◇11◆
えーと、ほとんどが戦闘シーンです。自分では少し物足りないと感じています。
誤字脱字、その他意見などがありましたらご報告お願いします。
俺はイノシシに囲まれながらも余裕の表情を浮かべる。
さて、どうやって倒そうか……
こちらは数で圧倒されている。なら、答えは唯一つだ。
……それ以上の力で叩き潰すのみ!!
「《旋風の鞭/Wind Whip》!!」
ゴゥ……!!
魔法の詠唱とほぼ同時に一筋の旋風が巻き起こる。
先ほど習得したばかりの風魔法を使ってイノシシたちの動きを牽制する。前に突進を繰り出そうとしていたイノシシたちは成す術もなく風に巻き込まれ、木に叩きつけられた。
風魔法のメリットは発動までの時間が短く精神力の消費が少ないため連発できる所だ。逆にデメリットは威力が低く、そこまで致命的な一撃を与えることができないという点だ。
しかしうまく使えば地形で大ダメージを与えることができる。その証拠に先ほど木に叩きつけられたイノシシの体力は既に四分の一ほど削られていた。これで少しは戦いやすくなるだろう。
「風魔法はこのくらいにして……次は魔術剣だ」
俺は魔術剣の準備をする。
魔術剣とは魔法によって様々な効果を得た武器を使用し、敵ごとに効果的なダメージを与えることができる特殊剣術スキルだ。しかしスタミナと精神力の両方を消費するため使用には注意が必要である。
下手をすると疲労と吐き気が同時に襲い掛かってくるからだ。
一度だけ魔術剣の練習に失敗して、その状態になったことがある。俺はそのときこの感覚だけには、二度とならないようにしようと誓った。あの後一日中動けなかったからな。
先ほどまで荒かった息を整え、集中力を高める。
「…………」
両手に持っていた二つの太刀を片手で持ち前に突き出す。
俺は太刀の刃の部分に手を当てる。切り裂かれた部分からは血が流れ、太刀を伝い地面に落ちていく。鋭い痛みが手のひらを襲うが太刀はその痛みすらも吸い取るかのように鳴動する。まるで生きているかのように。
見た目はまるで悪魔を呼ぶ儀式のようだ。
「《ブラッドブレイド/Blood Blade》……!!」
ゴゥと地が鳴る。瞬間的に刀身が赤黒く輝き、その姿は不吉を呼ぶ赤き満月を映し出しているかのようだった。イノシシすらも一瞬たじろぐ。
この技は己の血を獲物に吸わせ攻撃力とすばやさを高めるものだ。しかも敵を切り裂くたびにその血を吸いさらに力を増していくという吸血の魔術剣である。攻撃力の上昇は敵の血を吸い尽くすまで終わりを告げることはなく、残るのは敵の無残な死体だけ。
蛇に睨まれた蛙のように圧倒されて動きが止まるイノシシの群れ。
「来ないのなら……こちらから行かせてもらおうか……!」
動きのないイノシシの群れの一頭に接近し、一撃目で首を刎ねる。その瞬間HPゲージは0となり、一瞬で砂と化していく。
プギャァアァアア!!
その姿を呆気に取られていた一頭が我を取り戻したのか俺に向かって突進を放つ。しかし、一体目の血を吸わせたこの太刀は既に能力が上昇している。そのためその姿は止まっているかのようにすら見えた。
「……遅い」
突進をヒラリとかわし強力な一撃を胴体に放つ。今の一撃が急所だったのか、イノシシは力なく鳴いた後、そのまま倒れ伏せた。
ピン!
Lvが上がり、ステータスが上昇する。さて、次はどいつを……
プギョォォォ……
「……ん?」
イノシシたちは俺に背を向け逃げ出し始めた。
二体目の血を吸わせさらに能力が向上している俺に勝ち目はない。そう考えたのかイノシシたちは退却を始めた。
チッ、骨がないヤツらだな……まとめてかかって来れば勝てるものを。
俺は追撃しようと前傾姿勢になる。しかしそこには俺の行く手を遮る者がいた。
プギョオオオオオオオオ!!
