◆14◇
前回呪われた双手太刀を覚醒させた主人公。力が溢れ出す大罪の武器《暴食二太刀グラトニ・ベルゼ》を引っさげて、主人公は強力な相手に立ち向かいます。
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すばやさが元に戻ったからだろうか。身体が羽根になったように軽い……
それだけじゃない。攻撃、防御、スタミナに精神力が格段に上昇している。これが呪いを耐え切った者だけに与えられる力なのか……?
「《剣の輪舞曲/Sword Dance》」
昨日手に入れたばかり魔術剣を声に出す。
すると俺の周りに大量の闇の剣が発生した。剣はそれぞれが俺の太刀と連動しており、振ると他の闇の剣も動き出すような仕掛けになっていた。
これなら……いける。
「《クイックエッジ》!!」
スキルを利用してハヤブサに肉薄する。先ほどよりも早い動きにハヤブサは遅れを取り、闇の刃を伴う強力な一撃をモロに食らって吹き飛ばされた。
ギャギャギャ!!
ゲージが半分に近づく。一撃一撃が強力になっているようだ。先ほどの攻撃の比じゃない。
それと今確認できたが、精神力とスタミナの減りが普通より少なかった。どうやら進化したこの武器は全てのステータスを上昇させ、戦闘における精神力とスタミナの消費を半分にするようだ。
「いけるぞ……!」
闇の剣はクルクルと俺の周りを浮遊し、次の攻撃の機会を待っている。俺はさらに剣術スキルを唱える。
「《クロスリッパー》!!」
俺は闇の剣と一緒にハヤブサに駆け寄る。ハヤブサは反撃のために宙を舞い、風の刃を飛ばしてきた。しかしすばやさの戻った俺にその攻撃は無意味だった。
「遅いっ!」
ヒラリと刃をかわしてさらに間合いを詰める。丁度の間合いに達したとき、ハヤブサは一旦空中に逃げようと翼を翻していた。逃がすものか!
「でりゃぁぁぁっっ!!」
片方の太刀がハヤブサの右足にかかる。当たった部分からは血が噴き出し、俺の顔を濡らした。
キェエェェエェェエエ!?
ダメージに声を上げて飛び回るハヤブサ。しかし攻撃を与えていてもハヤブサは空中に飛んでいってしまった。ちっ、逃がすかよ……!
仕方なく攻撃方法を魔法に切り替える。
「《闇の刃/Darkness Edges》!!」
――――ヒィン ザシュッ! キェェェェエェエェ!?
何発か発生した闇の刃がヒットする。ハヤブサは痛みのあまり、地上に落下してきた。俺はこのチャンスを見逃さずそのままハヤブサに斬りかかった。
「《シャドウスラッシュ》!!」
スキルを発動し手数を増やす。ハヤブサは動きが早く、ダメージを与えられる回数は限られている。だからこそこの一撃一撃にかけていくしかないのだ。
「だりゃぁぁぁっっ!!」
ハヤブサに数十発もの斬撃が襲い掛かる。HPゲージは凄まじい気負いで減っていく。最後の一発が決まる頃には残り二割程度になっていた。
「ぐぉっ!?」
そこでハヤブサの反撃が入る。至近距離にいた俺はヤツの蹴りをモロに食らい、吹き飛ばされた。俺のダメージ量は既にHPゲージの半分を割っている。俺は一度回復して体制を立て直した。
キキキッ!! ブォン!!
「!? な、なんだ!?」
不意に不気味な音が響く。これは魔法を使うときの……いや、違う。似ているがこんな音ではない。これは……
悪寒が走る。
「っ!? まず――――!!」
気が付くと俺の真下に巨大な魔方陣が浮かび上がっていた。強力な風魔法か!? まずい、すぐに防御を――――!
キェェェェエェエェェェエェ!!! ゴゥ!!
「う――――ぐぉぁぁああっっ!?」
防御には失敗、俺は大ダメージを負った。魔方陣を中心に突如として風の刃が入り乱れ俺の身体を切り刻んだのだ。これは恐らく強力な必殺技のようなものだろう。今の一撃のおかげで体力は0だ。
これが最後。俺は《復活の種》の効果で蘇り、再びハヤブサと相対した。
これ以上は死ねない。痛みをこらえて立ち上がり、自分にそう言い聞かせる。体中に緊張が伝わり強張って動かなくなりそうだ。けれど、感じている喜びもある。
「……燃えるねぇ! この展開! 最っ高過ぎる!」
バスケとは違った興奮……約束までのリミット……死んでしまったら二度と生きて戻れない現実……その全ての逆境に、今俺はとてつもなく喜びを感じている。
狂っていると自分でも思う。けれど、そんなこと言われたってやめることなんかできねぇよ! 太刀を構えてハヤブサを見据える。この一撃で、終わりにしてやる……!!
