさいませ、フォルト様」
「お帰りなさい、フォルト君」
横一列に並んだ執事とメイドの前で、礼儀正しく会釈をするのは、先程保健室で会ったばかりのエリス学級長だった。
「チェッ、チェェェェンジ!!』
「……フォルト……君?」
『うわあ、な、何いきなり叫んでるの秋人君!?)
ヤバい、あまりの超展開についフォルトに交代してしまった! それも声に出して!
いつの間にか列に参加してたカウンセラーさんが、周りの使用人達と共に微笑みながら顔をひきつらせている。まずい、このまま再転生か!?
「どうしたんですかフォルト君?」
「あっ……いや、なんでもないよエリスさん!」
「しかし今、チェンジとおっしゃったではないですか」
「そっ、それはっ、学校と家で気持ちを切り替えるのに、つい力んで口に出しちゃっただけだよ! 気にしないで!」
「そうですか」
すまんフォルト。無理矢理な言い訳を作ってくれて。
「じゃあ僕は部屋に用事があるから! 適当にくつろいでてよ!」
「分かりました。では厨房に行って、料理長さんの手伝いをして来ますね」
向かって右の通路に進むエリス学級長。それが視界の奥に消えてから、フォルトは逆の、左の通路に進んだ。
(秋人君、何をしているの……?)
『すまん、ついうっかりしていて……』
(ホント、気を付けてよ……?)
『ていうかフォルト、どういう事なんだよ? なんであの学級長が今魔王城にいるんだ?』
(なんでって、花嫁修行に決まってるじゃないか)
『いやこの前までいなかったじゃん』
(僕が入学している間は週に一度、ノームヤードの日に来るようにしてるんだ。一泊二日で)
『い、一泊ゥ!?』
マジで苦手なタイプと、一夜明かすのか!?
『つかぬことをお伺いしますがフォルト様?』
(なんでそんな改まった言い方を……何?)
『一泊って……もしや同室なのですかい?』
(そうだよ)
やべえ、俺終わった。
いや別に、女子と二人きりで過ごすのが怖いわけじゃない。今までそんな経験は無かったが、ノリで何とかなると思う。
学級長とのパジャマパーティーが、気分的には修学旅行の旅館で不良と相室になった時となんら変わらないからだ。
(母上が『将来を共にする若い者同士、そういう事にも慣れた方が良い』って言ってて)
『何を実の息子に言ってんだあの万年発情ババア!』
色んなイベント飛び越すなよ! サッカーを始めてすぐの奴にJリーガーから点を取れと言ってる様なもんだぞ!?
『ん? じゃあ放課後に学級長が生徒会に行った用事って……』
(外泊届をもらうためだろうね。うちの学校は生徒会と教職員は繋がってるし)
学生寮も無いのに外泊届って必要なのかと思っていると、フォルトは自分の部屋に入った。