あの群れの中でも一際図体がでかいヤツだ。多分群れのボスかなんかなのだろう。体中には切られた痕があり、今までのコイツの苦労を物語っている。
「へぇ……逃げないんだ」
コイツは他のヤツと違ってLvが高いようだ。群れを守るためか、なんとも凄まじい剣幕である。まるでこの先には意地でも行かせないとでも言っているかのように。
「油断……できないな」
太刀を構えてイノシシと目線を合わせる。その瞳には恐怖すら感じさせる何かがあった。
お互いに相手の腹を探り合い、効果的な攻撃の術を導き出そうとしているのだ。一瞬でも隙を見せれば先手を取られる。
先に動いたのは俺のほうだ。
「はっ!」
殺られる前に殺れの要領だ。俺は《ブラッドブレイド》によって高まったすばやさを駆使し、敵の後ろを取る。そしてその大きな体躯を叩き斬るように両方の太刀を振り下ろした。太刀は直撃しイノシシは大ダメージを負う――――
ガキィン!!
「――――んなっ!?」
……はずだった。
普通のイノシシなら簡単に切り裂ける弱点の背中でもなぜかコイツのものは鋼のように堅く、とても一発じゃ傷を負わせることはできなかった。その隙をイノシシは見逃さず、振り向きざまに大きな牙を俺に向かってたたきつけた。
「カッ―――――!?」
その一撃は想像以上に重く、咄嗟に防御に出した太刀も吹き飛ばされてしまう。威力を殺しきれなかった牙の一撃は俺に深く押し込められ、イノシシとは反対の方向にある木まで吹き飛ばされた。まるで先ほど俺がイノシシに行なった風魔法のように。
「ちっくしょ……」
ダメージは思ったより酷く、ゲージの半分を持っていかれてしまった。しかも太刀を手放してしまった所為で《ブラッドブレイド》の効果も切れてしまった。
「なんで刃が通らないんだ……?」
俺はイノシシを睨む。
普通なら一番斬りやすい背中でさえコイツには効かなかった。恐らく他の部位を狙っても同じことだろう。攻撃が通らないならダメージに期待しても無駄だ。別の方法を取るしかない。俺は弱点を見つけるべく、
「《弱点探知》……!」
眼に力を入れてイノシシを凝視した。最初からコレをしていればいいのだが見ている間は隙だらけになってしまって、敵が大勢いたり素早いヤツだと上手くいかない。幸いにもイノシシは俺に一撃を当て雄叫びを上げている。今なら攻撃を受けることはないだろう。
「なるほどな……」
イノシシの身体にほとんど弱点はなく先ほどの背中も全くといっていいほど反応はなかった。なぜなら……
「身体全体に土魔法の《硬化》が入ってやがるな……」
土魔法は大地の変化を駆使した技が多く、基本的には地形を利用したダメージの与え方が多かったりする。しかしそれ以外で特徴的なのものがある。防御を上げ自らを堅く変化させるような特殊魔法だ。それをイノシシは全身にかけ、俺のような《斬る》タイプの攻撃を効かなくしてしまっている。これじゃあダメージなんか通るわけがない。
「何か方法は……あ」
俺はイノシシのある一点に視線を注いだ。先ほどまで睨み合い、恐怖すら感じさせたその瞳には弱点を指し示す赤いポイントが出ている。
ココしかない。そう考えた俺は特殊剣術スキルの一つを声に出した。
「《一刀流術》!!」
声と同時に身体が動く。
両手に持っていた一方の太刀を空高くに放り投げ、相手に接近する。その姿を見たイノシシは体勢を整え向かってきた俺に牙を振り下ろした。牙の照準は狂うことなく俺に向かって直撃し、持っていた太刀は地面に叩きつけられた。
本来ならHPゲージがなくなりゲームオーバーである。
プギョオオ?
