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ロドニア再建記 2__お転婆姫と無自覚な専属騎士  作者: AKIRA


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8 シナモンの香りと迫りくる厄介事

 義母(はは)エレナの焼き上げたキャロットケーキは、ユージンにとってこの上ないごちそうだった。

フォークを突き立てると、ホロリと崩れる生地の感触。パウダー状に丁寧に細かく挽かれたナッツが、口の中でシナモンの香りと混ざり合い、彼好みの甘さを抑えた生地の風味を完成させる。


入れたての紅茶と、シナモンの香るダイニングテーブル。ユージンはいつものお気に入りのダイニングチェアーに深く腰掛け、かぶりついている。素朴な甘さが、ユージンの神経を静かに整えていく。


「アルベール様……!」


そこへ、村の管理を任されている村長が、脂汗をかきながら駆け込んできた。


「どうか……どうかお助けを。毎年恒例の川の氾濫ですが、今年は特に雨量が異常で……このままでは村の半分の農地が浸かってしまう……」


村長は必死に頭を下げ、アルベールに相談を持ちかけていた。アルベールも困惑している。彼も騎士としては優秀だが、土木工学や水利の専門家ではない。


「う……む、川の流れを変えるのは一筋縄ではいかないな……やはり土嚢を積んで堤防を補強するのが先決だろう。……しかし、資材も人材も足りないな……」


アルベールも腕を組んで唸っている。その傍らで、ユージンはキャロットケーキを頬張りながらテーブルに広げられた地図をチラリと覗いた。


「……去年の豪雨で河川がさらに大きく浸食されました。今の堤防では次の増水のは耐えられません。かといって、今の時期に石を切り出し大規模な護岸工事をする余力も、時間もないのです……!」

「……川幅を広げるための用地買収は?……それが無理なら、水位を下げるバイパスを作るしか……」

「それには三か月かかります……つぎの雨はあと五日ほど……」


絶望的な空気が流れる。

その時、横でケーキを食べていたユージンが口を開いた。


「……五日ですか。ならば無理ですね……村長さん、そこの……カーブの『流速」と『土砂の対比状況』は調べていますか?」


村長は、驚き、慌てて頷いた。アルベールも、同様に目を丸くしている。


「……え、……は、はい。上流の体積土砂を浚渫(しゅんせつ)して計測したものがありますが……」

「ちょっと拝見……」


ユージンはケーキの皿を端に寄せると地図上に定規を当てて数値を計算し始めた。


「いいですか。ここは外側の流速が速すぎて、内側に土砂が溜まっている。堤防を高くしても、その堆積した土砂が水を押し上げ、結局は溢れる。……やるべきは『防壁』ではありません。『水流のエネルギーの分散』です」


ユージンは地図の外側に小さなマークを付けた。


「この位置に、簡易的な粗朶沈床(そだちんしょう)を三基、角度をつけて沈めてください。川底を浚渫(しゅんせつ)した土砂を袋に詰め、流路を中央に寄せるだけで、カーブの遠心力による衝撃は三十パーセントは減衰する。……あとは、削りだされた土砂をカーブの外側に盛るだけで、自然な勾配による護岸ができます」


村長とアルベールは呆然とした。


「沈床……?そんな短期間で……?」

「出来ます。村民を五十人程の班に分け、上流から石材を運搬するグループ、袋詰めするグループ、配置するグループを分担させれば、二十四時間体制で四十八時間あれば完了するでしょう……あとは、配置図通りにやれば水圧で堤防が締まる」


遜長とアルベールは、ユージンがマークした「沈床の配置図」を見て、その、今まで考えもつかなかった案に背筋が凍る思いがした。それは、彼らが何年も悩み続けた「村の治水」の対するあまりに合理的な正解だったからだ。

ユージンは、別段変わらぬ様子で空になった皿を持って、キッチンに移動していった。


「……アルベール様……彼は一体……」

「いや……あいつ(ユージン)にはそういった土木の勉強は一切、させていない……」

「まるで……まるで魔法か奇跡のようですな」

「……全く、我が子ながら、驚かされるよ……」


二人は、ユージンが消えた台所の方を、呆然としながら眺めているのであった。

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