3 歪んだ安堵
ユージンが扉を閉めて廊下へと消え去った瞬間、張りつめていた空気が一気に爆発した。
「……何を寝言をぬかして居る!平民上がりの騎士が、われら将軍たちに指図だと⁈一体どこの教育を受けて……」
最前列にいた古参将軍が机を叩く。
「確かに戦術の基礎はあったかもしれんが、あのような若造、身の程を弁させねば、軍の規律に関わるぞ!モラン殿、貴様が連れてきた男だろう。教育が行き届いておらんのではないか?」
将軍たちの非難の声が部屋に渦巻く。彼らは幸か不幸かロザリンド一派がどうなったのか、実際には目にしていない。彼らのプライドは平民の若者に戦術で完封されたという事実を到底受け入れられなかったのだ。
その喧騒を、モランはただ静かに……あまりに静かに聞いていた。
「……教育、ですか」
モランの唇は笑っているのに、その瞳には凍り付くような冷たさが宿っている。議会室の温度が数度下がったような錯覚に、将軍たちは言葉を詰まらせる。
「将軍……貴方方は、今しがた『命拾い』をしたのですよ」
「な、何だと……⁈」
「彼の助言が無ければ、貴方方はガルディアの軍門に下ってこのロドニアの歴史に汚点を残すところだった……それを身分が低いからという理由で蔑む?自分が敗北することよりも、格下に知恵を貸されるのが許せないのですか?」
モランは懐から短剣を取り出し、将軍のすぐ横の地図にドスッ!と突き刺した。
「いいですか?彼は『姫様の散歩に遅れる』ことしか考えていなかった。だからこそ私情をはさまず、盤面だけを見ることが出来た。……貴方方の保身やプライドなど、彼にとっては何の価値もないのですよ」
モランは将軍の顔を覗き込み、低く囁いた。
「もし二度と、彼を『平民の分際』と口にする者がいれば……その時はガルディア軍の前にまずその首を転がして差し上げましょう……ユージン卿は、オーギュスト王も認める『ロドニアの盾』……誰であれ、その価値を理解できない者に、軍を指揮する資格はない!」
モランの剣幕に、将軍たちは青ざめ、一言も話せなくなった。
彼は、刺した短剣を音もなく抜くと何事も無かったように微笑みを浮かべる。
「……さて、軍の再編成をいたしましょうか。ユージン卿が指摘した『峡谷』への増援部隊は、本日中に準備を完了させてください……オーギュスト王への報告は、私が責任をもって行いますから」
モランは背を向け、ユージンが去った扉を見つめた。
(……フッ……ユージン……様。貴方が無自覚に蒔いた種から、これから強固な『絶対の服従』を築き上げてみせますよ……貴方はまだ、自分が一体何をしているかも知らずに、姫様の護衛に励んでい居るのでしょうがね)




