◇5◆
崖下の世界は……見たいな感じです。修羅場です。
誤字脱字、その他意見がありましたらご報告お願いします。
「…………」
あ、あれ? ここは……?
「確か俺は……」
ステージに行って、モンスターに襲われて、逃げてきて、崖から落ちて……はっ! 崖!?
すぐさまに自分の居場所を確認するために、辺りを見渡す。どうやら大きな木の上のようだ。もしかしてこの木のおかげで、俺はあの崖から助かることができたのか?
「それにしても、本当に危なかった……」
このゲームは地形ダメージも含まれるため、落下や突撃などのダメージも加算されてしまう。あの体力でこの崖から落ちて、地面にたたきつけられでもしたらと思うと、ゾッとする。
「運がよかったのかな?」
それにしてもここは何処だろう。把握しようとディスプレイを開いて、ステータス画面を見る。
するとステージの詳細の部分には『紅の森』と書かれていた。
「紅の森? 確か俺はハジマリの森に居たんじゃ……」
崖下までこんな風に作ってあるなんて、凄いなこのゲーム。本当に終わりがなさそうだ。
まぁでも今は助かったんだし、そんな細かいことを考えてる場合じゃないな。
「木の下に降りようか……」
そう思ったが、最悪な事態に俺はあることがわかった。
武器が、ない。
きっと崖から落ちるときにどこかにいってしまったのだろう。これは相当まずい。武器がなければ応戦することもできないじゃないか。探しにいかなければ。
「―――って、うわぁっ……!」
俺は下を見て、思わず息を呑んだ。
体長が8メートルはあろうかというくらいの大きさの大蛇が、とぐろを巻いていた。
こ、コイツはまずいぞ。武器もない状況でこんなヤツに、いや、持っていても勝てるかどうか……
見つからないように息を殺す。観察をしばらく続けていると、あることがわかった。
「この蛇、寝てるのか……?」
よく見ると、蛇はとぐろを巻いたままピクリとも動かない。夜行性のモンスターか? よかった、それなら刺激さえ与えなければ起きることはない。このまま剣を探しにいこう。
バキバキバキバキ!
しかし、そう簡単に良い方向に事が運ぶことはなかった。
「やべぇ……! 向こうからなんかデカイ虎みてぇなのが……!」
奥から木をなぎ倒しつつ、目の前に現れたのは蛇に負けず劣らずの大きさを持った青い虎だった。
なんだこのステージ……明らかに俺よりLvが高いモンスターばっかりじゃないか!
モンスターの近くにはHPゲージと名前が表示されているが、名前は自分よりレベルがかなり高い相手になると出現しない。ということはこの2体、俺よりかなりの強者ということになる。
虎は堂々と歩きながら、こちらに近づいてきた。その目には殺意が篭っている。何かしらの威圧系スキルを持っているはずだ。体がうまく動かせない。
「や、やられる……!」
こんな化け物みたいなヤツに出くわすなんて、やはり俺は運が悪かったのかもしれない。よし、もう諦めた。潔く前から食われよう。いや、やっぱ無理。怖いの嫌だ。
軽い精神崩壊を起こしていると、虎は蛇が居る方とは反対の方に回り込み、木の真下に来た。きっと蛇を起こさないように俺を仕留めるつもりだろう。虎は木から少し距離をとって、体当たりをし始めた。
ゴッ!
「うおっ!?」
木は大きく揺さぶられ、思わず落ちそうになる。しかし俺だって人間だ。今この状況が絶望的だからといってそう簡単に死ねるわけがない。何とか落ちずに両手で木にしがみつき、一撃目は何とか耐えて見せた。
その様子を見ていた虎はもう一度、木に体当たりを仕掛けた。
しかも先ほどより強いヤツを。
「うおぉぉっ!?」
もう一度大きく木がしなる。このままではまずい。本当に振り落とされてしまう。二回目も何とか耐え切ったが、今ので木に片手でぶら下がった状態になってしまった。次こそ本当に落ちてしまう。
虎があと少しだ、といわんばかりもう一度木から距離をとる。くそっ、このままじゃ……!
ドシン! バキバキバキバキ!
「うおぉぉぉおっ? ――――だぁぁぁああっっ!??」
落ちる、というより、折れた。木が。
きっと虎の体当たりに耐え切れなかったのだろう。俺は片手で枝をつかんだまま、木と一緒に倒れていった。何とかうまい具合に着地すると、そこで嬉しい誤算が起きた。
キシャァァァァアアァァァアア!!!?
大蛇が大木の下敷きとなったのだ。そのおかげなのか大蛇の体力ゲージは一瞬で削り取られていき、虫の息となった。こ、これなら……!
俺は逃亡のために、そのまま虎とは反対の方向に走りこんだ。蛇は絶賛の大ダメージ+動けない、虎は反対方向に、これならいける!
俺はまだ倒れてもがいている蛇の横へと標準を合わせた。あそこからなら逃げ切れる……!
そのままの勢いで走りこむ。あと少しで逃げ切れるはずだ! そうに違いない!
しかし、最初にも言ったが、人生というのはそう甘い物ではない。
大蛇がなんと上に乗っている木をどかすことに成功してしまった。
「やべ……!」
キシャァァァアァアァァア!!!
