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主人公がゲームの世界に入り込みます。説明長いです。
誤字脱字、その他意見がありましたらご報告お願いします。
俺は部屋に備え付けられている『PVS』に身体を固定した。
ちなみにこの『PVS』は俺が最初に試運転した時のものを改良して作られたものだ。これも父さんからのプレゼントだった。「最初の協力者にはそれ相応の物を与えたい」とのことらしい。研究所のメンバーも全員了承してくれたし、俺の身長に合うように形もうまい具合にしてくれた。
今日はこの思い出の詰まった『PVS』で父さんたちの作ったゲームをプレイできると思うと、とても言葉には言い表すことができないような感覚になる。嬉しさと興奮が入り混じったような感じだろうか?
「さて、そろそろ7時になるな」
俺は『WIO』の電源を入れ、頭に特殊な装置を取り付けた。
その後にソフトを差込み、後はゴーグルをつけてしばらく機械に任せるだけで俺はゲームの世界に入ることができる。その間は凄く待ち遠しいが、もうすぐだ。
世界が暗転し、意識が闇に刈り取られていく。起動のときはいつもこうだ。
程なくして、俺は今まで体験のしたことのない世界に足を踏み入れることになったのだった。
☆★☆★☆
気が付くとそこには、真っ白な空間が空間が広がっていた。
広い空間には自分一人だけ。しかし、目の前には一年前の運転のときとよく似たディスプレイがあった。
ディスプレイをタッチし、ゲームの起動画面を出現させる。
「 これから貴方は仮想世界『クラウド』のプレイヤーに登録されます。
よろしいですか? YES/NO 」
俺は一切の迷いも無く、“YES”の部分をタッチした。すると先ほどまで無機質だった世界は表情を変え、一つの部屋になった。
部屋の中にはまたいくつかのディスプレイがあり、それぞれから自分の設定を決められるようだ。
その中からまた自分のキャラを設定していく。変更できる部分は髪の毛と体格、それと瞳の色だった。
身長なども変更できるようだが、これはパスだ。父さんが言うには、現実との差があまりにもありすぎると自分でうまく操作することができないんだとか。うーん、変えるのは瞳の色だけでいいか。赤にしよう。名前は……実名は流石にマズイから、瞳の色からちなんで紅蓮にしよう。
自分の設定を決め終えると、次に武器の設定だ。武器の種類は凄く豊富で、他の人と被る可能性は結構少ない。武器は選んでしばらくは変更ができないようなので、慎重に選ぶことにしよう。
俺は悩み抜いた末に、双手太刀を選んだ。双手太刀は、比較的重量のある太刀を両手にして戦うというスタイルだ。手数の多さと他の武器より高い切れ味が魅力だ。
けれど、選んだ理由はそれだけじゃない。双手太刀は武器の中で唯一父さんが担当したものだそうだ。それを息子の俺が選ばなくてどうする、と思いこの武器にしたのだ。
が、使いこなすのは難しそうだ。徐々に慣れていくとしよう。
「さて、次は魔法か……」
もう一つ重要な設定がある。基本魔術だ。
基本魔術というのは闇と光の二つの魔術のこと。これのどちらかを選択しなければいけない。基本魔術以外にも炎、水、雷、風、土の五つあるが、これらは誰しもが習得すれば使えるようになる。闇と光だけはプレイヤー一人に対して、どちらかだけしか使うことができない。
「これも悩むな……」
闇の魔術は破壊的な攻撃が多く、敵全体を一撃で葬り去るような攻撃的な大技が多い。それと自己を強化したり、相手を惑わしたりできるような補助魔術が数多く使える。
光の魔術は繊細な攻撃が数多く、柔軟で臨機応変に相手と戦うことができる。それと自他のHPを回復できる魔術と、相手を状態異常にさせるような魔術を使うことができる。
「そうだなぁ……」
俺はどちらかといえば派手な戦いが好きだ。少しくらい不便でもカッコよければそれでよし、みたいな。
「よし、闇にしよう」
本質的には両方とも同じなんだけど、威力を考えたら必然的に闇になる。でも使うためにはある特定の行動をしなければいけないそうな。魔法が使えるゲームなのに最初からは使えないって、少し不便だよな。
「さて、これで全部かな……」
ピン!
「おっ」
設定をすべて決め終えた俺にまた一つのディスプレイが出てくる。そこには「完了」か「戻る」の選択肢し書かれていなかったが、俺は迷わず完了の部分を押した。すると俺の体は光に包まれ、先ほどまでの部屋着のTシャツ姿から設定で決めたとおりの装備に変わった。
「お、おお……」
俺は思わず声を洩らす。
リアルだとは思うが、この重量感……本物と一緒だ。いや、本物を付けたことが無いからわからないけど。それにしてはリアルである。これが父さんの最高傑作か……凄ぇ。
ピン!
