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あの女はやめとけっ!

「お、おい、フォルトの奴……」

「まさかアイツが学級長に歯向かうなんてな……魔王の血の覚醒か?」

「そうかもよ……? なんか目付きも違って見えるし……」

『ね、ねえ秋人君……何してんの……?』

(…………すまん)

 フォルト本人や回りの連中が困惑するのも無理は無いだろうな。自分でも何言ってんだかわかんねーもん。

 取り合えず分かることを要約すると、あまりの言われようにカチンと来たんでドS学級長に宣戦布告したってところだな。うん。うん……

(ホント何してるんだろうな、俺……)

 相手の挑発に乗って、それで逆上するとか愚の骨頂だろ。俺は馬鹿なのか?

 しかしそれと同時にスッキリもした。エリスと会って数時間しか経過してないのにそんなに腹立ってたのか。

 目の前にいるはずのエリス学級長に意識を向ける。下を軽く見ているせいか青い髪がしなだれており表情を窺うことは出来ないが、口元は見えるので何やら呟いてることは分かる。ていうか恐いんですが。

「………………………………フフッ」

 呟きを止めた途端笑みを浮かべたっ!? 何この人、キャラ崩壊してんじゃねーか!?

 しかしそこで彼女の奇行は治まり、顔を上げた時には何も変貌は無いように思えた。

「私の身勝手な要求に応えて頂き、ありがとうございます、フォルト君」

「お、おう」

 ていうかお前ら嫌々ながらも毎回ペア組んでるだろ。そんな畏まった言い方されても……

「まさかあなたがその様な口調になるとは思ってもいませんでした。それでこそ魔王の血を引く者です。ただ――」

 そこで学級長の眼は豹変し、冷気を含めた笑いを見せた。

「私を芋女と言ったこと……後悔しないでクダサイネ?」

「…………おう」

 最後らへんの言葉は片言になっていたような気がするが、とにかく今分かったことは一つ。

 俺……死亡フラグ立てたんじゃね……?


「――それでは練習、やめぇぇぇぇ!」

 あの後先生が戻ってきて、三十分程ペアでの練習をした。

 まあやっていることは剣道部がやっている様なことだ。面打ちとかは流石に死ぬと思うのでやってないが。

 しかしなんというか、エリス学級長からの殺気が半端ない。練習なのに、剣筋の一つ一つが俺を確実に戦闘不能にしようと襲い掛かってくる。

 フォルト曰く、彼女がいつもよりも強くなってるらしい。剣術なんてほぼ未経験なのに、本当に勝てんのか?

 とにかくそんな感じで練習を終え、十五分の中間休憩に入った。

 この後一組ずつ決闘をするらしい。俺にとっては死へのカウントダウンでしかないんですが……。


「ジョー、ヘルプミー」

「うおっ、フォルト! いきなり抱きつくな気持ち悪い! 俺にその気は無いっての!」

「うるさいな、お……僕にだってそんな気は無いよ」

 それなりにガタイの良い竜兵士に乗り掛かる。擬人化していても鱗は生えているらしく、服の下から硬い反応が来る。

 今回の決闘は、フォルトには悪いが秋人()の意識で闘うことにした。一心同体ではあるが、こうなってしまったのは秋人()だけの責任だしな。

「何やってんだろうね……僕」

「今日は普段よりも痛い目に遭いそうだな。死ぬなよ?」

「分かってるよ……」

 まあ頑張れや、と半ば他人事のように笑うジョー。良いよな、お前は実力があって。

「にしてもお前ら大変だよな。こんなに仲悪いのに親同士の都合で将来を共にするとか。こういうのを政略結婚って言うんだっけ?」

「…………ハア?」

「え……だってお前、前言ってたじゃん。父上が勝手に決めたーって」

「…………」

「自分で言ったことに驚くなよ……次俺の番だから行くわ」

 無言で棒立ちする俺を置いてジョーは離れる。

 しかし……いやちょっと、おま、ええ?

(フォルト、どういうことだよおい!?)

