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新しい人生初の登校

時間を掛けたにも関わらず、少し短めです。

 さて、ここで時間を一気に月曜(ノームヤード)まで進めさせてもらう。

 というのも人界との境界の土地から帰ってからの休日二日間、特筆すべきこれといったことが一切無かったのだ。

 で、二日ぶりの登校となる。転生して最初は放課後であったし、実質転生後初の登校になるだろう。


「おはようジョー」

「お、おう。おはよう」

 二日ぶりの教室で、これまた二日ぶりの擬人化サラマンダーとフォルトが挨拶を交わす。しかしどうも相手はキョドっているようだが……?

「お、おい、本当にフォルトだよな?」

「何言ってるの? 僕は僕だよ」

「なら良いけどよ……やっぱこの前のは俺の気のせいなのか……?」

 ああそうか、こいつとは俺が金曜日に軽く話したんだっけ。

 フォルトと俺の口調は違っているから、とてつもない違和感を感じたんだろうな。

「そうだジョー、マリア先生はもう来てる?」

「既に来てるんじゃないか? マリア先生は規則正しいし」

「分かったよ」

「何か用事でもあんのか?」

「まあね。じゃあちょっと行ってくるね」

「ああ。魔王の息子だからって、あんま担任を怒らせるなよ?」

「僕が居眠りでマリア先生を怒らせたのは二日前が初めてだよ! 全くもう……」

 フォルトはジョーの悪態に溜め息をつく。そして荷物を入れた麻袋――どうやら指定の通学鞄らしい――を担ぎ教室を出た。


 ここで学校について、軽い説明をしたいと思う。

 この学校(名称不明)には、人間界の高校と同じように十五歳から三年間通学する。

 ちなみにこの十五歳というのは俺の様に比較的人間に近い種族での基準であり、魔物の中には生まれてから百年ほど経ってようやく入学するほど成長速度が遅い者もいるらしい。要は人型年齢十五歳が入学の基準ということだ。

 必要単位はある程度(せいぜい国語、数学基礎ぐらい)は同じだが、種族や自由選択によって約五十種類の授業から幾つかを受けることが出来る。これこそがRPGで言うところの特技になるのである。

 で、話題が切り替わるが、学校に生徒が来るとなれば、無論教師も必要になる。

 人間界に幾ら近くても、結局ここは魔界であるわけで、その教師も魔物であるのだが……。

「失礼します。マリア先生はおられますか?」

「ん? マリア先生なら今ここにはいないぞ?」

「%♂○×々」

「ばばばばばばばば」

「∪※√≡∇∝」

「↑B↑↓↓A→BAC↓」

「め」

 日本語をお願いします。職員室の扉の向こうは、混沌カオスでした。

 いやホント、言葉を失ったね。最初に口を開いたフォルトと、それに応答した初老の男性教師(フォルトの記憶曰く他学年の学年主任らしい)以外はまさしく有象無象で、解読不能で奇々怪々な言語を話してる。コマンド入力みたいな言語の先生もいるし。

 職員の机と今ここにいる先生(?)の数から、ここにいるのは全ての教師の二割程だと分かるが、こんなまともにコミュニケーションを出来なさそうな奴らが教鞭を振るえるのか?

「ではどこに行けばおられますか?」

「多分自販機で飲み物でも買っているんじゃないか?」

「分かりました、他を当たります」

「ああ」

 俺が唖然している内に会話を終えたらしく、フォルトは職員室から抜けて自販機のある場所――自分の経験からして食堂とかだろう――に向かう。 

『なあフォルト、周りにいたモンスターも先生なのか?』

(そうだよ)

『授業でもあんな感じで話してんのかよ?』

(授業中はちゃんと一般語を使っているよ。プライベートでの会話は自分の種族の言語を使うみたいでね)

 そりゃ周りに知られたくない事を言うのには最適だろうけど、だからって統一性が無かったら、バベルの塔よろしく混乱するんじゃ……

(あ、マリア先生がいた)

「マリア先生」

「……ああ、フォルト君。どうしたんですか朝早くに?」

 俺の半身が廊下で話し掛けた相手は、紛れもなくマリア先生であった。

 しかし、何やら様子がおかしい。胸まで伸ばした金色の髪と抜群のプロポーションを持つ身体こそは同じだが、今日の彼女はまるで人(魔物だが)が違う。

 ジョー曰く怖いんだよな? あんなに穏やかそうな物腰の人(しつこいけど魔物だが)のどこが怖いんだ?

 そう考えていると、フォルトは麻袋から1通の手紙を取り出し、マリア先生に手渡した。

「ルシアさんから、以前先生が頼まれた用件についての返事です」

「分かりました」

 後で分かったことなんだが、カウンセラーさんもこの世界に存在する者として、“ルシア”という名前を上っ面だけの物ではなく、ちゃんとこの世界の一員として設定しているんだとか。

 その設定でカウンセラーさんはマリア先生の旧友となっているらしい。もうカウンセラーさんがいれば良いんじゃないかな。

「あと、一昨々日(さきおととい)は居眠りをしてしまいすみませんでした」

 以後同じ過ちを犯さないよう精進しますと付け加え礼儀正しく頭を下げるフォルト。いやなんというか、こっちが申し訳ない気持ちで一杯です。

「なんだ、そんなことですか。フォルト君、頭を上げて下さい」

「あ、あれ? 叱らないんですか?」

「疲れていたのでしょう? それぐらいでは私は怒りませんし、フォルト君の特殊な家庭事情は知っていますから」

 そんな些細なことと優しく微笑む先生。なんでこんな優しいの? 魔物なのに、名前通りの聖母マリアかよ?

「ですからもう教室に戻っていて下さい。あと十分程でホームルームを始めますよ?」

「は、はあ……なんかマリア先生、いつもよりも穏やかですね? 何かあったんですか?」

 多少の違和感を感じて、フォルトは聞いた。いや、聞かなければよかった。

「ええ。私をたぶらかした男を始末する準備が出来ましたから」

 マリア先生はまた微笑む。しかし瑠璃色の両眼は暗く濁り、良く見てみると笑っているようで顔が死んでいる。

 逆にフォルトの顔は引きつっている。意識しか無い現在の俺も同様にだ。

「そ、そうですか……」

「フォルト君も、周りとの……特に異性との関係はちゃんとした区別を付けて作らなくてはいけませんよ? けじめを持った生活をしないと、いつ誰が復讐に来るか分かりませんからね?」

「は、はいっ!」

「ふふ、分かったなら、もう教室に戻って下さい」

 そう言ってマリア先生は、手にした封筒を確認しながら職員室に吸い込まれて行く。

 その場に残されたフォルトの足は、生まれたての子馬の様にガクガクと震えていた。

『な、なあおいフォルト、大丈夫か?』

(だだ、だいじゅ、大丈夫だにょ)

『全然大丈夫じゃねーだろ、一旦落ち着け』

(わ、分かってるよ。だけどマリア先生のあの眼を見た辺りから寒気がして……)

 なんだそれ? あの人にそんな力が?

『ちなみによ、マリア先生の種族って何だよ?』

(転校してきてすぐに、確かメデューサだと聞いたけど……)

 なるほど、それなら目付きも鋭そうだな。

『とにかくもうクラスに戻ろうぜ?』

(う、うん……)

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