俺が感動をしていると、部屋に突如として扉が出現した。設定を終えたのだから、移動するのだろう。
その扉を抜けると、大きなホールのような場所に出た。
先ほどと違うのは、自分とは違った人たちがいるのだ。きっと他のプレイヤーだろう。ここに来て初めてあった他の人だ。プレイヤーたちはこの部屋で待たされているようで、これから始まる一大イベントにプレイヤー同士で喋り合ったりしている。とても楽しげだ。
俺も少しだけ話をしておきたい。しかし……
(気のせいかな? 武器の種類は色々だが、双手太刀を装備している人はやけに少ないぞ。というか、いない……?)
かなりの人数がこの部屋にいたが、双手太刀を腰に差している人は全くといっていいほど皆無だった。多分いるんであろうけど、俺の見た感じはいないというだけだ。
けれど、そこで不穏当な会話が聞こえてきた。
「あっ…嘘だろ。あそこに双手太刀選んだヤツがいるぞ……」
「マジか!? 選んだヤツがいるとは思わなかったぞ……」
なんだなんだ? 俺が何をした? イマイチ状況がつかめない。
先ほどの人たちの会話で、周囲の人の目がこちらに向く。うぉ~……何かメッチャ恥ずかしいんだけど。
すると、この注目の原因が何処からともなく聞こえてきた。
「双手太刀って、微妙なんでしょ? 武器として」
「そうそう。何でも使いにくさに定評があるんだとか」
…………何だと?
「β版の評価では攻撃を当てるのに、双手太刀だとどうしても利き手のバランスがあるから、威力にバラつきが出るんだって」
「双手剣はそういうのはないの?」
「いや、平均化によって双手剣は大丈夫みたいだけど、双手太刀の方だけはそうなってなかったらしい。製作者側にとっては気が付きにくいミスだから、今回は改善されていない可能性が高いらしいよ」
「だから双手太刀が全然いないのか……」
父さん……どうしよう。そのくらいはちゃんとしておこうよ……。おかげで話すキッカケを完璧になくしてしまったじゃないか。
「このゲームは自分で動いてやるものだから、そういった使い易さに重点を置くんだって」
「なるほど……」
今の一連の会話の所為で、俺は誰かに話しかけづらくなってしまった。どうしよう、これから仲間だって作らなきゃいけないのに……
出鼻を挫かれた俺はしばらく誰とも話さず、周りの視線に耐えつつじっとその場に立っていた。
時間が経つにつれて、人数が増えていく。続々と人が入ってくる中、あるタイミングから人の流れが減っていった。買った人は全員ログインしたのだろうか。人の入りが少ない。
そしてそれを見計らったかのように、ホールの頭上に大きな画面が出現した。しかし大きい画面には何も映っておらず、砂嵐だ。
多分、これから開発者の挨拶のような物でもやるんだろう。皆もその画面に釘付けになっている。
現在の時刻は7時00分21.5478秒。まだ始めてから10秒も経っていない。これには技術力に万歳、といった所だろう。普通なら一時間は確実に過ごしているだろう。
一向に砂嵐が収まらない画面から、男の声が流れ出した。この声は……誰だ?
「よく来てくれた、10万人ものプレイヤーの諸君、私はこのゲームの最高責任者だ」
誰だろう。こんな声の人研究所にいたかな? しかも最初の挨拶は父さんがするんじゃなかったっけ。うーん……
「君達はこれから、『クラウド』の世界に旅立つ。その前に一つ、君たちに謝らなければいけないことがあるので聞いて欲しい」
謝らなければいけないこと? なんだそりゃ。父さんはこんなことがあるだなんて言ってなかったぞ? どうしたんだろうか。
俺も含めて、男の言葉にホール内は少しざわついた。
「少し、落ち着いていただこう。謝りたいことというのは……」
男が次の言葉を発した瞬間、ホール内のざわめきは一瞬にして止まった。
「このゲームはログインした瞬間から、ログアウトすることはできません」
……なんだと?
俺は確認のためにディスプレイを開き、端の方にあるログアウトのボタンを押した。しかし、何度押しても返ってくるのは《エラー》の文字だけだった。
「な、なんだよこれ!? どういうことだ!」
「本当にログアウトできないぞ……!」
他に人たちも異変に気がついたみたいで、所々で声が上がる。そりゃそうだ。このバーチャル内でゲームを終了させることができないということはすなわち、この世界に閉じ込められたことを意味する。
画面の砂嵐が晴れ、男の顔が姿を現した。顔はまだまだ若々しく、そんなに年も取っていない感じの男だった。こんなヤツが、こんなにも恐ろしいことをしたのだろうか。
「ど、どうするんだよこれ!」
「すみませんが、どうにもできませんのでご了承ください」
男の声が冷たく刺さる。しかも次に言われた一言で、他の皆の態度が急変する。
「それと、この世界での死、つまりアナタ方プレイヤーの体力がゼロになると、『PVS』から特殊な信号が身体に発信され、死に至ります」
ホール全体が凍りつく。ゲームオーバーになったら現実でも死ぬだと? そんなの冗談じゃない!? 聞いてないぞ!