「《双風刃・突風/Double Blast Slicer》!!」
風の魔術剣を発動する。その効果は太刀が風を纏い、刃とともに風が対象物を切り刻むものだ。
風の魔術剣は急所に当たる確率が高く、連続で相手にダメージを与えていくようなものが多い。急所に当たりさえすればこのハヤブサだって一溜まりもないだろう。
右手の太刀を逆手に持ち、呼吸を整える。
そして素早く攻撃態勢に移り、ハヤブサに走りこむ。体力はほとんど無いが回復なんてしていられない! 今すぐコイツを殺してやる!!
ギャギャギャ!! ――――ヒィン
ハヤブサは風の刃を出して応戦するが既にそれは見切っており、いとも容易くかわしてしまう。
「でりゃぁぁぁっ!」
そして残り一メートルほどに差し掛かかり、一撃を与えようと太刀を振りかぶった瞬間だった。
ブォン!!
またあの魔法陣が出てきた。
(なにっ!? ……くっ。舐めた真似をしやがって……!)
技が発動されるまでは時間が少しかかる。それより早くこの一撃を決めれば俺の勝利、それより早く技が発動したら俺は無残に切り刻まれゲームオーバーとなる。
負けるわけにはいかない! ここで死ねばイベントだって出られない。約束だって守れない。生きて現実に帰れない! 俺はここで――――!
「――――死ぬわけには……いかねぇんだよぉぉぉぉぉ!!」
叫びを上げながらハヤブサと交わる。そして――――
ザシュッ!! …………
キェエェェエェェエエ……ズゥン……
「…………はは。ははっ……」
勝負は、俺の勝ちだったようだ。
風を纏った太刀が魔法の発動より早くハヤブサを斬り裂いた。二割ほどあったHPゲージは今の一撃により0となり、ハヤブサは雄叫びを上げながら倒れ伏せ、そして砂と化して消えていった。
不意に腰が抜け、地面に倒れこむ。今まであの極限状態の中にいたのだ。無理もないだろう。しかしながら……
「ふふっ……くくく……」
込み上げてくる笑いを俺は抑えることなど出来はしなかった。
「あーーっ!! 楽しかったぁぁぁああ!!」
普通の人間の神経では考えられないだろう。死ぬかもしれないあの状況が、“楽しい”などと。
そうだ。これが普通のゲームなら、これほどまでの快感は得られなかっただろう。
刹那の死線に身を委ね……力の限り、持てる技の限りを尽くし、己の全てを賭して戦う……普通に生活していたら、あれほどの快楽は得られない。むしろこのゲームでなければ許されない禁断の代物だ。
「命懸けって……ゾクゾクするくらい気持ち良い……!」
別にドMになったわけではない。
あのように戦っているときに……俺はこの世界に生きているって実感するんだ。ただキャンプでボーっと修練しているときは死んだも同然。究極の戦いこそが俺が生きていると証明できる唯一の行動だ。
こんなゲームの中では、そんなことでしか自分が生きている実感というものを持つことが出来ないのだ。
キン!
「うおっ?」
突如としてディスプレイが出てくる。画面には『ステージから帰還しますか?』の文字が出ていた。
「急がなくちゃな……」
約束を思い出しすぐに帰るボタンを押す。すると俺を眩い光が包み込み、ワープさせたのであった。
そのとき俺はこう思う。このゲームで戦い続けるのも案外楽しいと……
第一章《Forest of red 》完
…………
『スキルを習得しました。
回避スキル《四段ジャンプ》を習得しました。
剣術スキル《飛翔閃》《衝波斬》《虎狼撃》を習得しました。《クロスリッパー》《デッドドライブ》が変化しました。《ダブルクロス》《デスドライブ》を習得しました。
行動スキル《俊足》を習得しました。
特殊スキル《ファルコンアイ》《墜》を習得しました。
魔法《旋空刃》《追風術》を習得しました。
魔術剣《断空牙》《吸血剣・蚊》を習得しました』
『勲章《ファルコンスレイヤー》《紅き森の覇者》を獲得しました』
『炎魔法を習得しました』
…………
第一章、終了です。あ、最後のヤツはハヤブサ倒したときに手に入った物の一覧です。
◇編集後記◇
主人公の性格を出来るだけ頑張って書こうとしたら、ちょっと歪んだ子になっちゃいました。
でも別に良いです。気に入っていますし。
それと読み返してみると、結構スキルとか魔法が多いですね。ちょこっとずつ減らしていこうかな? いや、全部気に入ってるしそれはなしでいこう。
……それにしても読者の皆さんには第一章が終わるまでに150件もお気に入りに登録してもらってたりしましたね。
感謝の気持ちを言っても言っても言い足りないくらいです。
本当にありがとうございました。
◆次回章予告◆
そして次回、イベント発生。友との感動の再会を見逃してはいけませんよ?
あ、でもそれよりも重要なことがありまして……新キャラを出したい思っています。
この小説に残念な部分があるとすれば……それは登場キャラで目立っているのが未だに主人公だけというところです。
次回ではクラウンの見せ場だって作ります! 新キャラとして女の子も出します! これだけは確定事項です!
ですからプロットも丹念に作っておりまして……完成までに時間がかかるかもしれません。
それでも読んでいただけるなら光栄です!
それでは読者の皆さん、これからもよろしくお願いします。