その巨大さに圧倒される。その体だけで自分の強さを誇示するかのように。その姿に思わず腰を抜かす。
そして大蛇は俺に大きな口を開けて襲い掛かってきた。
……なんかもう、どうでもよくなってきた。どうせ勝てないんだろ? 俺は食われちゃうんだろ?
だったら……最後の悪あがきだけでもしておこうや。
座った状態のまま、先ほどの木の衝撃で盛り上がった地面から岩を一つ掴んで立ち上がり、
「うおぉぉおぉおお…………りゃぁぁぁぁああぁっっ!!」
大蛇の顔面にデッドボールを浴びせた。うん、何故だろう。よくないことが盾続きで起きていたからストレスが溜まっていたのかな。もの凄くスッキリした。よし、これで心置きなく食われれることが……
キシャァァアア……!? ……ドシン
あれ? どうした?
大蛇は俺を食べるどころか叫びを上げ、その巨体をくらくら揺らしながらぶっ倒れた。
「ははっ……どーだ。ザマぁみろ……って、え?」
(蛇が倒れた?)
俺の思考がグルグルと渦を巻いていると、蛇は先ほどの寝ているときのように静かになり、サァーと砂になって消えた。
…………はい?
その直後、周りの時が止まった。虎も襲い掛かってこない、砂煙も動かない、あまつさえは空の雲まで。
な、なんだ? なにが起こったんだ!?
俺が狼狽えていると、どこからともなく音が聞こえ、ディスプレイが出てきた。
『テッテレー! Lvがあがった。
ピン! Lvが2になりました。ピン! Lvが3になりました。 ピン! Lvが4になりました……』
「…………はい?」
え、なに? どういうこと? もしかして、蛇を倒したのか?
機械的な動作でドンドンと俺のレベルが上がっていく。30秒位はこんな感じだっただろう。
そして最後のLvアップ音が鳴り終える頃には俺のLvは26になっていた。
「えーと……」
動揺を隠せないながらも冷静に考えてみる。
これは……最後の岩か? 岩なのか? あの岩で死んだのか? うーん……
「よし、多分こういうことだ」
恐らくもう蛇の体力は残っていなかったんだろう。木でダメージを減らされた時点で、倒せない相手ではなくなってしまっていたのだ。なんだろう、今更ながら自分の運の良さが恨めしい。
Lvが上がり終わったと思ったら、今度は別のディスプレイが出てきた。
『スキルを習得しました。
プレイヤースキル《総技の始祖》を習得しました。
回避スキル《ステップ回避》《ハイジャンプ》を習得しました。《ハイジャンプ》が変化しました。《二段ジャンプ》になりました。
剣術スキル《スラッシュ》《アーマーブレイク》を習得しました。《スラッシュ》が変化しました。《エグゼスラッシュ》になりました。
特殊スキル《察知》《蛇睨み》を獲得しました。
常時発動スキル《見切り》《弱点探知》《トドメの一撃》を習得しました。
行動スキル《不意打ち》《投擲》《隠蔽》を習得しました』
スキルの獲得数がディスプレイに表示される。うわ、こんなに……。Lvが一気に上がったからだろうか。どうやらそのようでもあるが、先ほどの蛇を倒したときに獲得したスキルもあるようだ。これは運がいいといっていいのか悪いのか……
『勲章《逃走王》《無謀の極み》《幸運》《全力投球》《大蛇の加護》を獲得しました』
ん? 勲章なんてのもあるのか。これは何の役に立つんだろう?
少し考えていると、俺に良くないお知らせが届いた。
『それでは、戦闘を再開します』
「へ? ……えっと。戦闘が開始されるということは……」
この時間が止まった状況はLvが上がったときだけなるようで、すべてを確認し終わったらまた元のように時間が流れるようだ。なるほど。Lvが上がった時だけか。
いや、待て。
ということは……
「虎が来る……!」
先ほどのように時間が動き出し、元のとおりになる。そして案の定先ほどから固まっていた虎が……
グオォォオオオオォォォオオ!!!
大きな叫びを上げて、こちらに走りこんできた。腹の底から響いてくるような声に一瞬怯みそうになる。
「……はっ! やべぇっ! 逃げろ!」
逃げようと走り出すと、丁度いいところに茂みが現れた。逃げきれるか……?
俺は茂みの中を無我夢中で走り抜けた。少しの間は虎の叫び声が後ろから聞こえてきたが、それでも走ることをやめようとは思わなかった。
走り続けること数十分。
「―――はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……! はぁー!!」
そして遂に、虎を撒くことに成功した。それにしても、あんな足の速い虎から逃げることができたなんて、本当に運が良かったとしか言いようがない。
しかも、行き着いた先にはキャンプがあった。そのキャンプはどうやらこのステージのスタート地点のようだ。キャンプの周りには木が自生していて、体力回復の図れる木の実が幾つか実っていた。ディスプレイの地図を見る限り、このキャンプは敵が襲ってこないことを証明する緑のマークが出ているようなので、ここをしばらく活動の拠点にしよう。
「はぁ……散々な一日だ。全身がダルい……」
もう、今日は寝よう……疲れも溜まってる。
地面は堅いが、この際文句は言ってられない。俺は洞窟の中で静かに眠りだしたのだった。
ちなみにこの森の名前の由来は、作る前にテレビで見た●の豚からきています。面白ですよね、ジブリ。
まぁ、私はラピュ●の方が好きですがw
では、最後に一言。
「40秒で支度しな!」