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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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疑惑



 「――あの、フレイヤ様。今日は殿下はいらっしゃらないんですか?」




 フレイヤの宮にある談話室。


 そこでフレイヤと向かい合ってお茶をするリーナは、唐突にフレイヤにそう尋ねる。



 フレイヤは「エーヴィッヒ?」と首を傾けると「エーヴィッヒなら、用があるとかで朝早くから出たけど」と話す。


 リーナは、皇宮にはいないのか……と「そうなんですね」と頷くと、フレイヤがニヤニヤと笑みを浮かべだす。




 「もしかして、エーヴィッヒに会いたかったとか?」


 「え? いえ……! そんなのじゃないんですが……」




 フレイヤの言葉を慌てて否定するリーナを見て、フレイヤは「本当に?」と笑み浮かべる。


 リーナは「会いたかった、というか殿下に聞きたい事がありまして……」と答える。




 「聞きたい事?」


 「はい……あ、大したことではないのですが」




 そう話すリーナに、フレイヤは「エーヴィッヒが帰って来たら、リーナが話があるって言ってたって話とこうか?」と言うも、リーナは「いえ。またお会いした時にでもお話しするので大丈夫です」とそれを断る。



 音楽祭へと行った日から三日経つも、あの日、リーナが目撃した光景が気になり、ずっと夢の中に出て来ていた。


 エーヴィッヒにもう一度話を聞こうと思い、フレイヤとお茶をするついでにエーヴィッヒに会えないかと思っていたのだが、用があるのなら仕方ない。



 フレイヤ様に話を通してもらう程ではないし……。




 リーナはそう考えながら、ティーカップを手に取ると、フレイヤを見てふと思う。


 エーヴィッヒ殿下は誰にも話してはいけないと言っていたけど、その事を知っているのは他に誰がいるんだろう?



 フレイヤ様は皇室の方だし知っているのかな?




 そう考えていると、フレイヤと目が合いフレイヤは「どうしたの?」と首を傾げる。


 リーナは「いえ……このお茶美味しいですね」と笑みを浮かべる。







 フレイヤとお茶を終え、帰るため一人皇宮内の廊下を歩いていたリーナ。


 フレイヤは見送ると言ったのだが、リーナはそれを断った。



 もしかしたら、エーヴィッヒが帰って来ているかもしれないので、本宮に寄って帰ろうと思っていた。


 いつも、フレイヤとお茶をする時は、フレイヤの宮でするため、本宮に来るのはデビュタント以来だな。と思いながら、本宮の廊下を歩いていた時だった。



 向かい側から歩いてくる人物を見て、リーナの足は止まる。


 そして、心臓の動きは早くなり、一気に全身から嫌な汗が流れ出る。



 向かい側から歩いてくる人物も、リーナに気づくと「これはこれは」とリーナに近づいて来ては、薄ら笑いを浮かべながら話しかけて来る。




 「ヴァンディリア令嬢ではありませんか」




 リーナは一瞬、後退りをするも、怯んではだめ、平常心で。と言い聞かせ、小さく息を吐くと「……ゼーゲン司祭、お久しぶりですね」と笑みを浮かべる。



 リーナに声をかけて来たのは、ゼーゲンで、嬉しそうに笑みを浮かべると「私のことを覚えて下さっているのですね。前に一度お会いしただけですのに」と言う。




 「ゼーゲン司祭はナハト司祭と同じで、天才と名高くよくお噂を耳にしますから……忘れるわけありませんわ」




 そう笑み浮かべるも、本当は初めて会ったあの狩猟祭の日、あまりにも恐ろしい雰囲気に、目が合っているようで合っていない、死んだ魚のような目が忘れられなかっただけだ。


 リーナの言葉を聞き、ゼーゲンは「まさかヴァンディリア令嬢にお褒め頂けるとは。光栄ですね」と胸に手を当てる。



 その言葉は本心なのか、そうではないのか分からない。


 でもどちらでもいいと、リーナは早くその場を離れたかった。



 リーナは「私はこれで」と歩いて行こうとした時だった。


 ゼーゲンの「あなたの瞳」と言う言葉に足を止める。



 振り返らないリーナに、ゼーゲンは気にせず「とても珍しく美しい色ですね。」と話すのだ。


 リーナは振り返ると「よく言われます」と笑みを浮かべるも、内心はヒヤリとしていた。



 フォルトモントの特徴である、紫の瞳。


 満月の光を浴びた時しか、瞳の中の花模様は浮かび上がらないので、バレてはいないだろうけど……。



 そう考えるリーナに、ゼーゲンはさらに話を続ける。




 「知っていますか? かつてパラディースに存在したある半独立国家があったことを」




 その言葉に、リーナの心臓は激しく音を立てると、小刻みに打ち出す。


 かつてパラディースに存在した半独立国家。



 フォルトモントのことを言っているのだろう。


 リーナは一瞬眉を顰めるも、動揺してはだめと、平常心を装う。



 そんなリーナにゼーゲンは言う。




 「そこの人々は、ある共通の特徴を持っているんです。それは宝石の様に透き通り、まるで全てを見透かせるのではないかと思えるほどの特徴的で美しい紫の瞳」


 「そう。あなたのその美しい瞳の様な」




 リーナの瞳を真っ直ぐ見、笑みを浮かべるそう言ったゼーゲン。


 その言葉に、リーナは息を呑む。



 どうしていきなり、フォルトモントの話を……?