しかしそこでイノシシは驚きの声を上げた。
なぜなら俺に当てたはずの牙からはまるで空を切るような感触が伝わってきたからだ。当たったのに、当たっていないような、そんな感触が。
しかも俺の身体は霧のように散ってなくなり太刀だけがその場に姿を残した。
何が起こったのかわからず慌てふためくイノシシ。そこに――――
「――――そこだぁああぁぁぁぁっっ!!」
俺が頭上から太刀を握り締めて、降りかかった。
《一刀流術》とは二つの太刀のどちらかに実体の無い自分を作り出して、敵を撹乱させることができる剣術スキルである。使った後は片方の太刀しか持てないから《一刀流術》、という名前が付いたようだ。
本物の俺の方は上に投げた太刀と一緒に《三段ジャンプ》で飛び、実体の無いほうには突撃をさせていた。途中で牙に当たった俺の身体が霧散したのは実体が無い方だったからということだ。
(くそっ……照準が定め辛い……!!)
頭上から一つの小さな瞳を貫くのには、相当の技術が必要だ。針の穴に糸を通すように。
一発だ。コレを決めれば勝てる。体力だって残り少ないし、同じ手が何度も利く相手とは思えない。スキルの《不意打ち》だって発動する。当てなければ負ける。当てれば勝てる……勝てる……勝てる……!!
自分自身に暗示をかけながらイノシシの瞳に照準を合わせた。余計な事は考えるな。集中しろ、集中するんだ……!
しかしイノシシはそんな俺の攻撃に気が付き急いで避けようと身体を動かす。そうはいくか!
「《降魔の門/Devil's Gate》!!」
グシャァッ! プギョォォォォォ!!
俺は魔法を唱え、イノシシの身動きを封じる。
《ブラッドブレイド》によって減らした精神力がさらに減る。途端に吐き気が襲った。しかし攻撃を途中でやめるわけにはいかない。
俺は気力を振り絞り、そして――――
「――――死ねぇぇぇぇええっっ!!」
ザクッ…………
イノシシの瞳に太刀の切っ先から根元までを力の限り、突き刺した。ズブリ、と嫌な感触が太刀から伝わってくる。
その瞬間、イノシシのHPゲージは物凄い勢いで削られていき仕舞いには0となった。
ズゥン……
「やった……か……」
イノシシは声も上げずにその場に力なく倒れ、砂となった。
「あ、危なかった……」
強敵との戦闘が終わり思わず尻餅をつく。
ピン!
突如としてLvアップ音がする。あぁ、そうか。倒したからな……
Lvアップは38で止まり、そこからはスキルと勲章の獲得だった。
『スキルを習得しました。
剣術スキル《クロスリッパー》《デッドドライブ》を習得しました。《エグゼスラッシュ》が変化しました。《シャドウスラッシュ》を習得しました。
特殊スキル《突進》を獲得しました。
行動スキル《重力落下》を習得しました。
闇魔法《夢幻の瞳》を習得しました』
『勲章《猟師》《長殺し》《見習い魔法使い》を獲得しました』
様々なスキルや勲章が手に入ったのに疲れの所為かなぜだか素直に喜べない。
「……今日はもう帰ろう」
まだ明るいが正直もう動けない。キャンプで休んで、また明日に持ち越そう。
☆★☆★☆
「あんなに強いヤツいるなんてな……鍛え直しだな」
強くなったと思って調子に乗ってたな……まだ俺なんかそんなLvに達してすらいないってのに。
俺は先ほどの戦闘の反省をふまえつつキャンプで休んでいた。
ここのボスだって倒さなければいけないはずなのに、まだこの辺のモンスターで手こずっている。そんなんじゃボスを倒すなんて夢のまた夢だろう。
「よし……弱いのから徐々に倒して、少しずつLvを上げていこうか」
初心に帰り、俺はまたLvを上げ直すことを心に決めたのだった。
次回、またもや時間が経ちます。
なぜかって? そろそろこの森のネタがなくなってきたからです。
それでも読んでくだされば恐縮です。
感想をいただければさらに頑張れますので、皆さん応援よろしくお願いします。