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公爵家の養女  作者: 透明
第一章 回帰
8/21

グランべセル家



 公爵家の玄関入り口にある大階段の柱にもたれ掛かれ、何かを待っている様子のリーナは、髪をハーフアップにし、ドレスもフリルがポイントのいつも以上に華やかな、水色のドレスを着用している。


 その胸元には、先日、エーデルから貰ったアメジストのネックレスが、キラキラと品良く輝いている。



 リーナは辺りを少し見渡しては、まだ誰もいない玄関を見て(少し、早く来すぎたかしら?)と思う。


 すると、遠くの方から足音と共に、話し声が聞こえてくる。



 かと思えば、リーナの頭上から「リーナ!」と嬉しそうに呼ぶ声が降ってくる。


 振り返るとそこには、シュタインとエーデルの姿があった。



 エーデルもシュタインもリーナ同様、いつも以上に華やかに着飾っている。




 「おはよう、リーナ! もう来てたのか」




 そうリーナを見つけた途端、エーデルと並んで歩いていたシュタインは、足を速め、エーデルより先に嬉しそうに階段を降りて行く。


 駆け降りてくるシュタインに「おはよう、シュタイン。危ないからゆっくり降りてね」と声をかける。




 「お、髪型もドレスも良いじゃん! 凄く似合ってる!」




 音楽祭に一緒に行った日から、エーデルとシュタインと前より距離が近くなったリーナ。


 特にシュタインの変わり様は分かりやすく、素直にリーナを褒めたり、何かをするのにもリーナの事を誘うようになったのだ。



 笑顔でリーナを褒めるシュタインに、リーナは「ありがとう。シュタインも素敵ね」と褒める。


 そう褒め合う二人の間には、無いはずの花が浮かんで見える。



 そんなふわふわとした空気を纏う二人に、降りて来たエーデルが「本当。リーナによく懐いたよな」と声をかける。




 「そんなペットみたいに言うなよなー」




 口を尖らせるシュタインを無視し、エーデルはリーナに「おはよう、リーナ」と挨拶する。




 「おはよう、エーデル」


 「早いな。そんなに楽しみだったのか?」




 眉を下げ笑みを浮かべるエーデルに、リーナは「もの凄く……!」と頬を赤くし、力強く頷く。



 リーナたちは、グランべセル公爵の娘である、エミリアの誕生日パーティーに参加するため、朝早くから着飾り、集まっていたのだ。


 リーナはこの日を、ずっと楽しみにしており、今日はまだ日が登らないうちから目が覚めてしまったほど。




 「同い年の女の子たちが参加するって言っていたし、この機会に仲良くなりたいの!」




 そう意気込むリーナを見て、エーデルは「楽しみだな」と微笑ましそうに笑みを浮かべる。




 「そう言えば、またつけてんのな。そのネックレス」




 頭の後ろで手を組み、リーナが着けているネックレスを見るシュタイン。


 リーナは「うん。凄く綺麗でしょ?」と嬉しそうに、見せびらかすようにネックレスを手に取る。



 エーデルからネックレスを貰った日から、ほぼ毎日と言って良いほど、ネックレスを身につけているリーナ。


 そんなリーナのネックレスを見てシュタインは「ほんっと、兄貴ってずるいよな。リーナにネックレスをあげるなら、俺にも言ってくれれば良いのに」と不貞腐れる。



 「なんで一々言わないといけないんだ」と呆れるエーデル。


 そうして始まったエーデルとシュタインの、言い合いにリーナが苦笑していると「何をそんなに騒いでいるんだ? 出かける前に」と呆れた声が聞こえてくる。




 「公爵様!」




 リーナは声の人物を見て、嬉しそうに声をかける。


 呆れたように笑みを浮かべる公爵が、執事のアルバートと共に、玄関前へとやって来たのだ。




 「待たせてしまいすまないね。それじゃあ行こうか」




 公爵も揃い、リーナたちはグランべセル公爵家へと向かうために、馬車に乗る。


 こうして一同は、誕生日パーティーに参加するため、グランべセル公爵家へと向かうのだった。




 アサーナトスの北部に拠点を置くグランべセル公爵家。


 ヴァンディリアの人間が社交的なのに対し、グランベゼルは少々、内向的な所があり、あまりを寄せ付けない雰囲気を纏っており、他の貴族からも恐れられている。



 そんなグランべセルとヴァンディリアは共に、皇室を守って来ただけあり、硬い絆で結ばれており、現当主であるグランべセル、ヴァンディリア両公爵の仲は良好と言える関係だ。




