1 序章 穏やかな生活と騎士の不満
窓から差し込む午後の陽光を眺めながら、ユージンは思わず深いため息を漏らした。豪華な絨毯の感触も、調度品の優雅なシルエットにも、今の彼にとってはこの「黄金の檻」を補強するだけの装飾品に過ぎないのだ。
(……もうこれは笑えない冗談だ。これほど立派な『独房』を用意されるとはな……お転婆は満足げに笑っているが、俺からすれば、ただの『隔離室』にしか見えねえ)
書かなくても分かる通り、発案者はレティシア王女である。
レティシアにとっては、勤務外でも、ユージンがすぐ自分の傍に居て呼べば来てくれる距離であること、(なんて幸せな日々なんでしょう!)状態である。彼女にとってこの配置は120点満点の成果であった。
ユージン側からしては地獄である。勝手に訓練にも行けない。騎士仲間と酒を飲んだり遊ぶこともない。暇があれば実家に帰るか休みたいのに、彼女の乙女チック満載の詩の朗読に付き合わされている。
彼は『高級な子守』をしている状態だった。
一方で、レティシア王女が淑女教育を受けている間、モランがやってきては、護衛の配置をユージンに考えさせている。羊皮紙を広げ位置を指し示す。
「……この門に兵を五人……あちらには三人。死角を無くすためには効率的ですね」
(ほう……。地形を利用とした包囲網、そして補給線を考慮した兵配置……。こやつ、教えずとも戦いの要所を心得ている。ゼノス様の血は、やはり戦場の空気を読み解くのか)
また、オーギュストは空いた時間にユージンを呼びつける。「外交報告」の確認という体裁でユージンに考えさせている。
「……このガルディア国との貿易は、ロドニア農民の負担を考えると賛成しかねます」
(ほう……。目先の利益よりも民の反発を恐れるか……アルベールによく似て一本気だが、王としての器はわしよりも大きいかもしれんな……ガルディアに向かわせる前に、こやつを教育せねば)
その日の深夜、自室に膨大な地図と書類の山。
……。
……。
……おかしい。
……。
……。
俺の仕事はタダの「護衛任務」だったはず。……何故俺は、国境の兵糧の計算や、貴族間の派閥争いの収拾案を考えさせられているんだ?
……。
……。
モランに尋ねると軽く受け流される。
「騎士たるもの、戦う相手のことぐらい知っておくのは当たり前のことだ」
……。
……。
オーギュストは笑う。
「いや、お前の考えをわしに聞かせてくれ。将来のためにな」
……。
……。
……何かが噛み合っていない気がする。しかしあのお転婆のことだ。俺が間違った判断をするわけにはいかない。すべては俺の「自由」の為に……。
気づかない無自覚な専属騎士です(笑)




