◇17◆
前半は何かのフリだと考えてださい☆
今回、色々と話が長いような気がしますが、その代わりに次回はさくっと読める感じにしたいと思います。
誤字脱字、その他意見感想などがありましたらご報告よろしくお願いします。指摘された箇所に関しては自分で考えてみて、おかしければすぐに修正しますので。
「……むぅ? ううん……」
翌朝。まだ日も昇ってない早い時間に、俺は目が覚めた。
「…………?」
何故か、寒気がする。いや、朝だから寒いとかそういうんじゃない。
なんというかこう……紅の森で虎に遭遇したときみたいな、そんな感じだ。命の危機を感じるタイプの寒気ってヤツ?
「《探知》……」
一応何も無いとは思うが、《探知》を発動して部屋の中と外の状態を探る。すると、敵の反応が猛スピードでこちらに向かってくることがわかった。……って、え?
「はっ!? なんで!?」
てっきりプレイヤーか何かかと思っていたら敵だと!? ど、どこからだ? あーもう、とにかく近づいて来るけどこから来るかわからん! すぐに逃げないと―――
バキィ! ヒュー……
ベッドから逃げようとすると、天井から俺の腹部にめがけて何かが落下してきた。
「がふっ!?」
力を入れてなかった所為で思い切り何かに腹を強打した俺はベッドから転げ落ち、固い地面に身体を叩きつた。
一体何事かと思って先ほどまで自分が居たベッドに視線を移す。勿論、次の攻撃の可能性も考えてベッドの横にあった太刀は既に構えている。しかしそこには、
「……なんだコイツ」
猫が居た。
思わぬ強襲に反応できなかったが、ベッドの上をよく見ると、既にHPゲージも赤くなって傷ついた猫のモンスターがいた。
「……手負いか。別に太刀を構えなくてもよかったな」
動けない所を見ると、既に誰かと交戦した後なのだろう。猫の身体には幾つかの切り傷が見られる。
「……これ、モンスターだよな?」
俺はベッドの上の猫を見て呟く。
今まで見てきたモンスターは馬鹿でかかったり、メチャクチャ強そうだったりしたのだが、目の前に居る猫は現実の世界とはあまり変わらないような姿形をしていた。まぁ尻尾は二つに分かれているのだが。
「なんか……可哀想だな」
猫は今にも死にそうで、こちらを向く余裕すらも無いようだ。
モンスターといえど、俺は弱っている動物を見捨てるということなどできない。だって猫そのものなんだもの。物凄く愛らしいんだもの。可愛いんだもの。
「仕方ねぇな……」
ボソッと呟く。こんなことをして良いのだろうか?
俺はディスプレイを開いて、応急処置を試みたのだった。
☆★☆★☆
俺の拙い応急処置もあってか、猫は一応半分程度まで体力を回復させた。プレイヤーの回復薬でも効くのか不安だったが、それはどうやら杞憂だったようで別に普通に使えた。
もう大丈夫だと思って部屋に取り残してきたが、本当に大丈夫だったかな? まだ完全に動けるとは思えないけど……
「あまり気にしなくてもいいかな?」
よし。猫のことは一旦忘れよう。今は説明のほうが重要だ。
今、俺がいるのは『ライトビレッジ』の中央にある噴水前。ここでイベントの説明が行われるようだ。他のプレイヤーも既に姿を見せている。
イベントにはそれぞれ参加資格とやらがあるらしい。例えば「どこそこまでのステージをクリアしていれば参加してもいいですよ」みたいな感じで。
今回の参加資格にはボスを最低一体倒しておくことと書かれていたが、俺は既に紅の森のボス「クリムゾンファルコ」を倒していたので難なく参加できた。
ちなみにあそこの森のモンスターの名前をそれぞれ挙げると、デススネーク、ホーンバッファロー、ロックボアー、ドスボアー、テンプフライ、ブルータイガーというらしい。ちょっと多いな……
よくぞまぁ生きていられたなと思う。普通なら発狂している所だ。
そうして今まで戦ってきた敵との回想をしていると、ふと周りの視線が気になった。
「……そういえばそうだったな」
俺は自分のみすぼらしい装備を見て言った。
辺りを見渡すと、他のプレイヤーとかはカッコイイ鎧やそれに合った武器、装飾品を身につけている。対する俺は初期装備に使い辛いと言われていた双手太刀、そこに何故か一つだけ高級感を漂わせている《蛇眼のピアス》。似合っていないことこの上ない。
辺りからは俺に対する装備の批評が行われている。
『まだ双手太刀って居たんだ……』
『最初の一月で武器変更とかできるようになったのに、それでもまだやってるの?』
『それに初期装備ってどういうこと? そういう縛りプレイ?』
いや、どちらかというと馬鹿にされているのかもしれないが。
後で絶対に防具を揃えて、ギャフンと言わせてやる……! そんな金は無いけどな!