『どうもこうも……ジョーが言った通りだよ』

(なんだと!?)

『まあジョーの言う嫌い合っているっていうのは語弊で、僕は好きでも嫌いでもないんだけどね』

 いやフォルトさん、俺はあなたが学級長を嫌っていることで驚いてるのとちゃうんですよ。

 なんで、よりによって、あの冷血吸血鬼が許嫁なんですか。

(おまっ、次期魔王だろ?)

『そうだよ?』

(魔王だったらさ、政略結婚するならするで、もっとほら、他の地方との連合の為とかで、そこの魔王の娘に嫁がせるとかさあ……)

『この世界に魔王はうちしか無いよ?』

 そうだった。魔王家は一世帯だけのドラクエみたいな世界観なんだったよチクショウ。

『エリスさんの親はね、父上が魔物を統率するのを補佐する参謀、早い話が魔界軍の最高幹部だったんだ』

(だったって……過去形かよ)

『僕やエリスさんが一、二歳ぐらいの頃に謀反を企てたんだけど、それがバレて失脚したんだ』

 なるほどな。それなら学級長がフォルトを嫌う理由にもなる。彼女にとって、コイツは親の敵の息子だもんな。

(なら学級長はお前と敵対関係にあるはずだろ? なんでお前の嫁になるんだよ?)

『参謀さんは父上と旧知の仲にあって、謀反を起こす前は互いに自分達の子供同士を結婚させようと考えていたんだ。その後すぐに裏切られたんで、エリスさんの一族を城からも遠いこの地域に左遷させたんだけど』

 要は自分の娘を魔王の妃にして、孫を次世代の魔王として君臨させる、摂関政治をしようと参謀は考えていたんだな。

(お前は、その話をあの馬鹿親父から聞いたのか?)

『ううん、エリスさんが言ってくれたんだ』

(本人から!?)

『僕が社会勉強として学校(ここ)に転入した次の日にね』

 なんで教えてくれないんだよあの馬鹿親共は。

(……で? 相手はどうなんだよ?)

『どうって?』

(いやだから、親同士の決めた結婚に対して、エリスはどう思ってんのかってこと)

『それが分からないんだよね。エリスさんは僕にキツく接するけど、それが好き嫌いに直結するわけではないから。それに――』

(むしろ過保護な辺り好感度は低くないと?)

『そうそう。良く分かったね』

 そりゃお前、好きの反対は無関心とも言うしな。ある程度の予想はついたさ。

『まあ僕は、彼女はもう運命を変えようとは思ってないと考えているんだ』

(なんでだ?)

『それだったら結婚云々の約束をうやむやにするために、親の敵討ちをするだろうから』

(……今はその未来の夫である、敵の息子が命の存続にあるから笑えないがな)

『そうだね……そういえば秋人君、あとどれくらいで僕らの番なの?』

(あと三組くらいだろ)

 と言った矢先、先生が「次ィ! フォルト・ハイグローヴとエリス・アリシアァ!」と叫んだ。

『え、もうなの?』

(思ったより早かったな)

 後ろに振り向くと、既にエリス学級長は準備を終えて決闘場に立っており、こちらを催促する様に睨んでいた。 ……ハイ、すぐ行きます。


 細かいことは抜きにして、結論だけ言おうと思う。

 開始早々、真一文字横に切られました。

「始めェェ!」

「ハアッ!」

「ぐっはあ!?」

 決闘開始から、勝負が決まるまでの台詞がこの三つ。

「ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ――」

「ちょ、エリスさん、ギブアップ! 死ぬから! 例え模造刀でもその戦い方は相手を撲殺出来るからあ!」

 正気を失った学級長の、俺のと合わせた二本の模造刀による、駄目魔王への容赦無い教育(物理)。

 先生が学級長を制御するまでの数秒間で、俺の視界には小川と花畑、大勢のカウンセラーさんが手招きする転生ハローワークが見えてました。

 フォルト、俺が死んだら多分お前も死ぬが、これだけは言っておく。

 あの学級長、絶対お前の事が嫌いだぞ……。

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