 長いこと馬車に揺られると、人里から少し離れた場所に、周りの建物と比べ群を抜いて大きく、立派な建物が姿を現す。


 一目で〝あれがグランべセル公爵家〟なのだと分かるほど。




 「お待ちしておりました、ヴァンディリア公爵家の皆様。ご案内をさせて頂きます、グランべセル執事長のクラウスと申します」




 髪を七三分けに固め、片眼鏡をかけた男性――グランべセルの執事長のクラウスは、やって来たリーナたちを迎えるなり慣れた様子で挨拶をすると、パーティーが開かれる中庭までへと案内をしてくれる。




 「到着いたしました。どうぞごゆっくり、過ごされてくださいませ」




 玄関からしばらく歩き着いた場所は、グランべセルにやって来る時の馬車の中からでは見えなかった場所で、説明されなければ、ここが個人の邸宅だと思えないほどの広さを誇る、芝生が敷き詰められた庭で、こんなに広い場所がまだあったのかと思うほど。


 そこでは、綺麗に着飾ったリーナと同い年くらいの少年少女から公爵と同年代くらいの男女が、皆、食事の前に立ち談笑をしている。



 流石は、グランべセルの令嬢の誕生日パーティーと言おうか。


 誰も彼も、名家の者ばかりだ。


 その光景を見て、先ほどまで楽しみでいっぱいだったリーナの心に、一気に不安が襲ってき、過去の出来事が思い出される。




 『……あの方が噂のヴァンディリア公爵令嬢よ』




 リーナに友人がいなかったのは、デビュタントを迎えるまで、ずっと他の家との交流を避けていた事や、デビュタントを終えてからも婚約者を探していて、他の令嬢らとの交流ができなかったと言うこともある。


 だが、その理由の中には、リーナをあまり良く思っていない令嬢たちの存在もあった。




 『名家の男性たちに囲まれて、自身も偉くなったつもり?』


 『いくら、公爵家の養女とは言え、生まれ持った血は変えられないわ』


 『良くもまぁ、堂々とヴァンディリアの名を名乗れるものね。ヴァンディリアの血は一滴も流れていないと言うのに』


 


 婚約者を探すため、パーティーに頻繁に顔を出していたリーナの事は、社交界の者なら見た事はなくとも、その噂は常に耳にしていた。


 多くの者が、彼女を見てはその美しい容姿に、しっかりと身につけられた教養とマナーを褒め称えた。


 だが、いくら見た目が美しかろうが、教養やマナーを身につけようが、ヴァンディリアの者とは血が繋がらない、庶民の出と言う事実は変えられない。



 それをいい事に、リーナが社交界で持て囃されているのが気に食わない、一部の令嬢たちが、陰でコソコソとリーナを悪く言っていたのだ。


 困った事に、その筆頭が第一皇子の婚約者と言う噂があり、第一皇子の婚約者に目をつけられたくない令嬢たちも、リーナを悪く言い、リーナが同年代の子たちと関わる事を阻んでいたのだった。