それでも男は淡々と話し続ける。まるで機械のように。
「現状でゲームオーバーになると音もなく、血も出さずにアナタ方は絶命します。他の人に気が付かれる可能性はほとんどないでしょう」
段々と話が現実味を帯びていく。しかしこの雰囲気に呑まれたのか、誰一人として意見を言うことができなくなっている。自分でも何を言えばいいのかわからないほどに。
少し間が空き、男はそこで初めて恐ろしいほどの笑顔を見せた。
「ですので皆さん、死なないように頑張ってください」
この場の全員を凍りつかせるような、凶悪な笑みを。思わず何人かが身震いをした。
「ああ、そうでした。最後にもう二つだけ言いたいことがあります」
この男の言っていることは普通じゃない。けれど、聞かなければいけないような、そんな感じにさせる話し方だった。これが話術に長けてるというのだろうか。
「このゲームの特徴としてプレイヤー同士の殺し合いが可能です。パーティの仲間を選ぶ際には十分注意して、信頼のできる仲間をおくことを推奨します」
プレイヤー同士の殺し合い……PKとか言われているヤツか。相手を殺すことによって相手の持っていた経験値やアイテム、装備を奪うことのできる『WIO』において最も危険なシステムの一つ。
β版ではそのような事例はあまりなかったそうだが今回は場合が場合だ。極限状態に陥ったプレイヤーたちは何をしでかすかわからない。注意をする必要がありそうだ。
男はさらに話を続ける。
「そしてこの通信を最後に、我々企業からの通信は最後となります。イベントなどの告知にはやってきますが、それは一方的なものなので期待しないでください」
この状況下なんかでイベントに参加する人などいるのだろうか? きっと誰一人参加などしないはずだ。
「あ、そうでした。もう一つ言いたいことがあります」
しかし、俺の考えとは裏腹にその男はこう言ってきた。
「イベントの1位の商品にもしかしたらログアウトボタンのエラーを直すパッチを出すかもしれませんので、その辺はしっかりと確認しておいてくださいね」
……なるほど。そういう考えか。
イベントの商品にエラーを直す物持ってくることでプレイヤーはこう考える。
(1位になるには10万人の中の一人になるしかない。しかしそれは幾らなんでも難しいし、強さにだって限りがあるはず。でも、相手プレイヤーを殺すことで頭数が減る。これを利用すれば自分も1位になるのは夢じゃないかもしれない)
と。
ちょっと考えればすぐにわかる。……この企業は、俺たちに殺し合いをさせようとしている。
しかし、このログアウトできないという状況下では殆どのヤツは気が付かないだろう。頭に血が上って、冷静に物事を考えることができないからだ。
俺は父さんの所為でこういったイレギュラーには大分慣れている。おかげで冷静に物事を考えることができたが……これは俺一人で何とかできる問題じゃない。
「それでは通信を切断します。切断後、アナタ方は最初の村へと飛ばされますので気をつけてください。それでは、この『クラウド』の世界を存分に楽しんできてくださいね?」
男の声がするが、俺は話など聞いていない。
することは決まっている。このゲーム内では強さが全てだ。強さこそがこのゲームの中での権力だ。これに逆らえる者はいないだろう。
だからこそ……この10万人から1位をもぎ取ってみせる。これが、俺の目標だ。
ファァアァア……
転送が始まった。近くにいる人たちが続々と村へ送られていく。俺もそのうち送られるだろう。
こうなったら、覚悟を決めるしかない。このゲームで生き残って、1位になるんだ。
俺が決意をしたとほぼ同時に、体中が光に包まれたのだった。
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〈ステータス〉
・Player name 紅蓮 Lv1
・Equip―――Weapon「鉄の双手太刀」 Protector「皮の防具」 Accessories「木のお守り」
・Skill 0 ・Ability 0 Decorate 0
・HP 10 ・Stamina 10 ・Power 10 ・Emotional 10
・Attack 10 ・Defense 10 Speed 10 ・???
Abilityは常時発動スキルです。能力です。
Decorateは勲章です。説明は追々やっていきます。
Emotionalは精神力で、魔法を使うときに消費するスタミナのような物です。
Powerは筋力のことです。これを上げると重量のある武器でも使えるようになります。
詳しい説明はのちに作中で行いますので、お楽しみにしてください。