2 黄金の檻で磨かれる「刃」
ロドニア王宮「作戦会議室」
そこには古参の将軍たちとロドニア軍、影の参謀(オーギュストとモランの密約)とも呼ぶべきモランが、一枚の広域地図を囲んで深刻な面持ちで立っていた。
議題は、ガルディアとの国境線で、燻り続ける小競り合いの収束について。
「……正攻法で国境の砦を叩くしかない。__それがロドニアの伝統というもの」
老将軍の一人が頑固に主張する。
「しかし、それでは犠牲が大きすぎるぞ。敵の増援を招くだけだ」
その隅で、モランに無理やり引っ張り込まれたユージンは腕を組み、ただ静かに聞いている。
(……なんて非効率な。お転婆の護衛任務をこれ以上長期化させないためには、一刻も早くこの国境の火種を消さなきゃいけないんだ……その為には軍の運用をもっと最適化しないとだな……)
ユージンは、ただ「護衛任務の一環としての平和維持」を考えていた。
「……恐れながら、失礼いたします」
ユージンは一歩前に出ると、何気なく地図を指差した。
「……将軍様方、どうして『敵の砦』を叩くことばかりをお考えになるのですか?」
室内が静まり返る。古参の将軍たちが、若輩の護衛騎士を冷ややかな目で見降ろした。
「……貴様、戦術も知らん護衛騎士風情がっ!軍議に口を出すな」
ユージンは全く動じず、淡々と指を動かす。
「まったくもって仰る通りです。戦術の良しあしは分かりませんが、ここの……この敵の供給網をご覧ください。ガルディアの兵糧は、すべてこの『峡谷』を通っています。砦を叩く必要はありません……ここを夜襲で塞ぎ、一日孤立させるだけで、ガルディアの軍は指揮系統が麻痺するでしょう……そうすれば、犠牲を最小限に抑えて、向こうから降伏の使者を送ってくるはずです」
……室内が、死んだように静まり返った。将軍たちの顔から血の気が引く。地図を凝視していたモランが、ゆっくりと口元を歪め、愉快そうに笑った。
「……なるほど、犠牲を最小限に抑え、政治的決着を最短で導くか。さすがは、ですね」
「……え?ああ……いえ、これくらい、常識でしょう」
ユージンはきょとんとして、首を傾げた。
「ああ……早く行かないと、姫様の散歩の時間に遅れてしまいますから」
将軍たちが言葉を失い、顔を見合わせる。
(常識だと……⁈あの補給線封鎖は、あの旧ロドニアの軍師さえ見落とした急所だぞ……!)
モランはユージンの肩を叩きわざとらしく大きくため息をついた。
「素晴らしい助言だ、ユージン殿。君の意見を王に進言しよう」
「はぁ……あ、はい。……では、私はこれで」
ユージンはペコリと一礼をして、そそくさと会議室を出ていった。
(ふぅ、危なかった。モランに連れられて、軍議の話なんか聞かされても、俺には関係ないからな……早くお転婆の所へ戻らないと大変なことになる)
一方会議室に残された将軍の一人が、震える手で地図を触っていた。
「……あの男、自分が何を言ったか分かっておるのか?」
「……いや、まるで『王』が余興のように戦場を盤面に見立てて遊んでいるようだ……底知れんな」
モランは、去っていくユージンの背中を見つめながら、独り言ちた。
「……ああ、本当に無自覚だ。……タチが悪い」