 賢いリーナは、一々そう言った言葉に耳を傾ける必要はないと、全く相手にしていなかったのだが、悪く言われていい気になる者はいない。


 あからさまに嫌がらせをしてくる者たちに、一人心を痛める日も多々あった。



 その事が急に思い出され、リーナの手は震え出す。


 指先は冷え、背中に変な汗が流れるのが分かる。



 彼女たちに声をかけるのが怖い。


 リーナは楽しく談笑する少女たちから逃げるように、視線を逸らす。


 彼女たちが普通に談笑をしているだけだと分かっているが、聞こえるはずのない、自身への心無い言葉が聞こえてくるようで、思わず耳を塞ぎたくなる。



 着いて早々だが、席を外そうとした時、冷たくなるリーナの手に温もりが伝わってくる。


 その事に驚き顔を上げ、隣を見るリーナ。



 不安に思うリーナに気づいたのか、エーデルがリーナの手を握ってくれたのだ。


 そして優しく落ち着く声で、リーナに声をかける。




 「大丈夫だ、リーナ。お前は誰がなんと言おうと、ヴァンディリアの人間だ。胸を張り顔を上げ堂々としていればいい」




 エーデルの言葉を聞いた途端、先ほどまで不安に襲われていた心が落ち着きを取り戻し、冷えた手も温かくなっていく。




 (……どうして、私が不安に思っているってわかったんだろ。でも、エーデルのおかげで、今なら話しかけに行く事ができる気がする)




 リーナは「ありがとう、エーデル」と礼を言うと、エーデルは「ここで見てるから行ってきな」と頷く。


 エーデルが見守ってくれていると思うと、不思議と足が軽くなる。



 リーナは集まっている少女たちの元へと行くと「……グランべセル公女様」と声をかける。


 その声は震えていたが、話しかけられた事を褒めよう。



 リーナはそう思いながら、リーナの声に振り返る少女たちに一瞬、怯みそうになるも笑みを浮かべ、中心にいる肩くらいまでの茶色い髪をした少女に挨拶をする。




 「お初にお目にかかります。ヴァンディリア公爵の娘の、リーナ・フォン・ヴァンディリアでございます。14回目のお誕生日心よりお祝い申し上げます」




 ドレスの裾を掴み、お辞儀をするリーナの動きは、頭の先からつま先まで洗練されており、少女たちは思わず見惚れ、何も言わない。


 そのため、何かしでかしてしまったのかと、リーナが不安そうに顔を上げると、茶色い髪の少女が「ヴァンディリア公爵家の……」と呟く。




 「あの……」


 「あなたがリーナ公女!? わぁ……!! 会えて嬉しいわ……!!」




 茶色い髪をした少女は、目を輝かせると、リーナの手を嬉しそうに取る。


 そして「ずっとあなたに会いたいと思っていたの!」とリーナに笑いかける。


 その表情はとても嬉しそうで、リーナが少し戸惑ってしまうほどだった。




 「――ごめんなさい。私ったら、会えたのが嬉しくて挨拶もせずに……改めて、エミリア・フォン・グランべセルです。お会いできてとても嬉しいわ」




 凄く緊張し、不安に思っていたリーナだったが、予想外にも本日の主役、グランべセルの公女、エミリアに熱烈な歓迎を受け、何とか輪に入る事ができた。


 その事に安堵しながらも、リーナは「こちらこそ、招待して頂けて光栄です。グランべセル公女」と返す。



 堅苦しく話すリーナにエミリアは「同じ、公爵家の娘だから、敬語も継承もいらないわ。リーナって呼ぶから、私のこともエミリアって呼んで?」とフランクに返す。


 リーナは戸惑いながらも「わ、わかったわ……エミリア」と照れたように頷くと、エミリアは満足げに頷く。



 そして二人のやり取りを聞いていた他の令嬢たちも、リーナに挨拶をしてくる。


 その様子は歓迎的で、リーナは嬉しく思う。



 ちらっと、エーデルの方を見ると、エーデルはリーナを見て「よかったな」と口をパクパクさせると、優しく笑みを浮かべる。


 そんなエーデルに嬉しそうに頷くリーナ。



 もう見ていなくても大丈夫だと、エーデルも自身の友人たちの元へと歩いて行く。


 そんなエーデルを見て、リーナはエーデルがせっかく背中を押してくれたんだし、頑張って皆んなと仲良くなるぞと意気込むのだった。

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