 もしかして、私がフォルトモントだと言うことを知っている?



 もしそうなら、狩猟祭以降会っていないはずのゼーゲン司祭が何故?


 まさか、ナハト司祭が……?




 そう頭の中でグルグルと考えるも、まだはっきりとフォルトモントだと言われたわけではないので、リーナは知らないふりを通すことにする。




 「……半独立国家が存在していたのは存じ上げていましたが、その様な共通があったなんて……ゼーゲン司祭は物知りですわね」




 何とか冷静に、焦っているのがバレない様に振る舞うリーナ。


 だがゼーゲンは「本当に?」と尋ねて来る。




 「全く知らなかったと?」




 そう笑みは浮かべているも、やはりどこか不気味な雰囲気を纏うゼーゲン。


 そんな彼にリーナは「え、えぇ」と頷くも怯んでしまいそうになる。



 まるで心の内を全部見られている様な感覚に、思わずボロが出てしまう前に、何とか切り上げないとと思うも、どうすればいいのかと考えていた時だった。



 リーナの背後から革靴のコツッコツッ――という音が聞こえて来たかと思えば「ゼーゲン司祭。こんな所におられたのですね」と言う声が聞こえて来る。


 その声に驚き後ろを振り返ると、そこにはナハトがおり、ゼーゲンは「ナハト司祭」と名前を呼ぶ。




 ナハトはこちらへ歩いて来ながら「時間になってもゼーゲン司祭が来られないと、陛下が嘆いておられましたよ」と言うと、リーナとゼーゲンの間に入る。


 それはまるで、ゼーゲンからリーナを庇っている様にも見える。



 リーナより遥かに高いナハトの体に、リーナは隠れ、リーナからゼーゲンが見えなくなり、先ほどまで早く打っていた脈が少し落ち着く。




 「私としたことが、もうそんな時間でしたか?」


 「あまり、陛下との約束に遅れられては、大司教様に叱られてしまわれますよ」


 「それはまずい」




 ゼーゲンはそう言うと、リーナに「それではヴァンディリア嬢。またどこかでお会いできることを願っています」と声をかける。




 「その時にまた、話の続きを」




 ゼーゲンはそう言うと、革靴を鳴らし歩いて行く。


 そんなゼーゲンを見送るリーナとナハト。



 ゼーゲンの姿が見えなくなり、少し安心するもナハトに「本当にあなたは危なっかしい人ですね」と言われ、そういえば居たのだったと思い出す。




 「危なっかしいって、別に、普通にゼーゲン司祭と話していただけですけど」




 過去、あまりにも理不尽にナハトに嫌われていたせいか、未だにナハトを前にすると、素っ気ない態度を取ってしまうリーナ。


 この前、エミリアの件で助けてもらった反面、申し訳なくなるも、神聖国の人間なので油断は禁物だ。



 ナハトはリーナを見下ろしては「本当にあなたは何も分かっていませんね。」と呆れた様に言う。


 ナハトの言葉にリーナは少しむかつき「何もわかってないって、何か隠しているのはそちらじゃないですか」と言い返す。



 だがナハトはその言葉を無視すると「……いいですか。ゼーゲン司祭に常識は通用しません。何もできずに怖がるだけなら、二人きりにならない事ですね」と言う。


 その言葉にリーナは「別に、好きで二人きりになったのではありません」と返す。



 ナハトは一つため息をついては「そう言う話ではありません」と呆れている。


 そんなナハトを見て、何故、呆れられないといけないの? と思うリーナ。




 「……どうしていつも、私を見る度にあなたはそんな風に不快そうな表情を浮かべるのですか? そんなに不快なら、関わってこなければいいじゃないですか」




 ゼーゲンに対しての恐怖からと、何故かいつも自分を見ては不快そうな表情を浮かべて来るナハトに、リーナは疲れそんな事を口にする。


 なんて言う事を聞いたんだと言ってから思うも、過去からずっと気になっていた事だった。



 リーナの言葉に、ナハトはピタリと動きが止まったかと思えば、ゆっくりと口を開く。




 「……いつも関わって来るのはあなたのほうでしょう」


 「え……?」




 ナハトの言った意味がわからず、リーナは聞き返すも、ナハトは「とにかく、あまりゼーゲン司祭と二人きりにはならないように」と念を押すと、そのまま歩いて行ってしまう。


 そんなナハトの後ろ姿を見ながら、リーナは、いつもははっきりと物を言うナハトが、あんな風に言葉を濁すのは珍しいと思うのだった。

 

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