抗議の意味も込めて辺り一帯に視線を送ると、何人かにはそれが伝わったようで喋るのをやめてくれた。それでもまだ話し続けているヤツはいたが。
少しすると俺から話題もすり変わり、別のことを話し出した。
俺にとって今まで外の世界の情報を手に入れることはできなかったので、こういった人が集中している場所での情報入手は今後とも重要なものになるだろう。
近くで女の人(といっても歳は近そうだが)が会話をしていたので聞き耳を立てる。えーと、なになに……?
『―――いえばさー、最近はPK集団の活動が収まってきたって噂だよね』
『そうだねー。最初の一ヶ月は大変だったよね。なにせPKだけで死んじゃったプレイヤーが3000人近くいるんでしょ?』
『そうそう』
……マジか。もうそんなにやられてたのか。というか、恐ろしいなPK。
このゲームにPKがあると最初聞いたときは「え? そんなヤツ現れたら俺が粛清してやるわ!」くらいのモチベーションだったんだけどなぁ。今じゃそんな台詞吐けるほど余裕もなくなっちゃったし……
もう少し二人の話を聞いていると、話題はこのイベントに参加する有名なプレイヤーの話になった。
『そういえばさ、このイベントにはWIO五大スキルの一つを持った人が何人も参加するんでしょ?』
え? 五大スキル? 何それ?
『え? 何そのWIO五大スキルって?』
というか、話し相手のこの人も知らなかったのかよ……。まぁそれはそれでありがたい。この後説明してくれるだろうからな。
『知らないの!? ほら、プレイヤーにはそれぞれのスキルがあるでしょ?』
案の定、もう一人の女性は説明を始めた。
どうやら、WIO五大スキルとはこのゲームの中で最強と称される五種類のスキルの総称らしい。まとめると――――
…………
《~偉人の名前~》系プレイヤースキル。基本的にはステータス上昇が普通の人たちとは違い、どこかある一点に特化された特殊なステータスとなるらしい。
《~天使の名前~》系プレイヤースキル。天使の名を使うプレイヤーたちは味方や自身を強化する魔法やスキルを効果的に使うことができ、使用時は普通のプレイヤーよりかなり効果が高いとされる。
《~悪魔の名前~》系プレイヤースキル。悪魔の名を使うプレイヤーたちは相手に害悪をもたらすスキルや魔法を効果的に使うことができ、毒や麻痺などの耐性を持っている相手でも状態異常をかけることができるらしい。他にも普通プレイヤーより攻撃力が上昇しやすい傾向にあるようで、普通は手がつけられないのだとか。
《~神々の名前~》系プレイヤースキル。神々の名を使うプレイヤーたちは基本的なステータスが通常のプレイヤーより全般的に高く、それは《~偉人の名前~》スキルのそれを凌ぐと言われる。こちらは数が少ないので上の天使や悪魔のスキルより稀少とされている。
そして最後に《~の始祖》系プレイヤースキル。こちらは未だに二人しか確認されていないらしく、開発段階でこのゲームに携わり、そして優秀な成績を残したプレイヤーたちがなるとされている。保有者が少ないだけあって能力は未だに確認されていないらしいが。
…………
少々長かったが、しっかりと聞くことができた。凄く嬉しい情報源だ。
『――――こんな感じかな?』
『……長い。半分も聞いてなかったー』
『このっ……! 折角説明してあげたのに!』
大丈夫です。私がちゃんと聞いていました。そして貴方には物凄くお礼を言いたい。
でもいきなりこんな初期装備の双手太刀がノコノコ近づいて「ありがとうございました!」などと言ってきたらビンタよろしく武器が飛んできそうだ。危ない橋は渡るものではない。
礼をしたい気持ちを押し殺し、噴水の縁に座り込む。
それにしても……
「まさか俺の《総技の始祖》がそんないいスキルだとはな……」
今回の話で俺が稀少なプレイヤースキルの一人だと確認することができた。俺はきっと一番最初のPVS開発から携わっていたから、こんな名誉なスキルをもらうことができたんだと思う。なんというか……センキュー、父さん。
他にも携わっている人がいるらしいけど……まぁ、旅をしていればその内会うことができるかもしれない。気長に待とうかな。
「さて、このくらいにして何か……あっ!」
ふと顔を上げて周りを見ると、懐かしい面が目に入った。あれは……!
「クラウン! クラウンか!?」
「!? 紅蓮か!?」
俺はこのゲームで発見した唯一のリアルフレンド、クラウンとの再開を果たした。
はい、17話でした。どうでしたか?
自分で気づいたんですけど、なんか主人公が主人公っぽく無い気がします。はい。
そうだなぁ…見せ場の一つや二つ作りたいですが、それは次回か次々回くらいにしましょう。折角新キャラも増えていく予定だし。
それでは今後とも応援よろしくお願いします!